例えばスヌード。それからイヤーマフラー、厚手の靴下、マフラー、時々セーター。思い返せばきりがない。よくよく考えればそう言ったものを自分で買った記憶がないかもしれない。
そんな防寒具の中でも一番よく貰うのは手袋だ。
色や形、材質は様々で、長く重宝していた物もある。戦闘スタイルのひとつとして捕縛布を使うからというのも選ばれやすい理由の一つかもしれない。少しでも指先が温かいほうが、手が温もっていた方が戦闘に響かないだろうと。
確かにその通りで、手が温まっているほうが操りやすいし、照準は狂わない。だからどんな柄や材質のものでも使うようにしていたし、予備が沢山あるのは心強い。
しかし、相澤はある年を境にぴたりと手袋をしなくなった。
「あ、アンタまた手ぇ冷たくなってんじゃねぇかよ」
そう言って叱っては、相澤の両手を温めてくれる恋人が出来たからである。
「すまん」
久しぶりのデートの日。
爆豪は待ち合わせの五分前には到着していて、時間きっちりにやって来た相澤の小綺麗な格好にひとつ満足気に大きく頷いてから手の温度をチェックするのだ。
流石に非番である今日は捕縛布を持ってきてはいないけれど、有事の際には身一つで戦う相澤の手をとても大事にしてくれている。きっと自分の個性も手を使うからというのもあるのだろう。
「毎回毎回なんで手袋忘れんだよ。前日に玄関に置けっつってんだろうが」
「前の日にそれをするのを忘れる」
「もうどうしようもねぇな、アンタ」
呆れる爆豪に、面目ないとしか言えない。
本当に面目ないとは思っているのだ。大量にある手袋を使わずに恋人に甘えるようなことをして。
しかも、昨日爆豪が送ってくれたデートプランの一番最後に『明日も寒いらしいからちゃんと暖かくして来い』とメッセージをくれていたのに。
それでも相澤は、しっかりと手袋をクローゼットへと仕舞ったのだ。
「冷てぇの。爪の色変わってんじゃねぇかよ」
爆豪の両手に包まれて、はぁと熱いと息がかかる。自分以上に両手に頼る戦闘スタイルを持つ爆豪の両手はいつも温かい、というより熱いくらいだ。じわじわと温度が移ってくるのが分かる。
この瞬間を相澤はとても気に入っていた。
「手袋失くしたんなら買うか?」
「いやある。ある、はず」
あるはず、どころかちょっとした店が開けるくらいには持っている。
「どうせ持ち物把握してねぇんだろ。そんなんでよくやってけんな。仕事してる姿が嘘みてぇ」
「んー……まぁ仕事とプライベートは別物だから」
暗に今はプライベートで恋人としての時間であることを告げれば、爆豪も察したのだろう。呆れたような瞳に恥じらいが混じり込んで色が濃くなった。
その色も好きだからと見ていれば舌打ちをされて目が逸らされた。残念。
「さっさと行こうぜ。腹減った。映画の時間もあるし」
「そうだな。何が食べたい?」
「あったかいの」
「選択肢が広いな」
爆豪の手と吐息で温められた両手は、じんと甘く痺れている。それでもまだ寒いからと強請って手を繋いで冬の大通りを歩いていく。あまりにも大っぴらにしてしまったら爆豪が逃げてしまうから、お互いのコートで繋いだ手が隠れるように寄り添って。
どうせ年に一度の恋人のイベントが近付いているこの時期に、何の興味もない他人など誰も見やしない。
何年か前まではクリスマスどころか街中を煌かせるイルミネーションにすら気付かなかったのに、今は感謝しかない。
「すぐに冷たくなるんだからポケットにでも手ぇ突っ込んどけよ」
「はいはい」
言われた通りに空いた手はコートのポケットへ差し込んで、温まった指先で先客をツンと突いた。
肌触りの良いリングケースは今夜爆豪に渡すもの。
プライベートではしっかりしていなくて、冬になっても手袋を忘れてしまうから。出来れば一番近くで叱って温めてほしいと、そして同じくらい爆豪のことを温めていたいのだと、そう言って渡すもの。
きっと今日見る映画は頭に入ってこないだろうなと、こっそり苦笑いを漏らして熱いその手をもう一度握り返した。