アイムホーム(相+マイ×爆)

◽︎相+マイ×爆同棲アンソロジー「One room two lovers」に寄稿したものです
◽︎現在は完売しているそうです



 スマートフォンのアラームが枕元で鳴れば微睡んでいた意識がはっきりと浮上して、指先で画面をタップする。爆豪は何度か寝返りを打ってから起き上がり、固まった筋肉を解すように上へと伸びた。部屋を出て向かうは洗面所。欠伸をして、歯を磨いて、顔を洗って。すっきりしたら今度はキッチン。
世界中の誰よりも喉を大事にして、そこに命を預けている恋人のために少し熱めのレモネードを作るのだ。
ふわりと広がるいい匂い。このままでも十分美味しいが、どうやら恋人は酸味が強いのがあまり好きではないらしい。だからここに蜂蜜を少々。マドラーでゆっくりと掻き混ぜて、溶けたのを確認してから自分の分も同じように作る。
レモネードには殺菌作用があると聞いたから作ったのだと言えば、大いに喜んだ恋人は聞き取れないほどの英語で愛を捲し立て、ハグやキスが止まらず大変だったのはまだ記憶に新しい。
もう一人の、飲み物どころか食べ物にすら興味が薄い恋人の分は、起きてからでいい。
「よし」
 準備は出来た。ここからが爆豪にとって朝の大仕事である。自分よりも大きな体躯である二人の恋人を叩き起こさなくてはならない。
 今日も難易度が低い方から攻略するとしよう。部屋に向かって、形ばかりのノックをして中に入る。声を掛ける前からもぞもぞと動いているから半分くらいは起きているのだろう。
「ひざし、朝だぞ。起きろよ」
 カーテンも窓も開ければ秋の澄んだ風が部屋の中に入り込んでくる。今日も一日いい天気になりそうだ。
「んん、ぐっもーにん、はにぃ」
「発音めちゃくちゃじゃねぇか。しっかりしろよ」
 ベッドの端に腰を掛けて布団を捲る。パチッと合った目はすっかり起きているそれ。
あぁ今朝は甘えたいモードなんだろうなと察した。だから体温の高い手が伸びてきても抵抗せずに布団の中へと引き摺り込まれてやる。自発的に山田の体に身を預けて、額やら頬やらに落とされるキスは好きなようにさせる。痛いくらいにぎゅうぎゅうと抱き締められて、それでようやく納得したのだろう、山田が深呼吸をひとつ。スイッチが入ったようだ。
「なぁ、腹減った」
 タイミングを見計らって爆豪が言えば、山田が今日は何を食べようかと聞いてくる。
「ロールパンがあっから、スクランブルエッグ挟んでんの食いてぇ。チーズも入れる」
「オーケー!」
 徐々に声が大きくなり始めて、笑顔もトーンアップ。じゃあ行こうかと二人でベッドを後にして、山田は洗面所へ。爆豪は難易度が高い方の恋人の部屋へと足を向ける。
「消太さーん、起きてんのかー?」
 こちらはノックなんて必要ない。起きてるのかと聞いて返事が返って来る時は相澤が徹夜している時くらいだ。当然のように返ってこない返事は気にすることなく、爆豪はカーテンと窓を開けた。
「おーい。起きろって」
 良い感じに温まっている心地の良い布団を無理矢理剥がして捨てる。ボサボサの髪の毛の隙間で、眉間に皺が寄ったのが分かった。
ンン、と山田よりも随分と低い唸り声。今日は珍しく早く起きてくれるかもしれない。
「いい加減起きろって。ガキじゃねぇんだからグズんな。ほら、しょーたさん!」
「……あと、ごふん……」
「ダメだ!」
うっすらと覚醒し始めたら勝負所。耳元で何度も名前を呼んで、重たい瞼が持ち上がり始めたら両手を掴んで無理矢理起こすのだ。大口を開けて欠伸をしている相澤の顔は毎朝死んでいるので、少しくらい山田の元気が移項出来ればいいのにと苦笑い。
 もう起きたと判断しても大丈夫だろうと、そのまま腕を引っ張って洗面所へ。山田はキッチンへと向かったようで、そこは空っぽだった。
「二度寝すんじゃねぇぞ!」
 朝から忙しい爆豪は良い匂いがするキッチンへ向かう。既にリクエスト通りのチーズ入りスクランブルエッグは完成していた。
「勝己、パン温めてるから先にマーガリン塗っておいてくれよ」
 頷いて、冷蔵庫からマーガリンを取り出して切れ目の入ったロールパンに塗れば、山田がスクランブルエッグを詰め込んでくれる。一人二つ。それに加えて焼いたウインナーとヨーグルト。グリーンサラダも忘れずに。そろそろ爆豪特製のレモネードが飲み頃の温かさだろう。
 色違いのランチョンマットを敷いて、お皿を並べていれば、相澤がリビングに入ってきた。
「グッモーニン、ショータ!」
「ひざし煩い」
「消太さん何飲む?」
「あー……牛乳」
「朝から俺への当たり強くねぇ!?」
「だから煩いって」
「はい、消太さん。ついでにパンも持って行って」
「いつもありがとうね、勝己」
「玉子焼いたの俺ェ! シヴィー!」
 相澤の山田に対する雑な扱いもすっかり見慣れてしまった。山田が拗ねて個性を使わないように軽くキスをする。それだけで山田は静かになって「フフフン」と勝ち誇った顔で笑う。下唇を突き出して分かりやすく羨ましがっている相澤は、即座にキッチンに入り込んできて爆豪にキスをひとつ、ふたつ。
「あ! 俺一回だったのに!」
「ざまぁみろ」
「狡い! キスミープリーズ、勝己!」
「あぁもう! 終わらねぇだろうが!」
 ガオ! と爆豪が吼えれば二人は大人しく引き下がる。十五も年下の爆豪に怒られるのが、この二人にとって一番堪えることなのだ。ようやっと静かになった大人二人を引き連れて、ダイニングテーブルに座る。
 さぁみなさん、手を合わせて。
「いただきます」



