互いに全力を出し合って、体力が空になるまでやり合う事が出来ればその欲望は食欲や睡眠欲として昇華されるのだが、今日のような戦いでは駄目だ。物足りない。物足りなくて、性欲に火が点いて、どうしようもなく恋人のことを思っては喉が鳴る。
爆豪は怪我のひとつもしなかったのに、熱くて重くて仕方ない体を引き摺るようにして帰宅した。幼い頃からの習慣でうがいと手洗いだけは無意識に済ませたけれど、ダイニングチェアに腰を下ろしてしまえばもう動くのが億劫。料理をする気になれない。そんなことよりセックスがしたい。腹の底に渦巻く性欲を霧散させてくれるほどに強引で乱暴で溶けそうなセックスが。
(……消太さん、今日何時に帰ってくるんだったっけか)
鳴らないスマートフォンを御座なりに弄りながら確認すれば、そろそろ帰ってきてもいいようなスケジュール。四十路に突入してもワーカホリック具合は相変わらずなのでスケジュール通りにいく可能性は極めて低いが、明日の休みくらいは変更がないだろう。何時に帰ってくるのでもいい。兎に角帰って来たら抱いてもらおう。そう決めてテーブルに頬を預けた。
性欲が渦巻いているのならばさっさと自慰でもしてしまえばいい、と合理主義の恋人が頭の中で提案してくるけれど即座に却下。爆豪が今求めているのは相澤のペニスであって、冷たい玩具ではないのだ。
それに今この状況で自慰などしてみろ。物足りなさに拍車がかかって相澤に早く帰ってこいと泣きながら電話を掛けてしまいそうだ。そんな情けないことはしたくない。
(帰ってくるまで我慢しねぇと……)
もやもやと渦巻く欲を溜め息にして吐き出して、ふと気付く。そうだ。相澤に抱かれたいのならばさっさと準備をしておかないと。こんな大事なことを失念してしまうなど、らしくないと頭を掻いて早々に風呂に向かう。
完全に火が点いてしまっているので、達してしまわないように加減しながら洗浄と準備を済ませていく。自分の指が前立腺を掠めるだけで射精してしまいそうになるのを何度も堪えて、息も絶え絶えと言った様子で風呂を出る。髪を乾かす余裕もなく、腰にタオルを巻いただけで水でも飲もうとキッチンに向かおうとして、ガチャリと玄関の鍵が開く音がして慌てて方向転換した。
爆豪は跳ね回る心臓を宥めることも出来ずに帰ってきた相澤を出迎えるべく玄関に向かい、おかえりと言おうとして口を閉じた。
目が合ったのだ。口を開くより前に。
夜よりも深い色をしたその目に強い欲情を混ぜ込んだ獣と。
「――っ!」
何を思うより前に手を伸ばしていた。足が勝手に相澤の元へと走っていて、胸倉を掴んでキスをしていた。
どうやら相澤も同じように性欲を渦巻かせたままで帰ってきたらしい。何があったかは知らないが、こんなに強引にキスをして舌を絡ませても、いつものように「どうした?」と穏やかに聞いてくる声がない。寧ろ爆豪からキスを仕掛けたのに、とうに主導権を握られてしまっている。肉厚な舌に呼吸を奪われて、息苦しいのにもっとと深く食われていく。
「んっ、ぁ、ふう…ぅ、しょう、ぁ……さん…っ」
相澤が持っていた荷物を落として爆豪の両頬に手を添える。じっと目を合わせたままで互いの唾液を飲み込んで、零れたものを追っていく余裕すらない。
息をする間すら勿体なくて必死に食らい付きながら、爆豪は胸倉から手を放して相澤の傷んだ髪の毛ごと掻き抱く。すると、くるりと立ち位置を反転させられて、冷たいドアに背中を押し付けられた。二人で座り込んで、口の周りが唾液でどれだけ汚れようと構っていられない。もっと、もっとと縋りつく。角度を変えて何度も触れ合っている唇が溶けていきそうな程に熱く、口の中が気持ちいい。あぁ、でも、もっと、もっと。
「……ふ、ぅ…っ、ん…っ」
酸欠になってクラクラとしながら爆豪は相澤の股座へと手を伸ばした。コスチュームの上からでも勃起していることが分かるペニスを爪先で引っ搔くと、微かに聞こえた相澤の声にびゅくりと自分のカウパーが漏れたのが分かった。
「しょうたさ、おれのも…っ」
堪らず強請れば相澤はすぐにタオルの結び目を解いて直接触ってくる。漏らしたばかりのカウパーを馴染ませるようにゆっくりと一回。その後は強引に射精へと持っていかれるように強く。
「はっ、うぁっ、あっぁああっ」
くちゅくちゅと音を立てて扱かれてしまって、声が抑えられない。やっぱり自分で扱くよりも、冷たい玩具よりも、何百倍だって気持ちいい。素直に足を広げて抵抗なんてしない。ただ、相澤にも気持ちよくなってほしくて震える指先でどうにかコスチュームのフロントジッパーを下ろしていく。そして取り出した相澤のペニスを扱きながら、自分のものに擦り付ける。しとどに濡れている亀頭同士でキスをするように擦り付けて、カウパーを混じり合わせていく。
「あっ、あっ、おれ、イきそ……」
相澤の熱が伝染して、脳が溶けそうだ。風呂場で何度も寸止めを食らっていた分我慢が出来ない。もう無理だと、ぎゅうと目を瞑って先に熱を吐き出してしまった。
「あ、う…っふ、ふぁ、あ、あっ」
勢いよく飛んだ精液は相澤のペニスやコスチュームを汚し、ポタポタと落ちていく。
ようやっと味わえた絶頂に体が軽く痙攣して、意識が飛びそうなくらいの余韻。しかし、それを知ってか知らずか、相澤はまだ搾り取るように根元から扱いてくるので声が上擦る。ぷちゅ、ちゅく、と溢れる体液が何なのか自分でも分からない。
ただ、そうされてしまうと相澤のものを愛してあげることが難しくなるので、口を大きく開けて強請る。
「ヒッ、ァ……っ! しょうたさん、こっち、こっちに、くれよ」
