許しません!

休日の午後。
「なー、しょーたさん」
ぐうぐうと鳴っていた腹の虫は爆豪に宥めてもらって、のんびりとソファで寛いでいたら声をかけられた。
「俺ちょっと出掛けてくる」
あれ、お前昨日はそんなこと言ってなかったじゃないか。なんて思いながら半分ソファに沈みかけていた体を起こして爆豪の方を向き、目元を手で覆った。
「お、おま、おまえ、な、それ、なんだ」
「あ?」
「服、上も下も、そんなの持ってたか?」
ゆったりとした、胸元にワンポイントあるだけのシンプルな白のTシャツ。下から風が吹いたらすぐに割れた腹筋が見えそうだが、まぁそれは千歩譲ってそれはいいとしよう。だが、ダメージジーンズは譲れない。なんで内腿がそんなに何か所も露わになっている服を選ぶんだ、ばかやろう。
「新しいの買った」
言いながら、どう? と見せてくる仕草は大変可愛らしい。歳が十五も離れているせいか、爆豪がどれだけ年齢を重ねても相澤から見ればやはり子どもっぽい仕草が多い。
「似合ってる。似合ってるよ、でも」
「あ、やべぇ。時間ないから行ってくる。すぐに戻っから」
「こら待ちなさい」
相澤の言葉を遮るようにして爆豪は時計を確認しては玄関に向かう。相澤はすぐに追いかける。名前を呼びながらリビングと廊下を抜けて、裸足でも関係なく三和土に降りた。深い緑のスニーカーを履いてそのまま出て行こうとする爆豪の左手を取って、反対の手でドアノブを掴んだ。これで勝手に出て行けまい。
「ンだよ」
むう、と不服そうに唇を尖らせて見上げてくる。
「あのね。俺は別にお前のファッションに口出すつもりもないし、好きなように好きな格好をすればいいと思ってる」
「だから、なに」
「でも、ごめんね。これだけはダメ」
ドアノブから手を離して、ご機嫌をとるように頬と顎下を撫でる。喉をなぞるようにして手を下に下ろしていく。張りのある胸の真ん中を通って、型の良い腹筋の凹凸を楽しんで。それから大胆に破れたその箇所に指先を差し込んだ。内腿の感触を味わうようにゆっくりと押して、弾力を楽しむ。カリカリと爪先で引っ掻けば、擽ったいのか背中が跳ねた。
「消太さん…! こら、やめろって」
「じゃあ下だけでも履き替えて」
「だから時間ねえんだって!」
「お願い」
「すぐに帰ってくるから! ちょっとエントランスで荷物受け取るだけだって!」
「だめ」
「消太さん!」
爆豪の声に苛つきが混じり始めた。これは本格的に時間がないのだろう。人を待たせるのも、遅刻するのも嫌いな真面目な子だから。
しかし相澤とて譲れない。だから強硬手段に出る。履き替える気がないのなら、履き替えなければいけないようにすればいいだけ。出来る限り最短時間で、且つ絶対に履き替えなければいけない合理的な方法。
「なぁ、もういい加減に…!」
睨みつけてくる爆豪を、相澤はくるりと反転させた。冷たいドアに背中を押し付ける。自分はすぐに跪く。ズボンが汚れるとか関係なく膝をついて、下から驚いている顔を見上げる。逃げられないよう腰を掴んだ。
そして。
「…っ、ん…!」
破れたジーンズの隙間から見えている色素の薄い肌に齧り付く。爆豪の股座に一番近い部分をわざと選んで、弾力のある肉に歯を立てる。ビクリと震えた太腿は甘い味がしたような気がして、齧り付いたまま、じゅるりと音を立てて吸い上げた。
「あ、んた、さいてーだな…っ!」
どうぞ、何とでも。お好きなように。
眇めた眦でそう返して、次の箇所へと移動する。露わになっている面積が少ない箇所にはキスマークを。歯が立てられそうならば歯型を。
「っ、ん、くそ…っ」
そうやって全部にマーキングして、最後に一通り舐めてしゃぶってやった。
眉を寄せて睨みつけていた瞳にはすっかり潤み、頬が赤らみ、僅かに息も上がっているものだから相澤の機嫌が良くなっていく。このままベッドに連れて行きたいくらいだ。
「あとで、おぼえてろよ、アンタ」
うんうん、ジーンズひとつに大人気ないことをしてごめんね。
形ばかりの謝罪を胸の内で済ませて、自分の唾液で濡れそぼってしまったジーンズから顔を離す。
「着替える?」
「に、決まってんだろうが! 退け! 変態おやじ!」
おまけで軽く反応し始めているそこにキスをしてやれば、容赦ない蹴りが返ってきた。蹴り飛ばした相澤を気遣うこともなく爆豪は靴を脱いで自分の部屋へと入っていく。玄関に戻って来ればダメージジーンズから黒のサルエルパンツに変わっていたので一安心。これでやっと送り出せる。
「気を付けてな」
蹴り飛ばされたまま座り込んで、ヒラヒラと呑気に手を振れば鬼のような形相で指を指される。
「アンタ以上に気を付けなきゃいけねえヤツはいねえわ! 帰ってきたら覚えてろ!」
最大音量で怒鳴って爆豪は出て行ってしまう。バン、と乱暴に閉められたドアが勘弁してくれと泣いているようだ。
「流石にやり過ぎたか」
これは帰宅後の説教は免れまい。せめてこれ以上の機嫌を損ねないように出来るだけの家事はしておこう。立ち上がってまずは洗面所へ。足を洗うことから始めないと。汚れたまま歩き回れば怒られてしまう。
それにしても。
「……アイツ、足まで感じるのか」
これは楽しみがひとつ増えた。
今夜はじっくりとそこを重点的に弄ってやろうなどと頭の中で作戦を立てて、相澤は何の面白みもない自分の足を洗い始めた。

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