 朝食が終われば各々準備に取り掛かる。今日は少しだけ早く出ないといけないのでテキパキと動いて、荷物を詰め込んだバックパックを背負って玄関へ。
「消太さん、ひざし、俺もう出るからな」
スニーカーを履きながら声を掛ければ、二人が部屋からひょっこりと顔を出す。まだ指向性スピーカーや捕縛布は身に着けていないが、二人とももうコスチュームに腕を通している。顔はすっかりヒーローで、教師で、大人のそれ。
(ついさっきまでガキみてぇな喧嘩してたくせに)
 このギャップが可笑しくて、可愛らしくて。だから堪らなく好きなのだとひっそり笑う。
 爆豪は二人に対する愛しさを明け渡すように両手を広げた。
「ん」
 催促すればハグをしてくれる。今日は相澤が先だった。ぎゅっと体を馴染ませるように触れ合って、頬を擦り寄せて、キスをする。山田にも同じようにハグを強請る。
「いってらっしゃい、ハニー」
「怪我しないように気を付けるんだぞ」
「わぁっとる。アンタらも気を付けろよ。……いってきます」
 出掛ける前には必ずハグとキスを。
そして、いってらっしゃいといってきますを。
 今日も無事に三人揃ってこの部屋に帰って来られますようにと祈りながら、誰かを助けるためのヒーローとしてそれぞれが一歩を踏み出す。



***



 深夜とも言える時間帯にようやっと帰ってこられた爆豪は、出迎えてくれた山田の顔を見てホッと息を吐いた。疲れた顔はそのままに「ただいま」と甘えて擦り寄れば、どうやら山田のツボを突いたらしい。早口の英語で愛を吹き込まれてキスが止まらない。
 つい居心地の良い腕の中で眠ってしまいそうになるのをどうにか堪えて、するりと抜け出してリビングへと向かう。
「夜ご飯なら冷蔵庫に入ってるぜ? 温めようか」
「それは後で食う」
 後ろを付いてくる山田の気遣いを丁重にお断りして、爆豪は自分の城でもあるキッチンの冷蔵庫へ。野菜室を開けて、キャベツやら人参やらを腕にいっぱい抱える。それから食器棚から保存用のタッパー。何個使うだろうと考えながら取り敢えず五つ並べた。爆豪の行動に、所謂作り置きを作り始めようとしているのだと察した山田が手伝うために手を洗い始めたので制した。
「手伝わなくていい」
「……疲れてんだし、明日でもいいぜ? あんまり無理すんなよ」
 腕捲りをして、手を洗って。包丁を握れば気合が入る。
「今やっとかねぇと時間ねぇし、次の非番ってなると野菜が傷んじまう」
 キャベツはざくざくと一口大に切って、保存袋に入れる。その上から振りかけているのは塩昆布とごま油。これは相澤の好物だ。酒が飲みたくなるなとニヤける姿が目に浮かぶ。
「だから、明日非番だろ? 明日ゆっくりしたらいいんじゃねぇの? 手伝うし」
 頑なに明日、明日という山田の気持ちも分からなくはない。明日、爆豪の予定としては丸一日非番なのだ。だから焦らなくても時間は存分にあるだろう、と。
しかし爆豪も譲れない。
「明日の俺がこういうこと出来る気がしねぇ」
 だって。
「次の休みは一日中えっちするって、アンタらが、言ったんだろうが」
 もう忘れたんかよ、おっさん。
 明日非番なのは爆豪だけではない。山田も相澤も非番なのだ。三人の休みが揃うなど滅多にない。休みが揃うと知って大喜びしながら山田が言った言葉を、相澤が頷いた約束を、爆豪としては出来る限り叶えてあげたくて。そして自分としても叶えたくて。今出来る家事は済ませておきたいのだ。
 爆豪が言いながらジロリと睨んだところで、間抜けな顔のまま固まっている山田には効かない。あれは冗談だったんか、と今更になって恥ずかしさが沸き上がってきて耳も頬も霜焼けのように真っ赤。固まっていた山田は不気味なくらい静かに距離を一気に詰めて、爆豪が包丁を持っていることも気にせずに後ろから抱き締めてきた。
そして夜中だとか関係なく大声で愛を叫ぶ。
「オーマイガッ! ソーキュート! なんで勝己はそんなに可愛いの! アイラビュー!」
「なっ! バカが! 包丁持ってんだろうが! 離せ!」
「ノーノー! 今は離せません! もっとハグさせろ、このやろう! もー、明日はすっごい気持ち良くする! 約束通り一日中えっちしようぜ」
「…………おぉ…」
 なんだか自分から催促してしまったような展開にどうにも羞恥心が収まってくれずにいれば、リビングの扉が開いて、お風呂上がりの相澤がキッチンを覗き込む。
「煩いと思ったら…、何やってんだよ、ひざし。邪魔だろ、それ」
「消太! 聞いてくれよ、勝己が世界一可愛くて可愛くて可愛くて」
「今更何言ってんだ。いつも可愛いだろうが」
「アンタら二人酔っとんのか! ちょ、待て、消太さんまでくっついてくんな。髪の毛まだ濡れてんじゃねぇかよ、拭けや! あとちゃんと服も着ろ、クソッ! 邪魔だ!」
「料理終わったらでいいから拭いて。……で、何が可愛かったんだ?」
「勝己、明日のえっちが楽しみって」
「たっ!? 楽しみって…っ! ンなこと言っとらんわ!」
「そうか。じゃあ頑張らないといけないな」
「おいコラ、聞けや! つうか、本気で邪魔だからあっち行け!」
 結局絡まって来る恋人はなかなか離れてくれずに予定していた時間を大幅に超え、真夜中のお説教タイムに突入した。



