さよなら、初恋【後編】

5.


『祭りが終わったら、俺の家に来ないか。もし来てくれるのなら、帰すつもりはない』
 煌々と夜空や水面を照らす打ち上げ花火をバックに、意味は分かるなと念押しされて、そこからずっと、都合のいい夢を見ている心地だ。終わりだと思っていたはずの甘い夢は、まるで毒薬のように全身の血液を沸騰させて、相澤への感情を溢れさせていく。
「んぁ、……んん、ぷは…ぁ…っ」
 さよなら、と言うはずだった口は何度も何度も啄まれ、食まれ、舌で犯されて、呼吸以外なにも出来そうになかった。寧ろ、呼吸すらもままならない。離れようとする気もなければ、離してくれそうにもない。長くこの状態が続いている。このまま酸素が足りなくなってしまったら死んでしまうのだろうな、なんて馬鹿なことまで考えてしまう始末。
「もっと、くちあけて、そう、いいこ」
 苦しくて顔が熱い。頭がぼうっとする。
けれど、相澤の声が鼓膜を揺する度に、言われた通りにしか動けなくなってしまう。大きく口を開けて、落ちてくる相澤の唾液ごとキスを堪能する。こんなにも必死で相澤を求めてしまっているのに、よくもまぁさよならしようと思っていたものだ。
「ばくごう、すきだ、すきだよ、なぁ、今ならぜったい、おれのほうが、おもいから」
 とうとう相澤の言葉も理解出来なくなってきて、全部に頷いていく。そうすると相澤は顔を離して、こちらをじっと見下ろしてきた。無様に泣いて、口の周りは唾液で汚して。きっと情けない顔をしてしまっていると思うのに、目の前の相澤は満足そうに笑っている。
大きな手が、何度も何度も頭を撫でてくる。きもちいい。
「しょう、ぁ、さ……」
 クラクラと目の前が眩んで、促されるままに大きく呼吸をひとつ。ふたつ。
 そうすると視界が僅かにクリアになって、思考回路が動き始めたというのに、またキスが始まってしまってされるがままだ。固い床に押し付けられた背中は痛いし、相澤の動きに合わせて揺れるリボンは擽ったい。
 けれど。
「好きだ」
 たった三文字で骨抜きになる。頭の中が馬鹿になって、何もかもがどうだっていい。
 爆豪は頷きながら同じように自分の愛情を口にしようとするのに、すぐに塞がれてしまうからちゃんとした言葉にならない。それでも相澤は、今にも鼻歌を歌い出しそうなほど上機嫌だった。実年齢よりも幾分か幼く見える顔。それすらも好きだった。
(きもちいい……)
 ドロドロに溶かされた口腔内は最早感覚が鈍くなっているほど。舐められているのか、食べられているのかも理解できないくらい夢中になって、追い掛けるようにして性欲が膨らんでいく。雰囲気が盛り上がれば盛り上がるほど、体は正直になっていく。
「しょ、……ん、しょーたさん、なぁ、……っんん、聞けって、なぁ」
「だめ、あとで、あとでちゃんと怒られるから」
「んっ、ふう、ん……んんんっ!」
 顔を引き剥がそうとしても、背中を叩いても、肉厚な舌が言うことを聞いてくれることはない。上顎をべろりと舐められて完全に勃起してしまった。それでもどうにか顔を背けて、あからさまに拗ねてしまった相澤の頬を撫でた。以前よりも、痩せている気がした。
「なぁ、せんせ」
「ちがう」
「……しょうたさん?」
「うん」
 名前を呼べば、また機嫌のいい顔になる。爆豪は、スニーカーを履いたままの足を持ち上げて相澤の腰へと絡ませた。消太さん、ともう一度呼んで、随分と懐かしい言葉を口にした。
「――なぁ、俺とセックスしてみようぜ」
 今度はちゃんと、恋人同士がするやつ。
 足に力を籠めて、相澤の股座に自分のものを擦り寄せた。ちょっとだけ不安はあったけれど、反応してくれているのがボトムスの上からでも十二分に分かって心拍数が上がった。
「ッ!」
 相澤の喉がグル、と鳴ったと思えば、乱暴にスニーカーを脱がされて放られる。一足は玄関のドアに当たって、ガンッと大きな音が響く。けれど、それを気にすることなく持ち上げられて部屋の中へ。リビングに足を踏み入れたと同時に寝室として使っている洋室を指差した。
 朝までひとりで眠っていたベッドに、相澤とふたりで雪崩れ込む。
 綺麗に畳んでいた布団はあっという間にぐちゃぐちゃになって、洗濯したばかりだというのに打ち上げ花火と夜の匂いが染み込んでいく。普段なら絶対に許さないが、今はそれどころではない。とにかくこの男と繋がってしまいたかった。
「消太さん、あっち、クローゼット。黒い箱取ってきてくれ」
 離れ難いというように何度もキスを繰り返して、互いに腰を擦り付けながら、それでも爆豪が指を指せば相澤は素直に従ってくれた。離れた隙にエアコンのリモコンに手を伸ばす。汗で張り付いてくるTシャツはリボンと一緒に脱ぎ捨てた。
「これか?」
「ん」
 箱を受け取ってベッドに置いて、簡易的についているロックを片手で外す。
「しょーたさんも、脱げって」
 言えば、相澤が立ったままで素直に服を脱ぎ始めたので、視線が逸れた瞬間に素早くローションだけ取り出した。あとのディルドやアナルプラグなどは流石に見せられない。
「……おい、あとでちゃんとそれ見せろよ」
 だが、逃してくれないようだ。低い声で釘を刺されて「あとでな」と適当に躱す。
「絶対だぞ」
「うるせ。いいから、こっち、はよ」
 上半身だけ裸になった相澤の手を引っ張って距離を詰め、ベルトに手を伸ばした。
「シャワーは?」
「今更だろ。あとでいい」
 ボトムスを下ろせば、はち切れんばかりに下着を膨らませているペニスが見えて、思わずゴクリと喉を鳴らした。あぁやっぱり大きい。ディルドでは満足しないはずだ。ちゅう、と下着の上からキスをすれば、汗くさいからと引き剥がされてしまう。知ったことかと舌を出す。
「汗かいてんのは俺も一緒だわ。いいんだよ、邪魔すんな」
「お前の汗はいいけど、俺のはダメ」
「じゃあ俺のはダメだけど、アンタのはいい」
「強情だな」
 相澤は苦く笑って、付けていた腕時計もリボンも外す。真新しそうな時計は、きっといい値がするものだ。それなのに、興味無さそうにあっさりとフローリングの上へと捨てた。
 あっと爆豪が声を上げれば、もういらないものだと言う。
「ちっげぇわ! 床に傷が付いたら修繕費かかるだろうが!」
「そっちか」
 身軽になった体で爆豪を押し倒しながら可笑しそうに笑って、
「あの時計を売れば修繕費なんざなんてことないだろ。やる」
