あなたの隣で想うこと

◽︎相爆初夜アンソロジーに寄稿したものです
◽︎現在は完売しているそうです



「クソがッ!」
縺れそうになる足を懸命に動かして、爆豪はマンションのエレベーターのボタンを乱暴に押した。
昼と言うにも夕方と言うにも中途半端な時間帯のせいか、ホール内には誰もおらず、ようやっと深く呼吸が出来た。冷たい壁に凭れ掛かってエレベーターが下りてくるのを待つ。その間に思い出すのは何でもない朝の日常の一コマ。
朝の情報番組で流れた占いを見て、事務所の先輩が「今日は人生最良の日だってよ! 良かったじゃねぇか、爆豪!」と朗らかに笑っていたのだ。
(何が人生最良の日だ! 二十年間生きてきて三本指に入るくれぇに最悪だわ!)
敵の手から救助した一般人に『強制的に発情してしまう個性』をかけられることが人生最良ならばこっちから願い下げだ。当然ながら個性事故にクーリングオフ期間も何もないので、ただただ耐えるしかない。
(あとちょっとだ……)
 だが、家に辿り着いてしまえばこっちのものである。
 爆豪はようやっと降りてきたエレベーターに即座に乗り込んで自分の部屋がある階のボタンを押す。
(明日まで消太さんが仕事で良かった。こんな顔見られたくねぇ)
 エレベーター内に設置されている大きな鏡に映る自分の顔は情けないくらいに紅く染まって、うっすらと瞳が滲んでいる。この顔でマンションまで歩いてきたのかと思えば絶望的だが、兎に角知り合いに遭遇しなかったので良しとしよう。
バックパックから鍵を取り出して、扉が開いた瞬間にエレベーターの外へ。早歩きで部屋に向かって鍵を開け、靴を並べる余力もなく風呂場へと直行した。
 乱雑にバックパックも服もアンダーウェアも投げ捨てて浴室に入り、頭から冷水に近い温度のシャワーを浴びた。冷たいと思ったのは最初だけで、それ以降は熱くて熱くて堪らなかった。息が上がって、視界に靄がかかる。立っているのが辛くて壁に体を預け、そのままズルズルと倒れるように尻をついた。
(も、げんかい……)
 強制的に腹の奥から沸き上がってくる欲望に勝てず、触ってもいないのに痛いくらいに勃起しているペニスに手を伸ばして事務的に動かした。
「ハァッ、あぁ……!」
 待ち侘びた快楽に声を殺す余裕もなく、爆豪は浴室で簡単に精を吐き出した。
 そして、納まることのない欲望の矛先が、ひっそりとヒクついているアヌスにも向かっていることを理解して、占いなんて今後一切見ないと心に決めた。



 流石に冷水に近いシャワーを浴び続けていたら風邪をひいてしまうと、散り散りになっていた理性を拾い集めて風呂場を出る。どうせすぐに脱ぎたくなるからと腰にタオルを巻いた状態で、よろよろと寝室に向かう。
寝室に行けばローションもスキンも、それから相澤には内密に購入した玩具が幾つかある。それでどうにか乗り越えるしかない。
 唯一の幸運は恋人である相澤が明日まで帰ってこないこと。もしいつも通りの時間帯に帰って来られたら大惨事になるところだった。
 なぜなら。
(まだセックスしてねぇのに、オモチャでケツ弄ってんの見られたら死んじまう……)
 理由はこれである。
 雄英高校に在学している時から好きで好きで、卒業してもずっと好きで。何度もアプローチして告白して、はぐらかされて。その度に泣いて。それでも負けじと好きだと言い続けてようやっと手にした恋人関係。
きっと相澤からすればこれ以上面倒なことになる前に付き合うことで先手を打っただけだろうけれど、爆豪からすればこれ以上ないチャンスだった。
出来るだけ一番近くに長く居て、そうしていつか好きになってもらえたら。
だから、同棲しようと爆豪が持ち掛けて了承してくれたのだって奇跡だと思っているし、それより奇跡と思っているのがセックスの約束である。
それこそ爆豪が何度も強請って勝ち取ったものだが、確かに次の休みにセックスしようかと言ってくれたのだ。
完璧に成功させるためにもアヌスの開発を秘密裏に進めてスムーズに事を運び、あわよくば二回目、三回目と約束が増えていけばいいと画策して――いたのだが。
(そのせいでケツが疼くなんざ考えねぇだろうが!)