久しぶりに三人で足を踏み入れた共有のベッドルームが、存外綺麗で、いい匂いがしたから驚いた。昨夜は作り置きにしか手が回らず、朝もしっかりと眠っていたのでこの部屋の掃除が出来なかったのだ。それを素直に言えば二人が満足げに笑う。
「そりゃそーだって。勝己を抱くのに部屋が汚いのはやだもん。掃除は俺。洗濯は昨日の間に消太がやってくれた」
「……アンタ洗濯出来るんか」
「説明書があれば出来る」
「マジで一瞬も手放さなかったから今思い出しても笑っちまうぜ」
「うるさい。お前だって埃を虫だと思ってビビッてただろうが」
このマンションにはクリーニングサービスもあるからそれを使っても良かったのに。わざわざ説明書を引っ張り出してやらなくたっていいのに。
戸惑っていれば、ベッドに腰かけて明後日の方向を向いたままの相澤が咳払い。
「あー……まぁ、あれだ、お前、この柔軟剤の匂いが一番好きなんだろ? それに綺麗好きだしな。だから、な、俺もひざしも、お前が喜ぶと思って、だな……」
尻すぼみになっていく言葉に瞠目。相澤が歯切れの悪い言葉など珍しい。耳まで赤い。
普段は見られない可愛らしさに爆豪は思わず飛びついた。相澤ごと後ろに倒れてシーツが波打つ。ふわんと部屋に広がったのは、確かに自分が一番好きな柔軟剤の匂い。
着ていたカットソーを脱ぎ捨てて、水分量の少ない相澤の唇にキスをする。横で見ている山田が「ヒュウ」と口笛を吹いた。
「キュンとした? ニヤけちゃって、可愛い」
「ん。ひざしも、ありがとう」
「キスミー、プリーズ」
トントン、と自分の唇を叩く山田に、体を起こして手を伸ばしてキスをする。軽い触れ合いから、段々と深いものへ。長い舌に自分のものを絡めて、角度を変えて楽しんでいれば、下から手が伸びてくる。ささくれの多い指にキュッと両の乳首を摘ままれて思わず唇が離れた。
「ン、急にすんなよ…っ」
「お前たちが勝手に盛り上がってんのが悪い」
「まぁまぁ。洗濯頑張ったご褒美に今日は一番譲ってやるよ」
「後悔すんなよ、お前」
「ワッツ!? あとでちゃんと代われよ!?」
相澤は揶揄うように舌を出して、腹筋だけで起き上がる。いい匂いがする枕に爆豪の頭を移動させてズボンと下着を脱がす。もう今日は再び履くことはないだろうそれは、カットソーと一緒に床へと放られた。
爆豪は剥き出しになった秘部を晒すように足を抱えて、口角を上げる。
「しょうた、ひざし、はやく」
もう待てないと言えば、ギラリと瞳を光らせた獣二匹の手がこちらへと伸びてきた。