言えば、相澤は獰猛に喉を鳴らしてすぐに立ち上がった。そして熱り立ったペニスを爆豪の唇にわざと擦り付けてから口腔内へ。内側の頬の肉や上顎にも擦り付けてくるので、出来るだけ歯が当たらないように限界まで口を開く。相澤のもので歪んだ顔で一心に見つめて、欠片も逃げる気などないのだと意思表示するように太腿にしがみ付いた。
「ッ、はぁ、熱いな、お前の口の中は」
帰ってきてから初めてまともに聞く事が出来た声で、気持ちいいよ、と言われて心底嬉しくて仕方ない。だから自ら喉の奥までペニスを受け入れて、はしたない音を立てて吸い付きながら頭を前後に振った。腹の底で渦巻く性欲を発散させるためにも気持ち良くなりたいのだけれど、それ以上に相澤も気持ちよくしてあげたいのだ。顎の痛みも息苦しさも無視して懸命に奉仕する。もっと気持ち良くなって、そして一滴残らず精液が欲しい。
「かつき……っ」
限界を訴える声色が淫らな水音の合間に聞こえて、ぎゅうと喉の奥を締めた。太腿にしがみ付く手に力が入る。そして、鼻先に下生えが当たるまで飲み込んで、一拍置いてから流れ込んできた精液を懸命に呑み込んだ。
わざと大きな音が出るように飲み込み、空になった口腔内を見せる。こうすると相澤が悦ぶことは重々承知。予想通り相澤の目がうっとりするように細まって、いい子と褒めてくれる。湿った前髪を掻き上げられて、剥き出しになった額を撫でられる。ほう、と恍惚の吐息が零れた。
しかし。
「まだまだ足りなそうだなァ、おっさん」
出したばかりだと言うのに、爆豪が汚れを舌先で舐め取っているだけであっという間に硬度が増していく。美味そうで仕方ない。
「足りない」
「アンタも敵と戦ってきたんか?」
「余計なお喋りは後だ」
「ハッ! マジで余裕ねぇな」
「いいから、早く挿れさせろ」
珍しく穏やかではない口調にゾクゾクと煽られながら、ならベッド行こうぜと誘えば問答無用で体を持ち上げられてドアに押し付けられる。目の前がドアという状況に嫌な予感。
「っ、消太さん、まて、ここは……ッ!」
「あとで謝るから」
絶対に謝る気がないだろうと、怒るより前に尻を掴まれて引き寄せられる。荒々しくアヌスを指でなぞられて、洗浄も準備も終わっていることを察したのだろう。何度か指をアヌスに突き入れたと思ったらすぐに熱の塊が押し当てられる。
「な、ベッド行こうって」
「無理」
ぴしゃりと返されても爆豪とて譲れない。このドアの向こうでは、穏やかで普通の暮らしをしているマンションの住人が行き交っているかもしれないのに、自分は丸裸で相澤のペニスを尻で受け入れようとしている。声を上げれば誰かに聞かれるかもしれないし、もしかしたらこのタイミングで誰かやって来るかもしれない。
「――っ、ぁ」
考えれば考えるほど、駄目だと思うのに上手く抵抗が出来ない。ぐう、と亀頭がアヌスを押し広げていく感触だけで気持ち良くて腰が抜けそうだ。
もし、このまま一気に奥まで挿れられてしまったら――……。
「消太さんっ」
助けを求めるように名前を呼んだ瞬間、ゴツンと音を立てて容赦なくペニスが最奥まで貫いてきて目の前が眩む。
「〜〜〜〜ッ!!」
幸か不幸か、あまりにも強い刺激に嬌声が追いつかず、響いたのは掠れた呼吸音だけ。
代わりに、勝手に勢いのない精液が緩やかに勃起していたペニスから溢れて落ちていく。身構える暇なく達してしまったことで完全に足から力が抜けて情けないくらいに震えてしまっている。踏ん張ろうとしても内股になるだけで、手を離されたら崩れ落ちてしまうだろう。
「どうした、挿れただけでイッたのか?」
「っ、ん、うん、出ち、まった……ぁ……っ」
「ナカもビクビクしてて止まらねぇな」
「あ゛ッ、はぁ…! しょ、しょうた、さ、まって、ナカ突くのや、やだ、むりだって……!」
「無理だァ? 嘘吐くなよ、勝己」
嘘なんて吐いていないのに、言うことを聞いてくれずにゆうっくりと引き抜かれていく。
「はう…っ! あぁっ、あっう、ぁあ……! だめ、ぇ…!」
冷たいドアに意味もなく爪を立てて、待ってと何度も懇願する。ひとつひとつの襞をカリ首が擦っていくだけで精液が零れて仕方ない。穏やかな絶頂は神経を直接触ってきているようで頭がおかしくなりそうだ。
それに相澤がこうやってゆっくりと引き抜くのは、ひとつの合図のようなものだ。振り返る余裕はないけれど、きっと乾いた唇を自らの舌で舐めながら、敵顔負けの恐ろしい顔で笑っているに違いない。その顔で体内を余すことなく犯してくるのだ。賢い頭に刻み込まれた今までの記憶が蘇っては慄く。
(だめ、だめだ、また奥まで一気にヤられたら、おれ、おれ…っ)
ドクドクと心臓が煩いくらいに音を立てて、呼吸がいっそう浅く荒くなっていく。
「…………ふっ」
だが、身構えていても衝撃はやって来ず、代わりに相澤が小さく笑った。
爆豪がそろそろと首を捻って後ろを向けば、相澤がこの上なく楽しそうに笑っているのが見えた。想像した通りの顔だけれど、本物のほうがよっぽど雄の匂いがして、見ただけでアヌスがきゅんと震える。乱れた髪も、いやらしく口角を上げている表情も、歳を重ねる毎に堪らなく格好良く見えてしまう。
「勝己」
名前を呼ばれて肩が跳ねる。
「無理だって、駄目だって言うわりには腰が動いてるぞ」
言いながら、無防備な背中から腰にかけて指先で擽られて声が漏れた。
「さっきより腰を突き出して。……無理じゃなかったのか? なぁ?」
それから、ペシリと軽く尻たぶを叩かれてようやっと自ら腰を揺らして強請っていることに気付いた。あぁ、と情けない声で啼いて一気に体温が上昇していく。
「嘘は良くないな。ちゃんと本当のことを言いなさい」
――爆豪はいい子だから、先生にちゃんと言えるよな?
