その夢は砕けない

 今日は目が溶けても寝てやると意気込んでいた相澤の二か月ぶりのオフは、非情なインターフォンに邪魔をされる。
 二度三度と続く音に、布団を頭から被って対抗するが効果は薄い。あぁ煩いと苛々しながらスマートフォンで時間を確認。まだ七時にもなっていない。苛つくを通り越して殺意さえ芽生える。
(誰か用があって来たんなら連絡してくるだろ)
 何も連絡が来ていないので、悪質な勧誘の類のものだろうと無視を決め込む。体を丸めて別の部屋へ行ってくれることを願う。いやだ、今日は寝る。絶対に寝る。何が何でも寝る。そう決めてるんだ。ぎゅうと目を瞑って逃げていく眠気を必死に掴む。
 しかしインターフォンは止まらない。それどころか段々と早くなっていて向こうも苛立っているのがよく分かる。

「────あぁもう!」
 あまりにも執拗なそれにとうとう堪忍袋の緒が切れて、布団を蹴り飛ばして起き上がる。大股で玄関に向かい、ご近所さんには申し訳ないが怒鳴ってやると心に決めて乱暴にロックを解除した。そして向こう側の相手を一切気遣うことない速度で扉を開け、文句を言うための口を開く。
 しかし。
「オハヨーゴザイマス、せんせ」
 それより先に聞こえてきた声に一瞬相澤の時が止まる。
「つうか危ねぇだろうが。俺じゃなきゃ当たってんぞ」
 自身の早朝からのインターフォン攻撃など棚に上げてこちらに嫌味を言ってくるのは、三年前に卒業した元教え子。爆豪勝己である。全体的に短くなったとはいえ相変わらずツンツンと尖った髪の毛と、人を挑発するツリ目。笑い方は最後の記憶より随分と大人びている、が、間違えるはずがない。
「…………は? え、ばくご、え……は…?」
 流石に想定外だった来客に思考が停止して、なんとも間抜けな声が出た。眠気は吹き飛んだ。
「あ。アンタ寝起きか? 寝癖すげぇぞ、だっせぇの」
「いやこんな時間誰だって寝起きだろう。…ってそうじゃなくて、お前何しに来た」
 あとどうして此処を知っている。此処はお前たちが卒業してから越してきたんだぞ。
 聞いてもそれに関しては曖昧に誤魔化されてしまう。コイツなんか裏の手を使ったなと眉を顰めて勘繰るも、爆豪が「まぁまぁ」と話を流す。
「ンな外で出来るような話じゃねぇんだよ。中に入れろや」
「無理だ」
「なんでだよ」
「お前なぁ、そんな急に来て……いいからちゃんと要件を言いなさい」
「チッ! 後悔しても知らねぇぞ」
「はぁ?」
「アンタ高校の時俺のこと好きだっただろ? フリーだったらでいいから今から俺とセッ」
「よし分かった黙って部屋に入れそれ以上喋るな」
 不穏な単語が聞こえた瞬間に相澤は手を伸ばして口を覆う。休日の、比較的穏やかな人柄が多いこのマンションで早朝から何を言ってくれてんだと憤慨しながら部屋の中へと連行。乱暴に引っ張ったのに靴はちゃんと並べられているから、きちんと躾はされているし、悪い子じゃないんだよなと項垂れる。