 やっぱり今日は人生最良の日ではないし、相澤がいない日で良かった。
 でもちょっとだけ寂しいから相澤の服を何着か借りようか、なんて思いながら寝室の扉を開けて腰が抜けた。ぺたりと床に崩れ落ちて、一瞬発情していることも忘れて口をあんぐりと開けて呆けた。
(――ッ、なんで…!?)
 寝室に置かれたクイーンサイズのベッドを背もたれにして、相澤が力尽きたように座って眠っていた。捕縛布もゴーグルも床に散らばっている。コスチュームはそのままだったので、風呂には入っていないようだ。
きっと帰ってきてそのままベッドに飛び込もうとして、風呂に入ってないのに布団に触るなと口酸っぱく怒っている自分のことを思い出したのだろう。でもリビングのソファまで戻る体力もなくて、力尽きてしまったようだ。
(明日まで、仕事が終わらねぇって、いや待て、玄関にブーツあったんか……? 全然気付かなかった……)
 爆豪は抜けた腰を引き摺って、四つん這いで近寄っていく。目の前まで来て、ヒーローの性分として本当に寝ているだけなのかを確認していく。
(どこ触っても起きねぇ。ずっと徹夜だったんか)
 呼吸も脈拍も正常であることを確認すれば、ホッと息を吐く。珍しく寝が深いのは、きっと刺青のように刻まれている濃い隈が原因だろう。
 一先ず安心して、しかし安心してしまえば忘れていた欲望が一気に迫り上がってくる。
ドク、と心臓が深くポンプした。
「……しょーた、さん」
 声を掛けても起きることはない。触っても微動だにしない。
 爆豪はそろそろと顔を近付けて、カサついた唇にキスをする。いつも優しく頭を撫でてくれる手を取って、自分の頬へと導く。
「しょうたさん」
 そろそろと足を跨いで距離を詰めれば、シャワーを浴びていないからかいつもより濃い匂いがして目の前がクラクラと眩む。

 こんなことをしては駄目だと分かっているけれど、自らの行動を止めるだけの理性は残念ながら残っていなかった。



***



「……っ、ん、ぁ…はぁ……っ」
 夢にしては随分とリアルで艶めかしい声が耳の中に入ってきて、深い眠りに沈んでいた意識がゆうっくりと顔を覗かせた。
 とは言え、三十路の折り返し地点まで歳を重ねた体で三徹した体は思うように動かない。指先ひとつ動かすのも億劫だ。もう一度眠ってしまおうかと更に力を抜く。
「はぁ、はっ、ぁ、んっ…! しょ、たさ……」
 しかし、艶やかな声に名前を呼ばれて意識が一気に浮上してくる。
なんだか腹が重い。いや、腹と言うより下腹部と言うか、太腿と言うか、股座と言うか。それに何処かで嗅いだことのある甘い匂いが呼吸するたびに体内に入ってくる。この匂いはなんだったかと考えていれば瞼が持ち上がるくらいには覚醒して、ぼんやりとした人影を捉える。
 何度か瞬きをして視界がクリアになれば、恋人が自分に跨って全裸で自慰をしていた。
「――――……は?」
 驚愕、と言う言葉では物足りないほどに驚いた体が一気に熱くなって心臓がバクバクと忙しなく動く。まだまだ睡眠不足であろう頭も一気に冴える。
 やる気が無さそうだと揶揄される目をこれでもかと開いて思わず発動しそうになる個性は必死に抑え込んで、掠れた声で恋人の名を呼んだ。そこで爆豪は相澤が目覚めたことに気付いたのだろう。彼も彼でわなわなと震えながら目を大きく開け、しかしすぐにくしゃりと歪めた。
「しょうたさん、ごめ、おれ、ごめんなさ……ッ」
 普段は強気につり上がっている眦も眉も情けないほどに下がって、次第に涙がボロボロ溢れてくる。
謝っているが自慰をしている右手は止まらない。
「お前、一体どうした? なにが、」
