別れた原因とセックスする理由

「あー、クソ、腹立つ!」
皺ひとつなく丁寧にベッドメイキングされたシングルベッドに、爆豪はコスチュームのままで倒れ込んで吠えた。勢いが良すぎて何かがガンッと当たった音がしたが、今はそんなもの気にしている余裕などない。知ったことかともう一度吠えた。
「まぁそう怒るな。よくあることだ」
篭手もブーツもそのままで埃が舞い上がるのも気にせずに足をバタバタと動かして暴れる。こうでもしていないと苛立ちが抑えきれないのだ。固めマットレスに沈めた顔でシーツを皺くちゃにして、いっそ噛み千切ってやろうかなんて考える。
自分の怒りに比例して落ち着いた声色の相澤は、それでもどこか疲れた様子でひとつ溜め息を吐いていた。


──相澤と顔を合わせたのは実に三年ぶりである。
最後は雄英高校の卒業式で、その日も特にこれと言って話をした記憶はない。三年間、色々あった中で面倒を見続けてくれたことに感謝をしていないわけじゃない。ただ、他のクラスメイト達のようにわんわん泣きながら相澤に感謝を述べるのは性に合わないだけ。きっと、もしそれを実行したところで「熱でもあるのか?」と言われて仕舞いだろう。だから、沢山の生徒に囲まれている彼を一番後ろから眺めて、静かに目を合わせて僅かに礼をした。
その後、接点というものは何もなく、連絡を取り合うわけでもなく。警察に依頼された事件を共に解決戦とチームアップした中の一人としての、あっさりとした再会。
三年ぶりとは言え特段話をすることも時間もなく、お互い配置についてターゲットを待ち構えていたのだが、何時間経っても現れることはなく、日付が変わる時間帯とまでなってしまった。暦の上では春だが、今夜は季節外れの冷え込みを見せ、二人を含めた全プロヒーローは一旦撤収。そうして宛がわれたのがこのビジネスホテルの一室である。
元々警察関係者がターゲットを監視する際に使用していたらしく、面倒な受付もなにもなく部屋に通してもらえた。外気より随分と暖かい空気に末端の感覚がゆっくり戻ってくる。風呂でも入って芯まで温まるのが一番なのだろうが、いつ作戦が再開になるか分からないのでそれは出来ない。せめて、と相澤が暖房の温度設定をふたつほど上げてくれたのは助かった。本当に寒かったから。
相澤や爆豪以外にもあと数人いるプロヒ―ローはそれぞれ部屋で待機していて、動きがあればスマートフォンに連絡が来るようになっているが、捜査員の話を盗み聞いた限り今夜はもう無理かもしれない。このあとも数時間、時間を無駄に過ごすこととなりそうだ。
だが、今の爆豪にとってそれはそれで都合が良かった。爆豪にとってというよりも、爆豪の二時間ほど前に別れたばかりの恋人にとって。
(なァにが別れてほしい、だ!? どうせこっちの意見聞くつもりもねぇくせに!!)
ビジネスホテルに入ってから確認したメッセージの中に恋人の名前があったからと、テンションが上がった自分が馬鹿みたいじゃないか。今夜は仕事で帰れないと先に送っていたので、労わりのメッセージかもしれないと思っていたのに。たった一言。別れてほしい。それだけである。
原因に覚えがあるだけに、何故とは聞けない。かと言って、分かったとあっさり了承するのも納得いかない。数日前の口論まで思い出してしまっていっそう腹が立つ。
「あー!! クソッ!! クソがァ!!」
何処にも持っていけない感情を、怒鳴ることで発散させていれば相澤の呆れた声が耳に届く。
「よくこんなド深夜にそのテンションが維持できるな」
「うるっせぇわ!! 叫ばねぇとやってらんねぇんだよ!! ふざけんな!!」
「……そんなに戦いたい相手だったのか?」
相澤は隣のベッドに腰を掛け、そのまま後ろに倒れて捕縛布を緩めている。飛んできた質問は爆豪の頭の中を占めている怒りの原因からかけ離れていて、思わず顔を上げて彼を見た。
「あ? 戦いたい?」
「今回のターゲットとだよ」
「……いや、別に?」
「はぁ?」
何の話をしているんだ。こっちは今恋人に振られて怒りが止まらないのに。すると相澤が体を重たそうに起こして、お前こそ何を言ってるんだと言う顔をした。
その顔を見て冷静さを取り戻した爆豪は、相澤は当然ながら何も知らないのだと気付いて暴れていた体を大人しくさせた。ベッドの縁に座って篭手を外す。
「わりぃ。それとは別の話。プライベートなことで怒ってただけ」
「あぁ、なんだ、そういうことか」
パチ、とか。カチャ、とか。
そう言った音と共に身軽になっていく。但し、いつでも現場に向かって走れるように、ブーツだけはそのまま。
「何かあったのか?」
連絡が来るまで暇だから聞いてやるぞ、と言われて、少し考えてから爆豪は自身のスマートフォンを取り出して操作した。相澤に向かって投げる。一瞬戸惑っていたが、すぐに意図に気付いたのだろう。ロックが解除されているスマートフォンを覗き込んだ。
そして。
「あー……」
恋人に振られたばかりなのだということを理解した。
「そろそろ言われるとは思ってたけど、いざ言われっと腹立つ。しかも俺と顔合わせなくていい日を選びやがった」
「喧嘩でもしてたのか?」
「喧嘩っつうか、…………文句は言われてた」
「怒りっぽいとかか」
「恋人に対してそんなギャアギャア怒らねぇわ」
「へぇ」
意外だ、とでも言いたそうな顔をしている。
こういった恋愛の話になった時に上鳴にも同じような質問をされて、同じように答えたのだが、その時も驚かれた。「かっちゃん恋人に優しく出来んの!?」なんて腹立たしいセリフ付きで。あの時は爆破で黙らせたけれど、相澤にはそれは通用しない。
元担任との恋愛話は想像以上に気恥ずかしく落ち着かず、無意味に足を揺らした。
「じゃあどんな文句言われたんだ」
「……」
次いで投げかけられた質問に、どう答えるべきかと悩んで沈黙が落ちた。
「言いたくないなら別にいいからな」
早々に気を遣われて、言葉が重なる。
言いたいわけではないが、言いたくないわけでもない。メッセージのやり取りを見たのだから、相手が男だということも分かっているだろう。ただ、ここまで踏み込んだ話をして言いものか。相澤は理由のない偏見を持たないとは思っているが、こればっかりは。
「ん? どうした?」
流石に恥じらいが勝ってしまって耳が熱く、俯いてしまう。しかし、相澤は純粋に気にかけてくれていて、完全に体を起こして向き合ってくれている。ベッドとベッドの間の狭い通路でお互いの足が当たったけれど、そんなもの怒る気にもなれない。
そして。
「────……っ、れちまうんだよ」
と、奥歯を噛み締めながら絞り出すように言葉を吐き出した。もうここまで来たらどうにでもなれ、だ。
聞き取れなかったらしく聞き返してきた相澤に、自棄になって顔を上げて真正面から目を合わせる。
「だ、から……! 漏れちまうんだよ!!」
ガオ、と最大音量で吠えてやった。だが、相澤は怪訝な顔をしたまま首を傾げる。
「…………何が?」
「〜〜〜っ、察しろや!!」
「無茶言うな」
詳しく言えと言うほうがよっぽど無茶だろう、と殆ど八つ当たりで考えて、恥ずかしさのピークを迎えた爆豪は眦にうっすらと涙を引っ掛けて、相澤の胸倉を両手で掴んで引き寄せる。だから、と大きく口を開いて叫ぶ。
「だから! セックスん時に潮吹いて漏らしちまうんだよ、俺が!! で! マットレスとかシーツとか全部ダメになって毎度それが面倒くせぇんだと!! コイツ以外もいっつもそれで振られんだよ!! 知るかっつうんだよ、勝手に出んだよ!! クソウゼェ!」
言い切ったと同時に突き飛ばすようにして胸倉から手を離せば、間抜けな顔をした相澤がベッドに尻餅をついた。
「え、」
目を丸くして、固まった体をどうにか動かして、爆豪のスマートフォンをもう一度確認している。あっと声が漏れていることから、どうやら今相手が男だということに気付いたらしい。
(気付いてなかったんかよ……!!)
固まってしまった相澤に対し、墓穴を掘ってしまった爆豪は居た堪れなくなって立ち上がる。ぐず、と鼻を鳴らしたのは、相澤が分かりやすく困った顔をしたからだ。あぁ言うんじゃなかった。今日は何処までも最悪な日だ。向かう先は外へと通じる扉。
「ま、まて、爆豪!」
出て行こうとする爆豪に気付いた相澤が即座に追いかけてくる。
「うるせぇ! 聞きたくもねぇこと聞かせて悪かったな! でもアンタが聞いてきたんだからな! 俺ァ悪くねぇ!」
「ちがう、そうじゃない、こら、待て!」
その言葉と同時に相澤の手が伸びて、あっと言う間に捕まった。捕縛布ではないことに驚いた。まさか抱き締められるとは思ってもいなかったのだ。
「すまん、一瞬何をどう言えばいいか混乱した」
「……そりゃ混乱するだろうな。だから離せや、俺ァ外のロビーででも寝る!」
「駄目だ、寒い、風邪ひく、此処に居ろ」
「っ、だから、察しろや! 気まじぃんだよ!!」
「それくらいは察してるけど行かせられないって。それに、あー……、そんな気まずく思わなくてもいい」
「思うに決まってんだろうが! あからさまに困った顔しやがって!」
「や、違う、これは困ってるんじゃない、分かってくれ」
「分かるか! どうせアンタも話聞いて引いて、」
「だから違う!」
爆豪の怒鳴り声につられるように相澤も声が大きくなり、強く否定されて爆豪の口が噤んだ。暴れていた体はピタリと大人しくなって、それでも離れたくて、うう、と唸る。
こちらの気持ちを知らない相澤は、爆豪の体を反転し、しっかりと両腕を掴んで真正面から目を合わせてきた。
そして。