 殺風景なリビングに通して、さて話の続きをと相澤が爆豪に向き直れば、
「とりあえずアンタ顔洗ってこい。そんでその面白い寝癖どうにかしろ」
 なんて主導権を握られてしまう。そんなことは今どうでもいいと言いたかったが、爆豪はさっさとキッチンに行き「珈琲貰うぞ」なんて言ってお湯を沸かし始めた。面白い寝癖と言われてしまった頭をガリガリ掻いて、これ見よがしに大きな溜め息を吐いて。それでも相澤はおとなしく洗面台に向かう。言い出したら聞かないことはよく知っている。
 歯を磨いて顔を洗って。寝癖は適当に髪の毛を縛っておしまい。どうせ外に出る予定はないのだから、手間をかけたって仕方ない。あと手間を掛ける道具も技術もない。着替えはどうしようかと迷って、これまた出かけないからいいかとそのままのスウェットでリビングに戻る。
「先生ブラックでいいんか?」
「あ、あぁ」
 此処に住んでいるのはお前の方だったか、なんて聞きたくなるような手際の良さで二人分の珈琲を淹れた爆豪からマグカップを受け取り、ローテーブルに置く。開きっぱなしだったノートパソコンは床の上へとお引越し。座布団やクッションなんてものはないので、二人でラグの上に直接座って、珈琲を一口。自分で淹れるより美味しく、珈琲淹れる才能まであるのか、なんて呑気に考えていれば声を掛けられて顔を上げる。
「で、抱いてくれんのか?」
 あっけらかんと聞かれて美味しい珈琲を吹き出すところだった。
「ゲホッ、……おまえね…」
「先生相手に回りくどく言ったって聞いてくんねぇだろうが」
「確かに合理的ではないが」
「だろ? だからさっさと本題。つうか俺も時間ねぇんだわ。あと二時間でここ出ないと間に合わねぇ」
「何に?」
「仕事」
 だからはよ答えろ、と目で訴えられる。
 相澤はどうしたものかと思案しながら、マグカップを置く。
「とにかく理由をちゃんと言いなさい。あと何で俺なんだ」
 これを聞かない限り話は進めないと言外に匂わせて、促すように名前を呼んだ。爆豪はムムムと眉を寄せる。時間ねぇのにと唇を尖らせて訴えてくるが跳ね除ける。

 そのうち爆豪が根負けして、
「仕事絡みだから全部は話せねぇぞ」
 と言ってきたので、言える範囲でいいと頷いた。
「今、潜入捜査やってんだけど、そのターゲットにすげぇ気に入られちまって。嫌われるよか仕事はやりやすいから上司と相談しながら適当に気を惹いて泳がせて、あとちょっとで全部上手くいく。多分、今夜中にけりが付く」
 でも。
「その作戦決行時間の前に、ターゲットにホテルに呼び出されてんだよ。俺とそういうことがシてぇんだって、直接ちゃんと言われた」
「上司に相談は?」
「言ってねぇ。作戦時間外だし、黙ってるほうがスムーズにいく」
「あのなぁ……」
 爆豪の言い分に呆れて溜め息を吐く。それこそ上司に相談しないでどうする。お前が体を売ってまでその作戦を決行したいとあの人が思うわけないだろうに。言おうとすれば、しかし爆豪に手で制される。
「アイツが、……ジーニストが長い間追ってた奴なんだ。今だって無理して徹夜で夜通し働いてる。潜入してる俺よりよっぽど緊張感持って気合入れてやってんだ。ちゃんと上手くいくようにしてやりてぇ」
‪ だからその男に抱かれる前に抱いて欲しいと、慣れておきたいと。あとで怒られる覚悟も、解雇されても仕方ないという気持ちも持っていると言う。
 学生時代から頑固で意地っ張りで、こうと決めたら引かないことはよく知っている。だからこそこの子はヒーローのままでいられたと言うのもあるが、今回に限っては駄目な方に働いている。
 しかしその案件に関わっているわけでもなく、詳細も知らない部外者の自分はそこをどうこう言う資格はない。
「…じゃあ何で俺なんだ」
 だから論点を、口出しが出来る自分の方へと振った。
「さっきも言ったけど、アンタ俺のこと好きだっただろ」
「……」
「俺はそういう風にアンタを見たことはなかったけど、ああいう視線には昔っから敏感なんだよ」
「随分とモテてたからな、お前」
「鬱陶しいことに男女問わず、各方面からな。何がいいかさっぱり分かんねぇ。俺ァ恋愛なんざ興味ねぇし、誰かを好きになるっつうのも理解できねぇから全部断るか、…しつこい奴には夢を打ち砕いてやった」
 夢を打ち砕くって、お前一体何をした。
 ニヤリと悪い顔をする爆豪に聞きたかったが、触れてはいけないような気がしてスルーする。
「でも俺には何もしてこなかったじゃないか」
「アンタ相手に無意味だろ。直接的に言えば上手くはぐらかされるだろうし、個性を使って実力行使したって消される。夢を打ち砕くも何もアンタはそんな非合理的な馬鹿みてぇな夢を見てるとは思わねぇ」
 だから放っておいたのだと、それが最善手だと思ったのだと続ける。
「恋人がいるなら別にいい。俺ァ帰る。でもちょっとでもその気があんなら抱け」
 そうキッパリと言い切って、あとはアンタ次第だとこちらの言葉を待つ爆豪に相澤は首を振った。
「それじゃあ答えになってないよ、爆豪」
「あ?」
「俺がお前に想いを寄せていたのは認める。ただそれはもう三年も前の話だ。高校というあんな狭い世界から巣立ってそれだけの時間が経てば色んな人間に出会った筈だ。そして色んな人から好意を貰っただろう。お前は昔からモテるから。なのに、だ。どうして三年も前の過去の人間を選んだんだ? 俺を好きだったわけでもないのに。俺が好きだと言ったわけでもないのに。どうして。俺が聞きたいのはそこだ」
 話の本筋を分かりやすく的確に突けば、爆豪が唸った。
 頭の賢い子だから、相澤の質問の意図など最初からわかっていただろう。なのに故意に話を逸らしていた。
 だが残念ながらそれを見逃してあげられるほど優しい人間ではない。理由も聞かずにあっさりと抱いてあげられるほど寛容でもない。痛いところは突いていくし、追及する。
「……」
 一人暮らしにしては広い部屋が、水を打ったように静まり返る。居心地の悪い沈黙。
 それを爆豪は、溜息と頭を掻くことで打ち破る。