 あっさりと言いながら、爆豪のボトムスを引き抜いた。下着も靴下も奪われて、涎を垂らして勃起しているペニスに触られる。思わず、ひっ、と声が出た。
「悪いがあんまり余裕はないんだ。余計なことを考えるな。一回出して、風呂に行こう」
「あっあっ、急に、動かすなよ、しょーたさ、まって、んっ」
「爆豪、手こっち、触って」
「っ、ン、消太さんの、これ、あちぃ」
「切羽詰まってるからね」
 情けないよなぁ、と眉を落とす顔が可愛く見えて、爆豪は熱い息を吐き出す唇にキスをした。
「ん、ふぅ、はぁっ、あ、それ、ローション取って」
 下着の上から相澤のペニスを擦って刺激しながら、箱から取り出しておいたローションへと顔を向けた。相澤の手が止まって、汚れた手でローションを掴む。
「しょーたさん、こっち、垂らして」
 爆豪は、自身の足を持ち上げる。膝裏に手を差し込んで、ペニスだけじゃなく、アヌスまで全てを曝け出す。はくはく、と口を開閉させているそこを見せるのは恥ずかしく、顔が熱くなったが、エアコンから吐き出される冷たい空気のおかげで、辛うじて茹だることはなかった。
「今日でアンタと最後だって思ってたから、帰って来たら自分で、その……、とにかくナカだけ、洗ってたんだよ! 前みたいに拡げてねぇから、あんま、入んねぇかもしんねぇけど……」
 それでもきっと、ただの触り合いっこだけより気持ちが満たされる。
「だめか……?」
「っ、だ、めなわけ、あるか……ッ! あぁもう、クソッ!」
 首を傾げて相澤を見上げれば、怒ったようにわっと叫ばれた。同時に、乱暴に開けられたローションの蓋が飛んで、ベッドから転げ落ちて、それすらも目に入っていない相澤はさっさと中身を絞り出している。手から溢れそうなほどのそれをアヌスに直接塗り込まれる。爆豪も手伝うように、膝裏に回した手を伸ばしてアヌスの縁に指を引っ掛けた。
「たぶん、痛くねぇから、指、入れてくれよ」
「待て待て、余裕ないって言ってるだろうが。本気でやめろ、このままブチ込んで犯すぞ」
「…………アンタって、意外とそういうこと言うんか」
「〜〜〜っ、可愛い顔しない!」
「あ、や、あぁあっ……!」
 ずぷん、とローションを絡ませた相澤の指がナカに入ってきて、それだけでカウパーが溢れた。随分と前の、酔っぱらっていた時のセックスは確かにちゃんと覚えているようで、爆豪の弱点をあっという間に見つけ出す。コツコツ、と指の腹で優しくノックされて、ペニスの硬度が増していく。
「あっあっあっ♡すげ、せんせ、きもちいっ♡」
「今、先生って言うな、勘弁してくれ」
「ひう……ッ!? あは、あぁあっ♡やぁ、ゆび、はやい、うっ♡♡いっぱいコツコツすんの、やめ、あぁっ! は、うぅう♡すげ、いっぱい♡いっぱいぐちゃぐちゃって、ンッ♡」
 あっという間に二本、三本と増やされて、ナカで指を広げられても痛みはない。
それどころか達してしまわないように下腹部に力を入れて置かないと早々に射精してしまいそうだった。興奮しているとは言え、いつも以上に早い。
「も、もういい、しょうたさ、ゆび、もうダメだ……ッ♡♡」
「挿れていい?」
「いいっ、挿れろ、ほしいから、はよ……ッ!」
 アヌスや足に引っ掛けていた手を離して、相澤の首元へと回した。ザリザリとした顎鬚にも舌を這わせて、流れてきていた汗を掬い取る。そうすると今度は相澤から噛み付くようにキスをされて、従順に舌を差し出した。相澤の下肢がごそごそと動いたと思えば、アヌスに直接当たる熱の塊。怖くないぞと言うように亀頭で縁を何度も撫でられて、堪らずキスの合間に喘ぐ。アヌスも求めるように口を開く。
 すると。
「――――ッ、うあ゛……♡」
 ぬぷ、とゆうっくりと入ってくる。
 亀頭を飲み込んで、凶悪なほどに張り出しているカリ首に息を詰める。そこを腹の中に収めると、今度は引き抜かれていく。
「あ、あぁ♡あっ♡あぁあ、あっ♡」
 単調な音しか吐き出せない。ディルドとは比べものにならない熱が、質量が、腹の中を犯してくる久しぶりの感覚に酔いしれる。相澤がナカにいる。ゆっくり、じっくりと内部を犯してくれている。爆豪の真上で、眉を寄せて、気持ち良さそうに唇を噛んで。
思わず、アヌスをきゅうと締めてしまう。
「っ、ばくご……!」
 同時に、相澤の顔が歪んで、入ってきていたペニスの動きが止まる。一拍置いて逞しい腰がぶるりと震えた。
「はぁっ♡しょーたさん、きもちい、んかよ……♡」
揶揄うように言えば、小さく頷いた。
「すまん、あまり持たない」
「ん、俺も、すぐイきそ」
 だから全部は挿れないままで動いてほしいと強請る。きっと全部挿れるには拡張が足りない。これを受け入れるには時間がかかるだろう。
けれど、やっぱり痛いのかと相澤が不安そうな顔をしたので、それには可愛らしくキスをすることで黙らせた。
「アンタのちんこ全部味わうのは、また後でな」
 言外に、この一回だけでは終わらせないと言って、片方の口角を上げて笑う。そうすれば相澤も納得したのだろう。素直にまた頷いて、腰を揺すり始めた。
 指でされるのよりもずっと穏やかな動きなのに、たった一突きで全部を持っていかれそうだ。何度も何度もカリ首で入り口を刺激され、徐々にローションが泡立って濁っていく。そうかと思えばぐうと深めに入り込んできて、前立腺を押し潰される感覚に足や腰を痙攣させた。
「ひう、ぁああっ♡っ、く、あっあ゛っ♡♡しょう、たさ、おれ、もう……ッ」
「あぁ、俺もだ。一緒にイこうな」
 ちょっと強くしてもいいか、と聞かれて迷うことなく首を縦に振った。
「〜〜〜ッあ゛あぁっ♡♡♡」
 頷いたのとほぼ同時にピストンが一気に早くなる。皺が伸びてしまったアヌスは相澤の亀頭の大きさにずっと口を開いたまま、閉じる暇など与えてくれない。
更に、爆豪よりもまだ僅かに大きく、武骨で、碌に手入れなどされていない手の平に腰を掴まれて逃げられなくなる。本能的に逃げようと腰を浮かせば抑えつけられ、強制的に前立腺を何度も押し潰されて、悲鳴のような嬌声を上げる。あっと思う間もなくペニスから勢いのない精液が溢れ、しかし相澤はまた達していないらしく動きが止まらない。
「いっ、あ゛あ゛あっ♡♡ま、まて、せん、ぁ゛、あああっ♡♡♡いっしょ、いっしょって、いったのにぃ……っ! おれ、おれ、もうイッっちまったから、待って、止まって……ッ、うあっ、あ、かはっ、アァ――――ッ!♡♡♡」
「はっ、おまえが、勝手に、先にイッちまったんだろうが……!」