ワントーン低くなった声に耳が犯されて涙が滲んでいく。アヌスが勝手に相澤のペニスを奥へ奥へと誘惑するように動いているのが分かった。
狡い、と心の中で唸る。
その声には、その呼び方には滅法弱いのだ。しかも唐突に、何年かぶりに先生という呼称を使われて、先生の声で苗字を呼ばれるとどうしたって昔を思い出してしまう。先生の姿に恋焦がれて、ひっそりと目で追っては熱を持て余していたあの日々を思い出す。好きになったのなんてもう十年以上前の話なのに、未だにあの相澤に抱かれているのだという自覚をすれば感情が昂ってしまってしまうのだ。
(セックスの時はちゃんと名前で呼べって、アンタがいつも言ってんのに! ずりぃ…!)
ベッドで抱いてほしいのに。こんな誰に聞かれるとも分からない玄関でなんて嫌なのに。
「ちゃんと、言えるよな?」
ここまでされてしまったら我慢など全く出来なくて。もう全部どうでもいいから、抱いてほしくて、そのペニスで何度だって貫いてほしくて仕方ない。
爆豪は唇を噛み締めながら何度も頷いて、それから素直にさせられた口を開く。
「っ、せんせぇのちんこで、奥までいっぱい突いて、ほしい……!」
おねがい、と強請った瞬間。先程よりも強く深く挿入されて、一拍遅れて掠れた嬌声を上げた。
「ヒッ、ああぁあ――ッ!!」
そのまま一秒だって休息を与えてもらえずに容赦なく奥深くまで犯されて、指先が白くなるほどドアにしがみ付いていた両手を取られる。相澤のほうへと引っ張られるように捕まえられてしまって、必然的に胸を張って淫らに尻を突き出してしまう。
「う、あっあっ! い、ぁああっ! せんせ、なか、こ、こわれる、…ひぃっ!」
震える足では逃げることも踏ん張ることも出来ず、相澤にされるがまま。唯一動かす事が出来る頭を振っても許してもらえずに、弱点である前立腺を抉られる度にペニスから断続的に精液が溢れていく。
「せんせ、せんせっ、おれっ、ずっと、イッ……ひ、ぁあ゛あ゛っ! また、また出る、ぅ……!」
「っ、あんまり、締めるな…ッ」
「むりぃ、ぁっ、待っ、またイく、イくイく、はううっ!」
一突きごとに絶頂へと導かれているようで、最早自分が何を叫んでいてどういう状態なのかの理解が追いつかなくなる。目の前で火花が散って、脳も腰も全部が溶けていく。
「ばくご、ばくごう」
相澤も同じように気持ち良くなってくれているのだろうか。名前を呼んでくる声に余裕がなくて、息が荒い。掴まれている腕は力の加減を忘れられたようで痛いくらいだ。きっと手形が赤く残ってしまっていることだろう。でも、それほどまでに必死に、荒々しく自分の体を求めてくれていることが嬉しい。
もうドアの向こうに誰がいようと、誰かに聞かれていようと関係ない。
もっと好きなように突いて、暴いてほしい。
「あ゛、はぁ、ううっ! せんせぇ……っ!」
そして一際大きな絶頂が体を包んで、舌を突き出して喘げば、相澤のペニスが跳ねるようにして震えて射精したのがダイレクトに伝わってきた。ドプドプと精液が流れ込んできて腹の中が満たされていく。
「あ、あぁ……」
それを懸命に呑み込みながら掠れた単音を吐き出して、迫り上がってきた快感を素直に零した。何度も射精を繰り返して縮こまっていたペニスから溢れたのは潮だった。
「…っ、や、とまんねぇ……っ」
耳を塞ぎたくなるような音を立てて溢れて止まらない潮はドアも二人の足元も、そして無残にもぐちゃぐちゃになって汚れてしまっているタオルまでも濡らしてしまう。
「はぁ、はっ、ぁ、はぁ」
最後の一滴まで出し終えた所で息を整えていれば、何の前触れもなく相澤がずるんとペニスを引き抜いた。
「ひッ、ぅあ……っ!」
まだ固さを残していたそれで敏感な腸壁と前立腺を擦られてしまって完全に腰が抜けてしまった。べしゃりと自分が零した体液の上にへたり込んで、辛うじてドアに寄りかかる。
こんなにも乱暴に、自分本位に突き上げられたのは久しぶりかもしれない。歳を重ねるごとに穏やかなセックスの頻度が高くなっていたから。
思いがけず欲求が満たされて疲労よりも幸福感が勝る。うっとりとした心地で見上げれば、相澤は呼吸を整えながらも早々に身なりを整えていた。なんだ、もう満たされてしまったのか。少し残念に思いながら見ていれば、大丈夫かと、こちらに手を伸ばしてきた。
しかし一瞬、ほんの僅かに腕が引き攣るように跳ねた。
(…………あ?)
一瞬の表情の変化を見逃すことなく爆豪は咄嗟にコスチュームを掴んで強引に引っ張った。油断していたのか、相澤は驚いた声をあげながら三和土に崩れて、小さく唸った。
仄かに漂うのは、血の匂い。
「――テメェッ!」
爆豪はうっとりとしていた幸福感など放り投げて、一気に怒りのボルテージをマックスまで上げた。次いで相澤の顔面をその手の平で掴む。
「今日どこで何してたか、全部言え。今すぐにだ」
――消太くんはいい子だから、ちゃんと言えるよなァ……?