「────…知らねえ」

 返って来た答えに頭痛がした。知らないわけがないだろう。自分のことだぞ。
「爆豪、知らないって、あのなぁ」
 呆れながら言葉を続けようとすれば、爆豪に睨みつけられる。怒っているというより、どちらかと言えば自棄になっているような視線。
 そして。
「知らねえもんは知らねえ! つうか俺だって知りたいわ! でも仕方ねえだろ、アイツにそういうことがシたいって言われた時にアンタの顔が浮んじまったんだから! どうせならアンタに先に抱いてもらいたいって、高校の時に手ェ出してりゃ良かったって、なんか思っちまったんだよ! 理由なんざ知るか! 俺が知りたいわ、クソ!!」
 怒鳴りながら一気に捲し立てられる。尚も爆豪はローテーブルを手でバンと叩いて、肩で息をして、クソ! と何度も繰り返す。分かったら苦労しないと苦々しく吐き出す。反応を見るに嘘は言ってないと思って大丈夫だろう。

 いや、しかし、これは。
 その言葉が嘘じゃないとすると。
(そういう台詞をお前に好意を持ってる側の人間に言うなよ……)
 あああ、と言葉なく相澤は項垂れて頭を抱えた。
 爆豪は何を思ったのか「嘘じゃねえっつってんだろうが!」と怒っているが、そうじゃない。そうじゃないんだよ、この大馬鹿者。
 相澤を今までそういう風に見たことがないというのは本当。だけど相澤以外の誰かと初めてセックスするとなったとき、高校の時に手を出せば良かったと後悔してしまうほどに抱いて欲しいと思っているのも本当。そんな両極端な気持ちを押し付けられたら、大抵の男は自分の都合のいいように解釈してしまうものだ。

「……あれか、授業で恋愛について学ばせた方が良かったのか…? 俺か? 俺が悪いのか?」
「アァン!? 何ボソボソ言ってんだ!!」
「いや、こっちの話だ」
「で! どっちなんだよ! 抱くんか、抱かねぇのか!」
 殺気だっている爆豪は、言って距離を詰めてくる。
 胸倉を掴んで、反対で腕も掴んできて、真っ直ぐに睨みつけてくる。威圧的なのに、ほんの少しだけ怯えた色を見え隠れさせるものだから。人を煽るのが本当に上手いやつだと心底感心してしまう。