「だ、だって、ひうっ、あぁああっ♡♡ちんこで入り口、ごりごりされんの、きもちいい♡我慢できねぇ、から……ッ♡♡はぁはぁっ♡だめ、おれ、またイく、せんせ、せんせぇ♡♡」
 ああ、と泣くように喘いで爆豪が再びだらだらとはしたなく精液を零した。それを満足気に眺めながら、下腹部に付着した精液を相澤の手が伸ばす。
そして、再び腰を掴んで、はぁ、と熱い吐息を吐く。
「っ、出すぞ……!」
半分も挿入されていなかったペニスが、奥へ奥へとやって来る。全部は入っていないはずだが、腹の中はいっぱいいっぱいだ。苦しくなるほどの圧迫感に頭を振って耐えていれば、ナカで精液が吐き出されたのが分かった。気持ち良さそうにペニスが跳ねる。ドクドクと脈打っているのも感じる。
同時に、爆豪も甘い絶頂を迎える。
抗うことなく享受しながら、一番奥にも挿れてほしいと寂しがっている腹を撫でた。


些か性急だったが、欲望を出してしまえば、少しだけ頭の中が冷静になった。触れ合ってしまえばまたすぐに馬鹿になるのだろうけれど、とにかく今のうちにと風呂場へと向かう。
水に近いような温度のシャワーで頭を冷やして洗いつつ、ボディソープを手に取って体を撫でるように泡立てる。こっち、と相澤に言われて促されるまま、何もない壁に手をつけば、無防備な尻に相澤の手が伸びた。
「前の時もこうやって中のものを掻き出したんだが、あれは合ってたのか?」
振り払おうとする前に背中を押さえつけられて、距離を詰められてしまえば逃げられない。ザアザアとシャワーの音が響いているのに、耳元で囁いてくる相澤の声で満たされる。
「ンンッ、ぁ、合ってる、あれは助かった」
 腹が痛くなんだよ、と続ければ、分かりやすくホッとしていた。
セックスしている時よりも機械的に、それでいて優しく内部が擦られる。相澤の指は二本入っていて、時折引っ掻くようにして腸壁に絡まる精液を外へと掻き出してくれる。痛みなんてものはない。元々、捕縛布を扱うからと深爪なのだ。それは高校生の時から知っている。
(……そうか、俺、先生と)
 恋人になったのか、と。冷静になった頭でようやっと事態を飲み込んだ。好きだと言われたことに浮かれて、全てを性欲に持っていかれてしまっていたが、正真正銘の恋人になったのだ。
 そろそろと首を動かして後ろにいる相澤を見遣る。濡れた長い髪が鬱陶しいからとオールバックにしているので、普段はほとんどが何かしらで隠れている顔が全て見える。どうした、と優しく口角を持ち上げられたら心臓が跳ねた。
「なんでもねぇわ」
 ふいっと顔を背けた。あんなにも思い悩んでいたことが、この男が笑うだけでどうでもよくなってしまいそうになる単純な自分が恨めしい。
「なんだよ。痛いか?」
「痛くはねぇ、つうか、もういいからさっさと出ようぜ」
 相澤の指が抜けていくと同時に、ドロリとしたものが太腿を伝っていく。その感覚には慣れていなくて身震いをひとつ。
「そう慌てなくてもいいだろう? まだ残ってるかもしれんからな、もう少し見させろ」
「ハァ!? もういいって、ちょ、待てって……!」
 折角抜けたと思ったのに再び指が入り込んでくる。トントンと腹側のしこりを突かれて、そうかと思えば指の根元までずっぷりと挿入される。
 爆豪は、ここでセックスをするのは嫌だった。
ここで事に及んでしまえば、嫌が応にも電話越しに自慰をしてしまったことを思い出す。心配してくれていた相澤の気持ちを無下にして、愚かにも自慰の道具にしてしまった。それがどうしようもなく気恥ずかしい。
「ふぅ、ぅあっ、あっん」
 つるりとした浴室の壁に額を擦り付ける。機械的な動きから、性的な動きに変わった相澤の指が気持ちいい。自分では管理できない動きは、あっと言う間に性欲に火を点ける。
自分でも気付かないうちに、尻を突き出して擦り寄っていた。くつくつと満足気に相澤が笑っているが、止められない。
「いい子にしてくれてるからな、ちゃんと奥まで拡がってきたぞ」
「っ、ンなこと、言うな、ァ……!」
「これなら最後まで入りそうだな。あぁでも念には念を入れておくか」
言って、三本目が入ってくる。圧迫感が増して、腸壁を好き勝手に擦られたらもう我慢など出来るはずもなく、二度も精液を吐き出したはずのペニスはとうに勃起して、壁に当たる。コリコリと壁で亀頭が刺激されて、ぴゅくりとカウパーが漏れた。
「しょーたさん、ここ、やだ、あっち行きてぇっ」
 罪悪感と羞恥心に潰されてしまう前に、早く。そう願っていたのに相澤は指の動きを止めてくれない。それどころか、空いた手で不意に胸を揉まれ、乳首を抓られて腰が抜けそうになる。
「っ、ああぁ♡や、ちくび、触んな……っ♡」
 追い打ちをかけるように耳を舐められて、くちゅりと音を立てて食べられてしまう。
「ひぃっ♡はぁはぁっ、んっ、ふうう、あっ♡♡みみ、も、やめ……ッ♡」
 摘ままれて勃起した乳首を弾かれ、押し潰される。指が離れれば、いっそう充血して勃起しているのが恥ずかしい。
耳孔に差し込まれた舌が生々しい音を立てて腰が痺れる。縋り付こうにも無情にも目の前は壁で、満足に引っ掻くことすらできない。触られてもいないのに、血管が浮き出るほどに硬度を増しているペニスは、簡単に射精してしまいそうだ。
「しょう、…ぁっ♡乳首カリカリしねぇで、やだぁっ……!♡」
 徐々に腰が下がっていって、しかし、下がれば相澤の指が抜けてしまう。それが嫌でどうにか体勢を持ち直そうとすれば、随分とよさそうだな、と囁かれてカッと顔が熱くなった。
 更に。
「――そういえば、少し前に電話したとき、お前風呂に入ってるって言ったな?」
 そう言葉が続いてピシリと体が固まった。熱くなった顔が一気に青褪めていく。意図的にかどうかは知らないが、低くなった声も相俟って適当な返事は出来ない。
「体調、問題なかったのか?」
「…………ん」
「そうか。いつもと声が違うかったからな、心配してたんだぞ」
 ずるり、と指が引き抜かれた。乳首を摘まんでいた手も離れていく。解放されたのに、それでも体が動かない。今は相澤の顔が見られる気がしなかった。
「どうした? 爆豪」
 何も知らない相澤が、心配そうに声をかけながら体を反転させてきた。冷たい壁に背中が当たる。思わず顔を逸らす。だが、相澤の手が伸びて顎を掴まれた。強制的に上を向かされて、真正面から目が合う。
 ポタポタ、と冷たい雫が落ちてくる。
