XLとMサイズ

例えば温泉に行っても、更衣室で着替えている時でも、男の体というのに特に興味はないので不躾にまじまじと見ることはない。
格別筋肉がしっかりとついていれば気にはなるけれど、それは男の体に興味があるのではなく筋肉に興味があるだけ。どういう鍛え方しているのだろうと考えるだけ。
だから男性の象徴たるそれをじっくりと見たことなど、爆豪には経験がなかった。
見たいとも見ようとも思わないし、なんだったら自分にも同じものが備わっているからそれでいい。色や形に少々の違いがあるとはいえ、殆ど似たようなものだろう。もし、じっくりと観察したいのならば保健体育の教科書を見ればいい。図書室にだって腐るほど文献がある。それで事足りる話だ。
逆にまじまじと見られた記憶もない。寮生活や夏季合宿の際、同級生と風呂に入ることがあったけれどこれと言って感想を述べられてはいないはず。そういう会話をした記憶は残っていない。
ただ、誰のものが凄く大きいだとか、誰のものは小さすぎるだとか、そう言った話は小耳に挟むことがあった。その手の話題に自分の名前が挙がっていないことから、自分のものは所謂「普通」のサイズなのだろうと思っている。格別大きいわけでも小さいわけでもない。LサイズでもSサイズでもない。ごくごく一般的な標準的なMサイズ。
大きいからといって得をするようなことはないだろうからMサイズで十分である。
他の誰かがLサイズであろうとSサイズであろうと関係ない。どうぞお好きに。

しかしこれはあくまで他人のサイズの話である。
これが初めて出来た恋人のもの、となると少々話が変わってくる。


***


ヒーローになるために入学した雄英高校で好きな人が出来るとは思わなかった。しかも相手は担任であるあの相澤だ。同性で、教師で、ひと回り以上年上。好きだと自覚しただけでも驚いたのに、両想いなのかもしれないと気付いた時には心臓が止まるかと思った。
結局お互い優先するものが別にあって、向き合うことが出来たのは卒業してからにはなってしまったけれど、今となってはそれで良かったと思っている。物の分別がきちんとついている大人だからこそ惹かれた部分もあったから。