「俺は潮吹いてるところを見るのが一番好きなんだよ」


相澤の言葉が終わると同時に、本日は解散というメッセージがスマートフォンに届いた。


***


「先にシャワー使っていいぞ」
「……や、俺、あとがいい」
「そうか」
じゃあちょっと寛いでろ、と相澤はさっさと浴室に消えていき、残された爆豪は落ち着かない様子で一人掛けのソファに座った。黒い革製のそれが、ギ、と小さく鳴る。
そのうち僅かに水音がし始めて、あぁ本当にシャワー浴びてるんだな、なんて当たり前のことを考えた。
心臓が口から飛び出そうなほど、とまではいかないが、それなりに早く鼓動を刻んで力が入っている体が何とも言えず気持ち悪くてスマートフォンを触ってみるも、何も頭に入って来なくてポケットに仕舞った。


塚内から作戦終了のメッセージが届いた後、相澤にこの後時間はあるかと聞かれた。
それがどんな意味を持っているか、何も分からないほど子どもじゃない。けれど、爆豪は二つ返事で頷いた。恋人に一方的に別れを告げられて自棄になっていたというのと、潮を吹いているところを見るのが好きだという相澤の主張に惹かれたからだ。
お互い言葉少なにそそくさと部屋を出て、コスチュームから私服へと着替え、連れて来られたのがこの古びたラブホテルである。
どうせならすぐ近くにある真新しいホテルが良かった、と落ち着いた今なら思うが、相澤の足がラブホテルに向いていると理解した瞬間は頭が真っ白で余裕などなかった。
だって、相手はあの相澤だ。
(学校の先生がラブホとか来てもいいんかよ。──……いいに決まってんのか。先生っつっても人間だし、ラブホに教師お断りとか書いてねぇし。俺ももう卒業してっし。いやでもビジネスホテルとか、どっちかの家とか、……それじゃ漏らせねぇか)
とうとう、じっと座っているのも出来なくなって、爆豪は部屋の中を散策し始めた。
特に興味はないが、テレビの使い方が書かれている取扱説明書を読んで、休憩や宿泊に関する料金表を眺める。まだシャワーの音が止まらないので盗聴や盗撮の心配がないか細部まで見て回る。ちょうどいい暇つぶしだ。
(……学校の先生が相手っつうか、あの人に連れて来られたってのが落ち着かねぇ)
観葉植物の鉢や、テレビボードの裏まで覗き込む。どこも埃っぽくて掃除がしたくなる。客商売しているのだからこういう部分まで綺麗にして欲しいものだ。
(あの人も人並みに性欲あって、性癖があって、経験もあるんだな)
これが中学の時の担任や、同じ雄英高校でもあまり接点のない教師なら緊張しなかった気がする。
爆豪にとって、相澤を形成するものは全て雄英高校の教師もしくは抹消ヒーロー・イレイザーヘッドに関するものだ。
彼のやる気のなさそうな眠たい声で「おはよう」と声を掛けられてA組の一日が始まる。子ども相手なんて似合わない顔をしているのに、帰り際は必ず優しい声で「気を付けて帰れよ」と言ってくれる。怪我をすれば心配してくれて、テストでいい成績をとれば分かりにくく褒めてくれる。そういえば、演習場で自主練をした後に出くわした時は、一口サイズのチョコレートを貰ったことがある。他のやつには内緒な、と頭を撫でられたのは、後にも先にもあれきりだ。
いつ姿を見つけても仕事をしていて、でもホームルームの間は教室の隅で眠っていて。そして、随分と凶悪且つ楽しそうな顔をして生徒に受難を与え続ける。
爆豪が雄英に在籍していた時などヒーロー科以外の生徒にまで目をかけて、事件の関係者だと言う幼い少女を預かっていた。
どんなに必死に思い出そうと、どの角度から見ても相澤は教師でヒーローだ。
だからこそ、自分は今の状況とのギャップに緊張してしまっている。
(────べ、つに、緊張とか、ンな処女でもあるまいし)
空気に呑まれそうになったところで自分を奮い立たせるように首を横に振って考えを霧散させた。
緊張してしまっている、というのは撤回だ。
緊張するほど初心なわけでも、可愛げがあるわけでも、子どもなわけでもない。それなりにお付き合いしてきた人間もいるし、体だけの関係の男もいた。ラブホテルだって初めてじゃない。自分だってもういい大人なのだ。
「──探し物は見つかったか?」
「ッ!」
唐突に後ろから声を掛けられて肩が跳ねた。慌てて振り返れば、腰にタオルを巻いて、水気を多く含んだ髪の毛を鬱陶しそうに掻き上げている相澤と目が合った。思ったより近くにいた相澤が、いつの間に浴室から出たのか悔しいくらいに一切気付かなかった。
「けっ、気配、消して近付くんじゃねぇわ!」
「そんなにコソコソ近付いたつもりはなかったんだけどな。随分と熱心に探し物してたみたいだな」
ここにはカメラも盗聴器もないよ、と言いながら小さな冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出した。蓋を開けながらベッドに座り一口。ゴクリ、と動いた喉仏が妙に色気があるように感じて目を逸らす。
「シャワー浴びておいで。体、冷えてただろ」
「……わぁった」
爆豪はひとつ頷いて、素直に浴室へと向かう。
薄く、安っぽい戸を締めれば、相澤が誰かと話をしている声が聞こえ始めた。誰かと電話しているのだろう。あぁ、よかった。自分はシャワーを浴びるだけではなく、色々と準備しなくてはいけないから。時間を潰す何かがあってくれたほうが気兼ねなく出来る。
勿論、最後までセックスをする気なのかどうかまでは知らない。確認する勇気はない。
(先生、やっぱいい体してんな……)
アンダーウェアを脱ぎながら、露わになっていた相澤のよく鍛えられた上半身を思い出す。捕縛布を操って空中に飛び出すことも多いからか余分な肉はなく、いっそう筋肉の凹凸がよく目立つ。至る所に残っている傷や火傷の痕まで爆豪の欲を煽った。
あの体に抱かれたら随分と気持ち良さそうだな、と想像して僅かに腰が重くなった。