「急に大人しくなったら気になるだろう? もっと顔をちゃんと見せてくれ」
 掻き上げていた長い髪が崩れて、顔にかかる。それでも、何とも言い得ぬ感情を詰め込んだ瞳は隠せられない。ひとつ言葉を間違えば、比喩ではなく食べられてしまいそうな目だ。
(なんで、せんせぇ、そんな顔……)
 心配したというには冷たくて。怒っているというより、――拗ねているように見える。
「……なぁ、爆豪。怒るなよ? 単純な疑問なんだ。お前あの時、」
 ひとりで家にいたのか? と言葉が続いて、爆豪は一拍置いてあっと声を上げた。それを肯定と取ったのか、相澤の眉間に皺が寄る。
「やっぱり他の奴と、」
「違ェわ!」
 相澤が勘違いを深めるよりも前に爆豪は声を荒げた。無理矢理叫んだので掴まれたままの顎が痛いが、そんなことは言っていられない。
 そうだ。あれは電話だったから、その向こうで何があったかなど相澤には見えない。急に声が先生モードになったと思っていたのだが、違う。きっと他に誰かが居ると考えて、もしかしたら嫉妬のひとつでもしてくれたのかもしれない。
爆豪はあの時体調が悪かっただけだ、と相澤は自分に言い聞かせていたが、ここで蒸し返してしまうほどには引っ掛かっている。
(……俺、先生にまだ言ってなかったんか)
 他の誰かがこの家に来るわけがない。他の誰かに抱かれるなんて死んでも御免だ。やりたくないことは嘘でもやりたくない。だから相澤を受け入れるために、相澤に逢えない寂しさを埋めるために、他の誰かとセックスするなんて天地が引っ繰り返ってもあり得ない。
 目の前の、恋人になったばかりの男はまだ拗ねた顔をしている。
 さっさと出ようと思ったが、少しばかり延長だ。爆豪は、顎を掴んできている相澤の手首を掴む。それから、反対の手で相澤の真後ろにある浴槽を指差した。
「消太さん、ちょっとそこ座れや」
「……」
「いいから」
 そんなことよりも真相が聞きたい、と言った顔をしているが、無理矢理に体を押して腰を掛けさせた。長い足の間にするりと入り込む。固い床に膝をついて、相澤の太腿に手を添える。
「爆豪……?」
 一体何を、とこちらを見下ろしてくる相澤には何も言わず、柔らかくなっているペニスに顔を寄せた。洗ったばかりのボディソープの匂いしかしないのが残念。
「っ、おい、こら爆豪」
 相澤からすれば、意味の分からない行動だろう。けれどこれが一番手っ取り早い。
 返事をすることなく、爆豪は相澤のペニスを口腔内へと招き入れた。まだ勃起しているわけじゃないからと、出来るだけ深くまで咥え込む。じゅる、と音を立てて吸って、舐めて。入りきらない部分は手で扱く。全部相澤が好きなところ。これしか知らない。これ以外はいらない。
愛でればその分硬度が増してきて、限界まで開いた顎が痛い。
「なぁ爆豪、話を、聞きなさい……っ、はぁっ、このクソガキ……!」
 気持ち良さそうな吐息が嬉しい。堪らず、愛撫する口と手に熱が入る。浴室内に響く水音は段々と重くなって、下品になっていく。息が出来ないくらいに口腔内全部がペニスで埋め尽くされて、飲み込み切れない唾液がボタボタと床に落ちていく。シャワーを出しっ放しにしていなければ、それなりの量が溜まっていただろう。
 完全に勃起して、血管が浮き出て凹凸が激しくなったペニスを一旦口から出す。相澤のカウパーと、自身の濃ゆい唾液でドロドロに汚れたそれに、頬擦りをする。はーっ♡はーっ♡と思わず息が荒くなって、もっと食べたくて唾液が過剰分泌されていく。
 爆豪は、頬釣りしながら相澤を見上げた。
「しょーたさん、気持ちいいんか?」
「気持ちいいよ、けど、今俺は話たいのは、」
「その話をしてんだよ、いいから聞けや」
 ぐ、と押し黙った相澤を褒めるように、亀頭の先端にキスをひとつ。
 そして。
「俺ァ、アンタのこれしか知らねぇし、アンタの気持ちいいところしか知らねぇ」
 ハッキリと言い切った。
「一回目の時は後腐れなく終わりたかったから色々言ったけど、本当はアンタが初めてだ」
 あの夜が本当に初めてだった。成功させるために玩具で開発はしていたけれど、セックス自体は生まれて初めてだったのだ。
打ち明けた言葉に、相澤はぱかりと口を開けて間抜けな顔をしている。
「……信じてくれねぇなら、別にそれでもいいけど」
 そう続けても、やっぱり固まったままだ。
「消太さんから電話があった日は、他の奴とセックスしてたとかそういうんじゃねぇわ。ただ、その、あれだ、……一人でヤッてたんだよ」
 タイミングが悪かった、と爆豪は顔を赤らめて唇を尖らせた。
 黙りこくっている相澤の頭の中では一体どんな風に処理しているのだろうか。見えたら楽なのに、見えやしないから不安になる。嘘つきだとか、面倒なガキだとか、今更思われたらどうしようかと焦燥感が顔を出す。
 けれど、爆豪の手の中にいるペニスは一切萎えることなく、寧ろ素直にピクリと反応する。
「――……アンタ、俺が初めてって知って、興奮してねぇか」
 じと、と目を補足して睨めば、面白いくらいに肩が跳ねた。
「……し、仕方ないだろうが」
「マジかよ」
「マジだよ、うるさいなぁ」
 相澤は自身の大きな手で顔を覆って隠れてしまった。顔も背けられてしまったが、耳の赤さだけは隠しきれていない。それがどうにも可笑しくて、可愛くて、愛おしくて、吹き出すように笑ってしまった。
いっそう不貞腐れてしまった相澤が、
「クソッ、妙に慣れた空気出してくるくせに下手だと思ったら……」
 などと負け惜しみのような言葉を吐き出すので、今度は爆豪の肩が跳ねた。聞き捨てならない言葉だった。どんな勝負にも負けるのは我慢ならない性分なのだ。
「アァ⁉ 下手じゃねぇわ!」
「っ、こら、止せ!」
 こうなったら今すぐに証明してやると、躍起になって再び口にペニスを咥えた。一度教えてもらったことはちゃんと出来るんだと、えづきそうになるほど、喉の奥まで飲み込んでいく。
これが好きだと爆豪はもうちゃんと知っている。
「分かった、分かったから、爆豪。ちょっと待て、こら……っ」
「ンンッ、ンンンッ!」
「せめて黙っててくれ!」
 喉が震えるのが気持ちいいのだろうか。相澤の手に頭を掴まれて、引き剥がそうとしてくる力が強い。けれど負けて堪るかと、愛でる口は止めてあげない。