 ──…今日は一日ゆっくりと休もうと思っていたのに。惚れた弱みというやつか。


「俺がどれだけ我慢して送り出してやったと思ってんだ、この馬鹿」
「ハァ!?」
 馬鹿、という単語に反応して更に強く胸倉を締められるが、相澤は表情一つ変えずに掴まれた腕をするりと抜く。自由になった手で胸倉を掴んでいる腕を取り、迫ってきている爆豪を捕まえて後ろに押し倒した。後頭部を打ち付けてしまわないように手を添えて。衝撃は出来るだけ与えない。それくらいの余裕を見せつけてニィと笑ってやる。十五も年下の教え子には、まだ負けない。
 瞬き一つ分の出来事に、目を丸くして驚いている爆豪に顔を寄せた。
 ちゅ、とわざと可愛らしい音を立てて。昔より露わになっている形のいい額にキスをする。
「先生がイイコト教えてやろう」
 抱けとあれだけ喚いていたくせに、唇が触れると氷漬けにでもされたかのように動かなくなった。
 開いたままの口から覗く歯列はとても綺麗で、この状況でそんな風に無防備だとキスされても文句言えないぞと心の中で忠告。
「この歳になるとそう簡単に好きな奴をとっかえひっかえ出来るもんじゃないんだよ。いつまでも昔の綺麗な思い出に浸っちまう。あの時はあぁだった、この時はこうだったって、馬鹿な男は非合理的な夢を見る。新聞やネットの記事でお前の名前を見るたびに会いたくなって、でも会える理由なんて一つもないことに辛くなる。それでも好きなままで何年も生きてきた」
 我ながらなんと情けないのだろうと思うけれど、今言っておかないとこの子には届かない。
「気付いたらお前が卒業して三年も経っていた。片想いから言えばもう六年近くなる」
 現実的な数字を出せば、固まっていた爆豪の顔がじわじわと赤くなっていく。口がはくはく動いて焦り始めている。名前を呼ぶと大袈裟な程に肩を揺らした。
 相澤はその反応によしよしと頷く。そうだ、ちゃんと理解をしろ。賢いんだから考えろ。
 今、目の前にいる男はお前のことを忘れたことも、興味を無くしたこともない。他に恋人を作ろうと考えたこともない。只管、何もかもを隠したまま、日々募っていく好きという感情を抱え込んでいた。お前が最善手だと考えて打ち砕かなかった夢の中にずっとずっと住んでいる。
 そんな男に抱けと強請ってしまったのだと、己の軽率さを理解すべきだ。そして大人の愛の重さに慄けばいい。
「静かに、迷惑を掛けないようにしてきたのに。三年経って急にやって来たと思えば抱けだの、他の奴に抱かれるだの好き勝手言いやがって。いくら仕事でも、はいそうですかと納得できるわけないだろう。俺は、お前が、六年も、好きなんだぞ」
 言葉を脳に染み込ませるようにゆっくりと強調して言い、再び顔を近付けた。今度は額なんかじゃない。
 それが分かったのだろう。爆豪はいっそう顔を赤くして、痛いくらいに目をぎゅうと強く瞑って、全身に力を入れた。
 爆豪の反応に、それ以上近付くことはなくパッと離れて距離を取る。爆豪の右手を取って起こしてやる。
「……せん、せ…?」
 シないんか? と言いたそうに見上げてくる顔にデコピンを一発。
 そして。
「俺の休日出勤分の料金は、さっきのキスで許してやる」
 言って、ひっそりと奪っておいた爆豪のスマートフォンを見せつけ、リダイアルから電話を掛け始める。
「……あ゛!?」
 慌ててポケットを確認しているが、だからないんだってと舌を出す。指紋認証も解除済みだ。
「テメッ、人のスマホ…!!」
 奪い返そうとしてくる両手は片手で絡め取って拘束して、そのタイミングで繋がった電波の向こうへと朝のご挨拶。
「おはようございます、ベストジーニスト。イレイザーヘッドです。…はい、お久しぶりです。朝早くから申し訳ありませんが、早急にお話したいことがありまして────……」
 ぎゃあぎゃあ喚いて個性を発動しようとするのをあっさりと抹消して、爆豪が隠していた秘密を全部暴露する。驚いて、声に怒りが滲んでいたが、向こうも大人。声を荒げることもなく、相澤の提案にも耳を貸してくれ、想像より早く話がついた。
「はい。では、そのように。……えぇまた後程」
 電話を切るころには爆豪は拘束を解いてもすっかり大人しく、そして盛大に不貞腐れていた。
「返す」
 用事が無くなったスマートフォンは投げて返して立ち上がる。スウェットを脱いで適当に放り、馴染みの黒いヒーロースーツに腕を通した。
「計画は前倒しだ。時間がないからさっさと行くぞ」
「……」
「あと、これが片付いたら俺とジーニストさんからの説教が待っているからな。覚悟しておけよ」
 返事もせずにこちらを睨むだけの爆豪に指をビシッと指して、捕縛布を取りに行く。思いがけず出かけることになったが寝癖を直す時間はない。今日はもう縛ったままでいいかと考えてつつ捕縛布を巻いていれば、クイっと後ろからスーツを引っ張られた。
 追いかけてきた爆豪が相澤を見上げて何か言いたそうに、しかし何と言うのが正解なのか分からないという顔で百面相している。困っているし、戸惑っている。申し訳なさそうで、それでもどこか怒っていて。謝ればいいのか感謝をすればいいのか悩んでいる。正解を見失っている。
 そういう表情は少し懐かしかった。

