大人な子供と子供な大人


@センセイやめて
「ほぅら、チョウチョウ結び〜あ、チョウチョかぁ、アハハ〜」

「……木ノ葉丸先生、酔っ払い過ぎです」

どうも皆さんこんばんは、奈良シカダイです。現在、他班の担当上忍である猿飛木ノ葉丸先生にオモチャにされています。

「ハハハ!まだまだいけるぞ〜!」

「もう飲まないでくださいよ…ていうか、これ外してください」

シカダイは木ノ葉丸を睨みつけるがあまり効果はなく木ノ葉丸は相変わらずへらへらと笑っている。シカダイは浴衣の帯で作られたリボンを見てため息をついた。ご丁寧に腕は縛られてしまっていて見事に身動きが取れない。そもそも木ノ葉丸が酔っ払うことを見越して部屋の隅にいたはずなのにいつのまにこんなことになったのやら…。シカダイは緑の瞳をきょろきょろと動かし辺りを見渡した。

(先輩方はみんな酔いつぶれてる…多分誰が先に酔いつぶれるか勝負したんだな…はぁ、将棋に夢中にならなかったらよかった)

先輩の酒盛りに巻き込まれまいと父から教えてもらった対局の攻略法を考えてたのが仇になった。気がつけば死屍累々の部屋に生き残った野獣と無垢な子鹿一匹、勝敗は聞くまでもなく今この現状を見ればわかるだろう。

(ていうか未成年いるのに酒盛りすんなし!介抱役ぐらい作っとけよ!)

「なんだぁ?しかだぃ〜なにおこってんだコレ?」

「アンタのせーですよ」

「ん?そーなのかぁ、いやぁすまんすまん」

「コノヤロウ…」

殴りたい今すぐに、この酔っ払いをはっ倒したい。ちくしょう、こっちには母ちゃん直伝の平手打ちがあるんだぞ!せめてもの抵抗に足で蹴りを繰り出したがさすが腐っても猿飛一族の上忍、いとも簡単に足を掴まれてしまう。悔しさと恥ずかしさも相まってシカダイは大声で木ノ葉丸を怒鳴りつけた。

「いい加減にしろよ!アンタ大人だろ!責任感とかねぇの!?」

「ははは、そんなん犬にでも食わせとけってばよコレ〜」

(ダメだこりゃ…)

シカダイは何度目かわからないため息をついた。すると木ノ葉丸が徐にシカダイの足首を持ち上げ大きく足を広
げさせる。

「はっ!?ちょ、ちょっと!めくれてるって!」

浴衣の裾がめくれブルーのボクサーパンツが丸見えだ。あぁ、手が自由なら顔を隠したい。頬に集まる熱を感じながらシカダイは嘆く。肝心の木ノ葉丸は一言も喋らなかった。

「……先生、恥ずかしいから、手放してくれよ………」

「……んー、いやな…昔見たことあるんだ」

何を?と言いたかったが木ノ葉丸が急にシカダイに覆いかぶさって顔を近づけたので思わず顔をそらした。木ノ
葉丸はそんなこと気にもせずにこう続ける。

「アスマおじちゃんが、よくシカマル兄ちゃんとこうしてたんだよ………こうやって、」

「は、それって…ッん!?ぁ、ふっ…せ、せんせぇ…!」

唇をこじ開けられ舌が自由にシカダイの口の中を動き回る。舌が絡み合い、隅々まで歯を数えるかのように舐め
られる。シカダイは酸素が足りない脳で必死に打開策を考えたがそれよりも先に溢れ出たドーパミンがシカダイ
の頭を支配した。

(…あたま、まわんねぇ…)

ちくしょう、とシカダイは小さくつぶやき快楽に身を委ねた。その後どうなったかはわからない。ただ起きたら自分は綺麗な布団に寝かされてやたら腰が痛かったことだけは覚えている。

A木ノ葉丸の懺悔

(……………やっちまったぞ、コレ……)

早朝、温泉で冷水を頭から被りすっかり目が覚めた猿飛木ノ葉丸は全裸で頭を抱えていた。それもそのはず、教え子と同い年の少年に酔った勢いで襲いかかってしまったのだから、否定ができないぐらい記憶も感触もありありと残っていることに木ノ葉丸はまた頭を抱えた。目を瞑れば今にも思い出してしまう、泣きながら自分を呼ぶ少年の声や、まだ成長しきってない幼い体つき、極め付けは中の感触だ。熱く、ねっとりと絡みついてきたあの感触は今まで抱いてきた女よりも極上のものだった。

(…忍の三禁、破ったどころじゃねぇ…シカマルのにいちゃんとテマリのねぇちゃんに殺される!!)

木ノ葉丸はよく知っている。テマリが怖いのはいつものことだとして、ともかく怒った奈良シカマルは木ノ葉にて最強なのだ。うん、よくよく知っている。妻の尻にひかれている奈良シカマルがなぜ恐ろしいのかだって?それは木ノ葉丸が猿飛木ノ葉丸だからであり、幼い猿飛木ノ葉丸が猿飛アスマと奈良シカマルが付き合っていたのを知っていたからである。あぁ、あの頃の自分に忠告したい。アスマの家に無闇矢鱈に忍び込むなど計画するべきでないと、忠告できたとしても遅いがもしできるなら、叔父とその教え子の生々しい性交など幼い自分は見ずに済むのだ。しかしそれと同じことをしている自分が今ここにいるのもまた事実。

(何か血は争えないみたいで嫌だぞコレ…!アスマのおっちゃんのせいだ〜〜!)

タバコをふかしてにっこり笑う天国の叔父へと木ノ葉丸は声にならない抗議をあげた。届くはずもないが言わずにはいられない。うが〜〜!と浴室を転げ回っていると、からから、と小さな音がして浴室の扉が開いた。

「…せん、せ…」

「しっ、シカダイ!き、奇遇だなぁ〜〜お前も朝風呂か!?ははっ、あはは〜!」

「…あの、先生、昨日…」

「き、昨日!?昨日がどうしたんだコレ!?あぁ!将棋の話か!?熱中してたもんな〜〜!」

あくまでもはぐらかしてしまおう、そうしよう。ダメな大人ですまないシカダイ。木ノ葉丸はそう心の中で謝りシカダイを湯船に浸からせた。シカダイはシカダイで湯船が温かいのか、頬を赤くりんごのように真っ赤にしている。

「……ちがう」

「ん?違う??何が違うんだシカダイ〜〜違わないよなぁ?」

「……ッ、違う!」

キッ、と緑の瞳が鋭く木ノ葉丸を睨む。テマリを思い出すその瞳に木ノ葉丸は思わず息を飲んだ。

「……………すまない、」

か細い声で呟く。シカダイは俯いて何も答えなかった。二人きりの浴室に水の音だけが響く。

「……酔った勢いで、あんなこと…するべきじゃなかった、あやまっても、済むことではないが…」

「…………………して、」

「シカダイ?」

聞き取れずにシカダイの顔を覗き込むと真っ赤に染まった顔が見える。緑の瞳が水を写しこんでゆらゆらと揺れていた。ゾクリ、と興奮が身体中を駆け巡る。思わず身体を逸らそうとした木ノ葉丸の腕をシカダイの小さな手が掴んだ。あぁ、もうダメかもしれない。俺は同じ轍を踏むのだ。心のどこかで自分の囁く声がする。しかしそれを必死に振り払い理性を何とか保とうとした。

「……あんまり、覚えてねーけど、あれって…せっくすってやつだろ?」

たどたどしい発音に幼さを感じ木ノ葉丸は距離を取りたくなるがシカダイの手がそれを許さない。せめて視線は合わせないようにと顔をそらす。

「………い、いや…えっと…」

「…俺にしちゃいけないことだったんだよな……先生悪いことしたんだ」

悪いこと、確かにそうだ。幼い子供の言葉が胸に突き刺さる。あぁ、自分はなんてことをしたんだろうか…。木ノ葉丸が俯いているとシカダイは両手でぐい、と木ノ葉丸の顔をあげさせあの緑の瞳でジッと見つめてきた。