爆豪が浴室から出て戻ってくると、相澤は表情一つ変えることなくテレビに映し出されたAVを見ていた。いや、見ていると言うよりは何かを探しているようにザッピングしていた。
ただ、チャンネルの数自体が少ないようであっという間に一番初めのAVに戻ってきてしまい、すぐにテレビは真っ暗になった。
「何やってたんだよ」
AVが見たかったわけではなさそうだと思ってそう聞いた。まさかラブホテルでヒーロー番組でも見ようと思っていたのだろうか。
すると。
「男同士でヤッてるのがあればなと思ったんだけど、流石にないか」
思わぬ回答に、パチリと大きく瞬きをひとつ。
「もしかしなくても男は初めてなんか」
「うん」
「まじか」
あまりにも普通に誘ってくるものだから経験があるのかと思っていたが、そうじゃないらしい。だとしたら、後ろの準備までしなくても良かったのかもしれない。それ以上に、ちゃんと出来るかどうか、──勃つかどうかも怪しい。
「……ンだよ、初めてかよ」
緊張していた自分が馬鹿らしい、と嘆息して相澤の隣に座る。
「まぁでも必要最低限の知識は教えてもらったし、調べた」
「教えてもらったって、誰に」
「このホテルの管理人。俺の知り合いなんだよ」
「だからカメラはねぇって言い切ったのか」
「うん。急遽部屋用意して貰ったし、礼も兼ねて、さっき電話で」
浴室の扉越しに聞こえた相澤の声を思い出して、あぁ、と相槌を打つ。そのまま後ろに倒れ込んだ。ラブホテル特有の、あっさりとした匂いがぼふりと舞った。あれだけ色々考えていたのに、緊張が解れてしまったら一気に疲れてしまった。もうこのまま何もなく終わってもいいんじゃないかと思うほど。
しかし。
「よく考えてみれば無駄だったな。聞く相手を間違えた」
ギィ、とベッドが鳴いたと思ったら相澤が真上にいた。右手を爆豪の顔のすぐ横について、体を捻るようにして上半身だけが覆いかぶさってきている。
安っぽい照明の色に影が落ちる。シーツの匂いに、聞いたことないメーカーのシャンプーの匂いが混じる。
「お前を抱くんだから、お前が教えてくれ」
好きなところも、やりたいことも、してほしいことも。
腰がぞくりと震えるほどに色付いた低い声が耳へと侵入してきて、目を瞠る。ゆっくりと相澤の顔が近付いてきて、長い前髪の隙間から見える目が獣のようにギラリと光る。無意識の内に呼吸が止まっていて、慌てて口を動かした。
「や、せんせ……っ、ほ、本当に、すんのか」
「なんだ。この期に及んで帰る気か?」
勘弁してくれよ、と続く唇はあっという間に耳元だ。ふ、と相澤の吐息が耳朶を掠める。それだけで吐息混じりの声が溢れた。
「見せてくれるんだろ? 気持ち良くなって潮を吹くところ。全部漏らしちまうところ。……楽しみだな」
わざとらしく音を立てて耳にキスをされて、それだけで素直なペニスは反応してしまった。
とうとうお互いに服を着ていない上半身が触れ合って、爆豪と名前を呼ばれて。
「──……ん、見せる、せんせぇに」
素直に頷いて、相澤の背中へと手を回した。
興奮でしっとりと汗をかき始めたせいだろう。仄かに甘い香りが二人を包んでいく。その匂いの正体をもうずっと昔から知っている相澤が、肩口で笑った気がした。