甘さなど微塵もない低い声でそう言えば、相澤は両手を上げて降参した。
♡ ♡ ♡
「ん、終わった」
「いて、……ありがとうね」
お互いの体液に汚れた体をざっとシャワーで流して、清めた後に相澤をリビングへと連れてきた。爆豪は慣れた手つきで清潔な包帯を巻き直し、最後の仕上げに軽く叩く。
隠されていた怪我は左腕。交戦中に相手の刃物が掠ったらしい。反応が鈍ったかと笑いながら聞けば、子どもを抱えての多対一の交戦で、子どもを狙ってきたから咄嗟に自分の腕を差し出したと。ならばたったそれだけの怪我で済んで良かったなと返した。
「でも怪我はこれだけだし、案外呆気ない終わりだったよ」
相澤がソファに凭れて、落ち着いたのかふうと息を吐いた。服を着るかと差し出せば、まだ暑いからいいと断られたのでローテーブルに置く。
「あんま無茶すんなよ」
「……それはどっちの話だ? ヒーロー業か? セックスの話か?」
「どっちもだわ、バァカ」
爆豪は広げた救急箱を片付けて、それから隣に座る。
「また一個、傷が増えたな」
「あー、まぁ、今回のこれはそんなに目立たないだろ」
相澤の左腕に新たに刻まれた傷はそう深くない。縫うほどのものでもないし、毒が塗られていたわけでもない。ただ折角止血していたのにも関わらず帰ってきて早々に玄関で大暴れしたので血が滲んでしまっただけで、本来ならばすぐに回復する。目立つのは最初だけで、きちんと管理していれば傷痕は薄くなっていくだろう。
「……でも、気ィ付けろや」
傷に触らないように気を付けながら、左肩に額を擦り寄せた。どれだけ一緒にいようと、相澤が怪我をこさえて帰ってくるのが一番堪えるのだ。いい加減ちゃんとそれを理解してほしい。
「うん。ごめんね」
相澤は擦り寄ってきた爆豪を抱えて太腿の上へと移動させた。真正面から抱き締められて、頭や顔にキスが繰り返される。変わらない不精髭と、伸びた髪の毛がくすぐったい。そろそろまた切ってやらないと。明日にでも予定を入れよう。
爆豪は身を捩りながら背中に手を回す。年々太く逞しくなっていく肩回りと背中、それから腰は一体いつ鍛えているのか。生活を共にするようになっても謎のまま。聞いても教えてくれない。だから、爆豪が勝手に作り上げた相澤七不思議のうちのひとつである。
その大きな背中に手の平を少し滑らせるだけで古傷の凹凸が手の平に伝わってくる。背中だけじゃない。あの真っ黒のシンプルなコスチューム上からでは想像が出来ないほどの傷が全身にある。攻撃的な個性ではなく、更に近接戦を得意としているから仕方ないとはいえ、恋人として嬉しいものではない。体に残る傷は、記憶に残る痛みはひとつでも少なくあってほしい。
「……お前も増えたな、傷」
背中や腰を指先でなぞっていれば、相澤が同じように触ってくる。
「初めて抱いた時は傷なんかなくて真っ白で、綺麗過ぎて触るのに気が引けるくらいだったな」
「……悪かったな、傷だらけになっちまって」
只でさえ女と違って筋肉質で硬くて簡単に相澤を受け入れられる構造をしていないことに負い目を感じている部分が少なからずあるというのに、その上昔の自分とまで比べられてしまっては面白くない。
むすり、と唇を尖らせれば絡みついていた腕が解けていく。隙間が出来た部分から相澤は手を差し込んで、シャツの中に入り込んできた。腹部と腰を触って上へ。邪魔だと言わんばかりにシャツを捲られて、大小さまざまな傷が刻まれた体が相澤の眼前に。
擦傷だけじゃない。個性柄どうしても火傷跡は増えるし、腕には銃創もある。滑らかだった肌は所々に凹凸が出来て、真っ白だった肌は日に焼けている。傷痕が色素沈着している部分もある。
ヒーローとして立っている以上、いつまでも綺麗なままではいられない。これからもっと増えていくだろう。それこそ相澤のことを言えないくらいに。
「いやになったかよ」
「まさか」
だから、即答してくれて、笑ってくれたから沈んでいた心が浮上する。自分でも単純だなと呆れてしまうが致し方ない。
「長い間、ずっとこの体を独り占めしてるんだって実感が出来ていい」
言いながら手が再び背中へと回って、すっと下りていく。躊躇なく下着の中に手を差し込んでアヌスに人差し指を這わしてくる。甘えるように縋りついていた体が跳ねて、背筋が伸びた。
「おいこら、おっさん!」
折角少しだけジンときていたのに。台無しにされて右頬を抓ってやる。
「いてて、だってお前ヤりたかったんだろ?」
「ヤりたかったけど流石に引っ込んだわ! つうかこんなことしてたらまた傷が痛むぞ!」
「大丈夫。さっきみたいな無茶はしないよ」
「そういうことじゃねぇ!」
言うことを聞かないので両側の頬を抓ってやれば、相澤が仕返しだといわんばかりに反対の手もの中に入れてくる。そして容赦なく尻たぶを掴まれて左右に開かれてしまった。
「っ、こら、やめ……!」
これはダメだ、と焦って頬から手を離して腕を掴むも一足遅かった。腹の中でどろりと何かが垂れていく感覚がして、慌てて相澤の名前を呼んだ。
「さっきシャワー浴びた時、急いでたから中のを掻き出してなかっただろ?」
しかし抵抗叶わず、開かされたアヌスの中に右の人差し指が入ってくる。次いで左のそれも入ってきて、強引に口を開かされると、次第に下着が濡れていく感覚。生暖かいような、冷たいような、何とも言えない感覚に体が震えた。
「だ、からって、今すんなよ……ッ! 下着、ダメになっちまっただろうが!」
「いいだろ。どうせ脱ぐんだから」
「……本気でヤるつもりじゃねぇよな?」
「んん? するだろ?」
「シねぇっつってんだろうが!」
「なんで」
「怪我!」
「だから無茶はしないって」
言いながら垂れてきた精液を元に戻すようにアヌスの中へと押し込んでくるので爆豪は言葉に詰まる。思わずぎゅっとしがみつけば、相澤の股座がしっかりと膨らんでいることに気づく。
(〜〜〜っ、さっき二回出しただろうが! ちったァ落ち着けや!!)
