さよなら、初恋【前編】

1.


自分よりも随分と年下の子どもの箸遣いはとても綺麗で丁寧で、あぁ大事に育ててもらったんだなと酒に侵食された脳でのんびりと考えた。
一見難しく思える鯵の開きはあっという間に骨を取り除かれて、ほぐされて、ふわふわとした身が大きく開いた口の中へと入っていく。淀みのない動きは見ているだけで楽しい。
「なぁ聞いてんのかよ」
「あ、うん、聞いてるよ」
箸遣いをずっと見ていたら顔を覗き込まれた。相澤は条件反射で頷いたが、正直なところ全然聞いてなかった。今は何の話をしていたんだったか。思い出そうにも周りが煩すぎて思考回路が纏まらない。これだから人数の多い飲み会や慰労会は苦手なのだ。
「じゃあいいんだよな?」
「うん、いいよ」
「本当だな?」
「うん」
うんうんと頷きながらも、まだ何の話だったか思い出せない。誤魔化すように残ったビールに手を伸ばしていっそう酔っ払っていく。今夜は少し飲み過ぎてしまった。頭が重たくフラフラしているのが自分でも分かる。
隣に座っている箸遣いが上手な子ども――爆豪勝己は眉を寄せて訝しんでいる。
アンタ本当の本当に話聞いてたんだろうなと目が訴えてくるので、ぐっと親指を立てて応えれば、吹き出すように笑った。あ、その顔は可愛い。
「今更いやだっつっても遅いからな。それ飲み終わったら出ようぜ」
「うんうん」
あぁやっぱり思い出せない。自分と同期であるプレゼント・マイクがどうのこうの言われた気がするけれど、当の本人は席が遠く離れていて確認しようがない。
相澤は爆豪に言われるがままビールを飲み干していく。爆豪は黙々と鯵の開きを食べていく。
今夜は、テンションが高め、声が大きめのヒーローが揃っているからか、わあわあと騒がしい飲み会はまだまだ終わらなさそうだ。酔っ払いどもによる、もう何度目か分からない大量注文に店員は振り回されている。
ビールはあと少しで終わる。今度はスッキリした味わいのお酒が欲しいなと考えて、大量注文に便乗すべく、落ちているメニュー表に手を伸ばした。薄っぺらなメニュー表はちょうど爆豪の向こう側にあって、自然と彼と距離を縮める形になる。
すると。
「ンだよ、大人しく待てねぇのかよ」
「うん?」
「しゃーねぇなぁ。じゃあ行くか」
「ん? んん?」
自分が距離を詰めたせいで近くなった爆豪の顔が、こちらをジッと見てくる。それからメニュー表を掴むはずだった手を取られてしまった。相澤はやっぱり爆豪が何の話をしているか分からないまま、でも抵抗する力もなく、流れに身を任せる感じで立ち上がって出口へと引っ張られていく。酔った足が縺れそうになっているにも関わらず、爆豪はさっさと先を行く。
それを目敏く見つけたのは上鳴である。
「あれ、爆豪と相澤先生帰んの? つーか、なに? 珍しい組み合わせじゃね?」
うん、俺もそう思う。相澤が返事をするより前に爆豪は「俺らの分も払っとけ」とだけ言って足を止めない。転がっている酔っ払いを飛び越えて、制止する上鳴の声も無視。
「ハァ⁉ ちょ、ちょっと待って、かっちゃん!」
「じゃ、お疲れっした」
右手には相澤の腕。左手にはバックパックと変装用の帽子。爆豪はあっさりと軽く頭を下げて店を出ていく。捕まっている相澤は誰にも挨拶などする暇なく、転げるようにしてついて行くのみ。辛うじて履くことが出来た靴は踵を潰してしまった。
「うわ、さむい」
外に出れば、酔った体には風が冷た過ぎて驚いた。もう完全に冬だな、と寒さで少しだけ酔いが醒めた頭で考えて、ハッとする。唐突に、爆豪と何の話をしていたかを思い出したのだ。
「せんせぇ、ラブホって近けりゃ何処でもいいんか? こだわりとかあんの?」


――俺とセックスしてみようぜ、と誘われていたのだ。


* * *


爆豪が突拍子もなく相澤のことを誘ってきた発端は、プレゼント・マイクの一言。
元々爆豪が座っていたテーブルでの話題が所謂下ネタで、酔っぱらって調子に乗ったマイクが爆豪や上鳴のいる前で相澤の話をしたようだ。
『お前ら知ってるか? あのイレイザーヘッドのとんでもねぇ秘密を』
色素の薄い肌を赤くして、ニヤニヤと笑いながら口元に人差し指を当てる。敵の鼓膜を容赦なく劈くヴォイスは、嘘のように鳴りを潜める。
大体、あの男が静かな時は碌なことにならないのだ。
その場に相澤がいたなら危機を察知して、何処からともなく取り出した捕縛布で縛り上げて転がすのだが。残念ながら席が離れていたために察することは出来ず、自由なマイクは小声で秘密を一つ投下した。
そして、その恥ずかし過ぎる爆弾を持って爆豪は相澤の隣へとやって来たのだ。にんまりと笑う顔はクソガキそのものだったこともしっかりと思い出した。
「――なぁ先生。アンタのちんこがデカ過ぎて、全部入った女がいねぇって本当かよ」
この瞬間、マイクはあとでぶん殴ると決めた。



ラブホテルというには随分とシンプルな色合いで、小綺麗な部屋のベッドに寝転がされたまま、相澤はこうなった経緯を思い出していた。
目の前には爆豪がいて、ちゅうちゅうと音を立てて唇や頬にキスをしてくる。
ラブホテルで酔った大人が二人、ベッドの上で絡み合う。という状況には似合わない、あまりにも可愛らしいキスの連続だ。子猫にでも舐められて戯れつかれている気分である。
(……へたくそ)
そう思うけれど、こちらから手を出すつもりはない。
ベッドに転がされてしまったら急激に体が重たくなった。動ける気がしない。瞼が重くて今にも眠れそうだ。気遣うような重みも体温も心地いい。今眠ったのなら、随分といい夢が見られるだろう。
相澤に忍び寄る睡魔には気付いていないのか、爆豪のキスは止まらない。長い前髪を邪魔だと言わんばかりに払って、おでこ、こめかみ、目尻、傷と唇を寄せてくる。
(昔、マイクに相談した俺が馬鹿だったんだ。もう十五年以上経ってんのに、未だにネタにしやがって)
しかも、元教え子にまで暴露するなんて信じられない。
次に顔を合わせたら早々にヴォイスを抹消して裏庭の木に吊るしてやろう。ついでに虫が好きそうな芳香剤でも頭から振りかけてやろうか。今回ばかりは「ソーリー!」だけでは済ませない。眠い頭で復讐を淡々と思い描いていく。
――せめて、これがマイクの吐いた嘘ならば、その場で即座に否定することが出来た。
だが、紛れもなく本当の話なのでどうにも言い訳が出来ない。爆豪に声を掛けられて対応が遅れたのはそのせいだ。爆豪が明け透けな言葉で言っていた通り、相澤は自身のペニスを根元まできっちりと挿入したことがない。何なら自分本位に腰を振って快感を貪ったこともない。
過去に何人か付き合ってセックスをしたことも、大人の付き合いで所謂プロの女性とセックスもしたこともあるけれど、その全員から途中でストップを突きつけられた。痛い、お腹が苦しい、怖い。決まって皆そう言うのだ。まるで台本でもあるかのように。小柄な子が多かった、というのも上手くいかなかった原因のひとつかもしれない。
だからいつの間にかすっかり諦めてしまって、セックスをするにも半分程度しかいれなくなった。動かすのもゆっくりと、相手に気を遣って、痛がる素振りがあればすぐに止めて。
よく考えたら、挿れたままで射精したことなどないかもしれない。
当然、そんなことが何度も繰り返されていればセックス自体が嫌になる。面倒になる。だから今では専ら、自らで処理をする程度。
ヒーロー業以外に教師という職が追加されてからは忙殺されていて、捜査関係以外でラブホテルに来たのは数年ぶりだ。――そうか、年単位で間が開けば、昔と違って現代風にお洒落で清潔感のあるものになっていてもおかしくないのか。
時代の流れというのは相澤が思っている以上に早いものらしい。すっかり若者についていけていない年寄りである。
相澤は呑気に欠伸をして、とうとう目を閉じた。すると、むうと不機嫌な音が聞こえた。
「キスしてんのに欠伸してんじゃねぇわ、空気の読めねぇおっさんだな」
「ん? ……あぁ、そうだった、悪い」
「そうだったって、アンタなめてんのか」
「なめてないよ」
ただ眠いし、ヤる気がないだけで。
怒られるのが嫌なので後半は伝えることなく胸の奥に仕舞う。
どんなに酔っていても、どんなに俺なら大丈夫だからと誘われても、元教え子とセックスするなんて以ての外。それに、男のペニスを受け入れられるようになっていない尻に入るなんて思っていない。どうせまたいつものように「やっぱり無理」と言われて終わるのだ。
「む」
言葉にせずとも爆豪は色々と察したのだろう。今度は分かりやすく唸ってみせた。折角整った顔をしているのにも関わらず、それを不機嫌に歪めて、目をつり上げて、相澤の上でガルガルと肉食獣のように喉を鳴らす。