 ぐう、とアヌスを押し広げられてペニスが入り込んでくる感覚に、思わず緩む口元は手の平で覆った。しかしどうやら一瞬遅かったようで、頭側で山田がフッと笑う声が聞こえた。
「そんなに欲しかった?」
「……るせぇ…」
「あんまり可愛い顔するなよ。歯止めが利かなくなる」
「アンタも見てたんかよ」
「当たり前だろ」
 いつだって全部見てる、と言われて恥ずかしさから舌打ち。それから、その台詞ストーカーみたいじゃねぇかよと揶揄ってやる。
 すると。
「余裕があるなら動くぞ」
 なんて言葉を言うか言わないかのタイミングで奥まで突き上げられて、油断していた背中を反らして嬌声を上げる羽目になる。ベッドボードに体を預けて座っている山田の手が伸びて、やんわりと頭を撫でられた。
「っ、くそ…! ちゃんと、アッ、さ、き、に言えや…っ」
「ちゃんと言っただろう?」
「ちが…っ! ん、ぁあっ! もっと、ちゃんと……」
 動くなら動くと、言い切ってからにしろと怒っているはずなのに相澤はにんまりと笑うだけで謝りもしない。寧ろ鼻歌でも歌い出しそうなほどに機嫌を良くしていく。そして「そうか。もっとちゃんとシてほしいのか」なんて言うものだから爆豪は慌てる。
セックスどころか、忙しくて自慰すらしていなかった体を奥まで好き勝手暴かれてしまっては早々に射精してしまいそうなのだ。前戯だけでしっかりと火を点けられてしまった体は簡単に温度を上げていく。
 口を覆うのを止めて、相澤を押し返そうかと動かした手は山田に捕られて彼の股座へ。唯一彼の身を包んでいるアンダーウェアは可哀想なくらいに盛り上がっていて、そこに導かれてしまっては勝手に手が求めるように撫でてしまう。
「グッボーイ、勝己」
眼鏡もサングラスもしていない、滅多と他人が拝む事が出来ないありのままのアップルグリーンの瞳が爆豪をしっかりと見つめている。生身の視線は熱量をそのまま運んできて、優しい声で褒められて、思わずアヌスがきゅうと反応した。
「こら、今お前の中にいるのは俺だぞ」
それをきっちりと感じ取った相澤は不貞腐れたように、しかし僅かに目を輝かせて言う。次いで、ゴツンと爆豪の弱点である前立腺を予告なく押し潰されて悲鳴のような嬌声が溢れた。
「ヒィッ…!? やぁっ、ま、まって、そこ、当てんの、いや、だ……アアァッ!」
「ここ好きだろう? それに勝己がひざしばっかり見てるのが悪い」
 今更、山田のペニスを撫でたくらいで、蕩けた瞳で見つめたところで嫉妬などしない。単にお仕置きが出来る口実を見つけられて楽しんでいるだけだろう。
 ただ。それが分かっているからこそ、こちらはこちらで苛めたくもなるのだ。
「んっ、アァッ! しょうたさ、きもちいい、からぁっ! っあぁ、ん! もっと、してぇ……!」
 嬌声の合間に名前を甘ったるく呼びながらも勃起した山田のペニスに頬擦りをする。邪魔なアンダーウェアは力の入らない指先でずり下して、目の前に現れた色素の薄いペニスを口の中へ。山田も爆豪の魂胆が分かっているのだろう。小さく笑いながら好きなようにさせている。
 しかし残念ながら、ここで一つ誤算。
「……ほお。随分と可愛いことしてくれるじゃねぇか」
「っ、あ……?」
「ワーオ。すっげぇ怖い顔してんぜ、しょーたくん」
 どうやらこれは少々やり過ぎだったらしい。
敵と対峙でもしているのかと聞きたくなるほどに目が据わっている相澤に、山田のペニスにしゃぶりついていた爆豪が顔を上げた。目が合って背中が粟立つ。怖いわけじゃないけれど、ちょっとした危機感。思わず逃げ腰になったところで相澤が爆豪の左足だけを抱えて自分の肩へと引っ掛け、容赦なく開かされた恥部に相澤の体がグッと詰め寄る。
「は、ぁ、アアァァ――ッ!」
 ずぶ、と音がしそうな程にいっそう深く入り込んできたペニスの圧迫感に押し出されるようにカウパーがびゅるりと零れる。相澤の太いペニスは正常位で銜え込むだけでも強い圧迫感を感じるのに、こんなにも足を広げられて、しかも動けないように抱えられてしまっては堪ったものじゃない。
「駄目だって言っただろ。こっちは優しくしようと思ってたんだぞ」
「あ、ひぃっ、あっあっ! これ、やっ、…あぁあああっ! だめ、それいや、ごつんって、やだ、すぐ出ちゃ、出ちゃうぅ…ッ!」
 先程とは違う角度で前立腺を押し潰されて、張り出したカリ首で腸壁を好き勝手擦られてしまい、反射的に涙が滲む。上半身を捻って逃げようとしても、相澤に腰を掴まれてしまって再び奥まで犯される。
「ふあ、ぁ…ッ! だめだめ、しょ、たさ……ッ!」
目の前で光がチカチカと飛ぶほどに苦しい快楽に身も世もなく喘げば、無防備に開いている口元にぬるりとカウパーで滲んだ亀頭が擦り付けられた。
「勝己が手ぇ出したんだから、俺のディックもちゃんと舐めてくれよ」