年を重ねるごとに穏やかなセックスが増えた、とは言ったがそれは決して回数が減ったわけでも性欲が枯れたわけでもない。どちらかと言えば一回一回がねちっこくなったのだ。荒々しく抱き潰すのではなくて、執拗なまでにゆっくりとした穏やかなセックス。驚くほどに体力を奪われるのはこちらのほうで、相澤は涼しい顔をして気が済むまでそれを続けるのだ。
ちゅう、ちゅっ、とキスを繰り返されて、熱を持ち始めた耳を甘く噛まれて慌てて首を振る。
「だめ?」
「んな時だけ甘えた声出すんじゃねぇ!」
「好きだろ?」
「好きに決まってんだろうが! クソッ!」
「ははっ」
素直に認めて吼えれば相澤は機嫌よく笑う。そしてアヌスに挿れていた指をゆっくりと抜き差しし始める。
「なぁ、お前も分かるだろ? 戦闘のあとにヤりたくなる気持ちは」
「わ、かるけど、怪我、してんだろうが」
「お願い」
「っ、くそが……!」
少し流されてしまいそうになったタイミングで指が前立腺をトントンと刺激してきた。上擦った声で啼けば相澤がにんまりと口角を上げる。
(このおっさん……!)
自分の中の負けず嫌いの魂に火が点いた。セックス自体は了承しても好きなようにはさせたくない。暫し逡巡して良案を思いつく。
すぐに実行すべく相澤の太い首に両腕を回して、わざとらしくしな垂れる。堪えていた嬌声を微かに漏らしながら、相澤の耳元で「しょうたさん」と呼んだ。
そして。
「ここよりベッドがいい。ちゃんと抱いてくれよ」
いつも以上に甘えた声を出してそう言えば相澤の喉が鳴ったのが聞こえた。甘えた声に弱いのは爆豪だけではないのだ。
素直な反応に笑いそうになるのをどうにか飲み込んで、駄目押しで首筋に吸い付いた。すると相澤はさっとアヌスから指を抜いて、爆豪を抱えたままで立ち上がり、大股でベッドルームへと向かう。左腕の負担にならないよう体重を分散させてしがみ付き、ベッドが見えれば自ら下りた。
「ローション取ってくれ」
そして、シャツもズボンも自ら脱ぎながらナイトテーブルを指差した。そこの引き出しにはセックスに必要なものがすべて入っている。当然相澤もそれを知っているので、素直にナイトテーブルに向かって引き出しを開け、ローションを取り出したところでベッドの中へと引き摺り込んだ。相澤の体の上に乗っかるようにして動きを封じ、ベッドの上に転がったローションを拾う。
「……やっぱりお預けか」
急に素直になったと思ったら、と相澤が苦々しく下唇を突き出して拗ねる。ケケケ、と悪い顔で笑って腹の上に乗っかった。
「お預けじゃねぇよ。俺ァ優しいからな」
「じゃあ何考えてる」
「ちょっとしたお仕置きだわ。怪我隠してたし、調子乗ってたからな。ちったぁ反省しろや」
「……優しいのにお仕置きなのか?」
「優しめのお仕置き」
「本当かよ」
胡散臭いなぁなどと相澤に言われてしまったら終わりである。外見も中身だって相澤のほうがよっぽど胡散臭い。話ながら拗ねた相澤のボトムスと下着を脱がせていく。
「俺の優しいお仕置きが受けられるのなんざアンタくらいなんだから、もっと喜べや」
「内容による」
同様に自らのものも脱ぎ捨てて、一糸まとわぬ状態で乗っかり、ぺたりと体をくっつけた。爆豪は首を伸ばして相澤の顎鬚を舐める。
「全部俺がやってやっから、アンタはそこで指咥えて見てろ」
「……成程、優しいお仕置きか」
「動いたらすぐに止めるからな」
「善処するよ」
条件反射の域で尻たぶに伸ばされていた相澤の両手は、名残惜しそうに二回ほど揉んでから離れていく。優しい、と言った手前今のはノーカウントにしてやろう。
大人しくなった相澤に満足気に息を吐いて、ローションに手を伸ばす。多めに手に取って、まだ柔らかなアヌスに塗り付けていく。滑っている指を二本挿れて広げるように動かして確認すれば準備は完了である。言いつけ通り動かない代わりに一瞬たりとも目を逸らさない相澤の視線に興奮を覚えながら、爆豪は体を起こして足を広げた。
「ちゃんと、大人しくしてろよ」
いい子だから、と付け加えて腰を持ち上げる。熱い相澤のペニスに手を添えて、ゆっくりと亀頭を飲み込んでいく。
「あっ、あ、あっ」
太いカリ首にアヌスを押し広げられる瞬間に合わせて息を吐けば嬌声も零れていく。一番太い部分が入ってしまえばあとは比較的楽なので、無理のない程度にスムーズに腰を下ろしていき、相澤の下生えが尻を擽る感触に安堵した。
「全部、入ったな」
自分の腹をゆったりと撫でてやれば、ナカに入っているペニスが呼応するように震えた。
「でも、ここからだからな。覚悟しろよ、消太さん」
言いながら、前傾だった姿勢を後ろへと反らしていく。後ろ手で相澤の太腿に手をついて、限界まで足を開く。相澤のものを受け入れただけで緩く勃起してカウパーを漏らしてしまっているペニスも、皺が伸びきって赤く熟れた色をしたアヌスも全部丸見え。
「全然優しくねぇじゃねぇか」
グッと相澤の目に力が入ったのが分かった。それでも動かないだけ偉い。
「優しいだろうが。痛いことはしてねぇ」
クツクツと笑いながら爆豪は腰を持ち上げて引き抜いていく。見せつけるようにゆっくりと、時間をかけて。カリ首辺りまで抜いたら腰を下ろして、何度もそれを繰り返す。段々とローションが泡立って色が変わり、水音が重たくなっていく。