 あったんだ、と聞こうとした相澤の言葉を遮るように爆豪の体がピクピクと跳ねて息が詰まった。相澤の太腿の上に乗っかっている腰が揺れている。どうやら射精したらしいと言うのは、言われずとも見ていて理解した。
 それでも爆豪は一拍分だけ休憩したと思ったらまたペニスを扱き始めている。見れば精液を受け止めている左手はドロドロに汚れていて、明らかに一回分の量ではなかった。一体いつから、と考えても分からない。
相澤のコスチュームに付着しないようにしようとしているのは分かるが、量が多くて追いついていない。こうしている間にも黒いコスチュームが白に汚れていく。
(……これは、何か変な薬でも盛られたか。それとも個性事故に遭ったか)
 射精しても萎えることなく張り詰めたままのペニス。特に可哀想なのは亀頭で、痛々しいほどに真っ赤に染まっている。欲のままに無茶な弄り方をしているらしい。これでは後で酷く痛い思いをしてしまうだろう。
 相澤は後のことを考えて爆豪を止めようと右手を掴んだ。ちょっと待ちなさい、と声を掛ければ、ヒグッと爆豪の喉が鳴る。
「あ、ごめ、なさ…っ、汚しちまって……」
 どうやらコスチュームを汚していることを怒られたと思っているらしい。
「でも、止まんな、くて…っ! しょーたさん、ごめ、なさい…っ」
 見慣れぬ泣き顔と、たどたどしい口調で名前を呼ばれれば、心配より先に浅ましい欲望が膨れ上がってきて慌てて頭を振る。
不安にさせないように震える背中を優しく擦って、子どもにするようにポンポンと叩く。
「何があったか、ちゃんと言えるか」
 振り絞った教師の声で聞けば、想定通りの個性事故。
解除の条件は時間経過らしいが、それが一体何時間なのかは分からないそうだ。どうやら極稀にいる自分の個性をきちんと把握していない奴に当たってしまったよう。
他人に害を与えない個性ならばまだしも、事件事故に発展しそうな個性の持ち主なのだからきっちりと自己管理しておいていただきたいものだ。もしかしたら行政に提出している書類ですら適当に書いているかもしれない。
(どうしてやるのが一番いいか……)
 いくら若いといっても、いつ終わるかも分からないのに加減なく射精し続けていたら体の方が先に限界を迎えてしまうだろう。赤くなってしまっているペニスは、これ以上触らないほうがいいのは一目瞭然。
 今でさえ、こんなにも泣くほどに苦しい思いをしているのに、発情が止まった後まで苦しむ姿は見たくない。悩ましい事態に眉が寄る。
(あとでこの個性かけた奴徹底的に探して見つけて説教してやるからな)
 名前も顔も知らないその人間の処分は追々考えよう。
心配と性欲と怒りという色んな感情でぐちゃぐちゃに混じり合っている心を鎮めようと息を吐けば、爆豪の声色が変わった。
「っ、ひっ、う、…うぅ……」
 艶やかな声は鳴りを潜め、嗚咽混じりの本格的な泣き声。そんなに泣いてしまうほどに辛いのかと奥歯を強く噛み締めて、怖い顔になっている自覚はあるが制御が出来ない。
目が合えば石榴色が今にも溶けて涙と一緒に溢れていきそうで慌ててそこにキスをした。舌先で何度も眦を撫でる。大丈夫、泣き止んで、俺がどうにかするからと気持ちを込めて。
しかし爆豪はそれを拒否するように、嫌々と首を振って、距離を取ろうと体を逸らした。
それから。
「ひっ、く、うぅ、ごめん、せんせ、ごめんなさい……」
付き合ってからは滅多と呼ばれることが無くなった呼称で相澤を呼ぶ。あぁこれはよっぽど余裕がないのだと直感した。
「なぜ謝る。お前は悪くないだろう?」
「だっ、て、だって、嫌んなったんだろ……ッ!? さっきからずっと怖い顔、して、おれ、おれが、こんなクソ個性に、流されて、我慢出来ねぇで、アンタが疲れて、寝てんのに、こんな、おれ……っ、ううぅ」
 両手は精液をこぼさないように必死にペニスを握っているから、涙を拭えなくてどんどん溢れてくる。