***


──あ、これは駄目だ。


本能的にそう直感したのは相澤の指先が太腿に触れた瞬間だ。
深爪の指先が腰に巻いていたタオルを捲り、内部に入ってきただけでピリピリとした微弱の電流が背中を駆け抜けていった。皮膚と皮膚が密着して、そういう意味を持って相澤が指先を動かしただけでアヌスがヒクリと蠢く。
「……っ、は」
駆け抜けていく電流を体外へと逃すように息を吐く。同時に相澤の口角が上がる。
「随分と敏感な性質らしいな」
「うるせぇ」
「でもここが本命ってわけじゃないだろう? どこ触られるのが好きなんだ?」
「どこって、……俺が自分で言うんかよ」
「言っただろ、教えてくれって」
「それは、比喩っつうか」
「体に聞くってやつか? それより本人が喋るほうがよっぽど合理的だ」
それに。
「俺が聞きたいんだよ、爆豪。どこが好きか、言ってくれ」
太腿を撫でていた手が上へと上がってきて、均等に鍛えられた腹筋を擽って、首を伝い、唇に。思わずぎゅっと噛み締めれば、優しく侵入してきては抵抗を無効化していく。
「どこを触られるのが好きなんだ?」
言って、と相澤の額が自分のものにくっついた。キスでもされるのかと思ったが、それはしないようだ。ただ、じっと視線を逸らすことなく目を合わせてくる。爆豪も負けじと見つめ返して、口腔内に侵入してくる相澤の指を舌先で舐めた。そして唾液を纏わせた手を掴んで、自身の胸へと導いた。
「……ここ」
発達して柔らかな胸筋。そこを大きな手で包み込むように、ほんの少し乱暴に揉みしだかれるのは嫌いじゃない。そして、既にぷっくりと膨れて主張している乳首を引っ掻かれ、摘ままれ、弾かれるのだって。
しかし、それを大いに要約して「ここ」の二文字だけにしたのは駄目だったらしい。間髪入れずに「ここじゃ分からんだろう」と言われてしまって、ぐぬ、と唸った。
「っ、むね!」
「胸がどうした。触られると痛いか? 不快か?」
「ちっげぇわ! 分かってるくせに意地悪すんな!」
「意地悪じゃないよ。俺は男を抱く経験はないんだって。ちゃんと教えてくれないか」
相澤は眉ひとつ動かさずに淡々と、しかし絶対に譲る気配を見せない。他の男ならばここで怒鳴り散らしていたかもしれないが、相澤の指先が十二分に気持ちいいことを知っているのでそれが出来ない。悔しい、と眉間に皺を寄せれば、そこには簡単にキスをしてくれた。ちゅ、と音がするような可愛らしいキスひとつで絆されたくはないのに、いとも簡単に口を開いてしまう。
「むね、を」
「うん」
「揉まれんの、好き。痛くはねぇから、ちょっと強いのとかも、平気」
「そうか」
言えば、相澤の手は爆豪の言った通りに動く。武骨で、細かな傷だらけの手が胸全体を包み込むように覆って、形が変わるほどに揉みしだいてくる。存外、体温が高い手の平が生々しくて鳥肌が立つ。いっそう乳首が膨らんだ。
ここも触ってほしくて、身を捩って相澤の手に当てにいこうと浅はかな欲望が止められない。
「痛い?」
「い、たくねぇ……っ」
大きく強く揉まれて、そうかと思ったら柔らかさを堪能するように優しく揺すられて。時折指に乳首が掠るのが気持ちいい。
もっとしっかりそこにも触れてほしくなって爆豪は乱れ始めた呼吸の合間に相澤を呼んだ。どうした、と聞いてくる顔は何もかもを察しているくせに知らぬふりをしている。意地の悪い男だ。
「も、分かってん、だろうが……ッ!」
「教えてくれって言っただろ?」
「クソが! っ、せんせ、はよっ、乳首もいっぱい、触って……ッ、──アッ……!」
言葉尻を奪われるように、ずっと望んでいた乳首への愛撫が始まって思わず背中がしなる。触れられただけでも気持ちいいのに、熟れた乳首を摘ままれて扱くように動かされては我慢のしようがない。爆豪が目を瞑ってふるふると首を振れば、相澤の顔が離れていくのが分かった。それでも指先の動きは止まらず、ピッと弾かれて完全にペニスが勃起した。
「爆豪」
呼ばれて、うっすらと目を開ければ相澤が胸元に居た。まだ何にも触れられていない左の胸に顔を寄せて、こっちは、と聞きながら舌先を出している。
「舐められんのも、好き……っ」
やっぱり分かってんじゃねぇかとか、言いたいことを言えるほどの余裕はなく、あっさりと好きなものを白状する。素直に言えば、ちゃんと触れてくれることを理解したから。
そして先程と同じように、爆豪が好きだと言ったから相澤は意地悪をすることなく快楽を与えてくれる。肉厚の舌が押し潰すように乳首を舐めて、そうかと思えば尖らせた舌先で細かく刺激してくる。自分でも悦んでいる乳首が膨れていくのが分かる。
「ふ、う、うあ、あっ、せん、せ……っ、ちくび、吸って……ひうっ!」
堪らず要求を重ねれば、じゅう、と重い音を立てて吸いあげられる。反対の乳首も丹念に捏ね繰り回されて、それから揉みしだかれて柔らかさが増していく。
本格的な愛撫に頭の中では警鐘が鳴り響く。
胸を揉まれるのも、乳首を弄られるのも、確かに好きで気持ちいい。でも、これほどまでに気持ち良かったことはないのだ。もしかしたら恐ろしく相性が良いのかもしれないと考えていれば、その意見に同意するようにペニスがびゅくりとカウパーを吐き出した。
その感覚に、ハッと意識を取り戻した。
「や、だめ、せんせ、いっかい止まって、んんっ、う……ッ」
「ん、どうした? 痛い?」
「んん、ちが、痛くねぇけど、ちょっと待っ……、や、ああッ!」
痛くないならいいじゃないか、と言わんばかりに乳首を吸って引っ張られ、伸びたそこに軽く前歯を当てられた。
再びカウパーが漏れて、慌ててペニスへと手を伸ばした。タオル越しに根元を掴んで、ふーっと溜まった快楽ごと大きく息を吐く。
「せんせ、おれ、出しちまったら、マジでやべぇから、もうちょっとゆっくりしてくれよ」
「なにか問題でもあるのか?」
「……問題っつうか」
それが本題と言うか。
乳首から顔は離れたものの、揉んでくる手は止まらない。言葉の合間に嬌声を混じらせながら、爆豪は自分の体質をもう一度話す。
自分はどうやら人より多く潮を吹いてしまいやすい体質なのだと。そして、一回でも射精してしまったら、いっそう制御が効かなくなるのだと。
「だ、から……っん、いつも、は、……ぁ、ギリギリまで、出さねぇように、縛って、我慢、して、……あっ、んんんっ」
「……お前、それ楽しくないだろ」
「たのしい、とか、そういうんじゃねぇだろ、これ」
爆豪にとってセックスとは楽しいものではない。気持ち良いものではあるが、それよりも気を遣うものだ。
今まで体の関係を持ってきた男たちはこぞって最初は「潮を吹いてみて」と言った。だから言われるがまま溢れさせれば、漏れなく全員が嫌な顔をしてきた。これは流石にちょっと、と顔を引き攣らせるのだ。
以降は、潮が零れないようにきつく縛られたこともあるし、尿道プラグをずっと挿入されていたことだってある。
それはそれなりに気持ち良かったけれど、何をどう思い出しても楽しいものではない。終わったあとに無事なシーツなどを見てホッとする、そういうものだ。
やっぱり相澤に対しては、無意識下で心のハードルが低くなっているのかすべてを曝け出してしまう。だが、顔が分かりやすく曇っていった。
(……引かれたか)
いつの間にか快楽を与えてくれていた指先の動きが止まっていた。このまま止めにしようかと言おうとした、瞬間。
「こっち来い」
瞬きひとつで体を抱えられていて、肩に担がれるようにしてベッドを降りた。その拍子に腰に巻いていたタオルが床に落ちる。
拾う猶予すら与えられず、座らされたのは、部屋に来てすぐに爆豪が座っていた黒い革製のソファだ。
尻が落ちそうなほど浅く座らされて、相澤に秘部を全て見せるように足を開かされた。恥ずかしいと抗議する暇もなく足は肘掛けに引っ掛けられる。
「ここなら好きに漏らして問題ない。ソファはあとで拭けばいいし、他に濡れるものはなにもない」
言いながら離れて、戻ってきて手にしていたのは新品のローション。乱雑に封を開けていき、ゴミは適当に床に捨てた。次いで、爆豪の恥部が眼前にくるような位置に膝をついて、髪の毛を一纏めに結ぶ。
「さっきのベッドでも問題ないが、今はまだ気になるだろ。あっちはまた後で」
「……あと、って……」
まだヤれんのか? と首を傾げて聞けば、当然だと頷かれる。
「この期に及んで帰れると思うなって言ったはずだ。これでも俺は見れるの楽しみにしてるんだ」
ローションのボトルをひっくり返して筒の部分を押す。どろり、と粘着質な液体が相澤の右手に落ちていく。
「だからお前もちょっとは楽しめ」
手の中でローションを温めて、迷うことなく爆豪のペニスを触った。すっかり興奮が収まって半分ほど萎えていたそこに馴染ませるように全体を撫でられる。ぞく、と背中が震えた。
「潮吹いてる瞬間の良さが分からねえようなクソガキのことなんざ一旦忘れろ」
「クソガキって……」
一応俺の恋人だぞ。全員、元、だけど。呆れたように言えば相澤が鼻で笑う。
「残念ながら俺は何奴も知らん。いいから忘れとけ」
「ん、わぁった」
爆豪が頷いたと同時に、機械的にローションを馴染ませていただけの手の動きが変わっていく。再び血液が集中し始めたペニスを追い詰めるように右手を逆手にして扱き、反対の手で陰嚢を弄られる。
「っは、ふう、う……」
肘掛けに引っ掛けられた足が跳ねる。直接的な刺激に情けない声が出そうになって慌てて自分の指を噛む。
しかし。
「ここならどこ触られるのがいいんだ?」
足の間から全部を見ている相澤が、声を抑えることは許さないと言わんばかりに質問されて思わず睨んだ。
「い、っ、いま、あんたが触って、んの、……っ、それで、十分、だから……ッ」
「そう言うな。自分だけのクセみたいなもんがあるだろ? どういうのがいい? もっと強くするか? 先っぽは嫌いか?」
ぷりっと膨れたカリ首を絞られた指の輪で何度も扱かれて短かな悲鳴とカウパーが漏れる。
「ヒァッ、ん……! つ、強いの、は……っ」
気持ちいいからすぐにイッてしまうと、そう言いたかったのに相澤の手が離れてしまった。
「嫌か? ならもっと優しくしようか」
「や、ちが、」
咄嗟に、縋るように首を横に振ってしまった。相澤がニヤリと意地悪く笑う顔にカッと顔が赤くなるが、また強く扱かれて文句ではなく嬌声を響かせてしまう。
「あ゛っ、ああっ、ん、はぁ」
次第にローションが摩擦で白く濁り、泡立って固まっていく。それを掬って充血している亀頭に塗り込まれる。重点的に手の平で撫で回されて堪らず背もたれに頭を擦り付けて両腕で顔を覆う。
「アァッ! はっ、ん、ぁあ゛あ゛っ」
しかし、視界が真っ暗になってしまうと全神経が相澤の手の動きに集中して、あっという間に限界がやってくる。
「せ、んせ、せんせ……!」
「いいぞ、好きに出せ」
上擦った声で相澤を呼ぶ。イく、と宣言しなくても汲み取ってくれたのだろう。相澤の手の動きが射精を導くためのものになる。
「っ、も、まじで、イッ……! は、あう、あっあっあっ!!」
ぐちゃぐちゃとはしたない音を立て、教師としての顔しか知らないような男の手で激しく扱かれて、亀頭を揉みくちゃにされて。力が入り過ぎた足は震え、爪先が丸くなる。
そして、誘導されるがまま、堪えることもできずに精液を吐き出した。
どぷ、と尿道口から勢いよく漏れたそれは、自慰すら暫くしていなかったからか色が濃く、重たく飛び散っていく。
「はぁっ、はっ、ぁ゛、……はっ、はぁ……っ」
一瞬詰まっていた呼吸を再開させれば、重たかった腰が軽くなった気分だ。
このまま少し休みたいと、そう思った矢先、相澤の手が再び動き始めた。
「ぁ、ま、待って、先生ッ」
「待つわけないだろ」
奥に残った精液を搾り取るように大きく何度か扱かれて、しかしすぐに真っ赤な亀頭を標的にした。
「ヒィッ、ア゛ァッ──……!!」
ビクン、と大きく背が跳ねる。ローションや精液、カウパーなど全部が混じって白濁している粘液を敏感になっている亀頭に擦り付けられる。そのまま、また手の平で撫で回された。慌てて相澤の手を掴んだところで止まりはしない。
「あ゛あぁあっ!! まって、せ、そこ、やだ、ぁああっ! さきっぽ、い、いま、感じ過ぎて……っ、く、あ゛っあっ、ひ、ぁ゛っ!!」
「このまま出してみろ、爆豪」
「やっ、でる、ほんとに、でるからっ、も、むり、……ゔあっ! ア゛アアァ────ッ!!」
ぷし、と熟れた亀頭から音がしたと理解した時には既に潮を吹いていた。相澤の手を押しやる勢いで潮が溢れ、あっという間に自分の腹や股間周り、ソファや床を濡らしていく。
「ヒッ、うあ゛あ゛あ゛ぁ゛……ッ!!」
なのに、相澤の手は止まることがない。それどころかいっそう早くなって爆豪は見も世もなく叫ぶしかない。固く目を瞑って、叫んだところで何も変わらないのだけれど黙って耐えることなど無理だった。叫んでいないと気が狂って体が溶けてしまいそうだ。
「も、やだぁ、また出る、出ちまう、イくイくっ、イ゛ッ──!!」
ぷしゅ、ぷしゅ、と音が止まらない。いっそ小便でも漏らしたほうがマシだったのではないかと思えるほどの量をまき散らして、ソファに溢れた潮が水溜りになっていく。
「う、あ、ぁあ゛あ゛っ、も、むり、むりぃ……!」
体は言うことを聞かずに跳ね回り、とうとう引っ掛けていた足が外れて尻がソファからずるりと落ちていく。
そこでようやっと相澤の手が止まって、床にゆっくりと落ちていく体を受け止めてくれた。相澤の手は、いや、肘あたりまで全部と胸のあたりはぐっしょりと濡れている。
「大丈夫か?」
「……ぁ、おれ、せんせ、汚して……」
くたりと力が抜けた体は反転させられ、先ほどまで座っていた座面に上半身を預ける形となった。水溜りができるほどに濡れているそこにあまり触りたくないのだが、今は文句を言える余裕などない。
「わるい、せんせ」
そろそろと首を捻って後ろを見た。相澤がどんな顔をしているのか知りたい。怒っていないか、不安になる。
そして。
「っ!」
目が合った男の顔にドクリと心臓が深く深く脈打った。次いで、きゅうと締め付けられて、吐き出した息が熱い。
「そんなに見るな」
僅かに触れるだけだった肌がしっかりと触れ合って、苦く言葉を吐き出した相澤の腕に抱き締められる。密着すれば、尻に当たるタオル越しの熱い欲望だって嫌と言うほど思い知る。
(せんせぇのちんこ、勃ってる)
間違いなく勃起している。粗相にも似た潮吹きを見ても。
「怒ってないからな。寧ろ、マーキングされてるみたいで興奮する」
相澤の体や手、それからソファや床まで汚してしまったのに。許されて、興奮されて体が震える。
「せ、んせ……」
吐き出した声が掠れていた。
髪を縛っているからハッキリと見える双眸は、今にも喰われそうなくらいに欲を色濃く滲ませている。汗をかくほどに体温が上がっていて、触れている部分は火傷しそうだ。
「ばくごう」
無防備な耳に舌を這わされて、あぁと啼く。
「偉いな。いっぱい潮吹けたな。可愛かったぞ」
低音が吹き込まれただけで潮を吹いた。無様に腰を跳ねさせて、びゅく、と漏れたそれが床を汚す。
「また出たのか? 可愛いな」
「ん、だって、」