「んっぁ、はぁっ、はぁっ、きもち、ぃ…!」
根元まで飲み込んであげたのは始めだけ。後は中程で留めておく。気持ちいいのに物足りないと、それでも言いつけ通りに動かずに我慢して奥歯を噛み締めている相澤の表情にもっと意地悪がしたくなる。
「あっ、ここ…! ここ、きもちい、あっああっ」
右手だけで体を支えて、左手は自分の下腹部へ。グリグリと圧迫するように指先で押して、相澤のペニスもそこに当てる。小刻みに腰を振って体外と体内から刺激するのは前立腺だ。独特の堅さをもったそこに何度も亀頭を擦り付けて爆豪は啼く。
「ぁあっあう、ひっ、あぁあっ…♡すげ、ずっとしょーたさんのちんこ、当たってる♡」
お仕置きだということも忘れてしまうくらいに夢中になって刺激する。強く腹を押せばその分相澤のペニスがゴリ、と音を立てるくらいに抉ってくるので腰が跳ねるのが止められない。
「ッ、この、夢中になりやがって……!」
「だ、だって、ここ、きもちい…っ♡あ、う、動くんじゃねぇぞ、約束、したんだから、な…ッ!」
「チッ!」
爆豪の腰の動きに合わせて動こうとした相澤を牽制して一気に引き抜いた。イかせてくれなくとも、抜かれるとは思っていなかったのだろう。相澤が顔を歪めて、堪えるように食いしばった歯の隙間から獣のような息を吐く。
「かつき」
「だめ、動いたら止めるって言っただろうが」
「動いてない」
「動こうとした」
「動こうとしただけで、動いてないだろ? なぁお願いだから」
少し掠れた声で催促されれば思わず頷いてしまった。無意識に甘やかしてしまった自分に苦い顔をしながら再び相澤のものを受け入れていく。
今度は相澤の胸に手を添えて、水分量の少ない唇にキスをしながら。膝を立てて押しを持ち上げ、夢中になり過ぎないように浅い部分で出し入れを繰り返して、時折もう少し深い部分まで招き入れれば相澤が熱の篭った声で爆豪を呼ぶ。
「かつき、もっと奥まで挿れさせてくれ」
「んっ、だめ、だめだ、からな…っ」
「挿れたい」
「だめ…っ、お仕置き、だって…!」
これ以上甘やかしてなるものかと首を振る。今のままではまだ勝ったとは言えない。振り払うように浅い部分ばかりを狙って動いていれば、相澤の顔が段々と獣じみていく。
(…っ、あ……)
ユラユラと、夜よりも深い黒の中に自分の瞳と同じ紅い色が見え隠れし始めて鳥肌が立つ。なんとも形容しがたい感情に体中が包まれて、知らず息が荒くなっていく。
「はぁはぁ、っ、あぁ、あっ♡」
その力強い瞳から視線を逸らせない。見られているだけで何度も達してしまいそうなほどにアヌスの中が痙攣して腰が上手く動かせない。
(せんせ、おれのなか、ぐちゃぐちゃに、したいんだ……)
どうやら相澤のことを久しぶりに先生と呼んでしまってからどうも頭の一部分が馬鹿になってしまっているようだ。もう二十七にもなってどこか学生のような気分になってしまってどうしようもない。相澤の昔の面影がチラつく。誰にでも平等で、合理的で、冷たいようで優しい先生の顔の相澤が。
だからこそ、思わず個性が制御できなくなるくらい、どうしようもなく奥の奥まで貫いて、痛いくらいに腰を打ち付けて、それから精液を塗りたくりたいのだと知ってしまえば足が震えて勝手にカウパーも唾液も漏らしてしまう。
(せんせぇが、おれに、おれだけに)
とろん、と眦が蕩けたと同時に大人しくしていた相澤が、ばちゅん、と重たい音が響くほどに強く下から腰を打ち付けてきた。爆豪は思ってもいなかった刺激に声を上げる間もなく、目を見開いて舌を突き出して全身を強張らせた。
しかし刺激はその一回だけでは終わらない。そのまま爆豪の様子など構うことなく何度も突き上げてきて、挙句無意識に逃げようとした腰まで掴まれてしまう。
「ア、ア゛ア゛ァ――ッ! あ、ああ! ぐう、うぁあ、あっ!」
「ほらどうした、お仕置きなんだろ。勝手に動かれていいのか?」
「いっ、いく、いくから、待っ、あぁああー! まって、まっ、…ぁあ゛あーっ♡♡」
「っ、前言撤回してやるよ。お前のお仕置きは優し過ぎるな。というより下手だ」
「ヒィッ!? まっ、イッてる、イッ、てるか、らぁ……! 腰、止ま、止まって……ッ!」
「今度お仕置きのやり方一から教えてやろうか? お前は昔から負けん気と向上心が強かったから、上手くなりたいだろう? ……あぁ、それともあれか」
ペニスから精液を垂れ流そうと、アヌスだけで絶頂を極めようと動きを止めてくれなかった相澤の腰がようやっと止まり、乱暴に引き抜かれたと思ったら瞬き一つで反転させられる。見上げた先には、未だ紅く光ったり黒く染まったりを繰り返す双眸。
「お仕置き、なんて体を取って、俺に襲ってほしかったか?」
言われて、カッと体が熱くなる。そして眦が眇められて、腰が抜けて力が入らない両足は相澤に捉えられて膝が肩に付いてしまうほどに折り曲げられてしまう。
「お前のさっきの顔鏡で見せてやりたかったよ。何を考えていてかは、…まぁなんとなく察しが付くが、どうしようもなく発情してて、あれはイイ顔だった」
そのイイ顔とやらを思い出しながら言う相澤が自分の唇を舐める。
「怪我だって、本当に大したことないことくらい分かってんだろ? いい加減意地を張らずにヤりたいって言えばいいのに」