「…シカダイ?」

「せんせ、俺…誰にも言わないよ、言わないから……また、」

「また…?」

「…また、俺とせっくすしてください」

は?なんだって??頭が追いつかず、開いた口が塞がらない。そしてシカダイはその瞬間を見逃さず唇の端にちゅ
う、と自分の唇を押し当てた。木ノ葉丸は驚き、思わず口を固く閉じる。

「……?」

ちゅう、とシカダイはもう一度唇を押し当てる。それでも木ノ葉丸は口を開かない。

「………?」

ちゅ、ちゅ、と今度は二回連続だ。ひと工夫されている。って感心している場合ではないが、しかしそれで落
ちるほどヤワではない。

「………むぅ、」

ぺろり、とシカダイは木ノ葉丸の唇を舐め、もう一度口付けた。木ノ葉丸は頑なに口を開こうとしないが、シカダイは諦めるつもりはないようだ。喋れば負けだ。木ノ葉丸はそう思い、目だけでやめろ、とシカダイに訴えかける。

「………いやです」

いやいや、嫌とか嫌じゃないとかの話じゃないぞコレ。

「…先生が、悪いんだ…俺にこんなことするから」

まぁ、まぁまぁ、そうなんだけど、だからってまたするわけにはいかねー!

「…………ばか、」

えぇえぇっ!?うっそぉお!?泣いたぁああぁあぁ!?!?

ぽたぽたと緑の瞳から大粒の涙がこぼれた。それは木ノ葉丸の頬に落ちツーッとまた落ちていく。困ったまさか泣くとは、強姦まがいのことをしたのになんで迫られた上に泣かれてるんだろうか…?最近の子供はわからない。木ノ葉丸は困った顔でシカダイを見た。

「………せんせ、おねがい」

「誰にも言わない、秘密にするから…おれと、せっくすしてください………」

あぁ、まただ。ゆらゆらと揺れる緑の瞳が木ノ葉丸を魅了する。気づけばシカダイの細い腰を抱き寄せ唇を重ねていた。薄ピンクの柔らかい唇に噛み付くようにキスをし、舌をねじ込む。

「んっ、ふッ…ぁ、う、ふぅ、」

「っ、は、ぁ、はぁ…知らねーぞコレ、大人を本気にさせて、後で泣いても知らねーからな…」

シカダイを湯船からあげ、湯船の淵に座り膝の上に乗せると指を軽く入れて中をいじった。

「ひっ、!?ん、ン、ッ…」

「ッ、中、狭い……」

ぐにぐに、と後ろを指で広げれるだけ広げてしまい、そのまま亀頭だけ入り口に押し当てた。するとシカダイの体が小さく揺れ、息をするたびに後ろがひくついた。その反応に抑えきれない興奮が湧き上がり、思わず後ろからシカダイの白い肩に噛み付く。シカダイは痛みに眉を寄せながらも嫌がるそぶりは見せなかった。

「このはまる、せんせ…」

「長いだろ、先生でいいよ」

「あ゛ッ…!く、ぅ、ア、ッッ!」

そう囁くとずん、と奥まで自身をねじ込み腰を揺らす。シカダイは快感に耐えようと掴まるところを探し手をパタパタと動かした。木ノ葉丸はその手を優しく握りシカダイを立たせると、手を後ろに引きそれを頼りに激しく打ち付けていく。

「アッ!?ぁ、あっ、あっ、せんせ、ッ、このはまる、せんせぇ、」

「お前、中、あっついなぁッ、食われそうだ、ッ、く、」

「あんっ!あっ、アンッ!せんせのも、あつい、からぁっ!」

楽しむ、というよりかは本能的に木ノ葉丸はシカダイを犯したい衝動に駆られていた。よって幸せを感じるような行為ではなく、激しさと痛みと快楽でシカダイに襲いかかってしまう。シカダイはそれにうまく順応し、しっかりと中を締め、乱暴に自分を抱く木ノ葉丸を受け入れていた。

「シカダイッ、中、出すからな…!」

「アァッ!あっ、だして、だしてぇ、」

シカダイの体がびくびくと震える。木ノ葉丸はその上にケモノのように覆いかぶさり、最後の律動を繰り返した。
甘い声がシカダイの口から漏れ出し浴室全体にその声が響く、それに羞恥心を覚えつつも今この瞬間、快感に支配され淫らに乱れるシカダイが美しく艶かしくて木ノ葉丸のボルテージが一気に上がる、これはもう上がるしかない。

「シカダイ…ッ!」

「んっ、せんせぇ、せんせぇ…っ、あ、ァ、もっ、だめぇ…!!」

ギュッと中が締まり、木ノ葉丸は素直にシカダイの中に射精した。シカダイも射精し、一気に脱力感が襲いかかる。木ノ葉丸はずるりと自身をシカダイから引き抜くとシカダイを抱き上げ湯船から完全に出てしまう。床に降ろされたシカダイは腰が抜けたのかへたり込んで真っ赤な顔で木ノ葉丸を見上げた。しゃがんで目線を合わせると、シカダイ
の真っ赤な顔を木ノ葉丸は優しく撫でる。

「……何で、俺とセックスしたいか、理由は教えてくれねぇよな?」

「……それ、は…」

「……そうか、なら、俺たちだけの秘密だ」

ぎこちなく笑い、木ノ葉丸は小指をシカダイの目の前に持ってくる。シカダイは申し訳なさそうに目を伏せながらもチラチラと木ノ葉丸を盗み見た。

「約束?」

「あぁ、約束」

そっ、と握られた小指と小指に赤い糸が見えたのは幻覚であってほしい。少し湯船に浸かりすぎたな、と木ノ葉丸は後悔した。

B将棋指南

じわじわと夏の暑さが部屋を侵食している。あの温泉での一件から木ノ葉丸は見事に奈良シカダイに押し通され肉体関係を持つようになっていた。それと同時に将棋も始めるようになり、もっぱら非番の日はシカダイが泊まる用意を持って木ノ葉丸の家に来る。木ノ葉丸がたとえ任務で家にいなくてもシカダイは家の家事をしたりして木ノ葉丸の帰りを待ってくれている。いや、綺麗にしてくれるのはありがたいし帰って来れば温かいごはんがあるのは本当に感謝してもしきれないが、シカダイは実質通い妻のようなものになっていた。それはまずい、と心の中で思いながらも木ノ葉丸は毎回毎回シカダイの作った飯を食らい、シカダイの沸かした風呂に入り、シカダイが綺麗に畳んだ寝巻きに袖を通している。彼の手際の良さと器量の良さに完全に依存してしまっていた。そうして世話を一通りした後にようやく将棋で一戦を交え、布団に入る前にシカダイは木ノ葉丸にセックスを要求してくる。まるでそれが対価だと言わんばかりにシカダイは木ノ葉丸を求めてきた。なぜそこまでして自分に抱かれたいのか、木ノ葉丸には見当もつかないが彼なりの考えがあるのかもしれない。そして今日も、カーテンを締め切った薄暗い部屋でシカダイは口いっぱいにあるものを頬張っていた。

「ん、ッ…ふ、ぅ」

「おい…シカダイ、将棋、するんだろコレ……」

「ん、ぁ、…でも、大っきくしたの先生だぞ?」

顔に熱が集まり、火照っているが、毎度毎度流されるのは堪ったもんじゃない、と木ノ葉丸はシカダイの頭を撫で少し嫌そうに呟いた。しかしそんな木ノ葉丸を気にすることもなく、シカダイは、ちゅ、ちゅ、とアレにキスをしてニヤリと笑って木ノ葉丸を見た。いやいやいや、これは反則だ。生徒たちの中でも中性的で顔が整っているシカダイがしてはいけないAV女優顔負けの表情をしている。しかも自分のアレを持ってだ。木ノ葉丸は湧き上がる興奮をなんとか抑えようと萎えることを考える。