気持ち良さそうに息を吐く相澤を見上げて、目を合わせたままでフェラを続ける。そうすれば、引き剥がそうとしてきていた手が止まる。欲望に忠実にもっと深く咥え込まそうと押さえ付けてきて、爆豪は生理的な涙をボロボロと零しながらも抵抗はしない。
「爆豪、すまない、出してもいいか?」
 甘えるような声色に、頷くことなく強くペニスに吸い付いた。相澤には通じたのだろう。両手でしっかりと頭を持たれて、軽く腰を揺すってくる。呼応するように頭を前後に振った。頬が凹むまでしっかりと吸っているため、じゅこじゅこと淫らな音がする。
「んっんんっ、むぅ、う」
 涙が出て、鼻で呼吸がしづらくて。苦しくて仕方がないのに、アヌスが疼いてしまう。こんな風に奥の奥まで容赦なく犯してほしい。逃げられないように捕まえて、泣いても叫んでも止めずに。想像だけで腰がゾクゾクと震える。
「ばくご、ばくごう……!」
 相澤の声に一切の余裕が無くなって、次いで、口腔内のペニスがいっそう硬度を増した。喉の奥を開くように準備すれば、胃の中へと直接精液を流し込まれているような感覚。精液独特の青臭さが鼻から抜けて、しかしそれすらも逃すまいと全部吸って、飲み込んだ。
「――下手くそにイかされてんじゃねぇわ」
 涙も、汚れた口周りもそのままに。けれど、自分の中の負けず嫌いを掻き集めて強気に笑って挑発してやれば、相澤が両手を上げて降参した。
 俺の勝ちだ、と爆豪は満足げに胸を張って、鼻息を荒くした。


* * *


 シャワーを浴びるだけの予定だったにも関わらずに盛ってしまったので、少し休憩しようと相澤が言い出した。やっぱり年取ったら何回も連続で出来ねぇんか、とただただ疑問として聞けば、あとで覚えてろと怖い顔で言われてしまったので図星なのかもしれない。
これからはペースを考えなければ、と頭の隅にメモ書きして、これからがあることに口元がムズムズと緩んだ。
「お前、眠くないのか? 早寝するタイプだっただろう?」
「いつの話してんだ」
 確かに高校生の時は早く寝ていたけれど。爆豪はもうとっくに大人だ。それに生活習慣だって昔とは違う。起きておこうと思えば起きていられる。
 お互い腰にタオルを巻いた状態だったので、クローゼットから引っ張り出してきた新品の下着を相澤に手渡した。服も何か着られるものがあるだろうかと物色する。
「消太さんってTシャツのサイズなに」
「XLだな」
「くそ、無駄にいい身体しやがって」
「お前に身体を褒められるのはいい気分になるな。ありがとう」
「褒めてねぇわ!」
叫びながらクローゼットの奥へと手を伸ばした。
そういえば、ヒーロー・爆心地のグッズを作ると言って、試作品のTシャツを貰った。それにXLサイズが混ざっていたはずだ。
「お、あった」
 黒地に、左の胸元に蛍光色のオレンジでコスチュームの篭手がデザインされている、それ。
「グッズのTシャツでもいいなら、アンタはこれ着て、」
 透明の袋を開封しながら爆豪はクローゼットから顔を出して、相澤へと向き直る。
 そして。
「何やっとんだ!」
 わっと怒鳴った。縺れそうになる足でベッドに座っている相澤に近寄って、持っていたものを奪った。勢いでTシャツは投げ捨ててしまっていた。
「いや? なんか可愛いことしてるなぁと思ってな」
「勝手に家探ししてんじゃねぇわ!」
「家探しってほどでもないよ。枕の下にあったのを引き抜いただけだ。なぁ爆豪それって、」
 俺があげたキーホルダーだろ? と、鼻歌でも歌い出しそうなほどに上機嫌。
「毎日一緒に寝てくれてたのか?」
 ニヤニヤと意地が悪い顔で笑って、相澤が爆豪の手の中にあるものを指差した。
「ちゃんと大事に持っててくれたんだな。先生は嬉しいぞ」
「っるせ! 先生って呼ぶなっつっといて、こんな時だけ先生になるんじゃねぇわ!」
「それもそうだな。ちゃんと恋人として嬉しいよ」
「うるせぇ!」
「どっちにしろ怒られるのか」
 ううう、と唸りながら顔を背ければ、出しっ放しにしていた例の黒い箱も空けられて、ご丁寧に玩具が外に出されていた。爆豪は投げ捨てたTシャツを拾って、丸めて、怒りを籠めて相澤の顔面に投げつけた。その隙に、全部雑多に箱の中に仕舞ってクローゼットに投げ入れて戸をきっちりと閉めた。
「爆豪、忘れ物だ」
 言って、相澤がローションのボトルを投げてきた。
「それもその箱に入ってただろう?」
 ギチ、と音がするまでボトルを握って、マジでアンタ意地が悪ィな、と噛み締めた歯の隙間から低く吐き出した。
「こっ、……これは、まだ使うだろうが……ッ!」
 相澤を睨み付けて、顔が赤いのも承知の上。何だったら恥ずかしさで泣いてしまいそうだ。
それでも、後でちゃんとセックスがしたいのだと主張すれば、
「休憩終わり。こっちにおいで」
 すっかり雄の顔をして口角を上げる相澤の両手が広がった。それに抗う術も理由も持ち合わせていない爆豪は、形だけの躊躇を見せて、大きく一歩踏み出した。


 今になって考えてみれば、物凄く恥ずかしいことをしてしまっていたのだと実感する。
「も、やだ、見んな、いやだ、ぁ……っ」
「そう恥ずかしがるな。さっきも見せてくれてただろ? 一番初めの時だって」
 相澤が言葉を発するたびに息がアヌスに直接かかって、それだけで身悶えてしまう。
 言われるがまま四つん這いになって、タオルを剥ぎ取られてしまったら赤く熟れたアヌスを相澤に食べられてしまったのだ。いやだ、やめろ、と言ったところで相澤は「何度も見たんだから観念しろ」と言って取り合ってくれない。
 確かに、爆豪は処女がバレないように、声を上げないようにと考えた結果、初めての時もこの体勢を選んだ。だが、よくよく考えれば途轍もなく恥ずかしい恰好だった。好きな男に、玩具で開発したアヌスを見せるだなんて。
「ひう、ぁっ♡」
 しかし、今はそんなことを思い返して羞恥心と戦っている暇はない。
 べろり、と大きく相澤の下で舐められてあっという間に上半身がベッドに沈む。あの日と同じように、慌てて枕を抱え込んだ。
「きたねぇから、しょうたさん……っ! やだ、やだやだっ」
「ちゃんとお前が洗ってくれてるから問題ないよ、ありがとうね」
「ちがっ、そ、んなん、するためじゃ……っひ、ああぁあっ!」
 表面を舐めてくるだけだった舌が、ぬるりと内部に入り込んできて、全身が粟立った。固く冷たい玩具とも、長い指とも違う。まったく初めての感覚に気が狂いそうになる。
「あぁっ、あっ、やだ、舌が中で動い……はう、あぁっ」