──だって、偉いだなんて、可愛いだなんて、初めて言われた。
引くことも、萎えることも、嫌な顔をすることもなく。漏らした自分に欲情して、その上褒めてくれた。

嬉しい、嬉しいと単純な脳内がそればかりで埋まっていく。
「な、せんせ、おれ、もっと出せる、から……っ」
もっとこの男に褒めてほしい。見てほしい。欲情してほしくて、求めてほしい。
は、は、と短い呼吸を吐き出す口から、だらしなく舌が出てしまう。そのまま、せんせぇ、と舌足らずに言えば食らわれた。お互い目を閉じるなんてことはせず、見つめ合ったままで一心不乱に唇を求め合う。技術よりも欲の方が優っていて、歯が当たって口の周りは唾液で汚れ、飲み込むのが間に合わないものは落ちていく。それでも相澤の舌が絡み付いてくるだけで気持ち良くてまた漏らしてしまう。自分では到底制御出来そうにない。
「なぁ、こっち、こっちもシてぇ」
キスの合間に、腰を揺らして尻たぶを相澤のペニスに擦り付ける。
「いいのか?」
「いい、洗って、準備してる」
尻たぶで感じ取れる相澤のペニスの大きさに、少し痛みが伴うかもしれないとは思うけれど。でもこのまま挿れてくれたって構わない。期待を込めてローションは仕込んでおいた。
だから早くと腰を揺すれば、すぐ目の前の相澤の目尻が優しく落ちる。
「準備してくれてたのか。ありがとうね」
「──、は……?」
潮を吹いて褒められるのは道理が分かるけれど、尻の準備をして感謝されるのは分からない。それが顔に出ていたのだろう。相澤が、だって準備するのも大変だろ、と続ける。
確かに大変で、気持ちの良いものではない、ないけれど。
「それくらいは調べたら直ぐに出てくるからな。読んで、想像するだけで俺は疲れた」
間抜けに開いた唇にもう一度キスをして、それからソファへと登るよう促される。但し今度は逆向きだ。相澤に向けて尻を突き出すようにして、爆豪は背もたれにしがみ付く。
無防備に突き出した、剥き出しの尻たぶに相澤が柔く噛み付いた。チクチクとした無精髭の感覚が擽ったくて身を捩る。
「べ、別にこんなん、普通だわ」
「お前にとっては普通かもしれんが、俺からすれば凄いことだよ。ほら、指挿れるから、痛ければちゃんと言えよ」
今度はローションを纏わせた指が尻たぶを撫でて、そのままアヌスへ。
これから先の快感を想像して口を開けているそこは、相澤から丸見えだろう。恥ずかしいと思うのに、今はもっと見てほしいという気持ちがどうしても勝る。
ソファの縁に頬を擦り寄せて、相澤の指がアヌスを撫でてくる感覚に息を詰める。
「ちゃんと息しろよ」
「……ん」
なんでそんな些細な自分の行動まで把握できるのだろうと、不思議で仕方ない。
言われた通りに大きく息を吸って、吐いて。ゆっくりと泥濘に沈んでいく指に呼吸を合わせる。
準備していると言ったのにやたらと慎重で、じれったい。もっと強引に押し広げても問題ないからと言うべきかと考えて、この男は他人のアヌスに指を入れた経験がないのだと思い出す。爆豪からしてみれば、そこは最早性器と変わりなくても、相澤からすれば立派な排泄器なのだ。おっかなびっくりといったところだろう。
ぐう、と腸壁をゆっくりと押し広げてようやっと人差し指が根元まで入る。そのタイミングで呼称を呼べば、痛いかと問われて首を横に振る。
「寧ろじれったいんだわ。もっと好き勝手してくれていい」
「はぁ? そんなわけにいくか」
「なんで」
「なんでって、……いいから、お前の好きなところ教えてくれ」
「あ? あー……もっと手前のが分かりやすいかも」
「じゃあ抜くぞ」
「ん」
ちゃんと宣言してから指が引き抜かれていく。全部抜き終わる手前で、自分の好きな部分だと教える。腹側の分かりやすいしこり。指一本でも十分に見つけることが出来るそれ。
「ここか」
言いながら控えめに刺激されて、しかしそれでも十二分に気持ちが良くて短い嬌声を上げながら何度も頷いた。
「浅い部分なら指を増やしても大丈夫そうか?」
「んっ、ん、だいじょーぶ、あっ、ん、もっと、奥も擦って、くれよ……ッ」
「分かった」
尻たぶを開いていた左手が無くなって、代わりにローションが垂らされる。先程よりも冷たいそれに体が跳ねるも、すぐに体温と混ざり合う。
冷たさは感じなくなって、今度は指二本分の圧迫感。じんわりと拡げられて、ほう、と熱い息が漏れる。前立腺を二本の指で押し潰されて、擦られ、そのまま奥深くまで侵入してくる。
「ぁ、そのまま、おく、擦って、せんせ、もっと」
自ら腰をカクカクと揺らして強請る。
「そこ、それ、ゴリゴリって、いっぱい、もっと、あっあっ、それ……っ」
ソファを強く握って、自分の弱点をさらけ出していく。奥も、手前も、抜かれる瞬間が好きなことも。
「は、あう、ああぁっ、あっ、せんせ、きもちい、また、出ちまう」
「いいよ、出して」
相澤の返事が機嫌の良いものになる。分かりやすいなと隠れて笑っていれば、ごりゅ、と音がするほどに前立腺を強く刺激される。
「ひう、や、ぁ、あ゛あ゛……ッ!」
余所事を考えていたせいで呆気なく潮を吹き、座面にどんどん溜まっていっては床まで零れる。
「せん、せ、出てる、出てるから、待って、いま、まだ、や、っく、……ア゛アァッ!」
自分の足も濡れてしまってどうしようもないのに相澤は指の動きを止めてくれず、それどころか根元まで挿し込んで教えたばかりの弱点を擦られる。指を引き抜かれるだけでも漏れてしまう。
「も、出ねぇ、から、せんせ……ッ」
過ぎた快感にそう言えば、ペニスに触れられて、ヒッ、と小さな悲鳴を上げた。
「出ない? まだ出せるだろ、ほら」
「〜〜〜っぅ、ん゛んんッ!」
するりと先端を指先で撫でられて簡単に漏らしてしまった。
あっという間に熟知されているのが悔しくて唇を結んだが、再度ナカを弄られて呆気なくドライオーガズムを迎える。
ようやっと動きを止めてくれた時には自分の力では尻を持ち上げることが出来ず、ずるりと一気に指を引き抜かれると完全にへたり込んでしまった。
それでも、容赦なく尻たぶに押し付けられる熱い欲望の塊。先程のようにタオル越しじゃない。本物の熱。
「挿れてもいいか?」
潮を吹きながらアヌスだけでも達して、辛いはずなのに何度だって頷く。挿れてほしいに決まってる。早く、早く、と焦れる。
「そのまま挿れてもいいから」
もうスキンをヘッドボードまで取りに行かれる時間すら今は待てる気がしなかった。
だから、ナマでシたところで先生には何の問題もないからと言えば、かぶりと項を噛まれてしまう。反射的に振り払って相澤を睨み付ければ、目の前に突き出された派手な柄の新品のスキンがひとつ。手品のようだと目をぱちくりさせる。
「俺に問題がなくても、お前にはあるだろ。腹に良くないって書いてあったぞ」
あと、こういうのは問題があるない以前のことで、付けるのが当たり前です。
教師のような物言いで諭されて、ピッとスキンが入った袋の端が切られる。
「……頭固ぇの」
「何とでも言え。俺はお前の体が最優先なんだよ」