「って、いうか…原因を作ったのはお前だぞコレ……!」

「ぱんつ履いてなかったからって大っきくしたのは先生じゃん」

「ばか!ぱんつ履いてないこと自体が問題なんだ!」

「だって、持ってきたストックが無くなってたんだし、それに今日もどうせせっくすするからいいかなって思って」

「お前なぁ…」

シカダイを起き上がらせ、ベッドの側にあるティッシュで口周りについた白濁を拭き取ってやる。シカダイは何が悪いのかわからない、という顔できょとん、としていた。

「確かに俺はお前と秘密の約束をした、それに元はと言えばお前を無理矢理抱いたことが原因だ、だからお前のワガママぐらいは受け入れるべきだと考えている…大人としては最悪の答えだがな」

「なら問題ないじゃないですか」

「……だがなシカダイ、お前は俺に何を求めてるんだ?頼んでもいない身の回りの世話をして見返りのようにセックスをしろと言うが…正直お前がわからん、ただ快楽を求めるだけなら道具でもなんでも買えばいいだろう?」

日々のルーティンに組み込まれたようなセックスという行為は木ノ葉丸にストレスを与えていた。元々、理屈ではなく感情型の人間でもあるがゆえに理由が無く感情が伴わないことは逆にストレスなのだ。シカダイにも何か事情があるのだとこの数週間理由を聞かないではいたが、こうもロボットのようにセックスばかりしていると、そのことにもう疲れ果てている自分がいる。もう理由でもなんでもいいが何か木ノ葉丸を納得させるものをシカダイから聞けなければ、これ以上この関係をずるずると続けたくないと感じていた。木ノ葉丸の思わぬ告白にシカダイは困った顔をしてぼそぼそとつぶやき始める。

「………先生、言いました」

「何を?」

「…酔っ払って俺とはじめてシた時、俺のこと綺麗だって……できるなら、ずっと側に置きたいって言ってくれました…ぼんやりしか覚えてないんですけど…」

自分はそんなことを言っていたのか、ちょっとどころかもしかして彼が自分を求めてくる原因は自分自身が蒔いた種なのかもしれない、と木ノ葉丸は冷や汗をかき始める。シカダイはまた少しずつ少しずつ言葉を零していった。

「俺…誰かに必要とされたの、久しぶりで…嬉しくって…」

「…シカダイ」

「アカデミーの頃なら、ボルトがずっと側にいて、作戦とかいろいろ俺に意見を求めてきてたんです…シカダイ助けてくれってばさー、なんて、いつも、いつも俺のところに来てくれたアイツに俺が一番依存してて…」

シカダイが両手で顔を覆う。体全体がふるふると震え、ぎゅっと噛み締められた唇だけが見えた。

「班が離れて、ボルトともあまり会わなくなりました…猪鹿蝶は猪鹿蝶で求められることもあるんですけど………でも、」

「……そうか、シカダイはボルトが好きだったんだな」

シカダイの言葉から察するにそういう事だろう。そう思ってポツリと呟いた言葉にシカダイは体を硬直させ、顔を覆っていた手をぱたり、と膝の上に置いた。まるで今この瞬間、自分の感情に気づいたかのように呆然としているシカダイに逆にこっちが面食らってしまう。

「……俺が、ボルトを…………」

「違うのか?」

「……ちが、う…?いや、でも…俺…」

ぽたり、と涙がこぼれ落ちた。そして次々と涙の粒が溢れ出してくる。あぁ、これは自分の気持ちに気づいた涙
だな、と心のどこかで冷静にみる自分がいた。

「……俺、俺…ボルトの側に…ずっといたかった…猪鹿蝶じゃなくて、ボルトと同じ班で、ボルトの隣で…」

はぁ、はぁ、はぁ、と浅い呼吸をなん度も繰り返しているシカダイを木ノ葉丸は抱き寄せぎゅっと抱きしめた。

「せ、先生、?」

「落ち着け…ゆっくり息をしろ、過呼吸になるぞ」

トントンと背中を叩きシカダイを落ち着かせようとすると、シカダイも大人しく木ノ葉丸に体を預けて来た。木ノ葉丸は体をゆらゆらと揺らし重力に身を預けた。

「…先生」

「なぁ、シカダイ…俺は、意味もなくお前を抱くのは嫌だ…俺も後ろめたさしかないし、何よりお前に負担をかけてしまう」

「……もう、やめるってことですか?」

すんすん、と鼻をすすりながらシカダイは涙声で呟く。まるで今から捨てられてしまう子犬のようで木ノ葉丸は少しだけ笑った。

「ははっ、違う、ってわけでもないが…俺の提案をお前が呑むなら、この関係を続けることはできる」

「提案…」

「あぁ、提案だ、一つはもうこの関係をやめて元の生徒と先生に戻る、お前はボルトが好きなわけだし、たとえ班が違っても中忍にさえなれば班なんて関係なしに任務をしなきゃならない、その時にボルトと同じぐらいの実力があれば二人で任務にあたるかもしれないだろ?考えていけばアイツと一緒になんていくらでもなれる」

「…もう一つは?」

シカダイの緑の瞳がしっかりと木ノ葉丸を捉える。木ノ葉丸は何度か咳払いをして、言いにくそうにしていたが、シカダイがくいくいとTシャツの端をひっぱり、渋々と口を開いた。

「もう一つは……まぁ、これはお前じゃなくて、俺の問題…なんだけどな、俺に理由をお前がくれるなら、俺はお前を抱くことはできると思う」

「………先生は、この関係に名前が欲しいのか?」

「…はは、鋭いな……まぁそうだ、正直お前に惹かれている自分がいるんだ、気になっているし、お前がこうして俺の帰りを待ってくれているのに嬉しさを感じている…でも、俺の気持ちを押し通したらダメじゃないか?お前はボルトが好きなんだから」

シカダイは少し考えた顔をしたがすぐに顔を上げて木ノ葉丸を見つめた。

「……ボルトのことは、確かに好きなのかもしれない……でも、ボルトは陽の下にいるべき奴だから…俺の
ワガママで日陰に隠れるようなことはさせたくない」

(俺はいいのか…ってまぁ、間違いを犯したのは俺が先だしな)

「…でも、先生は本当の俺を知ってて、俺もみんなの知らない先生を知ってる…ボルト達も知らない先生が俺の見てる先生だから」

そっ、とシカダイの細い指が木ノ葉丸の指と絡み合う。僅かに早くなった鼓動が警鐘のように頭の中で鳴り響く
が、最早それに抑止力などないことは自分が一番よくわかっていた。

「…俺しか知らない先生を他の誰かに見せたくない……これって、先生が好きってことだよな?」

「……たぶ、ん…そうじゃないか?」

迷いながらもそう言うとシカダイは顔を歪めて困った顔をした。ぎゅっと絡んだ指に力が込められる。

「シカダイ?どうした?」

「……先生は、二人も同時に好きになってる俺なんてイヤ?」

緑の瞳がゆらゆらと揺れた。何時ものような感じではないが、その瞳には迷いと不安があることがわかる。あぁ、この子も自分がわからなくて怖いのだ。当たり前だ、まだ12歳なのだから。木ノ葉丸はシカダイをベッドに寝かすと優しく髪を撫でて唇を塞いだ。シカダイは戸惑いながらも口を開けそれに応える。

「んッ、ふ、ァ……せん、せ…」

「……俺は、お前のこと大事にしたいと思ってる、問題は山積みだが…とりあえずお前のこと、守らせてくれないか?」

「…………こんな、中途半端な俺でもいいの?」

「…あぁ、問題ないぞコレ」

シカダイはその場に似合わない木ノ葉丸の口癖に少しだけ笑い、木ノ葉丸の首に手を回すと自分から口付けてき
た。そしてゆっくりと唇を離し、にっこりと笑う。

「俺も、先生とまだこうしてたい」

ゾクリ、と木ノ葉丸の背中を何かが這う。これはきっとこの子の才能なんだろう。とんでもない子と関係を持ってしまったな、冷静 に分析する自分を感じ取りながら木ノ葉丸はシカダイの服を脱がしていく。