 ナカの柔らかさを確認するように何度も何度も蠢いて、出し入れをされて、皺の一本一本まで丁寧にしゃぶられる。そんなことさせたくないのに、嫌だと思うのに、感じたことのない気持ち良さに腰が揺れる。
「すごいな、どんどん柔らかくなる」
「アッ、あぁ♡」
 口が離れたかと思えば、今度は指だ。すっかりナカを弄る指は手慣れていて、アヌスも悦んで絡みついていく。相澤が言う通り、時間が経てば経つほど、愛してもらえれば愛されるほど、そこは排泄器から性器へと変わっていく。
「しょーたさ、おねが、もう、挿れろ、やぁ……」
 相澤のペニスが欲しくて仕方ない性器は、だらしなく口を開けて強請る。顔を上げて首を捻り、後ろにいる相澤を見つめて懇願すれば、尻たぶに熱の塊が擦り付けられた。それだけで、あぁ、と啼く。
「挿れていい?」
「ん、いれて、ほしい」
 クローゼットに仕舞われなかったローションのボトルを相澤の手が掴む。カチ、と蓋が開く音にすら興奮してしまって、知らず息が荒くなる。
 垂らされたローションの冷たさにすら感じてしまって、足が震えるのは自分で止められない。
「痛かったらちゃんと言えよ」
 全部挿れるからな、と言われて、頭の中でパチパチと小さく火花が散る。
「んっ、はやく……ッ!」
「そう慌てるな」
 亀頭がアヌスに宛がわれる。ぐう、と押し広げるようにして入っていく。
 そこはさっきも愛してもらった。痛みはない。爆豪が欲しいのはもっと奥。玩具すらも届かない、一番奥。短い息に更に熱が篭っていく。徐々に犯される圧迫感が気持ちいい。
「あーっ、あっ、あぁ……は、あぁあ……♡」
「もう少しだ」
「ぁ、おく、おくまで、すげ、あぁ……あっ……♡♡」
 全部を捩じ込もうとしてくる相澤の体重がこちらへとかかる。その分奥深くまでペニスが入ってくる。絡みつく襞を乱暴に押し拡げ、口を閉じた最奥の窄まりにねっとりとキスをされる。
 瞬間、小さな火花が一気に燃え上がって目の前が真っ赤になる。
「ぁっ、はぁ、あ゛あぁああ――――ッ!」
 自分が絶叫のような嬌声を上げたことにすら気付かない。とにかく足も腰も全てが痙攣して、肌も粘膜も何もかもが過敏になっていく。尻たぶを擽る相澤の下生えすら快感になる。
 相澤のものが奥まで入ってきただけでイッてしまったのだと、体だけは理解している。
(きもちい、きもち、ケツん中、ぜんぶ、きもちいい……っ♡)
ただ、快楽に侵された頭では理解が出来ない。びゅくびゅくと精液を垂れ流していることにすら気付けずに喘ぐばかり。求めていたものが貰えた。それ以上を考える余地はない。
一ミリだって隙間がないくらいに相澤のペニスで埋め尽くされて、ゆっくりと引き抜かれるだけで完全に腰が抜けてしまった。それを持ち上げられて、今度はさきほどよりも早いスピードで奥まで突き上げられる。また勝手に精液が垂れていく。
「あ゛あぁ――ッ♡すげ、すげぇ、ちんこっ♡奥までクる、しょーたさ、しょうたさんっ♡♡」
「ほら、もっとちゃんと踏ん張れ……ッ! お前が欲しいって言ったんだろうがっ」
「やあ゛、むり、気持ち良すぎて、腰、ちから、入んねぇ……っ♡あっあぁああっ♡うあっ♡♡ああぁっ♡♡きもちいいっ♡♡」
 一突きごとに強さが増してきて、アヌスの形がすっかり相澤の専用のものになる。奥の奥まで大口を開いて、そのくせ、ペニスが侵入してくると嬉しそうに縋りつく。その襞を張り出したカリ首で弾かれると、痙攣がひどくなる。
「あーっ♡はう、ひぁっ♡まって、しょ……あ、ヒィッ、ァ――……!」
 腸壁の痙攣が足や腰まで伝わって、爆豪は背中も喉も無防備にしならせる。脳幹まで全部が真っ白になるほどの絶頂だった。
 一拍遅れて、かは、と息を吐いて。次いで全身が弛緩していく。相澤が持ってくれている腰もへたり込んでしまって、とうとう手が離された。
 しかし。
「なに勝手にイッて、満足してるんだ」
「……っ、あ……♡」
 ベッドに四肢を放り出して放心している爆豪の上に、相澤の体が落ちてきた。全身を密着させて、力の入らない足に相澤の足が引っ掛かる。器用にそのまま大きく開かされた。
「そのまま力抜いて、じっとしてろ」
 言って、相澤が腰だけを動かして、何度もナカを穿ち始めた。
「ひぐ、ぅあっ♡あぁああっ、あっ、やだ、まって、しょーたさん、これむり、むりぃっ♡♡」
 寝そべったまま後ろから犯されると、逃げる場がなくて頭がどうにかなりそうだ。それなのに相澤は楽しそうに笑って、ベッドのスプリングを利用して容赦なく突き入れてくる。
「ア、アァ――ッ! だめ、やぁっ♡♡ちんこ奥まではいってんの、きもちいッ♡♡おれ、お、イく、イッちまうから、やだやだ、ぁああっ♡♡」
「ハッ、なんだ、お前、分かってないのか」
「イく、イッ――! ……ッ、あっぁっ、はぁっ♡はぁっ♡っ、や、まって、せんせ、おれイッた、イッたから、ちょっと、――ヒィッ!? あ゛っ、おく、やだぁ……っ!」
「イッた、なんて今更だろうが。お前最初からずっとイッてるだろ」
「う、うそ、……っひ、あっ♡まって、またイく、ああぁっ♡♡あっは、ア゛――ッ♡♡♡」
「っく、……ハァッ、お前がイッてるときの感覚くらい、ちゃんと覚えてるんだよ、俺は」
 なぁ、爆豪、と。密着したままで耳元で呼ばれて、耳孔を舐められる。
「あっあっ♡♡そこ、それ舐めんの、やだぁ……っ♡♡ん、あああっ♡♡」
「お前が俺の好きなところを覚えてくれているように、俺だって覚えてる」
 忘れられるわけがないだろう、と笑った振動が伝わる。
「お前で何回ヌいたかなんて、数えきれないからな」
「ヒッ、ぁあっ……♡♡」
 使い物にならない頭で、それでも思い浮かべてしまったのは自分を想いながら自慰をする相澤の姿だ。たったそれだけでまた体が跳ねて、タイミングよく前立腺を刺激されてまた達してしまった。
 はひはひ、と喘ぐように呼吸をしながら何とか顔を上げて首を捻る。遠慮なくナカを犯してきていたペニスが、ゆっくりとした動きになった。
「お、おれ、も、しょうたさ、おもいだして、なんかいも……っ♡」
「そうか」
 気持ち良かった? と聞かれて素直にうんと頷いた。
 けれど。
「でも、ずっと、さみしかった」
 腹の奥底も、心の中も。ぜんぶ、ぜんぶだ。
「……そうか」
 僅かに眉を寄せて、何かを耐えるような顔をした。それから、キスしていいかと聞かれたので、もう一度頷く。今日だけで数えきれないほどに繰り返したキスは、寂しさを埋めてくれるから大好きだ。もっとしてほしいと、爆豪からも吸い付いた。
