もし、


もし、俺が女だったら、

きらきらでふわふわな可愛いくてか弱い女の子だったら、

アイツは俺を見てくれただろうか。





あの白夜団による事件から何度も季節は廻り、俺たちはすっかり大人になった。男は男らしく、女は女らしく、みんな出るとこが出て、引き締まった大人の体つきになっていく。しかし、俺はというと相変わらずだ。身長は伸びた。同期の中では2番目に大きい。だけど体はひょろいままだ。母ちゃんが言ってたけど、奈良家の男はみんな筋肉がつきにくいらしい。確かに親父もひょろかったと俺は思い出し、納得と絶望のため息を吐き出した。鏡に映る自分の体は、女のような、男のような、どっちつかずの中性的な体、その体が良いのか悪いのかはわからなかったが、自分が気に入ってないのは確かだ。

「んねぇ、シカダイ〜あちしお腹すいた」

「まだ食うのかよ…よくその体に入るな」

「まぁ、これチャクラコントロールの賜物ですからっ!だからお腹すくの!ねぇ、甘栗甘行こうよ〜!」

「へいへい」

修行中に編み出したチャクラコントロール法ですっかり細くなったチョウチョウはあの毒舌家ないのじんが黙ってしまうほど美人になった。母親のエキゾチックな肌の色が引き立つ金色の瞳、今や道行く人みんなが振り返るほどだ。そしてきっといのじんはチョウチョウに惚れている。聞いたことはないが、顔を見ていればすぐにわかる。最も渦中の本人がこの体型を維持しているのはみんなから下心という名の贈り物(食べ物)を沢山もらえるからだ。現金な奴である。腕にむに、と当たる胸の感触に俺はちょっとだけ眉を寄せ、チョウチョウを睨みつける。

「チョウチョウ…」

「当ててんのよ、喜びなさい」

「お前の乳なんかなんも嬉しくねぇわ」

離せ、とチョウチョウを振り払い、少し先を歩こうと顔を上げると見知った顔が見え、俺は反射的に手を振った。

「リョウギ!!」

「シカダイ」

向こうもこちらに気づき駆け寄ってきた。真っ赤な髪に灰色の瞳、俺が大好きな色だ。チョウチョウにも手を振ったリョウギは俺に笑顔を向けてくる。きらきらとしたイケメン特有の笑顔。この整いすぎな綺麗な顔も俺は好きだった。リョウギは俺をぎゅっと抱きしめ、確かめるように背を軽く叩いてくる。

「最近どう?お母さんたちは元気?」

「あぁ、みんな元気だ、リョウギに会いたがってるよ」

「そっか、また今度帰るよ、お父さんと一緒にね」

お父さんや、お母さんというのは俺の両親のことで、同時にリョウギの両親のことでもある。白夜団の一員として盗みを働いていたリョウギは長い取り調べを終え、奈良家の一員として迎え入れられたのだ。それが実現した経緯はいろいろあるが、12歳から15歳までの約3年間、俺たちは兄弟のように毎日を過ごした。押し入れに秘密基地を作ったり、将棋やチェスをして遊んだり、時には父親の職場に夜食を届けに行ってそのまま一緒に寝たり…。たったの3年だったが、思い出は数え始めるとキリがないほどある。そんなリョウギは2年ほど前に家を出た。これもまたいろいろあったのだが、最後は家族のみんなが納得したのと、リョウギの意思が固かったことでリョウギの思いを尊重しようという結果になった。今は一人暮らしをしながら内勤の相談役補佐として俺の親父と一緒に仕事をしている。兄弟のような存在がいなくなり少し寂しいが、まだ会えないこともないのでなんとかさみしさは紛らわせることができていた。

「親父は?最近無理してねぇか?」

「お父さんは大丈夫、仕事の量も僕が管理してるしね」

「わりぃな、任せっぱなしで」

「いいんだよ、気にしないで」

リョウギは爽やかな笑顔を浮かべ俺の手を握った。今の仕事にやりがいを感じているようで、リョウギは昔の尖った性格が嘘のように丸くなっていく。人は変わるものなのだな、とシカダイはリョウギを通して学んだ。

「ねぇ、シカダイ、甘栗甘早く行こうって!!!」

「うぉっ!?あー、わりぃチョウチョウ」

「二人とも甘栗甘行くの??」

怒ったように俺の服を引っ張るチョウチョウにリョウギがそう聞くと、チョウチョウは何度も頷いた。それほど行きたいのなら一人で行けばいいのにと思うが、そこは自分の身の安全の為心に秘めておく。

「リョウギもくるか?」

「いや、お父さんの仕事まだ終わってないし、遠慮しとくよ、楽しんで」

リョウギは手を振り駆け足で駆けていく。瞬きを一度でもすればリョウギはすぐに見えなくなってしまうのだ。(流石元泥棒というか、身のこなしが軽く、すばしっこい)俺は纏わりついてくるチョウチョウを引きはがすことを諦めて歩き始める。相変わらず重たそうな乳が自分の体に密着していた。

「シカダイ、おっぱいばっかり見ないでよ」

「………みてねぇ」

「うそ、見てたでしょ!アチシに嘘ついたってわかんだからね!」

ギャーギャーと喚くチョウチョウの言葉は聞こえないふりをして、俺は人ごみの中にあの赤い髪が見えないかぼんやりと探した。今すぐにでも、戻って来いと心の中で念じる。

(ま…ありえねーか)

例えば、俺がふわふわできらきらとした女の子だったら、リョウギは今戻ってきてくれただろうか。もっと可愛げがあって素直な人間だったら、リョウギは俺を選んでいただろうか。あの日押し入れで聞いたリョウギの告白がもし自分に向けてのものだったら、今俺の隣を歩いていたのはリョウギだっただろうか。叶いもしないもしもの話は浮かんでは消えていく。俺は伸ばせない腕を宙に放り投げ、何度も幸せだったころの夢をみるのだ。

-END-



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