「シカダイ、あんまり他の奴の前でそんなこと言うなよ」

「…?」

「いいから、返事は?」

「はい…???」

不思議そうにしながらされるがままになっていたシカダイは服を全て脱がされ、一糸まとわぬ姿で木ノ葉丸を見上げる。

「……先生」

「ん?」

「先生も、脱いでよ……俺だけじゃ、恥ずかしい…」

「あぁ、なるほど、わかったよ」

木ノ葉丸は着ていたTシャツとズボンを脱ぎ、最後に下着も脱いでシカダイの上に跨った。シカダイは少しだけ顔を赤くして、じっと木ノ葉丸を見つめてきた。またその瞳だ。この緑の瞳がゆらゆらと揺れるたびにシカダイに魅了され、どうしようもなく彼を抱きたくなる自分がいる。そんな自分をシカダイはどう捉えているのだろうか、まぁ、そんなことを冷静に考える余裕もないのだが。互いに視線はそらさずに唇を重ね、体を弄りあう。そしてゆっくりと何度挿れたかわからないあの中へ木ノ葉丸は自身を押し込んだ。

「…んっ、ァ…せんせ…」

「…シカダイ……」

「なんか、きょうは、せんせい、やさしいな…ッ、ん、ぅ………」

「…まぁ、恋人には、優しくするぞコレ……」

「……こい、び、と……ンッ!ァ、ッ…」

恋人という言葉に、きゅ、と中が締まり、少しだけ力を込めて中を押し広げると甘い声がだんだん大きくなっていく。

「嬉しいのか?」

「んん、ッ、わかんね、けどっ、ァ、アッ!」

「まぁ、多分、嬉しいんだろ…じゃなきゃこんな締まらねぇぞ」

「アッ、あっ、せんせ、ァ、ッ!」

「…俺も、シカダイがそう感じてくれてるなら、嬉しいよ」

「っ、うれし、い?せんせ、ッ、あっ、アンッ!」

「…あぁ、ッ、」

「ひっ、あっ、ァ、ッ、せんせ、っ、せんせぇ、」

手を伸ばして木ノ葉丸を求めてくるシカダイに木ノ葉丸は優しく口付け、そのまま腰を振った。舌を絡ませ声も出せない中、後ろの締まりとシカダイの体の震えで彼が絶頂に達したことがわかると木ノ葉丸も何度か中を突いてそこに全てを吐き出した。

「……っ、シカダイ、大丈夫か?」

「……は、い」

顔を真っ赤にして涙目で木ノ葉丸を見上げるシカダイの黒髪を優しく掻き上げて微笑む、シカダイもその笑顔に安心したのかにこりと笑い返してきた。

「……せんせ、」

「ん?」

体を起こし、耳を貸してと手招きをするシカダイに顔を近づける。

「スキだぜ、このはまるせんせい」

ちゅ、と頬に柔らかい感触がし、すぐに離れてしまう。木ノ葉丸は頬を抑え真っ赤になった顔でまじまじとシカダイを見つめた。シカダイはいたずらが成功した子供のようにニシシと笑う。

「このっ…お前、調子に乗っていいなんて誰が言った!コレェ!」

前途多難な気もするがしばらくは退屈しなさそうだ。またどこか冷静な自分がそう分析していたが気づくことはなかった。

C奈良シカマルの経験則

今年の夏は酷暑らしい。もう日がとっくに暮れているというのにムシムシと熱い帰り道をシカマルは汗をかきながら帰る。がんばれ自分、あとあの角さえ曲がれば我が家だ。シカマルは自分を鼓舞し、足を進めた。

「た、たでーまぁ〜」

玄関に着いた瞬間、床に座りはぁ〜とため息をついて脱力する。針は11時を指していてカチッカチッと聞こえる秒針の音と玄関に置かれた扇風機から出ている心地よい風がシカマルを癒した。きっと扇風機を出したのは妻なのだろう。その気遣いが嬉しくシカマルはゆるりと口を緩めた。

「あぁ、おかえりシカマル、よかったな今日は早く帰れて」

「お〜、何とかな…あれ、ダイは?」

「あぁ、木ノ葉丸のとこだ、将棋するんだと」

「ふーん…」

最近顔を見ない息子はどうやら将棋を指しにいくのがマイブームのようだ。あの澄ました顔も見れない日が続くと恋しくなってしまう。少し不服そうなシカマルの顔を見てテマリはくすくすと笑ってシカマルの手を引いた。

「ダイも年頃だからな、その内家に寄り付くようになるさ」

「…木ノ葉丸より俺の方が強いぜ、絶対」

「だからだよ、お前にこてんぱにされるのはプライドが許さないんだと」

そんなとこは私に似ているな、と可愛い顔で笑う妻に抱きつきながらシカマルは納得していた。負けず嫌いな息子の性分を考えれば他で経験値を積んでこようとするのは当然である。まぁ正直、負けず嫌いは自分も同じなのだが、そこは妻に譲っておこうと自己完結しておいた。

「全く、お前もダイがいなかったら甘えたになるんだから」

「……てまちゃん、疲れた」

「ちゃんとわかってるよ、お疲れ様」

テマリは優しく夫の背中を撫でてここにはいない息子に感謝する。こうでもしないと夫は本当に気を抜いたりはしないからだ。変なところで面倒な夫ではあるが、それだけ家族を気遣ってくれている夫の愛情にテマリはいつも嬉しくなってしまう。さ、早く暖かいごはんを食べさせてやろう。テマリはシカマルの手を引いて居間へと向かった。

一方、木ノ葉丸の帰りを待つシカダイは眠気と戦っていた。

(…せんせ、まだかな……きょう、ひさし、ぶり…だから……おきててあげてーんだけど…)

こくり、こくり、と船を漕ぎながらなんとか眠気に打ち勝とうとする。向かいの席にはラップがされた晩御飯が寂しく置かれていた。それを見てシカダイはなんだか無性に悲しくなる。

(………せんせぇ、はやくかえってきてくれよ…)

ぺた、とテーブルに顔を突っ伏し足をぶらぶらとさせて眠気を無くそうとする。さみしいが、仕事なのだ仕方な
い。そう自分に言い聞かせてもさみしい気持ちはきゅうきゅうとシカダイの心を締め付ける。

「……」

シカダイはおもむろに立ち上がり、洗面所にあるものを取りに行った。

「…あった」

汚れた洗濯物の中からぺろりとはみ出していた青のマフラーを引っ張り出す。汗の染み込んだマフラーを首に巻きつけシカダイはゆっくりと息を吸い込んだ。

(はぁ…落ち着く)

我ながら変態と言われても仕方ないが、木ノ葉丸の汗の匂いはどうにも病みつきになってしまう匂いで、シカダイは木ノ葉丸が汗をかいている時ほど彼に抱きつきその匂いを味わっているのだ。マフラーに包まれているだけで木ノ葉丸がそばにいてくれている気がしてシカダイは少しだけ安心したが、結局それも寂しさを助長させるだけだった。

(…それに、あんまりこうしてると……せっくす、したくなっちまう)

マフラーに顔を埋めながらシカダイは眠気を押しのけた性欲と戦い始めた。やたらと体が熱くなってきて、後ろが疼く。木ノ葉丸の匂いを吸い込めば、汗だくになった彼に抱きしめられ眠った日を思い出す。ぎゅ、と興奮を抑えようと体を縮こませるとあの大きな手でしっかりと腰を持たれる感触がリアルに蘇った。

(……うぅ、わかってんのに、なんでマフラー出したんだ俺……)

あと10分待って帰って来なければ自分でしよう。シカダイはそう心に誓い木ノ葉丸の帰りをベッドで待とうと寝室に向かおうとした、その時、ガチャリ、と玄関の鍵が開く音が聞こえた。ぴょこんっ、とシカダイは立ち上がりそっと洗面所から顔を出す。すると下忍になってからよく嗅ぐようになった血の匂いが玄関から漂ってきているのがわかった。途端に嬉しい気持ちは掻き消され心配と不安が顔を出す。

(………今度の任務大変だったみたいだな……)

疲れてるだろう。はやく風呂を入れてやらなければ、シカダイは慌てて風呂の栓をすると蛇口をひねりお湯を勢いよく出した。そしてタオルをお湯に浸けて絞ったものを3つ用意する。