「なぁ……! おれ我慢するから、これ以上汚さねぇし、迷惑かけないから、なぁ、だから、せんせ、おねがいだから」
おれのこと、きらいになるなよ。
精一杯の力を込めてお願い事を伝えてくる唇が震えていて、言い切ったと同時に幼子のようにひぐひぐ泣いて肩まで揺らす。
綺麗に整った顔を歪めて、均等が取れた体を擦り寄せて。自分が一番辛いはずなのに一生懸命相澤の顔色を伺って懇願してくる。
(――……あぁ、もう)
大事に大事に。それこそ付き合ってすぐに手を出して怖がらせないようにと、自分を必要以上に律してしまうくらいには大事にしている恋人の、初めて見た情欲的な姿を汚いとも迷惑とも思うわけがないのに。
(好きだって強引に来るくせに、好かれることに慣れてねぇなぁ)
下手をしたら、相澤は教師として教え子が放っておけないから付き合ってくれているのだとか考えていそうだ。
自分はそんなことが出来るほど優しい人間ではない。
好きだと何度も何度も伝えてくるのが爆豪だったから、どう足掻いても愛してしまっていたから手を取ったのに。
(好きじゃなかったら、生徒になんか手ぇ出すかよ)
本当はそれを長い時間をかけて教えていこうと、肌に馴染ませていこうと呑気に考えていたが。これは少し急いだほうが良さそうだ。
(こんなにも好きが伝わってないのは、少し堪える)
未だ嫌いになったらいやだと泣いて震える唇にキスをして、発熱しているくらいに熱い身体を抱き抱えて立ち上がる。
雄英高校在学中より背も伸びたし、ウエイトも増えているけれど、こっちだって現役のヒーローである。爆豪一人くらい抱えたところで何の問題もないのだ。
すぐそこのベッドに丁重に寝かせて、自身のコスチュームに手をかけた。さっと着脱できるものでよかったと心底考えながらアンダーウェア一枚になる。
風呂に入らずにベッドに潜り込むな、と目の前の恋人に口酸っぱく言われているが、これからベッドを汚すようなことをするのだからもういいだろう。
「……せ、んせ…?」
いつだって柔らかい匂いがするシーツに埋もれながら何度もバードキスを繰り返していれば、水分量が多い石榴色がゆらゆら揺れながら相澤を見上げる。
嫌いになったんじゃないのか、怒ってるんじゃないのか、迷惑だと思ってるんじゃないのか。分かりやすいほどにそんな疑問が視線に含まれている。
相澤は表情筋が死んだ顔で出来る限り優しく笑って、
「お前は可愛いね」
そう言った。
「はぁ!?」
思ってもいなかった言葉だったのだろう。爆豪は目を限界まで大きく見開いて叫んだ。
悲しみに暮れていた顔が一気に羞恥で赤く染まって、涙がピタリと止まる。コロッと変わった表情に、意識せずとも笑いが込み上げてきた。
「可愛くて仕方がないのに、嫌いになるわけないよ」
寧ろ、俺がいつも考えていること知れば、お前の方こそ嫌いになるかもしれないなぁ。
茶化すように続けてそう言って、涙が引っかかっている唇にキスをする。甘やかすように啄んで、軽く噛んで、舌先で突く。これが所謂合図だと教えられていた爆豪はおずおずと唇を開く。
相澤は褒めるように頭を撫でて舌を挿し込む。怖がらせないようにゆっくりと口腔内を堪能していく。ちゅう、ちゅる、と何度も何度も音を重ねていけば爆豪の体から力が抜けた。
それを見届けてから唇を離し、今度は精液でしとどに濡れた手を取って、躊躇なくべろりと舌を這わせた。
「っ、な、なに、して……!」
味の濃い部分と薄い部分のある手の平を丁寧に舐めて、指を口に含む。一滴だって残さない。何度も、何度も舌で掬って体内へと取り入れていく。
「危ないから、や、っ…消太さん……!」
 爆豪にとって最強の武器であり、最大の急所であろう両手は誰彼構わず触れていい場所ではない。一歩間違えば、吹き飛んで、真っ黒の消し炭になってしまう。