(あ、しまった。爆豪に対して今のはまずかった)
気付いたところで、時すでに遅し。
やっぱり酔った頭では冷静に判断が出来ない。完全に負けず嫌いな心に火がついてしまった爆豪は、しな垂れるようにすり寄せてきていた体を起こして服を脱ぎ始めた。薄手のセーターも、アンダーシャツも。それからベルトを遠くに投げ捨てて、ボトムスも脱いだ。
「爆豪、脱ぐと寒いぞ」
「寒くねぇわ! ちったァ空気読む努力しやがれ!」
残りは下着一枚である。シンプルな黒のそれは、白い肌によく映える。
爆豪の体を見たのは雄英高校在学時の着替え以来で、当然ながらその時とは体付きが変わっていた。勿論、昔からよく鍛えられてはいたが、今のほうが張りがいい。良い歳の取り方をしている、と無意識に右手を伸ばしたら、それをヤる気と捉えたらしい。爆豪が勝気にニヤリと笑った。だめだ、さっきからやることなすこと、全てが裏目に出ている。
「ンだよ、興味あんのかよ」
「それはそっくりそのままお前に返すよ」
「そりゃそうか」
伸ばしかけて宙に浮いたままの手を取られた。そのままペニスでも握らされたらどうしようかと焦ったけれど、流石にそうではなかった。
取られた右手は均等の取れた美しい腹筋へ。手入れでもしているのか、肌は瑞々しく乾いた相澤の手の平にすっと馴染んだ。自分の肌とは全然違う。十五という年齢差を感じる。
凹凸のひとつひとつを手の平で感じて、そこが終われば脇腹。腰骨。上へと方向を変えてふっくらとした胸筋へ。
「おっ」
思わず声が出た。
「せんせぇのえっち」
にしし、と悪戯っ子が笑う。
反対の手も取られて両手でそこを包み込む。武骨で大きな手で、下から掬いあげるような形で胸を揉む。凡そ男のものとは思えないくらいに柔らかく触感がいい。おおこれは、と素直に感動した。
「気に入ったんか」
気付いた時には爆豪の手に力は入っていなかった。添えられているだけである。
つまり、今胸の形が変わるくらい揉んでいるのは相澤だけの意思ということになる。気付いてしまっても手は止まらない。ただ認めるのは嫌で返事はしないまま。
「……は、」
短く、爆豪が熱い息を吐いた。
ずっと揉んでいれば徐々に肌の温度が上がっていく。血行が良くなったのか胸のあたりが色付いて見える。相澤よりも随分と白く若い肌に薄い桃色が混じり、手の平越しに乳首が主張してきていることも分かる。
「ヤる気になったかよ」
「んんー……」
触り心地はいいし、色付いた肌も申し分ない。けれど、それとヤる気は別問題。これだけで勃起してしまうほど若くはないし、即物的でもない。
胸から手を離さないわりに、いい返事をしなかった曖昧な相澤の態度に爆豪の目が更につり上がる。自由にさせてくれていた手を摘まれてポイっと捨てられてしまう。柔らかな胸が遠くなっていく。あ、それは寂しいじゃないか、酷いヤツ。
「まどろっこしいのは好きじゃねぇんだわ。こうなりゃ実力行使だ」
下着一枚の爆豪が降りたと思えば、足の間に入り込んできた。わざとらしく顔を低くして、腰を上げて、背中をしなやかに反る。挑発的に笑う顔を埋めた先は、当然のように相澤の股座。
ボトムスどころか、ベルトすら乱していないそこにキスをする。
二度、三度とキスをして、少しも勃起していないことを確認したのだろう。チッと色気も何もない舌打ちがひとつ。
「本気でやるつもりか?」
「だから! 最初っからヤるっつってんでだろうが!」
「いや、うん、そうだけど」
ガチャガチャ、と乱暴な音がしてベルトが引き抜かれていく。止めようかとも思ったけれどやめた。もういっそ現実を見せつけてしまえばいい。
もしも、ただ酔った延長で相澤に手を出したのならば、流石に男のペニスを見れば生々しさに興が削がれるだろう。男とすることに慣れていて問題ないと言っても、簡単に挿入なんて出来そうにない大きさにセックスを辞退するだろう。所詮、爆豪とは男同士だ。たかがペニスを見られたからって恥ずかしがる相手でもないし、減るものでもない。
逃げることもなければ拒否もしない。まな板の上の魚状態の相澤に好都合だと爆豪はボトムスを中途半端にずり下し、そして下着にも手を掛けた。
中から出てきたそれを見て、小さく声を上げるのは今度は爆豪の番だった。
「……マ、ジででけぇんだな。勃ってねぇのにこれかよ。バケモンじゃねぇか」
「うるさいよ」
独り言のように呟かれた声には純粋な驚きが混じっている。それから戸惑いも少しだけ。
相澤は、寝転がっていた上半身をゆっくりと起こした。ベッドに右肘を付いて、股座から目を逸らさない爆豪の頭を空いた手で突く。
「なぁ、もういいだろ」
「あ? いいわけあるかよ。実力行使だって言ってんだろうが」
「…………引いたんだろ」
「驚いただけだわ。アンタ、俺が出来もしねぇくせに無責任に誘うような奴だと思ってんのか?」
「思っては、ないけど……」
いやなんか少し話が違うことないか、と呆れて言う。
しかし、爆豪はそれをスルーして、容赦なく萎えたままのペニスへと顔を近付ける。煽るように根元から先端までをねっとりと舐めてみせた。久しぶり過ぎる感覚に腰が震える。息を詰まらせれば爆豪の機嫌が良くなる。
「元々ヤりてぇ気分だったから念入りに準備してきてんだよ。観念しろ。もうアンタが知ってる高校生の俺じゃねぇんだわ。……まぁ確かに想像してたよりでけぇけど、でも誘った通り全部食ってやるよ」
だから。
「ビビッてねぇでさっさと勃たせろ。そんで俺のことも満足させろ」
言って、ぱくりと亀頭を口に含まれる。ぬるりとした口腔内独特の湿り気と温度。たっぷりと唾液を含んだ舌でカリ首を何周も舐られて、そうかと思えばどんどんと飲み込まれていく。
「ッ、爆豪」
すっかり欲情した色を含んだ石榴色は相澤から目を離さない。
どれだけヤる気がなかろうと、そこまでされてしまったら勝手に欲が膨らんでいってしまうのが悲しい男の性である。しかもこっちは随分と久しぶりなのだ。当たり前だが自分の右手とは全く違う感覚に、あっという間に血液が集中していく。
「んっ」
それを口の中で感じているのだろう。ペニスの形に合わせて爆豪の口も膨らんでいく。頬が歪に押し広げられて折角の綺麗な顔が台無し。
しかし爆豪はフェラをやめない。寧ろ激しさを増していく。
血管の一本一本が張り出してゴツゴツとしている太い幹を懸命に手で扱いて、凶悪なほどに張り出したカリ首に舌を絡め、カウパーを吐き出すつるりとした亀頭を音を立てて啜る。
途中、口からペニスを引き抜いても休憩する訳じゃない。限界まで膨らんで皮膚が引き攣っている裏筋に舌を這わせ、含み切れない根元に顔を埋める。慈しむように可愛らしいキスをされて、唇で甘噛み。ローションなど不要なほどに、爆豪の濃ゆい唾液で全体がコーティングされていく。
抗う暇もなく、相澤のペニスは完全に勃起してしまった。なんだったらいつもより勃起している気がするほど。情けなくて頭を抱えた。
「はっ、ちょっとしただけで完勃ちかよ。ざまぁねぇな」
「っ、お前な、もうここまで来たら引き下がってやれないからな!? 同じ男なら分かるだろ!?」
「だから引き下がんなって」
自棄になって叫べば、往生際が悪いと叱られてしまう。
「アンタも俺も酔っぱらってて、酔ってるからムラムラしちまって、女抱きに行くのも面倒だから手っ取り早くお互いで済ませた。一夜の過ちってことでいいだろ?」
「い、いんだな……?」
「いい。ついでにタイミングよく俺はケツの洗浄を済ませてて、ビジネスホテルと思って入ったら実はラブホで、ローションもゴムも揃ってて、アンタは誰かにちんこを挿れたくて。俺は挿れられたくて。だからついうっかりヤッちまった。な? 理由なら俺がいくらでも作ってやるよ。アンタはヤりたいようにヤればいい。何も問題ねぇ」
爆豪から与えられる言い訳の数々に、判断力が著しく低下したままの頭では言い返す事が出来なくて言われるがまま頷く。いい子、と十五も年下の元教え子に褒められるのは如何せん気恥ずかしいが、再びペニスを口に含まれてしまっては言い返すことなどもう出来ない。
相澤は体の中心部分から沸き上がってくる気持ち良さを熱い吐息にして口から吐き出し、とうとう観念する。しっかりと上半身を起こして胡坐をかき、爆豪の頭を撫でた。
「もう少し奥まで咥えられるか」
「ん」
リクエストすれば爆豪は一旦口を離した。
舌を外へと放り出して最初から大きく口を開いて飲み込んでいく。えづかないように邪魔をしてくる舌がない分、すんなりと喉奥まで亀頭が到達。そこまで頑張ってくれても、まだ根元付近が残っているのだが、きゅう、と締めつけてくる喉奥の感触に箍が外れた性欲が止まることを知らない。