「意地、なんか、張って、ねぇわ……!」
「本当に? その割にはあっさり主導権譲ってくれたじゃないか」
「くそっ、あとで痛ぇっつっても知らねぇからな!」
「ふっ、珍しく諦めが早いな」
揶揄うような声色にキッと睨めば、宥める様にキスをされる。
「喧嘩したいわけじゃないからな、そろそろ止めておくよ」
「十分腹立ってんだよ、こっちは。……なんか、アンタ意地悪ィな」
今日だって急に先生呼びをはじめたり、従順にお仕置きを受け入れたと思ったらやり返してきたり。手の平の上で転がそうとしても全然うまくいかない。寧ろ転がされているばかり。これは単に年齢の差なんてものじゃないだろう。
「歳を取れば取るほどお前が可愛いんだよ。揶揄いたくなる」
「……昔はンなこと言わなかった」
「思ってたけど言わなかっただけだ」
さて無駄話はもういいだろう、と相澤が会話を区切って転がっている枕の下へと手を伸ばした。そして、するりと取り出したのは見覚えのある玩具。シンプルな銀色の細い棒。ちょっと待て、なんでそれがそこにある。
「まっ、あ、あんた、いつ、それ……っ!」
「ローション取ったときに一緒に掴んで隠した」
目を丸くして聞けば、しれっと返されて脱力した。
ということは、こちらの魂胆など最初から全部分かっていた上で誘いに乗ってきたのだ。確かに誘い方は少々わざとらしかったかと反省する部分もあるけれど、全部が全部この男の想定内だと思うと面白くない。あとその玩具を掴んだのも枕の下に隠したのも気付かなかった。そんな動き見てない筈なのに。悔しくて顔を歪める。
「俺もまだお前に負けられないからな」
年上の意地だよ、と笑いながら銀色の棒――尿道プラグにローションを垂らしていく。細かな凹凸にもしっかりと膜を張るようにローションが馴染んでいき、更に亀頭にも同じように塗布されていく。もう無理だと思っていても相澤の手で簡単に勃起してしまうのが悲しい。
「最初は怖いって言ってたくせに、慣れたか」
「最初から、怖いなんざ、言ってねぇ」
「そうだったか?」
言いながらも相澤の手は休むことなく準備を進める。捉えられていた足はとっくに解放されているが、急所をしっかりと掴まれてしまっているので動くことなんて出来ない。爆豪はもう何度も挿入されているそれを、出来るだけ痛みが伴わないように呼吸を穏やかにして待つ。
「そのまま、力抜いてろ」
最初はひどく冷たい。口を開けている尿道に差し込まれる度に冷たさと異物感に背中を震わせるが、次いで快感が襲ってくる事は知っている。凹凸をゆっくりゆっくりと飲み込んで、取っ手の小さなリングだけが残されると、先端は前立腺へと辿り着く。コツ、と小さな音が体内でしたと思うと腰から脳まで痺れるような電流が流れてシーツを握りしめる。
「これは好きなように自分で遊びなさい」
するとシーツを掴んでいた手を取られてペニスへと導かれる。頭を振っていやだと言っても聞いてくれやしない。
「俺はこっち」
相澤は爆豪の右足だけを抱えて肩に引っ掛ける。そして容赦なく泥濘んだアヌスへと挿入してくる。先程のように目の前が眩むほどの力強さはない。しかし張り出したカリ首でゆうっくりと前立腺を刺激しては奥を目指す。
「うあ、ぁあ、あっ、は、ぁっ」
「ほら、これもちゃんと動かして。さっきだって自分で腹を押してただろ。それと同じ。それに心配しなくても乱暴に揺すりはしないよ」
だから、ほら。嫌になるほど優しい声で促されて、爆豪は掴んだままの銀色のリングを軽く動かし始めた。
「ひっ、ん……っ♡」
少しの刺激だけで尿道プラグは恐ろしいほどの快感を生み出す。脳が直接攪拌されているかのように脳幹がぼうとして、バイタルが急上昇。特に尿道を直接刺激してくる凹凸が堪らなく気持ちいい。擦れるたびに何かを漏らしそうになって、でも塞がれていて弱々しい嬌声だけが溢れていく。
「は、っぁあ、う、んんっ、だめ、これ、やっぱり…っ」
「駄目じゃない。上手に出来てるから、そのまま」
「しょ、うたさ、むり、むりぃっ」
「大丈夫」
ちゅくちゅくと可愛らしい水音が止まらない。それに合わせるように相澤も止まってはくれない。優しくゆっくり、気遣うように。でも的確に弱点を責めてくる。だめ、だめと譫言のように繰り返しても、大丈夫と可愛いなんて的外れな言葉ばかりをくれるのだ。
「しょーたさん、も、取りたい、これ、漏れちまうそうで、やだぁ……っ」
「漏らしてもいいぞ」
「っ、ばかだろ、……ッ、うあ、あっ、ンンッ♡♡」
漏れるから、と言えば面白がるように前立腺ばかり狙ってくる。動かすつもりがなくてもピストンにつられて手が揺れて、意図せず尿道プラグの先でも刺激してしまって。馬鹿みたいに足が痙攣して跳ねてしまう。クソが、と悪態を吐く余裕すらなくなっていく。
「だめ、だ、って…! 両方コツコツってしてくんの、だめ、やぁ、あぁああっ♡」
肩に引っ掛けられた右足を大きな歯で遠慮なく噛まれる。ピリ、と走る痛みでさえも気持ち良く思えて上擦った声が出た。
「しょうたさ、そこ、やっ、やぁっ! ひっ、いぁ、はぁ、う♡」
尚も相澤は腰を止めてくれない。こちらの願いを聞き届けてくれるどころか、いっそう楽しそうに笑いながら名前を呼んでくる。