「危なくないよ」
しかし、自分には消すことが出来る。
強力な武器であろうと守るべき急所であろうと、相澤の前では愛しい恋人の手の平で、愛でるべき対象である。
きっと言葉が足りない自分のせいで賢いこの子は色々と考えて泣いてしまっているのだろうから、行動で伝わればいいと願う。
折角恋人になれたのだから遠慮なんてしなくていい。
嫌いにならないで、なんて懇願は今回一度きりにしてくれると嬉しい。
「――あっ!」
ちゅう、とわざとらしく音を立てて最後の一本まで食らいつくした。
すっかり綺麗になってしまった両手を見つめている爆豪の顔は羞恥と歓喜が入り混じっていて面白い顔をしている。
「ご馳走様」
そう意地悪に言えば、ふかふかの枕で顔面を殴られてしまった。全く痛くないけれど、痛いじゃないかと訴えれば「アンタが悪いんだろうが!」と怒鳴られてしまった。それでも声色が普段と遜色ないくらいまで回復したので一安心だ。
相澤は邪魔な枕を傍に避けて、体温の高い首筋や肩口、腕、鎖骨とキスを降らせていく。ぷくりと勃起している乳首は元からなのか、発情させられているからなのか、どっちなのだろうと考えながら齧り付く。
「ひ、ぅう…ッ!」
優しく弾いて吸ってやればいっそう膨れて、もっとと強請るように背中が浮く。寂しそうな反対側は指先で優しく捏ねて、時折抓ってやると嬌声がワントーン高くなってペニスからカウパーがびゅくりと飛んだ。
どうやら少しくらい痛いほうが好きらしい。
(これからのセックスが楽しみだな)
恐らく長く味わえるだろうこの体がどんな風に成長していくのか見物である。
凡そ教師の思考とは思えないことばかりを考えていれば、傷んだ髪の毛を引っ張られた。
「ぁっ、ンン……なぁ、しょーたさん…!」
「どうした?」
「そ、こも、……気持ちいいけど、足んねぇ…っ」
「そうだろうね。でも、」
先程まで思いのまま射精していたのでそれを比べるとやはり物足りないのは分かっている。しかし、だからと言って真っ赤になっているペニスを弄るわけにはいかないのだ。物足りなくとも穏やかな快楽で乗り越えてもらわなければ。
(こんなことならさっさと抱いてやれば良かった)
 今更思っても遅いが、自分とのセックスに慣れてくれていたのならもっとやり方は沢山あった。でも現実には相澤はまだ爆豪のアヌスに触れたことはないし、触れるにも洗浄もしてなければ、用意だって何もない。
 相澤の考えを知ってか知らずか、爆豪がゆっくりと首を振ってもっとして欲しいと言う。
「アンタが気ぃ遣ってくれてんのは、分かってんだけど、でも……だから」
言いながら爆豪に胸を押し返されて距離が開く。そこを埋めるように爆豪の足が持ち上がって、閉じた膝を抱えるような体勢になった。
相澤の眼前には血管が浮き出るほどに勃起して亀頭を自らの体液で濡らしているペニスと、射精したそうに迫り上がっている睾丸。
それから。
「消太さんが、嫌じゃなかったらでいいから、こっち、触ってくれよ……っ」
爆豪の両手が尻たぶを広げて、中指が中心の窄まりに触れた。少し広げただけで内部から粘度の高い液体が零れ落ちてきている。
夢にも思わなかった光景に相澤は言葉を失って、まじまじと見入ってしまう。
「おれ、アンタとセックスちゃんとしたくて、ずっと準備してて、さっきもずっと、……でもそれのせいで、さっきからケツが、寂しくて仕方ねぇ」
誰にも見せたことがないであろう恥部を相澤の眼前に曝け出して、一度もペニスを受け入れたことがないくせに寂しいのだと言う。呼応するようにアヌスが口を開けたり閉じたりを繰り返す。
「しょうたさん」
恥ずかしくて、恥ずかしくて。でもそれにすら快楽を覚えているようだ。