「手も動かせるか」
骨格的に女性よりも大きな口いっぱいに相澤のペニスを含み、自ら喉奥の壁に亀頭を擦り付けながら、入りきらない部分はゆっくりと扱かれる。
これが気持ちいいんか、と聞いてくる石榴色はうっすらと水の膜が張っていて色が深い。
「気持ちいいよ。あんまりされるとすぐに出しちまいそうだ」
「ふ、んんっ」
「だめ?」
「んっんっ」
「そうか。じゃあ出来るだけ我慢するよ」
納得したように目が細まったと思えば、頭を揺する動きが大きく深くなる。じゅるじゅるとわざとらしく音を出して、口の端や放り出した舌の先から唾液が零れるのも構わずに、一心不乱にストローク。はぁ、と短く荒い息を吐き出しながら、相澤は慌てて腹に力を籠める。
このクソガキ、と心の中で唸って、頭を撫でていた手を背中へと這わせていく。
指先だけで擽るようにして撫で、誘うように持ち上がっている尻のほうまで。途中邪魔をしてくる下着は強引にずらして生身の尻たぶを掴んだ。
「お前はどこもスベスベだな。触ってて気持ちいい」
程よく筋肉がついて引き締まっているそこは、胸や腹同様滑らかで触るだけで楽しい。というよりも、胸や腹でもあれほど魅力的だったのだからと気になっていたのだ。
相澤は両手でしっかりと揉んでいく。時折外側へと向かって引っ張れば爆豪から抗議の唸り声が上がった。
「なんだ。やりたいようにやっていいんだろ?」
「ん、ぷはっ、……アンタ急に開き直り過ぎだろうがっ」
「言い訳ならお前が作ってくれると聞いたぞ」
「だからって、……あっ、こら、ちょっと待て、って……!」
「ほう。足も腰も気持ちいいな。何か手入れしてんのか」
「っ、た、ぶん、遺伝、だわ……ッ、そんなにいうほど、なんも、して、っふ、擽ってぇから、もうやめろって……っ!」
「で、ローションはどこにあるって?」
「は、なし聞けや……! アンタの後ろの、そこ、引き出しン中……っ」
相澤は名残惜しそうに爆豪の尻をくるりと一撫でしてから、体を捻って後ろのヘッドボードに備え付けられた引き出しへと手を伸ばす。
用意されているゴムも一緒に掴んでベッドの上に転がしていれば、追い掛けるようにして爆豪が相澤のペニスに顔を近付けてくる。萎えさせないようにと気を遣ってくれているのか、何も言わずとも相澤が先程リクエストした通りに深く咥えてくれる。
ただ。
(キスもそうだが、そこまで巧いわけではないな)
爆豪の誘い方や言葉からしてもっと経験値が高いのかと思っていた。
新品のローションの封を開けて適量を手の平で温めながらそんなことを考える。視覚効果と懸命な愛撫に可愛らしく感じて興奮指数は鰻登りではあるが、技術があるかどうかで言えば微妙なラインだろう。
(……まぁ人の事をどうこう言える資格はないんだが)
こちとらまともなセックスをしたことがない人間である。これ以上は何も考えまいと邪念を払って、温まったローションが纏わりついた手で尻たぶに触れ、アヌスへと指を這わせる。
「――ぁ、せんせ、そこちゃんと解してっから、そんな触んなくていい」
「確認くらいさせろ」
「確認っつっても男とヤッたこともねぇのに分かんねぇだろうがっ! なぁ自分で挿れる前にも拡げっから、」
「いいから。じっとしてろ」
逃げようとする腰は掴んで、遠慮なく指を挿れていく。
「ヒッ……!?」
きちんと洗って準備していると言っていたし、何よりどこもかしこも綺麗な体をしている見た目のおかげで抵抗はなかった。こちら側から見ることは難しいけれど、きっと綺麗な色をしているに違いないと勝手に想像する。
アヌスは確かに爆豪が言う通り柔らかく、相澤の指の動きに従順に拡がってみせた。一本から二本に増やしても痛がる素振りは見せない。寧ろ誘うように腰が揺れるものだから恐れ入る。
男の尻の中の構造など今一つ分かっていない相澤は、反応を見ながらゆっくり、じっくりと内部を観察していく。
「……ん、ふぅ、う、……んんッ!」
指を挿れられた爆豪は最初こそ小さく声を上げていたものの、それを隠すかのように必死にフェラを続けている。声を聞く事が出来れば一番分かりやすいのだが、くぐもった声では判定がし辛い。
「痛くないか」
半分ほど埋め込んだ二本の指でナカを拡げ、ローションを継ぎ足し、指を三本に増やしてそのまま出し入れを繰り返す。元々柔らかかったアヌスは柔軟さを増し、熱を帯びてきている。
「い、たく、ねぇ……っ」
ようやっと聞こえた声は、切羽詰まっているようで、どこか蕩けていて。
そうか、と返事をしながら動かすスピードを徐々に早めていけば、慌ててペニスを口に含んだ。ぐちゅ、とか。じゅる、とか。そう言った水音が一体どちらから発せられているのか分からないほどに、きっとお互いが必死だった。――少なくとも、相澤は。
(クソッ、早く挿れてぇな)
そんな欲求は何年ぶりだろうか。今はこれしか考えられない。
相澤が爆豪の反応を見ながら指を動かしているように、どうやら爆豪もそうしているらしい。段々と要領を得てきた舌の動きに気を抜けば本当に口の中に出してしまいそうだった。挿入を目的としてセックスを始めた手前、早々に口内射精だけは避けたい。
「爆豪、そろそろ、離してくれないか」
アヌスから指を引き抜きながら、本当にイってしまいそうだと伝えれば、大人しくペニスから口を離してくれた。しかし、顔は黒々とした下生えに埋めたまま。悪戯な舌先が、チロチロと根元や睾丸を舐めてくる。
「挿れる?」
「挿れたい。……いいか?」
「ん。でも俺が挿れるからな。俺のペースでさせろ」
「わかった」
どうすればいいか聞けば、爆豪は騎乗位を望んだので再び大人しくベッドに寝転がることにした。ふわふわとした枕に後頭部を預けていれば、下着を脱いだ爆豪が乗っかってくる。今まで見えていなかった爆豪のペニスはきちんと勃起していて、分からないなりに動かしていた指でも感じてくれていたのだなとホッとした。
しかし、問題はここからである。
幾ら柔らかくなるまで解したとはいえ、挿入できるかどうか。
相澤のペニスを後ろ手で支えて、ゆっくりと自分のアヌスへと押し込んでいく爆豪をじっと見つめる。顔を俯かせているせいで表情がよく分からないのが気がかり。大丈夫だろうか、痛くないだろうか。心配している反面、もっとと焦れている自分がいる。
「……っ、ふ、はぁ……ッ」
大きく呼吸をしながら、力んだり、力を抜いたりを繰り返しながら腰を下ろしていく。
相澤が懸念している以上にスムーズに亀頭が飲み込まれて、火傷しそうなほどに熱く火照っている内部の媚肉にしゃぶられる。眉をきゅっとよせてしまうほど、吸い付いてくるように、食むように蠢いているのが気持ちいい。
「ば、くご」
大きく張り出したカリ首までずっぷりと飲み込まれたところで堪らず名前を呼んだ。すると、俯いていた顔が持ち上がって相澤を見てきた。痛がっていたらどうしようかと僅かに思い悩んでいた心が晴れるほどに、その顔はとろりと淫らに蕩けていて。
「ばくごう……ッ!」
「ん、アッ、だめ、だ、せんせぇっ!」
思わず腰を掴んで自分本位に事を進めようとしてしまい、慌てて呼ばれた呼称に我に返る。
「す、すまん、痛くなかったか」
「ん、だいじょーぶ」
でも動くのはまだだめ、と釘を刺されてしまって謝るしかない。
同時に、一瞬で理性も何もかもを壊されそうになったことに驚くばかりだ。爆豪に「先生」と呼ばれなければきっとまだ半分も収まっていない自分のペニスを強引に捻じ込んで、そのまま気が済むまで下から突き上げていただろう。危なかった、と唇を噛む。
すると爆豪の噛んだ唇に左手を伸ばしてきた。指先でするするとそこを撫でられて、次いで頬と昔の傷痕も。
「……急いで挿れたくなるくれぇに、気持ちいいんかよ」
とろとろに蕩けた表情そのままに、見たこともないくらいに嬉しそうに小首を傾げて笑っている。きゅんきゅんと小刻みに締め付けてくるアヌスはわざとなんだろうか。締め付けられる気持ちよさに浸りながら素直に頷けば「せんせいかわいい」などと言ってくる。
「可愛いわけあるか」
「んーん。かわいい。な、ちょっとサービスしてやっから、両手掴んでてくれよ」
「……こうか?」
「そ。離すなよ」
言われるがままに両手を恋人繋ぎするように掴むと、それを支えにして爆豪が両膝を立てる。
股を大きく開いて、全てを曝け出す。勃起したまま、カウパーをたらりと溢す爆豪のペニスの奥で浅黒い自分のペニスが半分ほどアヌスに埋まっているのが見えて、鼻の奥が痛くなるほどに興奮してしまう。あぁもっと挿れたい。全部、根元まで。それから爆豪の腹の中をぐちゃぐちゃに掻き混ぜたい。浅ましい欲は高まる一方である。
「ちゃんと見てろよ」