──あぁ、まただ。

相澤の言葉に心の中で首を傾げる。彼の中の最優先など、思う存分爆豪の潮吹きが見たいということだろうに。セックスの中でのリップサービスだとしても、どうしてそんな真剣な顔で言うのだろう。これじゃあまるで。まるで。

(まるで、……なんだ?)

不意に溢れた言葉に、あれ、と反対側に首を傾げた。
「爆豪、ちゃんと息しろよ。痛かったらすぐに言え」
「え、あ、あぁ、うん、わぁった」
自分は何と言いたかったのだろう。分からない。相澤のように抱いてくれる恋人などいなかったから。
少々痛くても自分でどうにかするのが当たり前で、ナカで出されたら怠い体を引き摺って自分で掻き出すのが当然で、セックスの準備をしているかどうか聞かれたことすら無い。
だって自分がするのが普通なのだから。
皆が皆そういうスタンスだったから、相澤の言動は違和感でしかない。
力が入らない体を掬い上げるように支えられて、スキン越しのペニスがアヌスに触れる。ナマではない感触が全ての疑問に答えてくれているようだけど、爆豪にはまだ分からない。
でも一足先に利口な心臓の奥底がじわ、と勝手に熱くなる。
小さな熱は一瞬にして体の末端まで広がって、内部から焼かれているようだ。想像以上に気持ちが昂ってしまって、期待に胸が高鳴る。
同時にアヌスの口を押し開けて相澤のペニスが挿入ってくる。たったそれだけで軽く達してしまって、勢いのない精液が静かに垂れていく。
「──ッ、ア゛、まっ、せんせ……!」
期待で感情が溢れ出して、でもそれが一体何の感情なのか分からずに混乱した。
悲しいわけじゃない。でも嬉しいだけじゃ足りない。楽しいとはまた違う。喜びでは追いつかない。これは何だろう。何でこんな感情が溢れてくるんだろう。今までのセックスと、何が違うのだろう。
「は、ひ、……っ、あ゛、はぁ……ッ」
待ってと言いたいのに、ゆうっくりと奥へ奥へと侵入してくるペニスが気持ち良くて口が上手く回らない。また精液が垂れる。
ガクガクと下肢が全部震えて使い物にならなくてまたへたり込んでいってしまう。相澤の大きな両手が腰を掴んでもう逃げられない。
そのまま根元までみっちりと嵌められて、声にならない嬌声を上げて、柔く勃起しているペニスから潮を吹き出した。ばしゃ、とソファが濡れていく音を聞きながら体が二、三度痙攣した。腸壁が蠢いて勝手に相澤のペニスに絡みつく。
「ぁ、……あ、あ゛うっ……あ、あ゛ぁ……」
奥まで挿れられただけで潮を吹いたことも、達したこともなかった爆豪の頭の中は恐慌状態である。
何を理解しようにも、何を考えていいかが分からない。ただただ、相澤のペニスが気持ちいいと、それだけ。もっと、もっと気持ち良くなりたい。
「大丈夫か」
急激に締め付けたせいか、相澤の声が低く苦しそうだ。力を抜いて、大丈夫だと言わなければ。そう思っても上手くいかず、それどころか相澤の声に欲が煽られて潮が漏れるのが止まらない。
「はっ、すげぇな、お前、ずっと漏らしてる」
可愛い、可愛いな、気持ちいいか?
後ろから耳を食べられて舌をねじ込まれる。ぐちゅりと直接脳内に水音が響いてまた漏れた。息も絶え絶えに相澤を呼んで、もう一度気持ちいいかと問われて何度も頷く。気持ちが良すぎて、訳が分からないくらいに気持ちいい。何度だってイけそうだ。
「きもち、きもちい、せんせーの、ちんこはいってんの、すげぇ、も、おれ、なんかいも、いって、くるし……っ」
「でもまだハメただけだぞ? 今からゆっくり抜いて、お前が好きなところ何回も突いて」
「──ァ゛ッ!」
「っ、……想像しただけでまたイッたのか?」
「ん゛ん、も、むりぃ……! せんせ、喋んな、ぁ……っ」
「お前の反応がいいからつい意地悪したくなるんだよ」
「くそ、がぁっ!」
相澤に言われた通りまた漏らして、情けなく足を震わせて首を横に振った。
でも、相澤は機嫌のいい声を出すだけでやめてくれる気はない。宣言通りゆうっくりと引き抜かれて、カリ首が腸壁を擦る度に神経を直接逆撫でされている気分だ。もういつ絶頂を迎えているかすら分からない。ずっと上り詰めたままで下りていけない。そんな暇がない。
「ぁああああッ! イッ、ぁ、イく、イッてるから、まっ……っあ、がっ…ぁ゛……ッ!」
びくびくと不規則に跳ね上がってはへたり込んで、その度に腰を半ば強制的に安定させた相澤が段々とピストンを早めていく。ナカに仕込んでいたローションと、追加されたローションが混ざり合って、相澤のペニスに攪拌されて泡立っていく。腹の中ではしたない音がずっと響いている。
「痛くないか?」
「ん゛っ、うん、うん、きもちい、またでる、でる……ッふう゛、う゛うっ」
「ッ、ナカ凄いな、ずっと痙攣してるぞ、分かるか?」
「ひっ、ああっ、あああッ、わ、わかん、な、あっあっ、それ、やぁ、やだ、いやだ、ぁっ!」
「あぁ、ここだろ。お前がさっきいい子に教えてくれたもんな」
「〜〜〜っ!! ……っは、ぁ゛…………ッ!!」
相澤に褒められるたびにドライオーガズムの波に飲まれて、一拍置いてからちょろちょろと潮が溢れる。
目を開けているのか閉じているのかも分からないくらいに視界の明暗が忙しく、涙も涎も拭う暇がない。いつの間にか縁の部分まで濡れて汚れてしまった。
これ以上ソファにしがみつくのも困難でずりずりと落ちていけば、勢いよく相澤のペニスが引き抜かれて上擦った嬌声が上がる。
「ベッド行くか、爆豪」
あっちも汚しても平気だから。
言われて、ふっくらと膨れているアヌスの縁にスキン越しの亀頭を何度も擦り付けられる。そのペニスに突き上げられる気持ち良さを知っているアヌスがはしたなく口を開けるが、それすらも可愛いと言われて爆豪は小さく喘ぎながら頷いた。
「よし、じゃあ掴まれ。ほら、こっち」
腕を取られて引っ張られ、正面から抱き上げられる。力の入らない足ごと抱えられて腰に回すように促される。全身を委ねていればベッドへと運ばれ、あっさりとした匂いのシーツに寝転がれば体が楽になった。
「もう少し付き合ってくれるか?」
「ん」
「ありがとね」
上から覆いかぶさってきた相澤の逞しい体に抱きすくめられて、眦や口元をべろりと舐められる。頭を撫でられて、耳を擽られ、足を持ち上げられる。手伝うように自分の足は自分で持てば、少し驚いた顔をして、でもすぐに優しい顔で「いい子だ」と褒めてくれた。
嬉しい、と柄にもなくへらりと笑う。すると、目が合った相澤が変な顔をして、顔を手で押さえて唸っている。なにしてんだ、とまた笑う。
「挿れるぞ」
何度か深呼吸した相澤に声を掛けられて頷く。
「っ、はよ……!」
はくはくと口を開けて、白濁したローションを垂れ流しているアヌスに再びペニスが宛がわれる。スキン越しでも十二分に感じることが出来る熱を早く奥まで挿れて欲しくて急かす。
先にも言ったように乱暴にしてくれたって切れやしないのに、凶悪な形に張り出したカリ首辺りまでを浅く出し入れされて、それからやっと奥まで入ってくる。
しかし、気を遣ってくれているようで、きっちりと前立腺を押し上げてくるあたり、やっぱり意地が悪い。
「──っ…は、ァ゛、アアッ!」
一度奥まで嵌め込み、入り口と内部の柔らかさを確認したのだろう。そのあとはガツガツと腰を打ち付けてくる。奥の襞を擦られて、結腸の入り口に亀頭でキスをされ、そうかと思えば引き抜かれて重点的に前立腺や精嚢辺りを突き上げられる。気持ちいい、気持ちいいとそればかりだ。
「あっ、あ゛あっ……、そこ、それだめ、んっ、せんせぇ……っ、あ゛ああぁあっ!」
「こっち? この体勢だったら浅いところが好き?」
「……っ、すき、すき、そこ、あっ、あん、ん゛ん゛っ……!」
「あー……偉いな、また出たぞ。このまま奥までハメても出せるか?」
「ヒィッ!? ま、……あ゛あ゛ああぁああッ、で、たばっか、だから、せん……ッ、ひ、あ゛、ああぁあっ……」
「ふ、出来たな、偉いよ」
「〜〜〜ッ、あ゛っ……!! また、で、る……ッ!!」
跳ね上がった足が空を蹴って、顔を背中も仰け反って身悶える。潮が尿道を駆け上る刺激だけでも達している気がするが理解が出来ずに喘ぐだけだ。
皮膚も粘膜も全部が過敏になっているのに、相澤の手が胸へと伸びてくる。爆豪が好きなように揉みしだかれて、今度は焦らすことなく乳首を苛められる。痛いくらいに引っ張られたせいで、アヌスをぎゅうと締め付けて少量の精液も垂らした。
「──っん、ぁ゛ああっ! いま、びんか、ん、なってっから、ァ……ッ」
「でも好きなんだろ? ちゃんと両方揉んでやるからな」
「やっ、いやだ、やだやだ、……ッ、く、う、ん゛んんっ!」
首を思いっきり横に振って、髪の毛が当たったシーツがパタパタと音を立てる。でも、それくらいでは相澤からもたらされる快楽を逃すことなど無理だ。追い詰めるように腸壁を太いペニスでゴリゴリと抉られて、縮こまっている自身のペニスからはずっと潮が漏れていて止まらない。
絶頂を迎え過ぎた心臓は完全にオーバーワークで、熱が篭り過ぎてクラクラと眩む。もう何がなんだか分からなくて涙が止まらない。
「せんせ、せんせ、ぇ……」
目が回りそうになっているのが分かったのか、相澤の動きが止まった。
「すまん、ヤり過ぎた。大丈夫か」
爆豪は、自分の足を持っていられなくて手がずり落ちる。指の一本だって自分の思うように動かない。
涙も鼻水も唾液も拭うことが出来なくて、きっと酷い顔をしている。なのに相澤はうっとりと目を細めて全部を綺麗に舐めとっていく。首や肩に滲んでいる汗も舐められて、耳元で何度も名前を呼ばれて、頭を撫でられる。前髪を持ち上げられるように撫でられて、露わになった額にはキスを。慣れないスキンシップはむず痒い。
「…ぁ、あ、あっ、はあ、あ……は、ぁ゛……っ」
いっぱいいっぱいの爆豪を気遣って動くのを止めたせいか、ナカに入ったままのペニスがビクビクと震えている。
(せんせ、も、きもちよくなりてぇのに、がまん、してくれてる)
潮を吹いても怒らなくて、寧ろ興奮してくれて。爆豪が気持ちいいところをわかろうとしてくれて、話を聞いてくれて。セックスの準備をしているだけで感謝された。体を気遣ってスキンをつけてくれた。キャパを超えてしまったら休憩してくれた。
本当に何から何まで違和感しかなくて、これは夢なんかじゃないかと思ってしまう。
「せんせ」
芯のない声で呼べば、相澤の体が落ちてくる。どうにか腕を持ち上げて、彼の髪を縛るゴムに指を引っ掛けた。
「ばくごう?」
傷んだ髪の毛が顔に被さってきて、くすぐったいのにそのままでいたかった。目の前にいるのが相澤だと確信が持てるから。
肩口に顔を擦り寄せて、背中に腕を回す。同じように相澤の腕が体に絡みついてくる。お互いの体温が入り混じって、同じ熱さになっていく。
熱を分かち合って、鼓動を共有して、何かから守られるように抱きすくめられる。
(まるで、)