「爆豪、もっと奥まで挿れてもいいか?」
 痛いかと聞かれたので、それには首を横に振った。それから挿れて欲しいと口にする。
「前みてぇに、正面からがいい」
「わかった」
 ずるり、と太いペニスが時間をかけて引き抜かれていく。相澤に手伝ってもらって仰向けになるようにと転がる。力の入らない足は相澤に任せることにした。
「――あ、そうだ、しょうたさん」
「どうした?」
 だらりと重たい足を抱えられ、口が開いたままになっているアヌスに亀頭を宛がっている相澤の動きが止まる。そんなところで止まられると思っていなかったので、もぞもぞと居心地が悪い。けれど、もう一度聞かれて観念して口を開く。
「アンタもちゃんと名前で呼んでくれよ」
 あの日は言わなくたって呼んでくれただろう、と。ほんのりと拗ねたように口を尖らせれば、相澤の眦が優しく落ちる。
「勝己」
「っ、ン……♡」
 わざとらしく体を寄せて、じりじりと亀頭を挿入しながら、至近距離で呼ばれる。きゅん、と反応したのは心臓か、それとも蕩けたアヌスか。隠すようにして爆豪は相澤にしがみつく。
 再び体内に入ってきたペニスに、もう違和感など何もない。寧ろ、嵌められて安心してしまうくらいだ。
「あう、んっ♡そのまま、おく、もっとぉ、しょーたさん……っ♡♡」
 息も出来ないくらいに抱きすくめられて、何もかもを明け渡す。抵抗なんてひとつもしない。
 コツン、と優しく最奥の窄まりをノックされて、腰や背中に甘やかな痺れが走る。侵入を許可するように何度も頷けば、そこがゆっくりと抉じ開けられていく。
「ひあ、ぁあ――ッ♡♡あーっ♡」
「く、ぁ……ッ!」
 窄まりを暴かれただけで、縮こまったペニスから潮が漏れ始めた。あぁイッてる、と理解するより前に次の波が来て、それなのに容赦なくカリ首で窄まりを弾くように律動するものだから爆豪は見も世もなく悶えて叫ぶ。
「ああぁああっ♡あっ、ひぃ、あぁああっ♡♡」
 雷にでも打たれているかのような強烈な快感の中で、どうしようもなく相澤の顔が見たくなった。背中にしがみついていた両手を離して、息を荒げて快感に耐えている相澤の両頬へと伸ばす。
「しょーたさん、しょうた、さん……ッ」
「かつき、かわいい」
「あっ♡あっ♡しょーたさ、ちゅう、ちゅうして、ほし……ッ♡♡」
「ん、ん」
 きゅう、とアヌスを締めつけて、もう何度目かも分からない絶頂に身を任せながら、舌を放り出してキスを強請る。それを食べられて、流し込まれた唾液は全部飲んだ。かわいい、かわいい、と譫言のように何度も繰り返されて、その声だけで射精を伴わずにイッてしまう。
 爆豪は、快楽に侵された頭で、あの日言いたかった言葉を思い出す。
 今はもう言ってもいい。体だけじゃなくて心も全部明け渡して、そうすれば全部受け止めてくれる。遠回りしてしまったけれど、これからは隠さなくてもいいんだ。
 勝己、と何度も呼んでくれる相澤に、同じように名前を呼んで。
 それから。
「すき、しょーたさん、すき、おれ、ずっと、アンタだけ、ずっとすき、すき……ッ」
 上手く口が回らなくて、言葉が出なくて。とにかく好きだと繰り返した。言えば言うほどに胸がつっかえて、呼吸が上手く出来なくて、ヒグ、と無様に喉が鳴る。
 けれど、上手く出来なくたって、相澤がこれ以上なく嬉しそうに笑ってくれるから、もうそれだけで満足してしまう。
「俺も好きだよ、お前が、勝己が好きだよ」
「ひっ、く、ひっ、――っあぁああ……っ♡」
 もう言葉は押し殺さなくていい。嘘の言葉に甘い夢は見なくていい。
「しょうたさん、すき」
 わざと背中に傷を残さなくたって、きっと一緒にいてくれる。
 心の底からそう確信している爆豪は、腹の中に相澤の欲望を受け入れると同時に、意識をフェードアウトさせた。

起きてからも相澤がいるのだと思えば、眠ることも勿体なくない。


6.

 ――誰かが話している声がする。
 まだ半分以上夢の中にいる体は指の一本だって動かせなくて、爆豪はベッドにうつ伏せの状態で眠りながら声の元を辿っていく。低くて、穏やかな声だ。一番初めに心に留まったのは、この声だったなぁと考えて、そうか相澤の声かと瞼を持ち上げた。
 夢うつつのまま、相澤の声を耳に入れる。電話だろうか。相澤の声以外は聞こえない。
 休日だろうとなんだろうと関係なく忙しい人だ。もしかしたらこのまま仕事に行ってしまうかもしれない。寂しいけれど、仕方がない。などと、勝手に想像を膨らませていれば、不意によく知った名前が耳に飛び込んできた気がして一気に現実へと引き戻された。聞き間違いだろうか。
「――……あ?」
 寝起き一発目の声は、驚くほどに掠れていた。次いで、乾燥して引き攣った喉で何度も咳き込んだ。水が欲しい、と立ち上がろうとして上手くいかない。中途半端な体勢で腰が抜けてしまって、情けなくもべしょりとフローリングに崩れ落ちた。なんだか軟体生物になった気分。
「おい、どうした、大丈夫か」
 その音で爆豪が起きたことに気付いたのだろう。相澤が寝室へと入ってきた。手には、しっかりとペットボトルの水が握られていて、無言でそれに手を伸ばした。
「それを飲んだら、もう少し寝ていていいぞ。お前今日は休みだろ?」
「けほっ、……消太さんは?」
「俺は十九時から警察で会議があるから、それまでには一旦帰る」
 流石にこの格好ではいけないからな、と苦く笑って見せてくるのは爆心地のグッズTシャツである。サイズ感はちょうどいいのだが、如何せん自分のグッズTシャツを相澤が着ているというのが、違和感が強い。
「じゃあさっきの、その電話か?」
 相澤に支えられてベッドに座り、ペットボトルの水を飲み込んでいく。飲み込んだ水が、胃だけでなく、全身に行き渡って頭が一気に覚醒した。
 しかし。
「いや、違うよ、光己さん」
 あっさりと相澤の口から出た名前に、盛大に噎せた。
「あぁ、ほら、ゆっくり飲みなさい」
 適当にタオル借りるぞ、と相澤が寝室を出て、すぐに戻ってくる。顔や服を甲斐甲斐しく拭かれて、何とも言えない恥ずかしさがある。耐え切れなくてタオルを奪った。
「なんでアンタがうちのクソババァと、」
「こら」
「…………ハハオヤと電話してんだよ。担任の名残か」
「お前ね、卒業して何年経ってると思ってるんだ。流石に担任の仕事は全部終わってるに決まってるだろ」