ふ、ふ、と短い呼吸のあとで腰が落ちていく。少しも硬度を落とさないペニスが未体験の深さまで埋まっていって、女性のそれとはまた違う泥濘に落ちていく。相澤は一秒だって目を逸らさずに、瞬きすら惜しいと思えるほどに必死になって見届ける。
とうとう爆豪の引き締まった尻たぶに下生えが触れるほどに飲み込まれて、ぺたりと肌が触れ合った。
「すごいな……」
無意識で言葉が溢れるくらいには驚いた。誰にも受け止めてもらえないほどに大きく膨らんだ欲望が、爆豪の小さなアヌスに全部包まれている。
視覚情報だけで腰が溶けてしまいそうだ。全身が熱くて仕方ない。ドッと音を立てて心臓が何度も深くポンプする。目の前が眩むほどの快楽と悦び。
「言った、だろ、ぜんぶ、挿れる、って」
こんな状況でも勝気に微笑むところは流石といったところだろう。しかし、どうやら苦しいのは苦しいらしく短い呼吸を繰り返しながら、まだ動くなよと言葉が続く。
「痛くないのか、本当に」
「痛くねぇよ。腹ン中は、せんせぇのちんこでいっぱい、だけどな。重てぇ感じがする」
「待て、今そういうのやめろ。勘弁してくれ」
「なんで」
「滅茶苦茶にしちまいたくなる」
「こういうの、好きなんか」
「好きらしい」
「他人事、みてぇな、言い方して」
「他人事みたいなもんだ。今お前に教わってる気分だよ、自分の好きなものを全部」
「は……?」
ぽかん、と爆豪は間抜けな顔をしてしまったけれど、実際本当のことだ。
ペニスを全部収めることの気持ち良さから始まり、気持ち良さそうな顔に理性がぶっ飛びそうになる衝動も、フェラに必死な顔を可愛いと思えるのも爆豪が初めてだ。
十五も年下の、しかも男に教えてもらうことになるとは思っていなかったけれど。
「……そ、かよ」
間抜けな顔はじわじわと赤くなっていき、そうかと思えばむずむずと口元がにやけている。珍しい表情だと見つめていれば、左手が離れて手の甲で顔を隠されてしまった。
「隠すなよ」
「るせ。……もう動くからな!」
覚悟しやがれ、と睨まれたと思えば右手も離れていく。
そして両手が相澤の腹の上へと移動し、そこを支えにして腰を上へと持ち上げる。
「っ、は、ぁ……ッ」
ゴリゴリ、と音がしそうな程にカリ首が腸壁を擦りながら引き抜かれていくのが分かる。奥深くまで嵌っている分抜くのにも時間がかかり、半分以上引き抜かれたところで、また飲み込まれていく。単純作業を繰り返しているだけなのに爆豪のペニスは呼吸に合わせてふるふると震え、大粒のカウパーを滲ませる。
「はっ、ぁ、はぁっ、ふ、く……っ」
どうやら、抜けていく感覚のほうが爆豪は好みらしい。吐息交じりの嬌声が大きくなる。
「くぅ、……ぁあっ」
何度か出し入れを繰り返していくうちに、アヌスが馴染んでくる感触が分かった。相澤のものの太さに、大きさに、長さにアヌスがぴったりと嵌っていく。徐々に自分専用のアヌスへと塗り変えている、そんな感覚。
(恐ろしい体だな)
キスは拙く、フェラの技術は微妙なラインをついてきていたくせに、アヌスは巧みに相澤の理性を抉っては快楽を押し込んでくる。丁寧にベッドメイキングされていたシーツを乱してしまうほどに強く握りしめていなければ、何もかもを持っていかれそうだ。
それに。
「せ、んせぇ、きもち、かよ……?」
この顔が駄目だ。
気持ち良さそうにだらしなく口は開いたままで、しかし、眉根を寄せて少しだけ不安を覗かせるこの顔が。
そして、相澤が頷けば随分と嬉しそうに笑って、もっと気持ち良くなってと言うように腰を揺らすのだ。こんなにも心も欲も揺さぶってくる人間に対して、なんとも思わない奴がもしいれば会ってみたい。
相澤はシーツから手を離して、淫らに揺れる腰を掴んだ。
「ばくご、もうむりだ、おれも動きたい」
「しゃあねぇなぁ」
口が縺れそうになるほどに興奮してしまっている相澤に爆豪は笑って、それからもう少しだけ我慢しろと言う。
「ばくごう……っ!」
「だいじょーぶだって。すぐ好きなようにさせてやっから、な?」
「じゃあ早く」
上体をこちらへと傾けた爆豪は切羽詰まっている相澤の頭を二度ほど撫でて、それからペニスを完全に引き抜いた。じゅぽ、とはしたない重たい音がする。
「これちょーだい」
相澤が使っていた枕を手に取り、それを持ったまま相澤に背中を向けてベッドへと転がる。
当然、つい先程まで相澤のペニスを咥えこんで、まだ口が閉じきっていないアヌスはこちらに向いている。突き出された尻が誘うように揺れる。
ふかふかとした枕に顔を預けて、体を捻るようにして相澤を見てくる。体を起こして爆豪の許可を待っている相澤は、無意識のうちにゴクリと喉を鳴らして唾を飲みこんだ。
「さっきのでアンタのちんこの形覚えたから、もう好きにしていいぜ」
深く妖しく煌く石榴色が、にんまりと挑発するように口角を上げるものだから、何を考えるよりも先に体が動いていた。
想像していた通り、嫌悪など微塵も感じさせない綺麗な色をしたアヌスにすぐにペニスを宛がった。ゴムを着けなければ、と一瞬冷静な自分が意見を述べてきたが、そんなことをする余裕などとうになく、収縮を繰り返すアヌスに誘われるがまま挿入していく。
「――ッ、んぐ、…っ、っ、……っ!」
爆豪が慌てたように枕に顔を押し付けたのを視界の端で確認したが、気遣う余裕はない。
「痛かったら、爆破でもなんでもしてくれ……ッ!」
そうでもしてくれないと止まれない、と言外に言って、半分ほど捩じ込んだペニスを更に奥まで差し込んでいく。揺れている腰を逃がすまいと力任せに掴んで、泥濘んだアヌスを奥深くまで何度も味わった。瑞々しい尻たぶに自分の肌が当たる度にパチンと音が響く。爆豪の背中も尻もうなじも赤く染まっていく。
爆破も抵抗されないのを良いことに亀頭で襞を掻き分けて、腹の奥底にキスをする。
「――……っ、ばくご、すまん……!」
口先だけで謝るばかりで止まってはやれない。そのうち内部に注がれたローションが白く濁りながらも泡立って、相澤の下生えも爆豪のアヌスも汚す。粘りのある水音は止まることを知らずに音を重くしていく。
初めて、自分本位に快感を貪っている相澤の脳はすっかり使い物にならなくて、酒の匂いが残る荒い息を吐き出すばかりである。
それでも爆豪のアヌスは、相澤の全てを許すように包み込んでは小刻みに痙攣するのを繰り返し、最奥の窄まりは精液を搾り取ろうと吸い付いてくる。健気なまでに相澤に尽くそうとするそこに甘えてしまって情けないが、ゴツンと鈍い音がするほどに腰を打ち付けてしまう。
「ふ、う、うううっ、ゔゔっ!」
耳を真っ赤にして枕に顔を隠している爆豪の名前を何度か呼んで、それから限界であることを告げた。爆豪は顔を見せてくれることはなかったが何度も頷いてくれたので、相澤は更に強くナカを穿ち、皺が伸びきってしまうほど大口を開けているアヌスの一番奥に射精した。
「――ッ、ハッ、……ッ!」
人生で初めての種付けは、眼前に光が散って酸欠になるほど暴力的な刺激。
自慰とは比べ物にならないほどに大量の精液を吐き出してしまったのが分かった。ドプドプと濃い精液をもっと深くへと押し込みたくて腰を細かく揺する。過敏になっているペニスは、たったそれだけの動きでも快楽を拾ってしまって腰が抜けそうになり、腸壁を叩くようにペニスが跳ねる。
最後の一滴まで注ぎ込んだところでようやっと深く息をすることが出来て、同時に、体から力が抜けていく。重力に抗うことなく爆豪の体の上へと落ちていき、べしゃりと二人でベッドの上に倒れ込んだ。
「悪い、大丈夫か。と言うか、痛くなかったか……?」
距離が近いので小さい声で確認を取れば、そろそろと爆豪が枕から顔を上げた。
「だ、いじょ、ぶ、に、」
決まってんだろ、と恐らく続くはずだった言葉はきちんとした声になっていない。吐息のように掠れて終わった。
「おい、本当に大丈夫か? すまん、無理をし過ぎた、悪かった」
「ち、ちが……っ」
「辛いのに上に乗っかってるのも良くないな。今退く」
「待てって……!」
一度射精して冷静になった頭で、自分がやってしまったことの罪深さに気付いて謝罪の言葉を繰り返す。力が抜けてしまっている爆豪の上から退いて、何かを言おうとしている口を待たずに一気にペニスを引き抜いた。射精したにも関わらず、まだ上限の半分ほどの硬度を残していたそれは、腸壁や入り口を引っ掻きながらも大人しく出てくる。
しかし。
「ァ、や、あ゛ぁっ――ッ!」
ずるり、と引き抜いたと同時に爆豪の焦った声が嬌声へと色を変え、へたり込んでいた体が電流でも流されたかのように大きく痙攣して跳ねる。赤く熟れた尻たぶが持ち上がって、その影でびゅくりと何かが漏れたのが分かった。
まさか、と息を呑む。