「ンンッ、ぐうぅ…!」
 言われて、うっすらと口を開けばこちらも遠慮無しに喉奥まで入り込んできたので、えづきそうになるのを懸命にやり過ごして金色の下生えが張り付く根元に手を添えた。歯を立てないように限界まで口を広げて裏筋を舌で擦る。山田が気持ち良くなるように喉奥を締めて亀頭を刺激しようとしたが、そのタイミングで相澤に精嚢を押し上げられて上手くいかない。
ぐず、と鼻を鳴らしながら山田を見上げれば、
「銜えてくれてるだけでオーケー。気持ちいいよ」
 と、優しく言ってくれたので頷いて、長いペニスを出来るだけ奥まで受け入れる。
「ハッ、すげぇな。消太にナカ突かれる度に喉締まってるぜ」
「ったく、喉塞ぎやがって。声が聞けないだろうが」
「とか言いながら、ナカもいい具合に締まってんだろ? 勝己ってば喉奥でフェラするの結構悦ぶじゃん」
「……まぁ、確かにな」
 好き勝手言ってんじゃねぇよ、おっさん共。
言い返してやりたいけれど、弱い部分を重点的に突き上げられてしまって限界が近い。碌に触られてもいない自分のペニスが震えてはカウパーを吐き出してシーツを汚していく。
しかし相澤も同じように限界が近いのだろう。動きが段々と自分本位のものになってきた。
山田のペニスを拙くも口腔内で扱きながら、荒い息を吐く相澤を見る。目が合って、ニヤリと笑ったと思ったら、掴まれたままの脹脛に歯を立てられた。
「っ、う、んんんっ!」
ピリピリとした甘い痛みが走って腰が砕けそうになる。
「あっ、はぁう…! ぁあっ、も、むりぃ……ッ!」
 山田のペニスから口を離し、カウパーが混じった濃い唾液がはしたなく口から零れていることも気にせずに喘ぎ、体を震わせる。
「イッていいよ」
「んぁああっ! ああ、はう、あぁ…ッ! イッちゃ、…ひっ、あ、あああぁっ!」
 限界を訴えているにも関わらずに前立腺を刺激され、ペニスを扱かれてしまっては我慢なんて出来なくて。目まぐるしい快楽に身を委ねて爆豪が相澤の手の中に射精する。
次いで、容赦なくペニスが奥に入り込んできたと思ったらビクリと大きく震えた。火照った体内よりももっと熱い相澤の精液が流れ込んでくるのが分かって、力が抜けていく。
ぐったりとシーツの上に放り出された手を持ち上げれば相澤の体が近寄ってくる。はぁ、と熱い息を繰り返す唇にキスをひとつ。またゆるゆると相澤が動き始めたところで山田からストップがかかる。
「ウェイト! 言っとくけど次は俺だからな!?」
「チッ」
「舌打ちしないの!」
 危うく順番を飛ばされそうだった山田は相澤を乱暴に押しのけて、爆豪の体を労わるように優しく反転。力が入っていない尻を持ち上げて、真っ赤に熟れたアヌスに亀頭を擦り寄せた。
ふっくらと膨れた縁を擦られるだけでも気持ち良くて力ない嬌声が零れる。
「挿れるぜ、力抜いてろよ」
 閉じかけたアヌスがまた開かれていく。相澤のものほどの圧迫感はないので痛みはないが、山田の場合ここからが大変なのだ。前立腺も、精嚢も、全部を超えた最奥の襞に長いペニスは易々と辿り着く。
「あ、ぁあ…ん、ふう、う……」
 こつん、と最奥の襞に優しく当たったところで大きく息を吐く。大丈夫かと聞かれて頷けばゆうっくりとペニスが抜けていく。ゾゾゾ、と背中が震える。ペニスが長い分、その感覚は長く続いて、再び押し入ってくる時には爆豪のペニスが緩々と膨れ上がっていた。
「は、ぁ、はぁ…っ、ひざ、しぃ……!」
 好きに動け。
首を捻って目を合わせてそう言えば、山田は嬉しそうに笑って爆豪の背中に体を寄せた。
「じゃあ有難く、好きなようにさせてもらうぜ」
 耳孔をべろりと舐めて体が離れた。だが、山田の手に腕を取られてしまう。なにを、と聞く前に腕を山田の方へと引っ張られて必然的に体が起き上がる。腕を掴まれているとは言え、膝立ちという不安定な体勢に驚いていれば、休憩していた相澤の瞳がキラリと光った。
「いい体勢だな」
「だろ? ディック舐めてくれたお礼しようと思って」
 山田の言葉に察したらしい相澤が身を屈めて半勃ちになっている爆豪のペニスを口に含んだ。
「ヒッ…!」
敏感なそこをジュルジュルと音を立てて吸われて、肉厚な舌に扱かれてしまっては、あっと言う間に勃起してしまう。それを確認して相澤は口を離し、同時に山田が腰を動かし始めた。
「ぁあああッ! あっ、それきもちいい…いいっ…!」
 身動きが取れない体勢で下から容赦なく、何度だって最奥の窄まりをゴツゴツと突き上げられる。掴まれている腕も、山田の方に突き出した腰も細かな痙攣を繰り返しては跳ねる。それだけでも十二分に感じ入ってしまって頭の螺子が緩んでしまっているというのに、相澤がニヤニヤと随分と楽しそうに胸元に指を伸ばしてくるから慌てて首を横に振る。