「むり、やだ、も、がまんできなくなる、からぁ……ッ! 全部出ちまう……!」
「出して。漏らしてるところ、見たい」
「っ、やだ…! アッ、待って、やだっていった……! ヒッ、ぁあっ、あっあっ、つ、つよく、すんな、ばかっ、まっ……!!」
塞ぎこまれている快感はもうキャパオーバー。きっと尿道プラグが無ければ精液どころか潮も盛大に漏らしているところなのに、それを全部堰き止められて下腹部がおかしくなりそうだ。もうこんなプラグは取ってしまいたい。取ってしまいたいけれど、取ればどうなるかなど簡単に想像できる。大惨事になるのは間違いない。だから爆豪は相澤に止まってとお願いする。落ち着きたかった。落ち着いて、波が収まって、それから外してほしい。そうすればきっと。
なのに。
「ばくごう」
ひぐ、と喉が鳴った。また「先生」の声がする。
「ばくごう」
だめだ、みるな、きくな。本能的に危機を察知してぎゅうと目を瞑る。嫌々と首を振った。
それでも相澤は情け容赦などない。無防備な耳に唇を寄せてくるのだ。そして耳孔へと舌を這わせてくる。全身の力が抜けたところで、グッとペニスが奥を抉ってきて啼く。
「先生に全部見せて」
するり、とリングを持つ指に相澤の指が絡まってあっと言う間に奪われる。
「ッ、せんせ……!」
慌てて呼ぶももう遅い。最後に二、三度前立腺をコツコツと刺激した尿道プラグが引き抜かれていく。精液も何もかもが出口を求めて溢れてくるのが分かるスピードで。
「や、ぁ、ああっ、あっ、でちゃ、でちまう、せんせぇッ!」
尿道を刺激する凹凸が残り二つ、一つとなって、とうとう全部が出て行ってしまったと同時に抑え込まれていたものが溢れていく。口を閉じることを忘れた尿道から色の薄い精液が溢れて、それに混じって潮を吹く。
「〜〜〜っあ゛ぁ゛ああぁ♡♡は、はぁっ、はっはぁ…っ♡」
体液を吐き出す度に絶頂を迎えているような心地で、勝手に涙が出て息を吸っているのか吐いているのかも分からない。
そのうち強張っていた筋肉が徐々に弛緩していき、ようやっと長い絶頂から解放されると思えば、ふるりと体が小さく震えて、忘れかけていた大惨事を思い出さされる。
「ッ、だめだ、せんせぇ見んな……ッ!」
これは間違いなく尿意であると。気付いて、慌てて手で塞ごうと縮こまったペニスを掴んだところでもう遅い。ちょろ、と小さく音を立てて溢れ出した尿は止まらずに勢いを増していく。
「ひ、いや、やだやだ、せんせ、とまんな…っ! やぁっ」
だから嫌だったのに、と泣いても尿は出続ける。爆豪の腹の底で渦巻いていた性欲ごと全部を体外に排出するように。
「ひう、うぁ、あっ、ぜんぶ、でちゃ……」
量の多いそれはあっという間に水溜りのようになって、シーツの下の給水パッドへと吸収されていく。相澤が尿道プラグを気に入ってからというもの常日頃から敷くようにしているのだが、これがあるからこそ相澤はお漏らしを促してくるのではないだろうかと現実逃避し始めている脳の片隅で考える。
そして、ぐずぐずと鼻を啜りながら、唇を噛み締めながら相澤を睨む。先生の馬鹿、変態、こんな体にしやがってどうしてくれんだ。そんな恨みを込めて。
しかし。
「こんなに漏らして。そんなに好きか、これ」
当の相澤はそう言って機嫌よく笑って尿道プラグを爆豪の顔の近くに投げる。それから乱れた髪の毛を更に乱すように掻き混ぜて、撫でてきた。もっと優しくしろや、と文句を言うけれど大きな相澤の手は好きでつい擦り寄ってしまう。
「でもな、勝己。まだ終わりじゃないよ」
「あ、んっ」
言われて、腰を揺すられて。相澤がまだ達していないことを思い出す。
「さっき沢山出したからな、もう少しかかりそうだ」
最後までちゃんと付き合ってくれるだろう?
聞いてくるわりには有無を言わさず自由だった左足まで抱えられてしまって、逃げ場などどこにもない。あぁきっと今日もこっちの体力が空っぽになるまで好き勝手されるんだろうなと、ひっそりと覚悟をする。
「しゃあねぇなぁ」
相澤の問い掛けに答えるように両手を伸ばして首に絡めた。
目尻に涙を引っ掛けたまま、夜色の瞳を見つめる。なぁ先生、と相澤のことを呼んだのに他意はない。ただするりとその呼称が口から出たのだ。渦巻いていたものを全部吐き出したことで、少し気が抜けていたのだろう。
そして。
「……やさしく、しろ」
縋る、というには強気に。しかしどこか甘えた声色を含んで言えば、相澤の顔が間抜けなものになって、それからじわじわと赤くなっていく。
「あ?」
なんだその反応は、と聞くより先に相澤の大きな体が覆いかぶさってきた。
「……今の、」
「ンだよ、先生って呼んだんが嫌だったか」
「違う。……可愛いなって」
「ばかだろ」
「うん、でも可愛い」
相澤は体を起こしたと思えば、ナイトテーブルへと手を伸ばした。引き出しから取り出したのはヘアゴム。慣れた手つきでさっと髪の毛を纏めて、ニィと口角を上げた。
「すまんが優しく出来そうにない」
言われて今度は爆豪が顔を赤くする番だった。
「かっこいい」
「ばかだろ」
素直に言えば、先程自分が相澤に言った言葉がそっくりそのまま返ってきて、うるせぇとしか言い返せなかった。
そしてお互い笑えるほどに赤くした顔を擦り寄せて、キスをした。