思わず腰が下がらないように尻たぶを掴んで固定し、精液を吐き出して絶頂を迎えたのであろうペニスに手を伸ばす。
「っ、せんせ、やだ、いま、さわんなぁっ! イッた、から、やだ……!」
未だ少量の精液を吐き出しているペニスを扱くように手を動かせば、面白いくらいに爆豪の体が跳ねる。そのうち精液は出なくなってしまったのだが、それでもつい執拗に触ってしまい、赤い亀頭を指先で撫でてやればカウパーが止め処なく溢れ、次いで粗相でもしてしまったかのように大量の液体を吐き出した。
「ふ、ぅう゛う゛ッ!」
シャアアァ……、という音に紛れて爆豪のくぐもった声が相澤の耳に届く。
「……す、ごいな、お前」
アンモニア臭のしない、そして粘度のない体液が潮だということは相澤とて知っていた。男でも出来ることは知っているが、実際しているところを見たのは初めてである。
真っ白のシーツが水分を含んで色を変えていく様を見ながら、再び欲に火が点く。
「これ、触ってないのにちんこ引き抜かれただけでイッて、扱かれて潮吹いて」
これ、と言いながら爆豪のペニスを優しく弄り、目の前で起きたことをそのまま言葉にすれば涙で濡れた石榴色が相澤を捉えた。もう一度、凄いなと感心すれば「敵より敵顔」なんて揶揄されているのが嘘のように蕩けた顔で、おずおずと口を開いた。
「せんせ……っ、こういうの、好き、か……? や、じゃねぇの……?」
自信が無さそうに小さな声で聞いてくる爆豪に、心臓を鷲掴みにされた気分だ。
一気に腹の底が熱くなって重くなって、射精したばかりのペニスに血液が集中していく。冷静になりかけていた頭の中は、節操のない駄犬に逆戻り。
相澤は再び爆豪の元へと体を近付けて背中に胸を擦り付け、霜焼けのように赤くなっている耳に歯を立てた。猛々しく勃起しているペニスを隠すことなくアヌスに擦り付ける。
そして。
「好きだ」
意図せず低くなった声を耳孔へと吹き込んで、追い掛けるように舌を這わせた。
「ヒィ、んんッ……!」
情けなく弱々しい悲鳴を上げて逃げようとする顔を掴んで音を立てて耳の中を犯していく。
「好きだ、好きだぞ。可愛い」
「やっ、やぁ、みみ、やめ、せんせ、ぇ……っ!」
「だめか。ビクビクしてるのに?」
「っん、びく、びくしちまう、から、ぁ……っ、やめろや、ぁ……」
やだやだ、と駄々を捏ねてどうにか逃げようとするものだから、相澤はもっとと攻め立てていく。顔から手を離して、その代り柔らかく相澤のお気に入りである胸筋へ。両手で下から掬い上げて真ん中へと寄せ、ツンと主張する乳首を潰すように捏ねる。
「んな、とこ、いま、触らなくて、いい……ッ!」
「さっきは触らせてたくせに」
「あっあれは、アンタのやる気を」
「なぁそのアンタとか、先生とかやめないか?」
「……あ?」
潰したばかりの乳首をきゅうと摘まみ、爪先で引っ搔きながら撫でてやれば、面白いくらいに体が跳ねている。挿入こそしていないものの、アヌスに擦り付けているペニスにはちゃんと吸い付いてくる。枕でほとんどを隠している嬌声は耳障りが良く、興奮を煽ってくる一方。
ひとつひとつが可愛くて欲を掻き立ててくる、――のだけれど。
「あー、あれだ、その、こういう時にあんまり先生って呼ばれると、なんかな」
罪悪感があるのだ、と御尤ものように理由を並べて名前で呼んで欲しいと強請っているが、実際はただの独占欲である。
男と言うのは元来馬鹿な生き物なのだ。その気がなくても誘惑されれば手を出してしまうし、こちらの一挙手一投足に反応して可愛らしく腰を振られれば健気さに心打たれてしまう。そして、手慣れた誘い文句と乱れやすい体に、自分が知らない過去を思い描いてモヤモヤとする。
――要は嫉妬しているのだ。爆豪の体に触れたことがある人間すべてに。
知らなければ何ともなかっただろうに、知ってしまったからこそ妬いてしまう。相澤にしたのと同じように、自ら誘ってその気にさせ、快楽に溺れながらも誰かの名前を呼んだことがあるのではないかと思うと……。
「出来れば今だけでいいから、呼んでくれないか」
せめて過去の男どもと同じラインに並べてもらえたら。昔からの呼称でも、ヒーロー名でもない、たったひとつの名前を呼んでもらえたら。
そうすれば、アルコール混じりの馬鹿な男の嫉妬など、少しは払拭されると思うのだ。
すると。
「……そ、っち、のほうが、好き、なんか……?」
何故か期待を織り交ぜた視線をこちらに向けてきたので、少しばかり気にはなったが、今は深く考える余裕などなく、相澤は好きだと素直に答えた。その言葉を聞きながら、ふるりと体を震わせて、それから枕に頭を擦り寄せる。
薄い瞼が半分ほど石榴色の瞳を覆って、伏し目がちなまま唇を開く。
「しょうた、さん」
怒号を飛ばしている低い声からは想像できないほどに甘く、優しく。一文字ずつ丁寧に舌先でなぞるように呼ばれた。
たった一回名前を呼ばれただけで笑ってしまえるほどに胸の奥が満たされた気になって、分かりやすく反応を示したペニスが熱くなる。
「挿れたい、なぁもう一回挿れてもいいか? つらい?」
「んん、辛くねぇから、消太さんの好きにしていい」
「ありがとね」
好きにしていいという免罪符を貰った相澤は、早速爆豪の体を反転させた。次いで、ずっと爆豪の顔や嬌声を隠し続けていた枕を容赦なく奪って、全力でベッドの外へと放り投げる。
「待て……ッ!!」
目を丸くして慌てた爆豪に逃げられないように、即座に膝裏へと手を伸ばして隙間を埋めるように距離を縮めた。唯一抵抗をしないアヌスに亀頭を宛がってゆっくりと埋め込んでいく。
「アッ、ま、待って、せんせ、いやだ、顔……ッ!」
体内を侵食していけば、爆豪の背中がしなって、自由な両手や腕を使って顔を隠している。
「こら、顔を見せろ。あと名前呼べって言っただろ」
「む、むり、やだ、やだやだ、せんせぇ……っ」
「無理でも嫌でもない。今度はお前の気持ちいいところ教えなさい」
「ンンッ! あっ、やあっ、そ、んな、しなくて、いいから……っぁああ!」
爆豪以外の誰にも受け入れて貰えなかった巨大な欲望を最後まで挿入して、必死に顔を隠そうとする両腕を捉えてシーツへと縫い付けた。ぐずぐずと涙に濡れた眦も、赤く染まっている頬も、だらしなく開いた唇も惜しみなく視界に入ってきて堪らず自身の唇を舐めた。
「好きにしていいって言ったのはお前だろ。それとも、慣れてるとか言うわりには恥ずかしいのか? 出来ない?」
「ッ!」
爆豪の顔色が変わった。悔しそうに唸って、艶っぽかった表情が負けず嫌いのそれになる。その瞬間に相澤は勝利を確信した。
しかし。
「で、出来ねぇわけねぇだろうが! こちとらアンタと違ってセックスくれぇ慣れてんだよ。仕方ねぇからほぼほぼ童貞みてぇなもんのアンタに合わせてなんでもヤッてやるよ!」
――……こうも好き勝手に言われてしまっては癇に障る。
多少払拭された身勝手な嫉妬心に火が点いた。相澤は口端をヒクつかせて眦を眇める。まだ何か言おうとしている負けず嫌いな口は大口で噛み付き、塞いでやる。
そして、まだ数少ない爆豪の弱点を突くべく、根元まで挿れたペニスをゆっくりじっくりと引き抜いていく。精液を全体に絡めていくように、カリ首で襞のひとつひとつを撫でる。
「んっ、ん、んんんーっ!」
想定通りカクカクと無駄に力んだ腰を震わせて喘ぐので、その隙に自身の舌を爆豪の口腔内へと滑らせて思う存分味わった。
「……お前の言う通り慣れていないからな、全部教えてくれ」
唇が離れるギリギリのところで言えば、
「精々頑張って腰触れや、しょーたサン♡」
色を増した強気な声が返ってきた。
腰に足が絡みつき、出て行こうとしているペニスを引き留めるように、可愛らしくアヌスが締め付けてくる。
何とも言い得ぬ感情に振り回されて、爆豪と繋がったままの手にぎゅっと力を込めたら、余裕がねぇ大人は嫌われるぞと窘められてしまい、いっそう爆豪の経験値を見せつけられた気分になった。


* * *


口腔内に溜まった唾液をこくりと飲み込みながら、爆豪は出来る限り不敵に笑う。
しかし。
(なっ、なにを、どうすりゃいいんだよ、知るかよ……!)
相澤の知らない頭の中は恐慌状態である。
(つうか、教えられるほど余裕ねえわ、クソがっ‼)
みっちりと満たされた腹の中の感覚に、盛大に喘いでしまいそうになるのをどうにか堪えつつ、相澤からのキスの嵐に応えなくてはならないので酸素が足りずに頭がぼうっとする。全身が使い物にならなくなるくらいにキスが巧いのがまた腹が立つ。肉厚な舌に歯列をなぞられるたびにカウパーを漏らしていることは、絶対にバレたくない。
(折角上手くヤれて、声も全部我慢したっつうのに……!)