お願い、と縋って来る石榴色の瞳は羞恥だけでなく期待が混じり合って蕩けきっていて、まるで蜜のよう。
「ほ、本当はちゃんと約束した日にしたかったけど、もうむり、我慢できねぇ」
言って、反対の中指でも引っ張る。それだけで簡単に内部の色が見える。艶やかで、誰にも許していない淫靡な色が目に飛び込んでくる。
思わずゴクリと生唾を飲んでしまったのは、男ならば仕方ないはずだ。
相澤は誘われるがままアヌスに指を這わせ、つぷんと中に挿れた。発情しているせいか、元々なのかは分からないけれど火傷しそうなほどに熱くなっているアヌスは相澤の指に嬉しそうに吸い付いてくる。
「ぅあ、ん…っ」
ゆっくりと指を根元まで差し込んでも痛そうな素振りは見せない。二本目だって難なく飲み込んでいく。
「……お前、ここ触ったの一回や二回じゃないだろ」
「だって、消太さんずっと抱いてくんなかったから……」
「まったく。俺はゆっくり事を進めていこうと思ってたんだよ。ちゃんと大事にさせてくれ」
窘めるように言いながら指の動きは止めることはない。
段々と加減を忘れて大胆になっていく。ぐちゅ、と響く水音に理性は崩されて、隠しきれない欲望が腰を重くする。
「っ、い、やに、なったんか……?」
相澤の言葉に爆豪の顔に不安の色が混じる。それを振り払うようにゆっくりと首を振って、困ったように笑ってやる
「まさか。あんまり可愛いことをされると理性が持たないから勘弁してくれって言ってんだ」
相澤は蠢く腸壁を二本の指で広げるようにして、それから弱点を探す。
男を抱いた経験などないけれど、相澤とて爆豪に痛い思いも辛い思いもさせない様に十二分に知識は取り入れていたのだ。
「大事にしたいのに、乱暴に犯して泣かしてしまいたくなるだろう」
加えて、爆豪が気に入っているこの声を有効活用して、距離を縮めて耳元に直接吹き込んでやった。
ひう、と可愛らしく啼く姿が堪らない。
「あぁ、可愛いな」
うっかり心の声が漏れているのにも構っていられず、主張しているしこりを刺激してやれば、
「ヒィッ! アァ――ッ!!」
背中を反らし、急所である喉を曝け出し、爆豪全身の筋肉を硬直させて叫ぶように喘ぐ。
アヌスはずいぶんと嬉しそうに蠢いて相澤の指に、もっとと強請ってくる。甘やかすように何度も何度もそこを刺激して、荒くなっていく呼吸に食らい付く。
あぁ今自分のものを此処に挿れたら気持ちがいいだろうな、なんて浅はかなことしか考えられない。
「ひ、うぅう…! しょうたさ、も、いいから、お願い、挿れてくれよ……ッ」
そんな考えが顔に出ていたのだろうか。爆豪は足を抱えるのを諦めて、相澤の太い首へと腕を回す。甘えるように頬に擦り寄って、拙いキスを繰り返す。
そして。
「ちょーだい、ほしい、しょうたさんの、ちんこ、いれて、おねがい…っ」
甘えてくる唇から出るのは性的な言葉そのもので。
「――っ、あんまり煽るな、馬鹿野郎」
相澤は何を考えるよりも前にアヌスから指を引き抜いて、自らのアンダーウェアをベッドの外へと放った。
一度だって触れていないのに、今までにないくらいに熱く硬く勃起しているペニスを爆豪のアヌスに埋め込んでいた指で扱く。指に付着していたローションと、滲んでいたカウパーが混じり合ってくちゅくちゅと水音を立てる。
――大切な子の初めてだから、きちんとスキンをつけて、ゆっくりと怖がらせないように、と思っていたのに。
「は、ぁ…っ…しょうたさんの、ちんこ、でけぇ……っ」
でもそれは一概に自分だけのせいではなく、蕩けた瞳でペニスを見つめて、生唾を飲み込んでいる爆豪にも非があるだろう。こんな風に煽られて我慢できるほど立派な大人ではないのだ。
(だから、煽るなっつってんだろうが!)