「だ、だめ、今引っ張っちゃ、いやだ、しょーたさ…ッ!」
「そうかそうか。引っ張られるのが好きか」
「ちが…っ! ひ、ぁっ、アァ、ぅッ!」
「っう、……ははっ、ナカがすっげーイイ具合だわ。もっとシてあげてよ、消太」
「だ、そうだ」
「くそ、がぁ…っ! あとで、ンッ、おぼえてろよっ!」
 もう無理だって言っても上に乗っかって搾り取ってやるからな、おっさん共……!
そう心に決めて、しかしそれ以上は考える間もなく腸壁の窄まりを突くペニスと、張り出した乳首を弾く指先に翻弄されていく。荒い呼吸を吐き出していた唇は相澤に塞がれて、引っ込めていた舌を絡み取られる。唾液の一滴ですら堪らなく美味しく思えて、あぁ、と啼く。
「しょ、たさ、…っひざしぃ…っ、いい、きもち、いっ……はう、ぁあっ」
 胸もアヌスも唇も、全部気持ち良くて、どろどろに溶けてしまいそうだ。
「あぁ、クソ、俺もう限界だわ…っ」
 言って、山田が掴んでいた腕を離しながら器用に抱き締めてきた。
「かつき、かつき」
上半身は山田に拘束されてしまって、背中にピッタリとくっついてくる。内部に嵌ったままのペニスは最奥の襞を何度も抉り、結腸まで侵入してくるんじゃないかと危惧してしまうほどに乱暴に穿たれる。
自分の体の奥からはぐちゃぐちゃとローションが掻き乱される音、そして耳元では唸るような男としての山田の声。
「ひぐっ、アアア――ッ! しょうたさん、それ、いや、だめぇ…っ!」
 そのタイミングで相澤が身を屈めてペニスを口に含むものだから爆豪は涙を溢れさせながら体中を痙攣させた。全体を舐め回されて、大きな口腔内へと迎え入れられる。ヌルヌルとした喉奥で膨れ上がった亀頭を締め付けられて精液混じりのカウパーが止め処なく出ているのが分かってしまう。
「あ、イ、イク、ケツもちんこも全部イッちまうから、だめ、やだ…っ! 出る、出ちゃ、から、ひざしそれ押さないで、ゃあっ! じゅるじゅるってしないで、しょうたさ…ッ、も、だめ、イく、イくから、ンン――ッ!」
 唯一自由に動く首を振りながら、これ以上ないほどの刺激を与えられた瞬間に爆豪は四肢を強く痙攣させて精液を相澤の口の中へと吐き出した。同時に山田も一番奥へと射精し、詰まった息を深く長く吐き出した。
「――――……っ、はっ、ぁ、ぁあ……っ」
 勝手にビクビクと跳ね上がる体は制御出来ず、それと同調するように何度も細かく鈴口から精液が漏れているのが分かる。ドクドクと脈打っているそれをずっと温かな口腔内で包み込まれているのがどうしようもなく気持ちいい。時折悪戯に優しく吸われて腰が完全に抜けてしまった。
「こっち向いて、かつき」
 山田は嵌めたペニスはそのままに、ゆっくりと腰を下ろしていく。足は開いたままで、太腿の上に座るようにして体勢を安定させ、爆豪が首を捻って山田の方を見れば触れ合うだけの軽いキス。ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てて浸っていれば、相澤が爆豪のペニスから口を離した。
 いくら恋人のものとは言え、口に射精してしまったのは申し訳なかったと思って声をかけようとすれば、遮るように山田が相澤を呼んだ。
 そして。
「ちょーだい」
 ついさっきまで爆豪とキスをしていた唇をトントンと指で叩いて、大きく開ける。それが何を意味しているかなど考えなくても分かるわけで。
「…っ、な!?」
相澤は山田の顎を掴んで上へと向ける。唇が触れるか触れないかの距離で相澤が口を開けば、どろりと爆豪が吐き出した精液が山田の口へと落ちていく。相澤の赤い舌の上を滑るように白濁が流れて、今度は山田の長い舌の上へ。
その一部始終を間近で見ていた爆豪は驚愕と羞恥に苛まれて意味も分からずに涙が滲む。頬も耳も、全身が一気に火照ってしまう。更に貰った精液を山田が喉を鳴らして飲み込んでいくので、感情がもっと煽られる。
「……っ、ぁ、はぁ…」
 半分ほど流し終えた所で、相澤も自分の取り分をゴクリと飲み干した。二人とも口の端に零れたものまでちゃんと舌先で掬って、一滴たりとも無駄にしない。
目を逸らしたいほどに、怒鳴って怒りたいほどに恥ずかしいのに、それ以上に膨れ上がっていく欲望と興奮に抑えが利かない。目の前がクラクラと揺れる。胸の奥も腹の底も熱くて仕方ない。
「――っ、ひざし、しょーたさん……ッ!」
 目の前の相澤に手を伸ばして縋って甘え、誘惑するように山田のペニスが入ったままのアヌスをきゅうと締め付けた。
(欲しい、もっと、全部、いっぱい)
 とろん、と蕩けた瞳で交互に見つめたら、それだけで理解してくれる二人が楽しそうに同じような顔で笑う。
「かわいいな」
「ソーキュート」
 声の揃った褒め言葉に口元を緩めてキスを強請る。
今日はまだまだ楽しめそうだ。