アヌスだけで射精してしまったのと、潮吹きまでしてしまったのが駄目だった。
更に言えば、そういう意味が籠っていないとは分かっていても相澤に「好きだ」と言われたのも駄目だった。あの後から思考がままならず、おかしいのだ。
(……いや、頭がおかしいのは、たぶん、)
相澤の舌を伝ってこちらへと落ちてくる唾液を、再びこくりと飲み込みながら、思い出すのは高校時代。相澤を好きになったあの夏。
最初はただ好きでひっそり目で追うだけで十分だった。
時々日直の仕事の関係で二人になれたり、演習のあとに話せたり、それだけで満足していた。感情を押し付けることがなければ、告白するつもりもない。元より忙しく、抱えるものが多い相澤にこれ以上の迷惑を掛けないというのが爆豪なりの愛情表現だった。
――だが、本当に偶然聞いてしまったのだ。プレゼント・マイクとの会話を。まともにセックスをしたことがないという下世話な話を。
聞いてしまったら相澤の初めてが欲しくなった。歳を重ねる毎に大きく膨らんでいく恋に性欲が混ざり込んでしまった。
一度混ざってしまったらもう元の純真無垢で透明な恋心には戻れない。
あの日以来、自分を慰める意味も込めて尻を開発した。何年もかけて、様々な玩具を使って。その過程で、トコロテンや潮吹きと言った癖が付いてしまったのは仕方ないことだろう。
あとは機会を待つだけである。
子どもでは相手にしてもらえないから大人になってから。初めてだと気付かれないように流暢な誘い文句は頭の中に沢山用意して。がっつき過ぎていない雰囲気を演出するために洒落たラブホテルを探して。
それから、出来れば相澤が酒を飲んでいる時の方が良い。機嫌が悪ければ説教されるだろうからそれは避けて。同窓会だとお互い知り合いが多すぎる。あぁそうだ、プレゼント・マイクが同席している時じゃないと。話が合わなくなってしまえば大変だ。
沢山考えて、何度も機会を窺って、ようやっと漕ぎ着けた今日と言う絶好の一日。
(失敗は許されねぇ)
そう。失敗など言語道断。
クリア条件は、相澤を満足させること。初めてだとバレないようにすること。無様に喘いで泣いて好きだなんだと言わないこと。後腐れがないように努めること。
プロ仕様のハードモードだとしても条件を達成する以外爆豪に道は残されていない。
「……どうした、全部教えてくれるんじゃなかったのか?」
グルグルと考え込んでいた途中で相澤の声が聞こえてハッとした。
思わず、
「どう教えてやれば分かってくれっかなって考えてただけだわ」
と返事をしてしまったが、諸々バレていないだろうかと心臓はバクバクである。
なんてったって、こっちはまだ童貞の上に処女を捨てたばかり。
「そう難しいことでもないだろ? お前が気持ちいいところを教えてくれればいい」
「あー、じゃあ、取り敢えずアンタが思ってるように動け。そしたら教える」
「……アンタ?」
「消太さん!」
「はい」
名前を言い直せば相澤が納得したように頷いて、僅かに口角を上げる。
先程から、名前を呼べば相澤が纏う空気が和らぐのが爆豪にはどうも理解が出来ない。見た目に寄らず甘ったるいイチャイチャセックスが好きなのだろうか。だとしても、今夜限りの関係である自分には何ら関係がなく、気のせいだろうと無理矢理結論付けることにした。
「動くぞ」
引き抜かれていたペニスが侵入してくる。馴染ませるようにゆっくりと、そして徐々にピストンが早くなって、今まで使用した玩具が届かないくらいに奥深くまで。
(ひっ♡また、奥まで腹ン中いっぱいになる、なっちまうから……ッ♡あっ、はぁ、んっ♡♡あっ♡♡待って…! ナカのせーえき掻き混ぜんな、だめ、きもちい、きもちいから♡♡♡)
たったそれだけで触れてもいないのに勃起しているペニスから、カウパーが止め処なく溢れて、腸壁が勝手に痙攣し始めてどうしようもない。
「…っ、く、んんっ、は、ぁ……!」
両手を奪われたままなので、顔を隠すことも口を塞ぐことも出来なくて爆豪は唇を噛み締める。ぎゅうと目を閉じて顔を背ける。
(さっき、も、思ったけど、うめぇんだよ……ッ! くそっ、腹立つ……♡♡)
無機物な玩具と違って好きな人のペニスだからというのもあるのかもしれないが、的確に爆豪のイイトコロを狙ってきているのだ。男は初めてで、アヌスの構造など碌に知りもしないくせにバックから挿入されたときなどきっちりと前立腺を狙ってこられて、あれは焦った。
それに、今も根元まで埋め込んで窄まりにゴツゴツと亀頭を押し当ててきたと思ったら、中ほどまで引き抜いてしこりを弾くように当て掘りしてくる。
「ひ、ぐぅ、……っ、っ、ぅ、うう……ッ!」
堪らず、足の指先が丸くなるまで力が入って、無意識に背中がしなっていく。
(っあぁあ♡♡むり、むりむりっ♡♡そこばっか狙って♡ゴツゴツってすんな、ぁ……♡♡ア゛ア゛ァー!♡♡♡そこっ、そこ、弱ぇから♡♡すぐ出ちまう♡♡♡またっ、も、漏れ、潮、いっぱい漏らしちまうから、ぁっ!♡♡♡)
声に出せない分、心の中では好き放題に喘いで、アヌスをきゅうと締め付ける。
「……痛いか?」
息が詰まるほどに気持ちが良すぎて、気を抜くとあられもない姿を見せてしまいそうだと危惧しているほどなのに、相澤はやっぱり顔色を窺ってくる。
今までのセックスでどれだけノーを示されたかは爆豪の知るところではないけれど、自分にだけはそんな顔をしなくていいのだと、今だけは好きにしてくれていいのだと教えたくて、下心しかない不埒な心臓がきゅうんと鳴る。
「しょ、たさ、手ぇ、離せ」
顔隠さないから、と続けて言えばそこが自由になる。空いた両手は相澤の両頬へと伸ばした。乱れた髪の毛ごと包んで引き寄せて、慰めるように小さなキスを繰り返す。
「すっげぇ気持ちいい、から、気にすんな」
「……本当か」
唇と、頬。それから相変わらず雑多に伸びたままの無精髭。舌先で擽るように舐める。
「ん、ほんと。さっき、突いてくれたとこ、俺の好きなとこ。あと消太さんのちんこ全部挿れてくれてんのも、好き。ぜんぶ、きもちいい」
「他は?」
「ほか、……っあ、や、動くな……っ!」
「他は? なぁ教えてくれるんだろ、早く」
「ちょっ、言う、言うから、……っ、ん、ヒ、ァっ……!」
正直に好きなところを教えれば、口を開くたびにその部分を刺激されて嬌声が堪えきれない。
例え途中までとは言え、女とそういうことをしたことがあるのだから、男の喘ぎ声など萎える要因にしかならないだろうと思い聞かせたくないのに。
口を塞ごうにも、相澤の逞しい体に抱きすくめられてしまって叶わない。
(こえっ、こえ、でちまう…ッ! 聞かせたくねぇのに、弱いとこばっか……♡♡)
それに。
(せ、んせ、すげぇちかい)
何も服を纏っていない肌が触れ合って、耳元では相澤の息遣いがダイレクトに鼓膜を震わせる。汗やアルコールの匂い、それから傷んだ毛先が肌を刺す刺激。迷惑を掛けないようにと距離も縮めず、触れることもなかった相手の剥き出しの体温。騎乗位やバックとはまた違う、相澤に抱かれているという暴力的なほどの実感。
目の前の現実を肌で感じるほどに、食い縛ろうと力を籠めた奥歯が、カチカチと情けなく鳴る。もう、気絶してしまいそうなほどにキャパオーバーである。
(むり、いく)
相澤の体を引き剥がそうと伸ばした両手で背中に縋り、壊れてしまいそうなほどに強くナカを穿たれた瞬間に全身が引き攣るほどに力が入り、びゅくりと精液を吐き出してしまった。
「――――ッ!!」
幸い、ブラックアウトしてしまいそうな感情と快楽に苛まれて声が追いつかなかったのだが、しかしそれは最悪の事態に繋がるのだと十秒後に知る。
「っ、どうした?」
不規則に痙攣しながら締め付けてくるアヌスに、爆豪を抱きすくめたままの相澤が声をかけてくる。爆豪は、少し待ってほしいと意味を込めて力の入らない指先で相澤の背中を引っ掻いて、腰に絡めた足を擦り寄せた。――どうやらこれを相澤は催促と受け取ったらしい。
「なに、かわいいな」
(ちげぇ!)