『せんせい』

 誰もいなくなった教室で、散々暴れた後の演習場で、時には薄暗い寮の片隅で。
 こんな風に感情に迷子になっているこの子を見つけては二人で話をした。自分の手元にいる間だけは、この役目は誰にも譲りたくないと。そう思っていたことをこの子は知らない。あの時間が相澤の中でどれほど大事なものだったかこの子は知らない。

 三年前より高い位置になった頭を撫でる。
 爆豪の頭を撫でた記憶など片手で足りるくらいしかないが、この感触は変わらないものなのだなと綺麗な思い出に浸る。振り払われるかと思った手は、長い時間受け入れられて。わざと乱暴に撫でてから手を離した。
「そんな顔してるとまた襲うぞ」
 意地悪でそう言えば、分かりやすく体を硬くしたので、捕縛布に隠れて苦笑い。よくもまぁそんな反応で抱けだのなんだの言ったものだ。相澤の気持ちの重さを知らなかったとは言え、初心過ぎだ。そんなことを言えば本格的に怒ってしまうので考えるだけにする。

 その代わり、宣戦布告をひとつ。

「お前は目を離すとこうやって無茶なことばかりすると言うことがよく分かった。だから今日からお前を口説くことにする。一歩引いて見守るのはもう止める。碌なことにならん」
 好きを隠していたから会いに行く理由が思いつかなかったけれど、こうやって暴かれてしまったのなら開き直るしかない。
 教師と生徒という関係性の間にとっとと俺の夢を打ち砕いておくべきだったな、と鼻で笑う。
「好きを理由に何度だってお前に会いに行く。さっさと俺に惚れちまえ」
 分かったなと最後に念を押して、呼吸すらも忘れてしまっている爆豪をそのままに先に玄関へと向かう。
 綺麗に並べられた爆豪の靴と、乱雑に放られたままの自分のブーツ。再びこうやって並ぶ日が早く来ればいいと思いながらブーツに手を伸ばす。
「────っ、あ、んたなんか、す、す、すきに、なるかっ!!」
 ようやく復活した爆豪は赤面したままそう叫んでいる。今にも溢れそうな位の水分が瞳に溜まっている。感情が昂ると涙が出やすいのも変わってないらしい。
 だからそういう顔は欲を煽るだけで、何の牽制にもなっていないのだとまた今度しっかりと教え込もう。
「絶対ならねぇからなっ!!」
 あと誰かに抱かれてしまう前に抱いてほしいと誘ってきておいて、好きになんかなるかと言われても堪えるわけがない。残念ながらもう都合のいいように解釈してしまっている。
「そうかい」
 だから相澤は爆豪の渾身の一撃をひらりと躱して、ドアノブに手を掛けた。
「いいから行くぞ。時間がないって言ってるだろうが」
「わぁっとるわ! あと三十秒だけ待てや!」
 爆豪は相澤が残していったマグカップをきちんと回収してさっと洗ってから靴を履いて、お邪魔しましたと言う。そういう些細なポイントにひっそりと惚れ直しながら、相澤はようやっとドアノブを下げて扉を開けた。


 隣を歩く爆豪を口説くより先に、この子に手を出そうとしていたターゲットを徹底的に合法的に痛めつけて牢屋にぶち込んでやると心に決めて。

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