勘弁してくれ、と相澤は欲に塗れた脳内でそう怒りながら足を抱えて、亀頭を擦り付ける。小指の爪ほどしかない理性でどうにかゆっくりと挿れようと努力しているのに、ヒクつくアヌスまでちゅうちゅうと吸い付いてくるものだから、堪えきれずにグッと強く腰を押し進めてしまった。
「っひぁ、あああぁ! あ、ふぅ、あぁっ…あっ…!」
「すまん、加減が出来ん」
「いいっ、しなくていいから…っ! あ、すげ、もっと奥まで全部ちんこでいっぱい、に、ぁっ、してぇ……ッ」
「ッ、お前、もう喋るな…!」
 辛うじて残ったミクロン単位の理性で動きを止めてペニスを馴染ませていたのに、欲のままに誘われてしまってはいっそう加減など出来なくなってしまう。
きっと後でちゃんと反省するから許してくれと考えながら、相澤は下生えがアヌスに触れるほどペニスを捩じ込んで嬌声を上げる爆豪の唇を奪った。
「ふ、ぁ、っ、ん、んんんっ」
 お互いに舌を外に放り出して絡めて、落ちていく唾液すら気にも留めずに夢中になる。口の中も下肢も全部ドロドロに溶けていきそうだ。
「んっ、ちゅ、しょーた、さんっ」
 絡みついてくる襞を押し広げて奥の奥まで亀頭を捩じ込むたびに爆豪の体が大袈裟な程に痙攣して、足の指がぎゅうと丸くなる。形の良い腹筋が波打って、つられるようにアヌスが締め付けられて。堪らず相澤が熱っぽい息を吐き出せば、涙で滲んだ石榴色が歓喜に染まる。
嬉しい、もっと、気持ち良くなって、俺も気持ちいいから。そんな声が勝手に頭の中で再生されて相澤が更に動きを早めた。
「っうあ、っん、あ! きもちい、いいっ! しょーたさん、もっと、もっと、ぉ……!」
 荒っぽい動きに舌が離れて、自由になった爆豪の本物の声に煽られる。
 相澤は密着していた体を離して淫らに揺れる腰を掴む。
「あとでもう一回ちゃんと謝るからな」
 だから、ごめんな。
そう続けて言って、相澤はペニスをギリギリまで引き抜いていく。カリ首でアヌスの入り口をコリコリと擦って、それから弱点である前立腺にゴツンと勢いよく押し当てた。
「アアアァ――ッ!」
 そこが抉れてしまいそうなほどに力強く押し潰せば、ずっと触ってもらえなかった爆豪のペニスから少量の精液が吹き出した。それでも緩々と勃起した状態が続いているのだから恐れ入る。
「ひい、ああっ! やぁああ! イッてる、イッ…っく、あぁっ! しょたさ、それやだぁ、ぁ……!」
「お前がもっとって強請ったんだろ? 好きなだけイけ、ずっと見ててやる」
「んっんっ! あひ、ぃっ、あー! また出る、出ちまう、しょうたさん……ッ」
 腰を掴んだ腕に爆豪の指が絡まってきて、カリカリと引っかかれる。相澤は腰から手を放して悪戯をしてくる両手首を掴み、半分ほどしか挿入していなかったぺニスを奥まで突き入れた。
「――ッ! か、はっ、ァ…!」
 目を見開いて背中も喉も反らして、声を出す間もなく快楽に打ち震える爆豪に血管が切れそうなほどに興奮して仕方ない。
「出すぞ、かつき…ッ」
 皮膚が赤くなってしまうほどに腰を打ち付けて、滅多と呼ばない名前を呼んだ。
そして不規則な痙攣を繰り返して相澤の精を搾り取ろうとするアヌスの一番奥に射精した。ビュクリ、と吐き出す快感に腰と背中が震えた。
「っはう、ぁ…っぁ……」
 同時に、爆豪も掠れた吐息交じりの嬌声を零しながら、一際大きな痙攣に身を任せたまま射精したようだ。流石にもう勃起はしておらず、くったりと縮こまっている。
 肩で息をする爆豪の額や頬に唇を寄せれば、微かに震えながらも両腕が持ち上がって相澤の首に引っかかる。
「どうした? 気分が悪いか?」
 言葉を発さない爆豪に心配になって瞳を覗き込めば、熱が引かない吐息交じりに名前を呼ばれる。
 そして。
「すっげぇきもちいい、しょーたさん、もういっかい」

 結局、お互いの体力が底尽きるまで夢中になってしまい、いつ個性が解除されたのかは分からなかった。