猫でも甘やかしているような声色に身悶えてしまう。怒鳴ろうにも思ったように声が出ない。
「もう少し付き合ってくれ」
その言葉が最後通告のように思えた。
「や、ま、まて、しょ、ぁ、さ……っ」
ふるふると首を振れば耳に舌を這わされて、されるがまま喘いでしまう。
そのまま、絶頂を迎えたばかりのアヌスを容赦なく突き上げられて、前立腺を押し潰されてしまったら一切の我慢が出来なくなる。
「っ、や、あぁ――ッ! だめ、やっ♡♡やだ、いま、ひっん、は、ぁあ゛っ♡あ゛っ♡あっ♡」
一突きごとに精液がびゅくびゅくと溢れて、頭の中が真っ白になる。はしたなく口は開いたまま、聞かせたくない嬌声が部屋を満たしていく。頭が追いつかない快楽と羞恥心に涙が溢れて、ひくりと喉が鳴る。
しかし、一方の相澤はやたらと上機嫌な声で笑う。
「はっ、やっぱり、いいな、お前の声」
「やっ、き、聞くな、ぁっ! あっあああぁっ♡だめそこ、ぉ…ッ♡♡」
「隠さなくていい。もっと聞きたい。おねがい」
「っ、ず、りぃ…♡♡そ、んなん、言われたら、……はぁっ、あっあ゛あ゛っ♡ぜんぶ、こえ、出ちま、……あ゛ああぁっ♡♡♡」
ゴツ、と鈍い音を立てて相澤のペニスが最奥の窄まりに到達した。
「ここは? 痛い? だめ?」
「ひっ♡ん、ぁあっ♡い、たくな、っ…いたくねぇ、けど…っ♡♡」
「なに」
「っ、く、んんんっ♡あっ、待っ、そこ、はっ…♡♡」
「なに、はやく」
聞きながらも、相澤は何度も何度もそこをゴツゴツと突き上げてきて、強制的に窄まりが開かされていくのがよく分かる。何年も自分で開発していたのだからそこが何かくらいは知っている。S字結腸と言われるところだろう。更に、そこがどれほど気持ちいいのかと言うのも、聡い頭で理解はしているつもりだ。
ただ、経験がないから、どうすればいいかが分からない。ペニスを受け入れて自分が気持ち良くなっても、挿れた側が本当に気持ちいのかも。相澤が気に入るような代物なのかも。わからない。分からないから迷う。迷うから、じっくりと悩みたいのに少しだって待ってくれない。
「ばくご、ばくごう、もっと挿れたい。だめか? いたい?」
「あ゛っ♡♡ま、しょ、た、……ッ、はやく、すんなぁ……っ♡ひ、あっ♡あっ♡♡ま、て、待ってッ♡♡」
強請ってくる声が可愛く思えて仕方がない。こうやってお願いしてくる相澤を知っているのは自分だけなのだと思うと、嬉しくて嬉しくて。
そして。
「おねがい、かつき」
出席確認以外で初めて呼ばれた下の名前に、目の前が白んで息が止まてしまうほどの熱が体中を犯していく。
「――っ、ヒッ、あああぁあッ♡♡♡」
相澤に縋りついていた手も足も、腹もアヌスも何もかもが、快楽に打ち震えて痙攣へと変わっていく。意識せずともアヌスがペニスにしゃぶりついて、奥深くまで誘導しようとしている。
目が開いているのか閉じているのかも分からず、舌を放り出したまま意味のない嬌声を繰り返す隙だらけの口は容赦なく相澤に食らい付かれてしまう。上顎を舐められるだけでも絶頂に達している気分で、こんな脳では考え事など出来るわけがなかった。
「しょ、た、しょうたさ…っ♡♡」
自ら腰を擦り付けて、もっとと深くペニスを飲み込んでいく。
「きもち、から、もっと♡もっとハメて、おくまでいっぱい……っ♡♡でっけぇちんこで、おれの、ここ、はじめて、もっともらって♡♡」
感情を整理する暇なく思ったままに伝えて、へらりと笑う。
すると、目の前の相澤が息を呑んで、次いでギラリと目を光らせたのが分かった。個性を発動させたときのように微かに赤く光るそれが格好良く思えて仕方ない。きゅんきゅんと腹の底が震える。すきすき、と全身で訴えてしまう。
「痛くても、知らないからな……ッ!」
「いいっ♡いたくてもいいからっ♡♡はよ、ハメてくれ、しょーたさん、しょーたさんっ♡♡ちんこ、ほしいぃっ♡♡おれの、おくまで、ぜんぶおかして♡♡」
より深く入るように腰を持ち上げられて、体重を掛けて窄まりを抉じ開けられていく。
「あ゛っ、あっあっ」
ミチ、と重たい音と同時に亀頭が入り込んできて、一番太いカリ首まで容赦なく捩じ込まれていく。その瞬間、強いオーガズムの中に引き摺り込まれて全身が跳ね上がる。
射精した感覚は、なかった。
「うあ、ぁ゛っ、あぁあ゛あ゛ぁあ♡♡♡いっ♡いく♡♡いっ、あぁああっ♡♡しょーたさ、そこきもち、い、……♡おく、おかされんの、きもち……!♡♡いく、イッ、……ああッ♡♡♡」
捩じ込まれていく亀頭で結腸にねっとりとキスをされて、閉じようとする窄まりをじゅぽ♡じゅぽ♡と音を立てて弾かれて。イく、と言いながらも正解かどうかも分からない。射精を伴わない絶頂は初めてだ。理解が追いつかない。ずっと連続して快楽の波に溺れさせられているような気分。頭を振り乱しても逃れられない。
「っく、ァ、……はっ、はっ……!」
そして、どうやら相澤も十二分に気持ちが良いらしい。余裕など一切ない、獣のような呼吸を何度も吐き出して一心不乱にナカを味わっている。眉を寄せて、奥歯を噛み、快感に耐えている顔が堪らない。あぁ、見ているだけでイッてしまった。
(しょーたさんきもちよさそう、よかった、気に入ってくれてる、よかった)
嬉しいやら気持ちいやらで感情がぐちゃぐちゃになって大粒の涙がとまらない。絶頂と嬌声の隙間で嗚咽を零し、もっとしてと強請る。
「しょーたさん、しょーたさん……っ♡ひぃ、んっ♡♡ちゅう、してぇっ♡♡」
「ん、かつき」
お互い舌先を擦り付けて、唾液が零れるのも構わずに好きなように絡ませる。もうずっぷりと結腸に嵌め込まれているだけで達してしまう。ペニスはいつの間にか限界まで精を吐き出したらしく縮こまっていた。相澤の動きに合わせて時折潮だけはぷしゅ♡ぷしゅ♡と音を立てて漏らし続けている。おかげで体もシーツもぐずぐずに濡れてしまった。
自慰でここまでなったことはない。頭の芯までぼうっとするので体は限界なのだろう。
でも。
「しょ、ぁ、さん、おれの、けつ、気持ち、いい……? すき?」
「あぁ、すきだ、きもちいい」
その言葉を聞いてしまったらいくらだって明け渡してしまう。
「〜〜〜っあ゛っ♡♡も、と、もっと、言って、しょーたさんっ、すき? きもちい?」
決してそれは自分の事を言ってくれているわけではないのに、ただアヌスを気に入ってくれただけなのに。
「かつき、すきだ」
その言葉にひどく甘い夢を見る。
(おれも、おれもすき……っ、ずっと、むかしから)
相澤の言葉に素直に感度を上げていく体は制御が出来なくて、力いっぱい縋りつく。
今だけ。今夜だけだ。こんな風にまるで恋人にでもなれたかのように甘えるのも、名前を呼ぶのも、体温を感じるのも。
「しょうた、さん……ッ!」
でも、ずっと触れたかった背中を堪能して、傷がつくように爪を立ててしまったのはたぶんワザと。後腐れなくしようとか、一夜の過ちだとか自分で言い訳しておいて、明日の相澤にも忘れないでいてほしい自分もいる。
「しょうたさん、イくとき、ナカ、で、出して、くれよ……ッ♡」
泣きながら甘えた声を出せば、ラストスパートのように激しく腰を打ち付けられて爆豪は絶叫のような嬌声を吐き出した。思わず逃げようとした体を押さえ付けられて、ごりゅ、と鈍い音がするくらいに結腸を好き勝手に犯される。
「ぁあああーっ♡♡いく、ひ、ぐ、いっ、あぁっ♡♡あ゛ッ♡が、ァ、はっはぁ♡♡っ、いく、いっ……ッ、ア゛ッ、ア゛アァァ――ッ♡♡♡」
腹の中が灼けてしまうほどに熱くなって、それでもペニスに縋りついてキスをして絶頂を迎える。そして相澤がぐっと息を詰めたと同時にいっそう深くまでペニスが差し込まれて、次いでドプリと精液が注ぎ込まれたのが分かった。
「あ、あぁ、あ……は、ァ…アァ……ッ♡」
二回目だというのに量が多いそれに腹の中が満たされて、体の力が抜けていく。腕がベッドへと落ちて、足は無様に開いたまま。きっと相澤のペニスを抜かれてもアヌスが口を閉じることは暫くないだろう。
一回目の時と同様、力尽きた相澤が上から落ちてくる。
自分よりもウエイトがある体を受け止められるほどに元気ではなく、苦しかったがそのまま押し潰されていることにした。重みまで全てが愛おしい、というやつだ。
「かつき」
セックスが終わったというのにまだ下の名前を呼んでくる。
爆豪は息を整えながら、
「……っ、んだよ、せんせぇ」
と笑ってやった。
ビクリと相澤の肩が揺れたのは気付かなかったことにする。次いで「わりぃ、ちょっと、ねちまう」と声を振り絞ってから意識をフェードアウトさせた。

甘い夢のそのあとは、もうなんの夢も見なかった。



* * *


「HEY! 相澤ァ! ウェイト、ウェイト! ワッツハプン!?」
「待つわけねぇだろうが! いいから来い!」
