アメアラレ、ピュウと吹くカゼ


しとしとと耳に届いていた雨音がだんだんと激しくなっていく。ザァザァ、ザァザァ、それはまるであの日の雨のようで、覚醒しかけた俺の頭はすぐに思い出したくない記憶を引っ張り出してきた。雨が霰がに変わって体に当たる小さな礫が責めるように降り注いだあの日、リョウギは俺の腕の中で浅く息を繰り返して、今にも命が消えてしまいそうだった。親父とお揃いの任務服がじわじわと赤に染まっていくのが恐ろしくて必死に何度も名前を呼んだ。繋ぎ止めたくて、失いたくなくて、柄にもなく子供のように泣きながら何度も何度もリョウギ、と呼んだのだ。

「起きて、シカダイ」

「ん…、あれ、リョウギ…」

体を起こした俺を抱き寄せリョウギは優しく涙を拭ってくれた。子供扱いをされたようで少し恥ずかしい。それでも抱き寄せられる腕から逃げることはなく逞しくなった体に全てを委ねる。

「また泣いてた…やっぱり雨の日はダメだね」

「……わりぃ、心配かけて」

「俺のせいでもあるから、気にしないで」

リョウギは優しく微笑んで俺の額に口付けた。それだけで体は熱くなって胸が高鳴る、全く俺の扱いをよく心得ているな、と苦笑すると今度は唇を塞がれた。

「ん、ふ、ッ…ちょ、待て待て、これから仕事ッ…」

「わかってるよ、だからちょっとだけ」

「あ、ちょ、ばかっ!アッ!!」

唇が自由になったかと思えば今度は下腹部を弄る手に俺は抵抗しながらも朝からしっかりと欲を吐き出させられた。どうもリョウギは俺より一枚上手だ。少し悔しい思いをしながらシャワーを終え、簡単に朝食を終えると任務服に着替える。玄関で靴を履いているとまだ部屋着のリョウギが弁当と荷物を持ってきてくれた。

「リョウギ、お前今日非番だっけ?」

「うん、昨日残業どーしてもって頼まれたから今日非番にしてもらった」

「そっか、良かったなゆっくりできんじゃん」

そう言って笑うとリョウギは少し眉を寄せて頬を引っ張ってくる。何でだ?と首を傾げていると、今度はため息をつかれた。

「あのねぇ、俺は君とゆっくりしたいんだよ」

「んなこと言っても俺仕事あるし…」

「わかってる、だから早く帰っておいで、待ってるから」

ちゅ、と塞がれた唇。今度は抵抗せず口を開けて舌を絡め合った。ビリビリと電流のようなものが頭から体を駆け巡り脳がぼんやりとしてくる。

「ン…ァ、…りょーぎ、」

「…シカダイ、仕事頑張って」

はい、終わり。とリョウギは唇を離し俺の肩を叩く。

「しっかりね」

「誰だよ出かける前にキスしたの」

「ごめん、可愛かったから」

「ったくよぉ…俺だってお前と一緒にいてぇんだからな」

「わかってるよ、ほら晴れてきた、今のうちに行かなきゃ」

リョウギが扉をあけて薄暗い玄関に朝日が差し込む。その光に誘われて外に出ると胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

「じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

帰ったらゆっくりしたい。リョウギと2人で、そう考えると自然と笑顔になりそれを見たリョウギも笑顔を返す。濡れたアパートの階段はパシャパシャと音を立ててカンカンカンとリズム良く音が混ざり合った。

「行ってきます」

アパートを出てからもう一度振り返ってそう言うとリョウギは大きく手を振ってくれた。手を上げて背を向ける。大好きな人に見送られる朝も悪くない。今日も良い日になりそうだと思うと足は自然と走り出し、それを後押しするように追い風がシカダイをぴゅうと追い越して行った。



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