──心底、大事にされているようだ。

今までに経験したセックスからかけ離れている言葉が、ふっと頭の中に降りてきて。それが存外しっくりきた。
大事にされている。大事にされているのだ、相澤に。これ以上ないほどに大事に、大切に抱かれている。
そして、それが。

(しあわせ、……だって、思っちまってんのか、俺ァ……)

正解だとでも言わんばかりに心臓がひとつ大きく鼓動を打つ。
同時に、相澤にも幸せを感じている自分と同じくらい気持ち良くなってほしいと考えた。
「せんせ、も、おれ、だいじょーぶ、だから」
ちょっと休憩すれば落ち着いたと、自ら密着したままで腰を揺する。それだけでアヌスからぐちゃぐちゃと淫靡な音が鳴り、再び息を荒げながら小刻みに締め付ける。そうすると相澤が、うっと唸った。
「な、もっかい、突いて、せんせぇがシたいように、──……つうか、先生の本気のセックス教えてくれよ」
長い髪の毛を掻き分けて、薄い耳に舌を這わせる。なぁせーんせ、と熱っぽい声を吹き込んだのは、勿論わざとだ。
「自分で腰揺すってんのじゃ足んねぇ。さっきみてぇに奥までゴツゴツ突いてほしい」
ケツん中全部気持ち良かったから、と続ければ、グルと相澤の喉が鳴った。
そして。
「────ッ、ァア゛♡」
ぎゅうと体に絡みついた腕はそのままに、ガツン、と大きく穿たれた。
しかし強く抱きしめられているために衝撃を逃す余地もなく、爆豪は唯一自由に動く首を仰け反らせるだけで終わる。そのままパンッと大きな音がするほどにピストンされる。
「アアッ、ひぃ、あ♡ア゛アアァア──ッ♡ハッ、ぁ、んぐ、ぅ、ぁあ、あっぁあああ♡♡」
びゅく、と性懲りもなくまた漏れた。それでも相澤の動きが止まることなく、何度も何度も最奥まで亀頭が入り込んでくる。耳を塞ぎたくなるほどにはしたない音がするのは、ローションなのか自らの体液なのかは知らない。
ただ、相澤の荒い息がまるで獣のようで、自分の体で気持ち良くなってくれているのはどうしようもなく嬉しかった。
「ひっ、ぐ、あぁっ、イっ、イク、おれ、イッ……♡」
突き上げられる快感だけでアヌスで達し、それでも終わらないピストンに打ち震えながらも受け止める。
「はぁ、は、ぁっ♡すげ、ちんこ、おくまで、はいってんの、きもちい、ぃ……ッ♡♡あ、それ、もっと、アッ♡アッ♡」
大事にされていることを理解しているから、相澤本位で犯されることが気持ちいい。ナカは敏感になっていて、擦られるだけで達してしまうのに相澤のペニスにしゃぶりついてしまう。きっと今自分が自由に動くことが出来たなら、じれったいスキンなど引き抜いているかもしれない。
「ばくごう、ばくごう」
余裕のない声で呼ばれるのが心地いい。返事をする代わりにアヌスを締めて相澤のペニスにキスをする。
「っ、ばく、ご」
密着していた相澤の体が離れていく。上半身を起こして距離を取った彼の顔を見れば興奮していることをひしひしと感じた。眉根を寄せて、懸命に快楽を堪えている顔が男くさくて、背中がゾクゾクと震えた。知らず、口元が緩む。とろんと目が蕩ける。
更に。
「こっち、まだ出るか……? 見たい、お前が漏らしてるところ、見ながら、イきたい」
「〜〜〜っぁ゛♡♡」
などと求められてしまって、軽くイッてしまった。そんな言い方は、狡い。全力で叶えたくなる。
熱い手の平でぐっしょりと濡れた上半身を撫で回されて、乳首を弾かれる。そのまま手が下へと降りて、無意識に跳ねる腰を両手で捕らえられた。爆豪は大きく頷きながら、自身のペニスを掴む。硬度などない、柔いそれの亀頭に手の平を当てる。
「出せる、出るから、ちゃんと見て、おれが、漏らしてんの、見て、くれよ……♡♡」
言って、敏感になっているそこを自ら刺激する。過ぎた快楽は辛いのにもうどうだっていい。今は相澤の期待に応えたくて、腸壁を擦られる度にアヌスだけで絶頂を迎えても手は止めない。すると、ぷし、と音を立ててまた潮が漏れ始めた。
「あ゛ーっ♡♡きもち、せんせぇのちんこ♡先っぽも、ぜんぶ……っ♡♡なぁ見て、せんせっ」
「見てるよ、かわいい、ばくごう」
「──んぐ、うううっ♡♡は、あう、あっ♡あっ♡漏れ、漏れんの、止まんねぇ……♡♡イく、イく、潮、出して、またイッちまうっ♡♡」
腰が暴れるように跳ねるのを押さえつけられても止められない。息が止まるほどの長い絶頂を味わって、それでも懸命に亀頭に触れる。
「あ゛、ああっあぁあ♡♡またイ、……っひ、ぐぅう、がっ、あぁ……ッ♡♡♡」
これ以上ないほどに声を張り上げて達しているのに、更に相澤のピストンが激しいものになっていく。息が荒くて、こちらを見下ろしてくる夜色の目の中にチラチラと赤が混じる。
「せんせ、せんせっ、ナカ、に出して、いっぱいイッて、ほし……っ♡」
「ッ、く、ぁ……!」
「アッ♡すげ、ちんこ、かてぇの、きもちい、アッ、ああっ、は、う、あ゛あ゛ぁ♡♡」
とうとう手はペニスを握るだけで精一杯になってしまって、しかし心配する余地もなく壊れたように漏らし続けていた。そして再び相澤の体が落ちてきて、息が出来なくなるほどに強く抱きしめられた。
「イく、またイく、……ッ、ひ、あ゛ぁあ──ッ♡♡♡」
何もかもが相澤で埋め尽くされた小さな世界でいっそう深い絶頂を迎えれば、最奥で相澤のペニスが大きく跳ねた。
次いで、スキン越しにドクドクと脈打つような感覚。
耳元では相澤が息を荒くして、気持ち良さそうな声を出している。それだけで全部が満たされた。
「ぁ、は、ぁあ……♡」