***



『今日何時に終わる?』
 珍しい相澤からのメッセージに爆豪は『十八時くらい』と返した。
『ちょうど近くに居るんだ。一緒に帰ろう』
『わかった。消太さんいるなら買い物も行っていい?』
『もちろん』
 また連絡すると言われて爆豪は返事を打ってからスマートフォンをポケットに仕舞った。
 あのワーカホリックがこんなにも早く帰るようになったなんて。その部分に若干の感動を感じつつ、ロッカールームを出て自分のデスクに向かう。今日の救助報告書を書かなければ。
パソコンの電源を入れて深呼吸。あまり思い出したくない現場だけど、仕事だから仕方ない。目に残った映像と耳にこびりついた雑音は首を振って振り払う。
 早くあの家に帰りたいと思ってしまうのは甘えだろうか。



「朝からずっとインターンの受け入れ先に挨拶に行ってたんだ。クラスはミッドナイト先生が代わりに受け持ってくれているし、デスクワークはマイクに頼んだ」
 校長にも直帰でいいと言われたからな、と話す相澤の声に耳を傾けながら通い慣れたスーパー内を歩いていく。質の良い野菜を選んでカゴに入れ、キウイなどの栄養価の高いフルーツも手に取る。体が資本なのでこういうところは妥協せずに良いものを。じっくりと選んだら、今度は精肉コーナーへ。
「消太さん何か食いたいものあるんか?」
「メンチカツかな」
「へぇ。アンタにしたら珍しいチョイスだな」
「昼にブラドが食べてたんだよ」
 だから作ってほしいのだと相澤は言う。メンチカツなんて買おうと思えば何処にだって売っている。しかしそれらを選ばずに、爆豪が作ったものがいいと真っ直ぐ伝えてくれることが嬉しい。機嫌の良い口元は隠して、色の良い牛挽肉をカゴの中へ。
 機嫌が良いのは、なにも口元だけではない。視線をチラリと相澤へ寄越す。
「なんだ?」
 首を傾げている相澤には何でもないと返して、歩を進める。
 インターンの挨拶回りに行っていたからだろう。相澤は髪の毛をハーフアップに纏めて、髭を整え、きっちりとしたスーツに身を包んでいる。滅多と見られないその姿で、こうやって一緒に並んで買い物が出来る日が来るなんて思ってもいなかった。
(ラッキーだ)
 正しくその一言に尽きる。メッセージを送ってくれたのが今日で良かった。
 爆豪は我慢ならずにチラチラと見てしまい、どうやら相澤はその視線の意味に勘付いたらしい。ほんのりと照れたように眉を下げて笑い、カゴを持っていない手で爆豪の頭を撫でた。
「人前であんまり誘惑してくれるなよ」
「……ばっかじゃねぇの」
 浮足立ちそうになるのを必死に堪えながら二人で歩いて珈琲豆を選ぶ。山田と一緒に飲むレモネードも買って、と考えながら歩いていると相澤がいなくなっていた。
(まぁガキじゃねぇんだ、あとで会えんだろ)
 一旦捜索は打ち切って買い物を続ける。相澤と一緒にカゴも無くなってしまったので手に取ったものを落とさないよう器用に持って歩いていれば、ふとプリンが食べたくなった。
 このスーパーに置いてあるプリンの中で一つだけ、カラメル部分が他のメーカーのものよりも多く、食べやすかったものがあるのだ。絶対に好きになるよ、と山田が勧めてくれたもの。
そういえば最近食べてなかった。思い出せばいっそう食べたくなる。
 今日の仕事は体力も気力も奪われるものばかりで、正直疲れた。明日も最高のパフォーマンスが出来るように、好きなものを摂取してもいいだろう。
 早速足を向けると、ちょうど用事があったプリンコーナーの前に相澤が立っていたので足早に傍に寄る。
「ここに居たんか。急にいなくなったらビックリするだろうが」
「ん? あぁ、すまん。お前これ好きだったよな?」
言って、渡されたのは思い描いていたプリンだった。
「今日の救助活動、場所的にお前の個性には不向きだったけど最後までよく頑張りました。判断も早かったし、野次にも怒鳴り返さなかっただろ。偉いぞ」
ふ、と目を細めて笑っている顔は、懐かしい教師としての笑顔。その顔で褒められるのは、昔から弱い。
「ガキ扱いしてんじゃねぇよ」
赤くなった顔を隠すように下を向いて、渡されたプリンを指で撫でる。好きなものとは言え、普段から常に食べているものではない。きっと相澤の前で食べたのなんて一度くらい。それを覚えてくれていたのだ。悔しいほどに、嬉しい。
「してないよ。恋人として言ってるんだ。本当によく頑張ったよ」
ありがとう、とは何歳になっても素直に言えないけれど。それでも頷くだけでこの人は汲み取ってくれるのだ。
先生と生徒と言う関係から恋人関係へとシフトチェンジしたけれど、爆豪を贔屓目で見ていないのは変わらない。ちゃんと一人のプロヒーローとして、大人として、同等の立場から言葉をくれる。間違っていたら、誰よりも真っ先に遠慮なしに怒ってくれる。偏った意見は言わない。冷静に合理的に、物事を考えて最善の方法で近寄ってきてくれる。
だから相澤から褒められると、肯定してもらえると、それだけで自信になる。色んな感情に雁字搦めにされていた足が軽くなる。
(この人がスーツ着てて良かった)
 もしもこれが仕事終わりではなく黒一色の普段着なら、熱烈にキスのひとつでもしてしまうところだった。
「どうした?」
「なんでもねぇよ。早く帰ろうぜ」
 帰ったらそのきっちりとしたスーツを乱して、ネクタイを外して、纏めた髪の毛を崩して。それから息が上がるほどに唇を食らってやる。ひっそりと決めて歩き出そうとした爆豪に、相澤がちょっと待てと声をかける。じっと真剣に見ているのは陳列棚。
「マイクにはこれを買ってやるか。デスクワーク頑張ってくれてるから、ご褒美だ」
「……豆腐味のプリンなんて絶対ぇ不味いだろ。怒られんぞ、おっさん」