「木ノ葉丸先生…」

ほかほかのタオルを持ってシカダイはそろりと玄関に続く角から顔をのぞかせた。薄暗い玄関に座ったままフーッ、フーッ、と息をしている木ノ葉丸がシカダイの知らない木ノ葉丸に見えてシカダイは少しだけ怖いな、と震えそうになる手を抑えた。

「先生…おかえりなさい」

ぺたぺたと足音を立てて木ノ葉丸の横からシカダイは顔を出した。気が立ってる時に背後から声をかけたら大変なことになるからだ。シカダイも忍の端くれであるからそれぐらいはわかる。薄暗い空間の中で目を凝らすと木ノ葉丸の顔に返り血がべっとりとついているのがわかった。お湯を絞ったタオルで木ノ葉丸の顔を拭いてやろうとシカダイは手を伸ばす。

「先生、怪我してない…うわっ!ちょ!?」

シカダイの伸ばした手はがっちりと掴まれそのまま抱き寄せられ、唇を塞がれた汗と血の味が口の中に広がる。シカダイはなんとか逃れようとするが大人の力に子供が勝てるわけがなく大人しく力を抜いて木ノ葉丸を受け入れた。

「っ、ぁ、ふッ…せん、せ……」

「っ、ふ……は、ぁ、はぁ…」

ずるり、と下着ごと服を脱がされシカダイの下半身はひんやりとした空気にさらされる。そこに木ノ葉丸のやけ
に熱い手がシカダイの尻を掴み、少しだけ広げるとそのまま挿入されてしまう。

「んっ!?ぅ、あ゛、はッ、ァ……」

慣らしもせずに挿入された痛みは尋常ではなかったが、シカダイはぐっと堪え、唇を噛み締めた。木ノ葉丸は何も言わずシカダイとも目を合わせずそのまま行為にふけってしまう。

「いっ、ぁ、せんせ、ッ、いたいっ、いたい、ッ」

ギュッと木ノ葉丸にしがみ付きそう訴えるが聞いてもらえそうになかった。激しさが次第に増していき、シカダイにも痛みと快楽が同時に襲いかかる。

「ッ、く、ぁ…ッ!せんせ、せんせぇっ…!」

シカダイが絶頂で中を締めると生温かい精液が中で広がったのがわかった。深呼吸をしながら、シカダイは優しく木ノ葉丸に口付ける。ちゅ、ちゅ、というリップ音が玄関に響き、そばにある窓から柔らかい月明かりが玄関に差し込んできた。月明かりは二人を照らし、木ノ葉丸の黒くどろりとしたものも一緒に流してしまう。

「…………シカダイ、」

「おかえり、木ノ葉丸先生」

呆然、まさにその言葉がピッタリな表情で木ノ葉丸はシカダイを見つめる。戸惑い、後悔が入り混じった目を見てシカダイは優しく微笑む。

「お疲れ様、先生」

「…シカダイ……?」

「俺なら大丈夫、先生疲れただろ?お風呂沸かしてあるから…」

「ッ、そういうことじゃない!!」

肩を掴んでそう叫ぶ。シカダイは突然の大声に少し困った顔をしてからにっこりと笑った。

「気にしなくていいぜ、先生…だって先生の助けになれるんなら、これぐらいへっちゃらさ」

優しく笑っているはずなのにその笑顔が冷たい冷笑見えてしまう。この子には恐怖というものがないのか、普通なら泣いて抵抗するものなのに、全てを受け入れて今もなお微笑んでいる。ありえない、どうかしている。聖人君子や聖母マリアじゃあるまいし、目の前にいる子供らしさのカケラもない子供に木ノ葉丸は恐怖を覚えた。まるで自分のどす黒い部分も全て見透かされているようで、木ノ葉丸は今すぐ一人になりたくなった。

「……先生?」

「………悪かった…先風呂入ってこい」

「え、でもよ…」

「いいから」

ぐい、と廊下へ押し出すとシカダイは渋々浴室へ向かった。痛む身体を抑え台所に向かう。狭い部屋に置かれたテーブルの上に冷めきった食事はあの子がずっと自分を待っていたことを暗に示していて、心が痛くなる。ずっと座って何時間も待っていてくれたのだろう。待ちくたびれてテーブルに突っ伏していたりしていたのだろう。あぁ、何を考えていたんだ自分は、あの子が一番怖かっただろうに、何してるんだ、あの子から俺が逃げたらいけないじゃないか。

(最低だぞコレ…………)

はぁ、とため息をつくと浴室へ向かう、浴室の電気は点いていたが水の音が全くしていない。少しだけ不安になって木ノ葉丸はドアを開けた。

「うわっ!?な、なんだよ先生…」

「あ、あぁ…音がしなかったから」

「浸かってたんだよ、なに?晩飯ならテーブルの上に置いたろ?」

「………あ、あのよ、」

「…………?」

「い、一緒に…入っていいか?コレ…」

苦笑いする俺にシカダイはぱちくりと目を瞬かせたが、こくりと頷いてくれた。ぴちょん、ぴちょん、と水が滴る音が響く。身体を洗い終わった木ノ葉丸は狭い湯船になんとか身体を納めていた。シカダイは木ノ葉丸に身体を預けうつらうつらと船を漕いでいる。

「おーい…シカダイ、寝るなら先上がっていいぞコレ…」

ていうか重たい、息がしづらい。

「……やだ、やっと、せんせ…かえってきたのに…」

そんなに待ってくれていたのに帰って来てああでは可哀想すぎたな、と木ノ葉丸は深く反省する。

「………ごめんな、びっくりしただろ」

「………だいじょーぶ…おれ、へっちゃらだぜ、おれ、どきょうがあるのはかあちゃんゆずりで…あと、れいせいなのは、とうちゃん、ゆずり………」

へらりと笑うシカダイを見て、なるほど、確かにそうだと納得していたら、ついに寝落ちてしまったシカダイの体重がずっしりとかかる。木ノ葉丸は優しくシカダイを抱き上げて浴室からでた。疲れ切って寝こけている寝顔を見て愛おしさを感じた。だが、この小さな子供の懐の深さと持ち合わせている愛情の大きさは木ノ葉丸が想像していたよりはるかに大きく穢れのない美しいもので、木ノ葉丸がこの子に抱いていた気持ち以上のものだった。自分にその愛情に見合うものが返せるだろうか、そう思いながら木ノ葉丸は優しく優しく割れ物を扱うようにシカダイに服を着せ、髪の毛を乾かしてやる。そしてベッドにそっと寝かせ、髪を何度も撫でた。目を覚まさないシカダイに木ノ葉丸は少しずつ語りかけ始めた。

「………子供を殺したんだ、お前ぐらいの小さな子供を…まるでお前を殺してしまったような気がして、わけがわからなくなった、自分のやってることが正解なのか間違いなのか…」

「だからって自分を見失って、お前にひどいことしていいわけじゃないんだ……なんで、なんでいつも、俺はこうなんだろうな…」

ぽたり、ぽたり、とこぼれ落ちた涙がシカダイの頬を伝う。まるでそれはシカダイの涙のように全く違うものとしてシーツに染み込んでいった。

「…お前のようになる自信がないよ、間違ってばっかりだ…どうやったらお前に返していける…?」

この子がくれた笑顔や、愛情、くだらないものから大事なものまで全てが、穢れのない尊いものに思えた。柔らかい頬に口付けて木ノ葉丸もゆっくりと目を閉じる。

「…おやすみ、シカダイ」

まだ日が昇りきっていない時間に木ノ葉丸はシカダイを置いて家を出た。もちろん書き置きは残してある。今日は叔父の月命日だからで、墓参りに行くには誰とも被らない一番いい時間が今の時間帯なのだ。少しだけジメッとしている空気を振り払い木ノ葉丸は慰霊碑への道を歩いて行く。

(おじちゃん…話したいことたくさんあるんだ……)

人は誰もいない、静かで寂しげな慰霊碑。まずは祖父に挨拶。次にシカダイの祖父、シカクに挨拶をした。二人にも軽く事の経緯を伝えて置いたが、この二人はなんだか笑って許してくれているような気がした。そして最後に叔父、猿飛アスマの墓の前まで来る。花を入れ替えながら木ノ葉丸は自然と口を開いていた。