──幸せかもしれない、ではなく、幸せだ。

「せ、んせ……」



終わってしまったことに、寂しいと思って泣きそうになってしまうくらいには。



***



随分と深く眠ってしまっていたらしく、起きたら何もかもの景色が変わっていた。
「…………せ、」
ただ、隣には相澤が居てくれていたのでベッドに沈んだ顔を持ち上げて名前を呼ぼうとした。だが、掠れてしまって声が出ない。んん、と軽く咳き込めばキャップの空いたペットボトルを渡される。
「今開けたばかりだ。飲んでいい。起きられるか?」
相澤に支えられるようにして体を起こし、新品のペットボトルに口をつけた。カラカラに渇いていた喉に水が優しく浸透していく。そのまま末端まで流れ込んでいくようだ。
結局殆どを飲み切って、相澤の手に帰る頃には随分と軽くなってしまっていた。
そして。
「……ここ、どこだ」
上手く機能するようになった喉で一番初めに聞いたのは、見覚えのない部屋のことだ。
相澤とセックスをしたのは間違いなく安っぽく、古びたラブホテルだったはずなのに、視界に広がる部屋はまだ真新しい。ブラウンやアイボリーで統一されている部屋はいやらしさを感じず、並べられている色鮮やかな大人の玩具はオブジェに見えてしまう。
「昨日のホテルの隣にもうひとつホテルがあったの知ってるか?」
「ん」
「そこなんだよ。オーナーが同じなんだ。あっちは古いからもう取り壊すんだとよ」
「……だから、何の問題もないって」
「そう。……まぁこっちのホテルでも問題は無いんだろうけどな。お前が気にするだろ」
確かにこんな新品のベッドやソファで漏らすのは気が引ける。全てを許されたからと昨日は無茶をし過ぎた。そこまで考えて一切の不快感がない体に、相澤が面倒を見てくれたのだと気付いた。
「体、拭いてくれたんか」
ありがとう、と小さな小さな声で言えば、相澤の目が丸くなる。
「……ンだよ」
礼を言うのがそんなに珍しいかと、僅かに怒りを滲ませれば慌てて首を振る。
「違うよ。……あー、なんというか、お前、やっぱり無意識か、あれ」
「あ?」
何が、と聞けば、一緒にお風呂に入ったんだよと言われて驚いた。そんな記憶は一切ない。
「体を拭くくらいにしようと思ったんだけどな、その、離れたら、お前が泣いて、」
「ハァ!?」
腰や股関節が痛いのをすっかり忘れて相澤に詰め寄った。これが違う誰かなら騙されたとでも思うのだけれど、相手は相澤だ。そんな嘘を吐くとは思えない。
「勿論、あれ以上は手を出してないからな! ただ本当にちょっとでも離れると泣くし、無理やり寝かせようとすれば先生は俺が嫌いかとか聞いてくるしで、」
「〜〜〜っ、ざけんな!」
そんな言動、深く酔っ払った時ですらしていないと言うのに!
嘘ではないと思うが本当とも思えない話に顔も体も真っ赤にしてしまう。
「すまん。セックスしたから一時的に懐いてくれてるんだと思って止めなかった」
「…………いや、アンタは悪くねぇ」
悪いのはセックスのときに感じた幸せを引き摺って甘えた自分だ。
よくよく考えれば自分が勝手に大事にされたことに関して幸せを感じていただけで、相澤にとっては普段と何も変わらないセックスだったに違いない。
元々、何だかんだと甘い男なのだ。ヒーローに教師という職業柄というのもあるかもしれない。彼は誰にでも厳しく甘く優しいから、爆豪にもそうしただけ。
受け持っている生徒たちを誰一人特別扱いしなかったように、相澤が抱いた過去の女たちと大して差はない。
分かっているくせに、ほんの少し心が痛かった。そして、痛む心に驚いた。
「──じゃあ、そろそろ帰るわ」
「えっ」
いっそ、さっさと帰って終わらせてしまおうと、ベッドを降りようとすれば相澤に腕を掴まれた。
「なんだよ」
「あ、いや、その、」
煮え切らない答えに眉を寄せ、腕を振り払ってやろうかと思ったけれどビクともしなかった。昔から力が強いとは思っていたが、今でも力負けすると言う事実に頭の隅で新たな筋トレメニューを確立していく。
そして、暫く無言の時間が過ぎて、相澤の手が離れた。
「……すまん、何でもない」
「……あ、そ」
何でもないのかと、僅かに期待していた心が萎んでいく。そして今度こそベッドから下りようとすれば、また腕を掴まれた。
ゆっくりと振り返って静かに相澤を睨めば、すまん、と謝られるだけで何も進展がない。
「何か言いたいことでもあるんか」
あってくれればいい、という期待を込めてそう聞いた。
こうも帰ることを止められてしまっては、帰したくないと言われている気分になる。
「ある、……ある、が」

今言うと嘘っぽく思われそうで言えない。

続いた言葉に、期待が膨れ上がってしまった。風船のように膨らんで、色や形がなんとも可愛らしいものになる。
だから、思わず。
「なぁ先生。昨日なんて答えたんだよ」
と、聞いた。
昨日意識が混濁している自分に。無理やり寝かそうとしたら泣いた自分に。
「先生は、俺が嫌いか」
「嫌いじゃない、──……ただ、それも今は言うべきではないんじゃないかとは思っている」
「今はそれで十分だわ」
それだけで、急いで帰る理由はなくなった。
帰ろうとした体でベッドの中に戻り、相澤にも布団に入るように促した。
「俺もアンタのこと、嫌いじゃねぇ。……でも、それ以上を今言うにはまだ早ぇ気がする」

だからここでひとつ提案。今度また違う日に。
「こっちの新しいホテルで抱いてくれよ」
もう一度肌を合わせたその後で、ゆっくり告白したって遅くはないと思うのだ。

「俺が潮吹いてイッちまうとこ、気に入ったんだろ?」
「当たり前だ」
最高だった、と言われて、機嫌のいい顔で笑った。
まだ絶対的な特別にはなれていなくても、相澤の中で一位にはなれたらしい。


ザマァミロ、と勝ち誇った顔で過去の女たちに中指を立て、爆豪は相澤の体に甘えるように擦り寄った。

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