「担任の先生」から「恋人」へとシフトチェンジした相澤は一言でいえば問題児だった。
ワーカホリックを極め過ぎてデートどころか連絡がつかないこともしばしば。二か月ずっと返信がなかった時は流石に過労死というワードが頭を掠めたほどだ。そんな頼んでもいない放置プレイを乗り越えて会えたとしても終電までには相澤のアパートから帰らされてお泊りなんて以ての外。恋人っぽいことを、と甘えるように擦り寄っても首根っこを掴まれて引き剥がされてお終い。
半年かけてようやっと手を繋いでくれた。今時の小学生のほうがもっと進んでると爆豪が怒ったところで相澤の問題児っぷりは直ることは、残念ながらなかった。
それでも爆豪は諦めない。
会えるように何度も連絡をして、会えた時には精一杯くっついた。好きだと言って擦り寄った。
敵より敵顔、ヒーローというより敵のよう、なんてモブに言われようと好きな人の前ではただの男で人間である。それはもう必死だった。
そして努力の甲斐あって八ヶ月目で初めてのキス。長かった。ここまで頑張った自分を、その日はこれでもかと褒めた。
でも。
(ここで終わりじゃねぇ……!)
こんなものただの序章である。
付き合って手を繋いだ。ハグもした。手料理だって披露して、スキンシップも増えた。やっとの思いでキスもした。残すは――……。
「なぁ先生。セックスしねぇんか」
これである。
「しません」
しかし、この返事である。
相澤の主張としては、やはり二十歳という区切りを迎えてかららしい。
同学年でほぼ一番に二十歳になるとは言え、誕生日まであと何ヶ月あると思っているのだ。冬から春にかけて恋人のイベントというのが目白押しなのだから、どれかに乗っかって抱いてくれたっていいじゃないか。
しかし。
「しません」
やっぱりこれである。
だから爆豪は考えた。そうだ、相澤の気が変わるまで誘惑してしまえばいい。固い頭を解すように誘って、襲って、その気にさせればいい。手っ取り早く股座を触ってしまうのが一番だ。触って、まずその部分をその気にさせてしまえば欲を吐き出すまで落ち着かないだろう。その隙を突く。
一先ずそれを試してみようと心に決めて、相澤のアパートから帰る直前。恒例となっているさようならのハグとキスを楽しんでいる最中に、そっとバレないように手を持って行った。
ゆったりとしている上下黒のスウェットの上から、そっと。そうっと。
そして。
「――――!?
「あ、こら! 何してるんだ、お前は!」
手の平でそこに触れて爆豪は固まった。
相澤は「だからセックスはまだしません!」と怒っているけれど、いや違う、そうだけど、そうじゃない。
「……は……?」
上から降ってくるお説教にも耳を貸さずに再びそこに手の平を押し付ける。ふにふにと感触を確かめて、あんぐりと口を開けた。
ちょっと待て。全くもってやる気もヤる気もなさそうで、性欲なんてどこかに捨ててきましたみたいな顔で教壇に立っているくせに何だこれは。
(……俺のより、っつうか、これ、俺の手で掴め………え、挿れんのか、これを……?)
ぱちぱちと瞬きをしながら、触った感触を頭の中で繋ぎ合わせて立体にしていく。
(……無理だろ)
無理だった。こんなもの規格外だ。
先にも言った通り他人のものになんて興味ないし、じっと見たこともないが、これは絶対にSサイズでもLサイズでもない。言うなればXLサイズだ。こんなもの隠し持ってるんじゃない。ふざけんな、ばかやろう。
(しかもこれまだデカくなってねぇんだよな? こっからデカくなんだよな……?)
考えて、サッと血の気が引いた。
相澤とセックスすると決めた時に自分が受け入れる側に回ろうとは思っていた。嫌々だとか、消去法だとか、そういうのではなく自発的に。
でもこのサイズ感を自分の尻に、と思うとまだ自信がない。
クラクラしながら考え込んでいれば、
「全く。男をそんな風に誘うんじゃないよ。俺が襲ったらどうするつもりなんだ」
などと言うものだから爆豪は焦った。
「なっ、ば、お、おそ……っ!?」
「……何を動揺してるんだ。襲ったらって仮定の話だ。二十歳になるまではセックスはしないって約束しただろうが」
「し、した! したから、手ェ出すんじゃねぇぞ‼」
「お前ね……。やってることと言ってることが食い違ってるからな……」
勘弁してくれよ、弄ぶなよ、と項垂れている相澤を見て、もしかしてこの人普段から相当我慢しているのではないかと気付いてしまった。ただ、教師という職に就いている者として頭が固いだけかと思っていたが。
もし、今にも襲いたいのを健気にも我慢して我慢して耐えているのだとしたら――……?
(先生の理性が切れて襲われたら俺のケツが危ねぇ!)
想像のその先には大惨事しか待ち構えていない。
爆豪は終電の時間を言い訳にアパートを飛び出した。何事からも逃げるというのは嫌なのだが、これは戦略的撤退だと言い切る。今の装備で倒せるようなボスではない。息を切らして電車に乗り込んで、背負っていたバックパックを抱え込んだ。
(ど、どうしたらいい……)
他人の物など興味がなかったから、分からなかったから自分のサイズを基準に考えていた。だが、それではあのラスボスは到底迎え撃てそうにない。
(誕生日までに、それまでにあれが入るように)
相澤は二十歳になったらと常日頃から言っているから、最短で誕生日に抱かれるとして、猶予は季節ひとつ分。頑張らなくては。用意をしなくては。取り敢えずスマートフォンでお買い物アプリを立ち上げて、専用の玩具を片っ端からカートに入れていく。金額なんて知ったことか。
そんなことより。
(先生とちゃんとヤれるように)
これが一番なのである。
セックスも出来ない面白味のない子どもは簡単に捨てられてしまうかもしれないから。子どもじゃなく大人なのだというところをきちんと見せなくては。

人の少ない静かな電車内で決意を固めて、初めて相澤のものに触れた右手を強く握りしめた。


***


一方爆豪を見送った相澤は、ついさっきまで二人で座っていたソファにうつ伏せで寝転がって、止まらない溜め息の上から更に溜め息を吐いていた。
(…………アイツ、怯えてたな)
考える事はただ一つ。
自分の股座を勝手に触っては動揺し、顔を青くして走って帰ってしまった若い恋人のこと。
相澤は自分のもののサイズが人より大きいことは知っていた。格段知りたくはなかったが、すぐに絡んでくる声の大きな旧友に昔から何度も話のネタにされていたのだ。エグいだの、凶器だの、言いたい放題。更に歴代の関係を持った女性にも散々痛いだなんだと文句を言われて、挙句振られたこともある。
他人のものに興味などなくとも、そこまで言われてしまってはついつい比べてしまう。比べて、他の人より大きいのだと自覚した。
(出来るだけ秘密にしておこうと思ったのに)
青褪めて帰っていく背中にどうしようもなく落ち込んだ。またこれが原因で振られたらどうしよう。頭の中はそれでいっぱいだ。別れたくない。振られたくない。
だから、爆豪の心の準備が出来るまでは絶対に体の関係を持たないでおこうと決めた。
(二十歳になったら、とは言っていたが焦らずのんびりとやっていこう)
相澤からすれば、体の関係を持つことよりも恋人として過ごすことが出来る時間のほうが大切なのだ。別れてしまっては元も子もない。大事にしなくては。
爆豪の決意と準備など全く知りもしない相澤は極力この話はしないようにしなければと顎髭を掻いて、そのままの体勢で不貞寝することにした。

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