買い物終わりの帰り道。秋の風はもう冷たく思えるくらいで、荷物を持ってくれている相澤と距離を詰める。ゆっくりとマンションが近付いてくると、見慣れた後ろ姿。
「マイク!」
振り返った山田が笑顔を振りまいて、尻尾を振って走って来る姿はさながら大型犬。しかし、飛びついてきては頬にキスをしてくるものだから駄犬へと降格。即座に引き剥がす。
「珍しいじゃん! 二人で一緒とか、しかも買い物デートまで!?」
「そ。消太さんが迎えに来てくれた」
 羨ましがっている山田に言えば、サングラスの奥の瞳がギロリと相澤を睨む。
「ハァーン!? 俺にデスクワーク丸投げしておいて勝己と優雅にデートかよ!」
「そう拗ねるな。プリン買ってきてやったぞ」
「えっマジで! サンキュー!」
「豆腐味のクッソ不味そうなやつだけどな」
「あ、こら、内緒だって言っただろう」
「ワッツ!? 豆腐味!? 消太このやろう!」
ケケケと悪い顔で笑う爆豪に、相澤が慌てて口を挟むももう遅い。山田は「明日の朝食は消太の分ないからな!?」と拗ねている。料理が苦手な相澤にとってそれが一番困るのを知っていて、だ。冗談だからと慌てて言い訳しても聞く耳持たず。山田は身軽な爆豪の手を取って早足で家へと向かう。
「早く来ないと鍵締めちまうからなー! グッバーイ」
「ヒーローが陰湿なことやってんじゃねぇよ! 荷物持て!」
仕返しだと舌を出して先を行く山田と、引っ張られる爆豪。置いていかれている相澤は、それでも急がずにのんびりと歩いている。
あの程度の荷物の重さに関して、相澤が本気で根を上げるとは考えにくい。傍から見れば分かりにくい、二人のじゃれ合いの一環だろう。
「締め出してやるなよ?」
「流石にしねーよ。……それより」
掃除が行き届いたエントランスを抜け、エレベーターを待っていれば、ふと山田の声のトーンが下がる。自分よりも高い位置にある顔が覗き込むように近付いてくる。アップルグリーンの瞳がサングラス越しに細まったのが分かった。
「今日すっげぇ格好良かったぜ。惚れ直した」
「……見てたんか」
「オフコース! 勝己が関わった現場は全部見てるぜ」
 自分よりも大きな山田の手に頭を撫でられて、大好きな声で褒められる。
たったこれだけで野次馬に怒鳴られた言葉が頭の中から消えていく。爆豪の耳に残るのは、いつだって優しく甘やかしてくる山田の声だ。誰に何を言われようと、山田の声さえ聞いていればそれだけで心が穏やかになる。
ヴォイスという個性はそんな効力もあるんだろうか。今度ゆっくりと聞いてみよう。きっとそんな効力がなくたって、あれやこれやと話を続けてくれるに違いない。
「かつき、アイラビュー」
相澤とはまた違ったしなやかで長い腕に絡み取られる。こうやってこの腕に包まれて名前を呼ばれたら、世界で一番の宝物にでもなった気分。
「オイ、ひざし。そろそろいい加減にしろよてめぇ」
 そう言って、後ろから追いついてきた相澤は、やっぱり息のひとつも乱していない。
「先に抜け駆けしたのはそっちだろ」
 言いながら、ツーンとそっぽを向いて山田が拗ねて。相澤が悔しそうに唸って。
「だからプリン買ってきてやっただろう?」
「豆腐味なんて絶対嫌だからな! それは消太が食って、俺は消太のプリンを食べる!」
自分を挟んだままで喧嘩をしている大人の二人を見て、爆豪は堪らず、ふはっと吹き出すように笑った。そして山田の腕の中からするりと抜け出す。
降りてきたエレベーターを逃がさないようにさっさと中に入って、
「な、早く帰ろうぜ」
と、二人を招く。
「帰ろう」
三人の家に。そして、ゆっくりと二人に抱き締めてほしい。
「そうだな」
「オーケー。早く帰ろう」


誰に酷評されようと、誰に罵られようと。
この家に帰ってくれば全部掻き消してくれる。信頼できる評価をくれる。包み込んで柔く名前を呼んでくれる。
それがどれほど嬉しくて幸せで特別なことか、身に沁みて理解しているからこそ、二人にもそうであってほしいと祈る。
そして。

「ただいま」

今日も無事に帰ってこられた喜びを三人で分かち合う。

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