***



 目が覚めた時には長時間体内を蝕んでいた鬱陶しい熱が引いていた。その代わり体中の色んな所が痛いけれど、我慢できないほどのものではない。
爆豪は程よく暖かい布団の中で、相澤の胸にくっつくように移動した。
 不快感が全くないのは相澤が後処理をきちんとしてくれたからなのだろう。相澤のほうが体は大きいし、力も強いとはいえ、骨が折れる作業だっただろう。申し訳ないことをした。睡眠の邪魔はしたくないので心の中でお礼を言って、心臓の位置にキスをひとつ。
 それにしても。
(…………消太さんかっこよかった)
 むず、と緩んでしまう口元は隠す必要がなくそのままに余韻に浸る。
(自分で色々やってんのも嫌がられるかと思ったけどそうじゃなかった。消太さんのちんこだってちゃんと勃ってたし、それにナカに……)
 意識が朦朧としながらも体内で射精してくれた感覚と熱を思い出してアヌスがきゅんと震える。
嬉しさに叫んで転がってガッツポーズまで決めてしまいそうになるのは流石に堪えて、静かに勝利の喜びを噛み締める。
 時々寂しくなってしまうほどにこの人はどうしたって大人だから、きっとスキン無しのセックスなんて一生有り得ないと思っていた。どれだけ強請ってもくれないものだと思っていた。
 だから、たとえこの一回きりだとしても。相澤の本意ではなかったとしても。うっかり涙が出てしまうほどには嬉しいのだ。
(人生最良の日、か)
 今なら占いを少しだけ信じてあげてもいいかもしれない。思いがけず記憶に残る良い一日になった。
「しょうたさん」
 起こさないように小さな小さな声で呼んだのに、相澤の瞼がうっすらと持ち上がってしまった。
起こしてしまったかと焦ったが、どうやら寝惚けているらしい。焦点は合っておらず、もぞもぞと動く唇はちゃんとした言葉になっていない。
爆豪はこれ以上刺激しないようにと黙って相澤が眠るのを待った。だが、ゆっくりと虚ろな視線がこちらを捉えてしまった。
「……悪い、起こしちまったか」
 思わず謝るも相澤からの反応はない。やはり寝惚けているだけかと思っていれば、――相澤が笑った。
「かつき」
 一瞬止まった心臓が、相澤の声で跳ね上がる。
 その顔はいつものような大人びた笑い方でも、教師の顔で見守ってくれているような微笑みでもない。
 とても無邪気に、心底嬉しそうに。そして、まるで宝物でも眺めているかのように。そんな風に笑って、頬を撫でてくる。
「かつき」
 爆豪の思考は一斉に動くことを止めて、ただ呆けたように相澤見つめることしか出来ない。
そうしている間に相澤はすっかり眠ってしまったけれど、止まった思考の代わりに暴れ回るように動く心臓が痛いくらいで夢じゃないのだと教えてくれる。
「〜〜〜っ、くそ、卑怯だろうが、それは」
 ――眠って、目が覚めて、隣に恋人がいて。
それが何よりも嬉しくて幸せなのだと、そんな風に考えている相澤の思考を垣間見た気分だ。 この関係は爆豪の独りよがりではなくて、相澤もちゃんと望んでいるんだと言われた気がして仕方ない。
 こと恋愛に関しては決して雄弁ではないこの口が笑ってくれただけなのに、告白よりも大きく重たい愛情を感じてしまった。
(……いつか好きになってくれたら)
そう思っていたのに。
ちゃんと、好きになってくれているのだろうか。目覚めた時に自分が居るだけで、嬉しそうに微笑んでくれるくらいには。
「起きたら覚えてろ」
 こっちは筋金入りの負けず嫌い。
相澤が大きく重たい愛情を隠し持っているのならば、それ以上のものを見せてやるし、伝えてやる。
(やっぱり占いなんざ当たらねぇな)
 照れた赤い頬を隠すように悪い顔で笑って、仕舞われた愛情を探すように相澤の胸に額を当てた。

 きっとこの人の傍に居れば、人生最良の日など何回だって更新してしまうに違いない。

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