「…おじちゃん、久しぶり。俺、アンタと同じ奈良の子を好きになっちまった、俺って意外とアンタに似てるのかもな、コレ」

濡れたタオルで墓石を拭き、周りの雑草を抜いて行く。

「結構、大人として、一人の人間として、最低なことばかりしてる…それでもあの子は俺を受け止めてくれるんだ、笑って許してくれる、それだけじゃなくて俺を求めてくるんだ……なんでかわからないけど」

乾いたタオルでまた墓石を磨いて抜いた雑草を持ってきたビニール袋に入れると憑き物が落ちたようなスッキリとした気分になる。

「たまにあの底なしの好意に怖くなる時があって…でも、それでも結局は側に居たいと思うんだ、あの子が可愛くて可愛くて、仕方がない、おじちゃんも同じだったんだよな?」

覚えている。叔父はあの人といる時、心底安心した顔をしていた。背中をあの人に預けれることに幸せを感じていた。それでも結局あの人を選ぶことはなかったけども、最後の最後まで叔父はあの人の努力を、才能を、全てを信じて、叔父の持つ全てを預けた。玉、愛する妻、愛する一族、そして愛する里、全てを。とは言っても、叔父は神様ではなかったから間違いもたくさんしていた。あの人はその度に隠れて泣いたり叔父に当たり散らして泣いていた。それでも最後は叔父を受け入れて、間違いを犯す叔父すらをも愛していた。俺は、あれこそが、愛というものなのだと幼心に感じていたのだ。そしてその愛は見事にあの子に受け継がれている。今となっては叔父があの人を散々泣かせてしまった理由が少しわかる気がするのだ。

「でも……おじちゃんと同じ道は選ばないからな、これからもたくさん泣かせてしまうかもしれないけど、俺は絶対にあの子を手放さない…俺の忍道に誓うよ」

今度はあの子も連れてくるから、また話聞いてくれよな。そう心の中で呟いて木ノ葉丸は立ち上がった。

「アスマより先に、報告しないといけねぇのは俺じゃねぇのか?木ノ葉丸」

「ひっ!?し、シカマルにいちゃん!?なんでここに!」

突如後ろから降りかかった声に木ノ葉丸は振り向き、思わず後ずさった。シカマルは不機嫌そうな顔で木ノ葉丸を見ている。

「何でも何も、月命日だっつーの、べらべら一人で喋ってたら後つっかえるだろーが」

「ひぃ!ごめんなさい!」

「んで?うちのダイと付き合ってんのかお前」

「……あ、あのー、それは…」

「…ハッ、変なとこで意気地なしなのはアスマそっくりだなヘタレ、言わなくても知ってたよ、なんで将棋指しに行くだけなのに何日も泊まり込むんだか…」

自分もそうだったことを思い出してシカマルはため息をついてタバコに火をつけた。タバコの煙はもくもくと空へ上がって行く。

「お、怒らねぇの?」

「怒ったら別れるのか?」

シカマルの問いかけに木ノ葉丸はブンブンと首を振る。

「なら怒る意味なんてねぇだろ」

「……で、でもよ」

「どうせもう最後までしてんだろ、猿飛の奴らは手が早いんだ、俺が一番よく知ってるってーの」

「…う、ハイ……してます」

やっぱりな、とシカマルは舌打ちをした。

「けど、ダイがお前の家に通い続けるってことはそう言うことだ…あのバカ」

(いやぁ、バカって…シカマルにいちゃんもしてたくせに)

「オイ、今何考えたかわかってからな、調子にのるなよ」

「ハイ!すいません!もう乗りません!」

呆れてため息をつくシカマルを見つめていると怪訝そうな顔でシカマルは木ノ葉丸と距離を置く。

「え、ちょっ、シカマルにいちゃん!それ流石に傷つくから!」

「勝手にダイとの共通点さがすんじゃねぇよ!あの子はお前のもんじゃなくてこの俺の息子だ!!」

「そんなことしてないぞ、コレェ!」

「じゃあなんで見てたんだよ!」

「…ッ、シカマルにいちゃんは、アスマおじちゃんと付き合って、まぁ、色々恋人らしいこともしてさ……幸せだったのかなって思って」

シカマルは思わぬ質問にしばらくきょとん、とした後、ふぅー、と紫煙を吐き出し木ノ葉丸をしっかりと目で捉えた。

「…迷ってんのか」

「違う!迷うときもそりゃあるけど…そうじゃなくて、ずっと、気になってたんだ…」

木ノ葉丸の真剣な眼差しを受けてシカマルは猿飛アスマと書かれた墓石に視線を向けた。そしてぽつりと呟く。

「………あのバカにどれだけ泣かされたか…二股かけてる上に相手は女だったからなぁ、どう考えても勝ち目ねぇし、その時、俺は一回死んだよ」

「死んだ?」

聞き返すとシカマルはこくりと頷く。

「あのバカを好きな自分を自分で殺した、何度も何度も殺したよ………それでも死んでくれなかったけどな」

「え、でも今は…」

「ばぁか、誰が三十路まであのバカ引きずらなきゃいけねーんだよ、もう惚れた腫れたじゃ語り尽くせねぇし…そんな簡単な話じゃねーんだ」

しゃがみこみ墓石に掘られた名前をなぞる背中を見て木ノ葉丸はぽつりと呟く。

「……本気で、好きだったんだなアスマおじちゃんのこと」

「さぁな…」

少し寂しそうな背中に木ノ葉丸は言葉を投げかける。

「シカマルにいちゃん」

「……なんだよ」

「俺、大切にするよ……にいちゃんの大切な玉、ずっと大事にするから…だから」

「…俺に許しなんて求めるな、人間間違えることだってある、そんな時でも二人で乗り越えれるのか、手を離さないでいられるのか、お前らに必要な覚悟はそれだけだ」

シカマルは立ち上がり片手を上げて墓地を出て行く。木ノ葉丸は一人きりで寂しげな風が吹く墓地に立ち尽くした。

「父ちゃん!」

「シカダイ、早いな、木ノ葉丸なら向こうだぞ」

おそらく木ノ葉丸を探して息を切らして走ってきた息子に木ノ葉丸がいる墓地を指差すとシカダイは一目散に走って行く。その背中に少しだけ寂しさを感じてまたタバコを深く吸い込んだ。こんな言い方をすると語弊があるが、できるなら息子は自分が感じた幸せを選び取れるように願う。相手は誰だって構わない、その者のとなりで幸せだと言い切れる人と幸せになってほしい。

(そんな人が人生で二回も現れるなんて、俺も贅沢もんだな)

早く妻の待つ家に帰ろう。息子がいない分今日はのんびりとしたい。帰って妻となにをするか考えながらシカマルは家路を急いだ。

D潰潰ハートは戻らない

ぐしゃり。その時俺は気づいた。俺の心はゼリーでできていたんだ。ぐしゃぐしゃに潰れたゼラチンの塊は誰の目にも留まらず影の中へ沈んで、次の瞬間には俺の目にも見えなくなっちまった。そして沈黙を破る悲痛な宣言は俺の視界を全て覆ってしまう。

「うずまきボルト!違反忍具の使用により失格!よって奈良シカダイを勝者とする!」

なんでこんなことになってるんだよ。なぁ、ボルト。お前は確かにずる賢いとこはあるけどさ、親父さんが、七代目が見てる前でこんなことする奴じゃなかっただろ。それに、なんで、俺に何も言ってくれなかった。俺は、お前にとって何なんだ、なぁボルト。

(答えて、くれよ………)

全てが終わっても俺の心は晴れないまま、ボルトは晴れやかな顔でテレビに雑誌に大忙しだ。どこへ行っても目にする幼馴染の顔にシカダイは辟易していた。咥えていた飲みかけのバナナオレのストローを噛み、苛立ちを吐き出すかのように呟く。