休みが明けた月曜日。
出勤してきたプレゼント・マイクを待ち構えていたのは鬼の形相の相澤である。マイクが職員室に到着するより前に、相澤は捕縛布でグルグル巻きにし、連れて来た裏庭。逃げられないように木に括り付けられたが、逆さ吊りにしないだけ褒めてほしいくらいだ。
マイクは暴れるのを止めて、大人しく相澤に「なんなんだよ、これぇ」と聞く。
「マイク、あの話爆豪にしただろ」
言えば、サングラスの奥できょとんと目を丸くする。あの話、バクゴー、なんのことだ。
アップルグリーンの瞳が訝しんだように細められて、ううんと唸っている。必死に考えて考えて、ふと思い立ったのだろう。高校時代からの腐れ縁の男のとある秘密を。
「あっ」
「言ったな……?」
念押しで言えば、へらりとマイクが笑った。
「アッ、アー………あー、あー、あー、……………はは、言ったかも」
「ぶっ殺す!」
「ぐえっ、ウ、ウェイト! 相澤、リッスン! プリーズ! お願い!」
相澤が手を少し動かしただけで、ギチギチと音を立てて捕縛布の絡みがきつくなったので、マイクは叫ぶように制止を求めて早口で釈明する。
確かに飲み会で話してしまった気がするけれど、あれは、どちらかと言うと。
「……誘導尋問だァ?」
「イエス!」
自主的に話したのではなく、話すように持っていかれた気がするというのがマイクの主張である。もちろん誘導したのは他の誰でもない爆豪。確証はなく、酔っていたため記憶も曖昧だが違和感だけは覚えているらしい
「それに、俺がその話をしたらすーぐどっかに行っちまって」
席が離れてからは目すら合っていないし、他のヒーローと飲み始めたマイクは相澤と爆豪が帰ってしまったのも気付かなかったくらいらしい。本当だろうな、と相澤が睨めば木が揺れるほどにマイクは何度も大きく頷く。嘘ではないと思っていいらしい。
では、もしも爆豪がマイクの入った通り誘導尋問をしてその話題に持っていくようにしとして、元々その話を知っていたということになる。
(でもこの話を知っているのは)
目の前のマイクと、過去のもう顔すら覚えていない女性たちが数人。
(この際出所はもういい。なんで爆豪はその話を聞きたがったんだ。聞いてどうする。元担任の情けない秘密なんざ)
聞いたところで、知ったところで何も得は生まれない。唯一満たされたのは性欲くらい。
「つうかなに、あのあと爆豪と何かあった? だからご立腹?」
「黙秘」
「あっ! ずりぃの!」
ぎゃんぎゃんと騒がしいので捕縛布を操ってマイクを解放して木から降ろした。
痛ぇじゃん、と拗ねたように睨んで言ってくるマイクには黙秘したまま、相澤はツーンとそっぽを向く。しかし、そんなことで潮らしく距離を取ってくれるような男ではない。マイクは遠慮なく相澤に近寄って肩を組んで顔を寄せた。
「なぁなぁ何があったんだよ」
「ニヤニヤしてんじゃねぇ」
「だってよぉ! 聞きてえじゃん、色々と」
話はいつでもなんでも聞くぜ、親友だからな。
その言葉に相澤はいっそう顔を渋くする。
「人の秘密を教え子にバラしやがった奴に言えるか」
「シヴィー! だからあれは誘導尋問で、……っつうかお詫びの印に手助けするぜ? 俺以外に相談できる奴もいねぇだろ? ほらほら、言っちまえよ」
「……」
確かにマイク以外に相談できる相手などそう思いつかない。しかも相手は元生徒。外部のヒーローに吐露するには少々重たすぎる相手である。
相澤はきっちり三十秒考えて大きな溜め息を吐いた。話す気になったらしいと察したマイクは静かに相澤の言葉を待つ。
そして。
「…………ヤッた」
と、観念して小さい声で白状すれば、
「ま、そーじゃねぇかとは思ってたわ」
と、随分とあっさりした反応が返ってきた。
そりゃあ最後までセックスしたことがない相澤と、それを聞いた爆豪が二人揃っていなくなったのだから答えなどそれしかないと言いたいのだろう、と。
どいつもこいつも慣れた感じを出してくるのがまた腹立つなと睨む。
「ちなみに最後まで? 全部挿れた? 入った?」
「………………入った」
「ワーオ」
着替えやシャワールームなどで何度か相澤のものを見たことがあるマイクは、何とも言えない顔でそっと自分の尻を撫でている。どうせ、考えただけで切れそうだとか失礼なことを思っているに違いない。
しかし、そこから続く言葉を相澤はうまく飲み込めなかった。
「アレが入ったということは、あのボーイ頑張ったんだなァ……」
何故かマイクは爆豪を褒め称えながら、出てもいない涙を拭うふりをしている。次いで、おめでとうと言われて首を傾げる。
「ありがとう、って言って良いもんなのか、これ」
「言っていいに決まってんだろ⁉ こんなに嬉しいことはないぜ。俺は元生徒だとかヒーロー同士だとか男同士だとか、そんなことは気にしねぇからな!」
「はぁ……」
肩に回された長い腕が、相澤の胸辺りをバンバンと容赦無く叩いてきて息が詰まる。マイクは何度も良かった良かったと言って喜んでいるけれど、特に何も喜ぶことはない。
だって、爆豪とはきっちりあの一夜で終わってしまった。
と言うよりも相澤が目覚めた時にはいなくなっていた。
酒と適度な運動、それから性欲を発散させて寝が深かったのだろう。爆豪が帰る音にも気付かず、起きて枕元に置かれた紙幣を見て本気で泣くかと思った。
連絡を取ろうにも今の連絡先を知らないことに気付き、あの子が今どこに住んでいるかも知らず。かと言ってヒーロー事務所にまで乗り込むのは気が引けた。公私混同、職権濫用もいいところである。
(体は大丈夫なんだろうか。後処理はあれで合っていたんだろうか)
大人のふりをして慮ってみるけれど、きっとただ会いたいだけなのだ。会ってなにを話せばいいかはまだ分からないけれど。
(情けない)
最初から一夜の過ちだと銘打っていたはずなのに、自分もその言葉に身を預けて、酒を言い訳にしてセックスしたくせに。消太さん、と嬉しそうに名前を呼んで全身で甘やかしてくれた爆豪の顔が頭から離れないなど、調子が良すぎる。
(アイツには他にも相手がいて、俺は気まぐれで選ばれただけで、たかがセックスくらいで浮かれられるような立場じゃねえ)
やっぱり情けない担任の秘密は何の得も生まないけれど、タイミングよく爆豪にとって都合が良かっただけだろう。
そうだ。爆豪も初めに言っていたじゃないか。ヤリたい気分だったから準備してて、誰かに挿れられたいのだと。その言葉通り、誰でも良かったのだ。
「ヘイヘイ、なに泣きそうになってんだよ」
「泣いてねぇ。適当言ってんじゃねぇぞ」
「いやもう顔が泣いてる顔だし。なに、マリッジブルー的な感じ?」
検討外れな言葉に怒る気も失せる。しかしマイクは口を閉さない。もっと喜んでやれよ、爆豪のためにも、などと言ってくる。
「ハァ? 爆豪のため? お前な、さっきから何を」
頭を掻いて、心底嫌になると深々と溜息を吐けば、今度はマイクが首を傾げる。いやいやだって、と頬を掻く。
「長年の片想いがようやく実ったんだから、もっとちゃんと喜んでやれよ」
冷たい恋人だな、嫌われるぞ。
思いがけない言葉に相澤がピシリと音を立てて固まった。思考どころか心臓まで止まりそうなくらい驚いて、目も口もまん丸に開いている。
「…………か、かた、おもい……?」
「え、うん。片想い。もう四年か五年? くらいずっと。爆豪って一途だよなぁ。まぁ俺もこの前の飲み会で初めて上鳴から聞いたんだけど、クラスのやつは全員知ってるみたいだぜ? うまくいって良かった…………って、え? あれ? 違う?」
そんなものは初耳である。
「……かたおもい」
固まっていた心臓が動き出したと言うのに、顔から血の気が引いていくのが分かる。なんとも器用な体であると笑うほどの余裕はない。
あの夜のセックスで、性欲以外に満たされたものがあるのだ。少なくとも、爆豪には。
(そうか、だから……)
相澤が好きという単語を使う度に、顔を赤らめて、嬉しそうにしていた理由がやっと分かった。そりゃあ嬉しいだろう。長年片想いしていた男から、そういう意図でなくとも「好き」と言われるのは。それに、一度も呼ばれたことのない下の名前を呼ばれるのも。
(俺は、)
 なんてことをしてしまったんだ。
 大人として、教師として、焦燥感に駆られているというのに。それ以上に爆豪が自分のことを好きでいてくれたのが、嬉しくて仕方がなかった。目を閉じなくたって、意識しなくたって、あの夜の爆豪のことは寸分違わず思い出せる。
「――……マイク」
予想以上に、切羽詰まった声が出た。
「俺はどうしたらいい」


――あの夜。
爆豪が残してくれた背中の傷が、ピリッと鋭い痛みを走らせた。

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