 じゃあ余計に意味が分からないと首を傾げれば、ほとんど空になったペットボトルを取られる。蓋を閉めて床に置き、そうかと思えば体を掴まれてベッドに倒された。隣に、相澤も同じように寝転がる。
「言っただろ。今は俺の方が重いからって」
「あ? ……あー……、玄関でそんな話したっけか」
「うん、たぶん」
 興奮し過ぎて、いつ何を喋ったかは本人ですら覚えていないらしい。
 そして。
「夏に入ってすぐに、お前の家に挨拶に行ったんだよ」
 これまたあっさりと爆弾を落とされて、爆豪は声もなく叫びながら飛び起きた。これ以上ないほどに目を丸く大きくさせ、何をどう喋っていいか分からない口がはくはくと動く。顔色なんて、赤に青に白にと忙しい。
 何が可笑しいのか、そんな自分を見て、相澤はケタケタと笑う。そんな子どもみたいな顔で無邪気に笑うことあるのかと感動したけれど、浸れるほどの余裕はない。
「なっ、なに、あい、挨拶って、ハァ⁉」
「いくら担任の仕事が終わっていても、卒業したのがもう何年も前でも、やっぱり俺は教師だし、お前は俺の大事な生徒なんだよ」
「っ」
 それは痛いくらいに分かっている。ぐ、と息を詰めた。すると、相澤の大きな手が伸びてきて、頭を掴まれ、そっと倒された。ふたりしてベッドの上に逆戻り。
「性別に関してはどうしようもないが、心配の芽はひとつでもないほうがいいと思ったんだ」
 お付き合いを公表するようなことがあれば、顔も知らぬ、声も知らぬ「世間」は好き勝手に言うだろう。そんなものは好きに言わせておけばいい。
 けれど、身内となればそう言うわけにもいかない。
「理解してもらえるまで、何度でも足を運ぼうと思ってた」
 そのあとで、三回目のデートがしたかった。
「けど、凄いな。やっぱりお前のご両親は」
「何言われたんだよ」
「いや、俺が頭下げるより前に頭下げられて、自分が情けなかった」
 ヒーローになると決めた時も、雄英を受験すると決めた時も、何一つ後ろ向きなことは言われたことがなかったので、あまり心配はしていなかったがホッとした。
「本当に、大事に育てられたんだな、お前」
 明け透けに、付き合う前にセックスしましたとは言えないので、そこだけはひた隠しにして。けれど、自分の気持ちは正直に答えた。それこそ、爆豪本人に言うより先に全てを打ち明けた。
「勝手なことをして悪かった。けど、爆豪とこれから先も一緒にいるために必要だと思った」
 寝癖がついた髪の毛を何度も何度も撫でられて、言葉の合間にキスをされる。ごめんね、と何度も謝って来るので、もういいと首を横に振る。
 これ以上ないほどに驚いたし、相澤がそんなことをするとは夢にも思わなかったけれど、きちんと考えてくれた結果の行動なのだ。責めることなどしない。
 ――ただ、これは思った以上に……。
「お前は自分の想いが俺には重たいって嘆いてたが、」
 思考回路を読み取られたように相澤に先手を打たれた。正しく考えていたのはそれだった。
相澤に聞かれているとは知らず、上鳴に自分の気持ちを吐露したとき、確かに自分の想いが重たすぎると話をした。感情の重みが心地いいなど最初だけ。上手くいきっこないとも。
「大人を見縊んなよ、ガキ」
 歳を取ると外堀を埋めていくのが上手くなるもんなんだよ。
 ニヤリ、と悪い顔で笑う相澤に爆豪は降参の意を表した。
 間違いなく相澤の気持ちも相当重い。爆豪とはまた違うタイプの重さだ。何度離れようとしても相澤が引き留めてくるイメージを持った自分の脳内はどうやら間違っていないらしい。
「アンタはいつだって大人だから、てっきり手放すタイプかと思ってた」
「どうせ手放したって好きなんだ。だったら他の誰かにくれてやるより、二人で居られる方法を考えたほうが合理的だろ」
「……手放したって好きなんか」
「オレがこの半年、どれだけ気が気じゃなかったか、聞きたいか?」
 好きかどうかわからん、なんてよく言えたもんだ。過去の自分を思い返して呆れたように頭を掻いている。纏められていない髪の毛が、乱雑にシーツの上に散らばる。
「ちょっと電話の向こうの声が違うだけで妬いて、朝起きたらお前がいなくなってるんじゃないかと心配で眠れなくなるような男だ。お前が思ってるほど大人じゃないし、余裕だってない。気が利いたこともしてやれないかもしれん。……それでもいいか?」
いいか、なんて聞いてくるくせに手を握ってくる力が強い。真っ直ぐに見つめてくる目が、逃がさないと訴えてくる。あぁこれは確かに、思った以上に大人じゃないかもしれない。
爆豪は堪えきれずに、吹き出すように笑って、距離を詰めた。服の上から出は分からない、しかしきっちりと鍛えられた逞しい腕の中に自分から飛び込んでいく。
「……いいに決まってる」
 それに、相澤が大人じゃ無い部分だって本当は知っている。待ち合わせ時間に遅れてくることも、ひっそり寝癖がついていることも、不器用な部分だって知っている。
全部、デートをしたからこそ知ったことだ。
あぁそれから、実は縁結びの神様なんてものを信じている、なんてことも知っている。これはきっと勘弁してくれと頭を抱えてしまうだろうから、今はまだ内緒だ。
「これから、よろしくな」
「ん」
 背中に手を回したままで、僅かに体を離して相澤を見上げた。優しく微笑んでくる目の下には、確かにくっきりと隈があって、本当に寝ていなかったのだと知る。
 爆豪は、偽物の欠伸をひとつして、甘えるように足を絡ませた。
「眠い?」
「ん、寝る。……消太さんも一緒な」
「はい」
 ありがとね、と小さい声が聞こえたかと思ったら、すぐに寝息が聞こえ始めた。寝付きの良さに関しては子ども以上じゃないかと胸に擦り寄りながら考えた。
 まぁ安心してくれたのならば、それでよかった。


 ――この重みとともに生きていくのだ、と爆豪は肩の力を抜いた。
 安心できる、信用できる重みが、愛をくれて、背中を押して、ともに走ってくれる。相澤に対する想いを捨てて踏ん切りをつけてしまうより、きっと強くなれると確信した。
二人分の重みを、繋いだ手の中に大切に仕舞って、地に足つけて一緒に歩いていく。相澤の温もりを感じながら想像してみると、存外簡単に出来た。なぁんだ、と大きく息を吐く。


爆豪は相澤の腕の中で、長く続いたひとりぼっちの初恋に終止符を打つ。
此処から先は、二人で紡ぐ愛のお話である。

>> list <<