「………むかつく」

「シカダイ!」

ぴょん、とシカダイの筆頭が反応する。この声はあの人だ。イライラは治らないがいつも通りの表情で声をかけ
てきた私服姿のあの人に駆け寄った。

「木ノ葉丸先生!」

「悪い悪い、待ったか?」

「いや、今来たとこ」

「そっか」

なでなでと頭を撫でられシカダイは少しだけ心が温かくなるのがわかった。それが嬉しくてちょっとだけ気恥ずかしくてシカダイはギュッと木ノ葉丸に抱きついた。

「うおっ、なんだ、珍しいなコレ」

「何でもないぞ〜コレ〜」

にししっ、と笑って顔を上げると木ノ葉丸はきょとんとしてからすぐに笑い返してくれる。

「変な奴だなコレ」

「変なのは先生もだぞコレ」

「こらぁっ!真似するなぁ!」

「うわっ!わっ、ははっ!やめてくれよ先生!」

木ノ葉丸はガバッとシカダイを抱き上げ逆さまに吊るし上げる。もちろん冗談であるが、シカダイも面白がってケラケラと笑っていると、周りを歩く人々の好奇の目が二人に向けられ、慌ててふざけるのをやめてしまう。

「ごめん先生…調子に乗りすぎた」

「いや、こっちこそすまん…」

顔を赤くして周りからの視線に耐えていると、ちょん、と木ノ葉丸の手がシカダイの手に触れる。ちょん、ちょん、ちょん、歩くたびに二人の指が絡まり、最後はしっかりと手を繋いで人混みの中に溶け込んでいった。

「木ノ葉丸先生」

「あっ、なぁ、シカダイ」

「ん??」

「そのさ、先生っていうのやめないか?」

「あ〜、じゃあ木ノ葉丸?」

「うーん呼び捨てはちょっと」

「じゃあ猿飛さん」

「苗字もちょっとなぁ……」

うんうんと唸って否定ばかりするもんだから自分で考えればいいのにとシカダイは思ったが、あることを思いついてニヤリと笑う。そして恥ずかしそうに、できるだけ上目遣いでこう呼びかけた。

「…木ノ葉丸、さん…?」

「………オ、オウ、」

ぼんっ、と木ノ葉丸の顔が赤くなり握っている手もじんわりと熱くなる。そんなに嬉しいのか…ここまでに素直に反応されるとシカダイも恥ずかしくなってきてしまう。真っ赤になった顔を片手で隠してシカダイは憎まれ口を叩いた。

「………せんせいのばか、ばかばかばか、おたんこなす」

「不可抗力だぞ…コレ」

木ノ葉丸はぐい、とシカダイを引っ張ってそっと唇を重ねた。シカダイは慌てて手を振りほどき小声で抗議する。

「ばっ、ばか!外だって!」

「いいだろ、ちょっとぐらい、誰も見てないから」

「ダメなもんはダメ!ったく!」

「……ならさ、今日は先生禁止な?それならキスしねーよ」

「う…………」

「どうする?」

「わかったよ…木ノ葉丸、さん…」

むふー、と木ノ葉丸は満足気な顔で笑ってシカダイの手を引く。俺もつくづくこの人には甘いな、とシカダイはため息をついた。ビルに設置されているTVからはリポーターとボルトの声が何度も何度も繰り返し聞こえてきてもう町のBGMと化していた。今一番聞きたくない声にシカダイは眉を寄せ、そんなシカダイに気づいた木ノ葉丸は迷いながらも意を決して問いかける。

「………気になるのか、ボルトのこと」

「ちっ、ちがう!ボルトなんか知らねえよ!」

慌てて否定したシカダイを見て木ノ葉丸は優しく微笑んで頭を撫でる。

「悪いのはあいつの心に気づいてやれなかった俺だ」

「…なんで?先生は悪くないよ……先生は…」

「はは、ありがとう、でもな、俺が気づいてやりたかったんだ…ボルトは俺の弟子だからな、弟子の失敗は師匠の失敗だ」

木ノ葉丸は優しくシカダイの頭を撫でた。ボルトもシカダイも家族思いで優しい子たちである。ボルトもボルトで必死だった。けど、シカダイもシカダイで必死だった。その必死さが悪い方へいったのがボルトだっただけだ。

(まぁ…だからこそシカダイが可哀想なんだが……)

木ノ葉丸もこの件に関してはあまりシカダイをフォローできてなかった。シンシキ、モモシキの襲撃で受けた被害も大きかったし、なにより違反者が自分の弟子であったから、木ノ葉丸はついこの間まで人に会いに行っては頭を下げて回っていたのだ。シカダイもそれを重々承知していたし、あまり駄々をこねたりするような子ではないからあえて話題にするのを避けていたのだが、本人もひっかかる所があるようだ。やっぱりこのままにしてはいけないか、と木ノ葉丸は考え直しシカダイの肩に手を置く。

「なぁ、シカダイ」

「木ノ葉丸さん、この話やめようぜ、せっかくデートしにきたのに嫌な気持ちになりたくない」

「………そっか、それもそうだな…じゃあ今日はシカダイの行きたいとこ行こう、夜は俺の家に泊まればいいから時間も気にせず遊べばいい」

ふるふると首を振って話すことを望まなかったシカダイに木ノ葉丸は軽く頷いた。シカダイは安心した顔で木ノ葉丸に微笑んでくる。その顔を見て木ノ葉丸は心配しつつも今日は思い切り楽しませてやろうとあれこれ思案し始める。

(よかった…ごめんな先生)

シカダイはぎゅっと唇を噛み締めた。溢れ出しそうになるいろんな感情を必死に抑える。

(…今、その話ししたら俺、どうなっちゃうかわかんねー……)

ごめんなさい、頼れなくて、アンタは誰よりも俺を大事にしてくれてるのに、アンタにどう頼ったらいいかわからない俺を許して。

潰れてぐしゃぐしゃになったゼリーのハートは何味だったんだろう。ボルトじゃなくて先生にあげるつもりだったハート。潰れてゼリーはゼリーでも潰潰ゼリーになってしまった。もうこんなものあげれない。どうしたらいいんだろう。心がキシキシと痛む。大好きだった奴に裏切られて、大好きな人にシカダイは全てを曝けだせない。子供みたいに泣いたらいい?怒ったらいい?いろんな感情があるのに「俺らしくない」その一言が全てをストップさせる。

(誰か……誰か助けてくれよ)

シカダイの言葉にできない悲痛な叫びは響くこともできずに影に沈んでいった。

夜。いつも通りに見えるからこそシカダイを木ノ葉丸も心配しているのだが、それとは裏腹に体は正直というかなんというか…とりあえず勃ってしまっている。

(ほんと…最低だぞコレ)

月明かりに照らされシカダイはベッドの上で寝転んで本を読んでいる。因みに服は木ノ葉丸の服だ。白のだぼだぼのTシャツから白くてぷにぷにとした生足が見えて、それはもう思わずしゃぶりつきたくなるエロさである。だがやはりタイミングが悪いかもしれない、と自分の元気な息子をどうにかしようと慌てふためいていると気配に気づいたシカダイがこちらを向く。

「あっ、い、いやぁ〜〜これはだなぁ」

「………」

ぷいん、と顔を逸らして本をまた読み始めてしまうシカダイに木ノ葉丸は初めて違和感を覚えた。なんだこの変な感じは。木ノ葉丸は首をかしげる。何か怒っているのか?いや、雰囲気はいつもと変わらない。それなら気分じゃない?いや、気分じゃないならちゃんと言ってくる。考えても考えてもわからない。木ノ葉丸はもう少しだけ考えよう、と首をかしげて考えたが、結局わからなくなってしまってシカダイの元へ行き、横に寝転んで腰を撫でる。

「…なぁ、迷ったんだが…シないか?」

「…………シたい?」

「あぁ」

「じゃあ、好きにしていいぜ、アンタに任せる」

にこり、と微笑みゆらっと揺れた緑の瞳を見た瞬間、木ノ葉丸はシカダイの着ているTシャツに顔を入れて胸や腹などを舐め始める。

「っ、ふ………」

ぴちゃぴちゃと鳴る音がやけに大きく聞こえて、木ノ葉丸はもっと音を立てようとわざと大袈裟にした。

「ん、ッ……ァ、」

Tシャツを脱がせ、ブルーのボクサーパンツの上から大きな手で揉みしだいた。

「ンァッ!!」

「はは…大きくなってる」

「っ、ひ……ぅ…」

「一回イくか」

ぐにぐにとパンツの上からシカダイの小さなアレを刺激するとシカダイは腰を上げ刺激から逃れようとする。

「っ、う、ァ、!」

「ほら、がんばれがんばれ」

「あっ、あ、ァ!ひゃっ、う、ぁ、アッッ!!」

腰がビクッ、と震えブルーのボクサーパンツにシミができる。そのまま優しくアレをこすると。ぐちゅ、ぐちゅ、とイヤラしい音が響いた。シカダイは顔を赤くして浅い呼吸を繰り返す。

「は、ァ…はぁ、珍しいよな、アンタから……せっくす、したいって…言われたの、初めてだ」

「……言う前にお前が察してるだけでいつも思ってるぞコレ、すぐ相手に合わせるのお前の悪い癖だな」

「……………癖、かァ」

「恋人の前でぐらい素直になれって言いたくてな!だから俺の欲求を押し通して見た!いや、まぁ…そんなタイミングじゃなかったかもしれんが……いやだったか?」

不安そうに問いかける木ノ葉丸にシカダイは息を整えながら優しく微笑んだ。その笑顔に木ノ葉丸も安心して口付ける。

「ん、ふっ……ぁ、」

「……ふ、っ………シカダイ」

「…せんせ、もっと」

「ハイハイ」

絡み合う舌が愛を運んで、抱き合う体が温もりを伝えた。あぁ、好きだ、この子が、好きで好きで堪らない。なのに、

「ごめんなさい、先生。別れてください。ねぇ……………」

朝、温もりの無くなったベッドから這い出て見つけたメモが木ノ葉丸に現実を突きつける。理解したくない、理解できない現実は木ノ葉丸の心をしっかりと握り離さなかった。

E第一次コドモ戦争

血の暖かさとはこんなのだっただろうか。体が完全に冷え切ってもう何も感じない。重たいはずの少年の体は脱げ殻のようで、いつも綺麗だった白い肌や艶のある黒髪は泥や血に塗れ見る影もない。体がブルブルと震え、歯はカチカチと音を立てて声も出せない。目の前で起こっている事態はどういうことだ?なんで、こうなっている?なんで、なんで……

「……………せ、ん………せ」

少年が薄っすらと目を開け自分を呼んだ。喋る度に口から血が溢れ出し緑の服が赤く染まる。

「………せ……ん、せぇ…」

雨音でかき消されてしまうぐらいか細い声に必死に頷くと少年はゆっくりと微笑んだ。

「……せ、…ん…………せ…」

ごめんなさい、そう動いた口からもう音は出なくて少年の体が初めてずっしりと重たくなる。待って、待ってくれ、そう呼びかけようとした瞬間、何かの衝撃が走った。

「ッッッ!!!」

勢いよく布団から飛び起きると、ベッドの脇に置かれていたポーチが床に落ちガタン、ゴトンと鈍い音を立てた、きっと中に入っている忍具のせいだろう。寝ぼけた頭はまだ状況を理解しきれず、落ちたクナイや手裏剣は片付けられることはない。

(なんだ…あの夢)

「…シカダイ……」

あの日からシカダイは一切木ノ葉丸の自宅に来ることはなくなった。そうすると必然的に顔を合わせることもなくなり、気づけば三週間が経っていた。壁の柱につけられた日めくりカレンダーは23日と書かれている。ベランダにはぽつりぽつりとセミの死骸が転がっていて、それでも日差しはまだまだ暑い。陽炎の中で揺れる死骸は夏の終わりが近
づいていることを教えていた。

■■

「木ノ葉丸先生ー!遅刻だってばさ!」

「…あぁ、すまん、ちょっと用意に手間取ってなコレ」

早朝、遅刻したことでぎゃんぎゃんと自分の周りで飛び回るボルトに謝ると、ボルトは不思議そうな顔をして大人しくなる。そばで見ていたミツキやサラダも木ノ葉丸をじっと見つめてきた。

「………先生さぁ」

「元気ないってばさ!」

「…だよねぇ」

「…すまん、迷惑はかけないようにする」

子供達にまで心配をかけては上忍失格だ。木ノ葉丸は自省した。そんな時だ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。シカダイがいるモエギ班だ。あちらはどうやら任務帰りらしいが、どうも雰囲気が悪かった。

「シカダイ!いい加減にしなさい!」

「なんで怒られなきゃなんねーんだ、ちゃんと任務遂行できてるだろ?」

「猪鹿蝶の連携はどうしたのよ?!」

「今日は連携をするまでもなかっただけだって!」

「今日はって、この間からずっとよ!何か理由があるなら話しなさい!!」

「何もねーよ!」

「アンタねぇ…!」

「モエギ」

俺が呼びかけるとモエギは我に返ったのか、あげていた手を下ろした。そして恥ずかしそうに俯いている。きっとこんな場面を見られるのが嫌なのだろう。女というは相変わらずプライドの塊だな、とため息をついた。二人を落ち着かせながらも、離れていたところで見ていた子供達の話し声に耳をすます。

「チョウチョウどうしたのよアレ」

「シカダイが怒られてるってばさ」

「どうもこうもねェ…あちしにもよくわかんない」

「いのじんくんは何か知ってるのかい?」

「シカダイが怒られてるのは最近猪鹿蝶の連携に参加してないからだけど、何でシカダイがそうしてるのかは知らないなぁ」

「でも問題はないのよね〜、シカダイの立てた作戦ならアチシ達もチャクラの消耗抑えれるし」

「何より万が一の時でもシカダイはチャクラの温存ができてるからね、僕らはあんまり気にしてないんだ」

ひそひそと話している子供達の話に納得し二人を見ると二人ともバツの悪そうな顔をして俯いている。

「……………モエギ、心配する気持ちはわかるが手をあげちゃダメだろ」

「………ごめん」

俯いてそう呟く彼女の声は震えている。優しく彼女の肩を叩き、シカダイを見るとこちらをまっすぐと睨みつけて唇を噛み締めていた。目の前にいる小さな少年にいろんな感情が湧き出るが一先ずそれは脇に置いて、あくまで先生として話しかける。

「シカダイも、理由があるならちゃんと説明してやれ、モエギはただお前が心配な、だけ…」

ぱしっ

頭を撫でようと伸ばした手は弾かれ、思わず止まってしまう。周りからも息を飲む音が聞こえた。驚くのも無理はない、あのシカダイが反抗的な態度を見せるなんて初めてのことだ。

「っ、何にもしらねぇだろ…!口出しすんな!誰かに相談してどうにかなることじゃねぇんだよ!!」

「シカダイ!」

踵を返して走り出してしまうシカダイを追おうとしたモエギを手で制する。

「木ノ葉丸ちゃん!なんで止めるのよ!」

「……悪りぃ、モエギ、ちょっとアイツに話があるんだ、今回は譲ってくれねぇか、コレ」

「でも!!あの子は私の!」

「…お願いだ、頼む」

「……………わかったわ、リーダーが言うなら、そうする」

「ありがと、モエギ、みんなを頼むな」

ぽんぽん、とモエギの頭を撫でてサラダに隊長代理を任せるとシカダイの走って行った方に向かって走り出す。そう遠くへ行っていないはずだ。シカダイが急に自分の前から姿を消したのにも疑問は残るが、それよりも先ほどの言葉がどうもひっかかる。誰かに相談してもどうにかならないこととは、何だろうか…。

(あんな追い詰められたシカダイ初めて見た……早く行ってやらないと)

それに最近里に人さらいを生業とするグループが入り込んでいるらしい。木ノ葉丸班の今日の任務はそのグループを炙り出して捕らえることだった。シカダイが巻き込まれない可能性が無いとは言えない。頑なに任務に参加しないのは、できないから、という可能性もあるのだ。

(悪い予感が当たらなかったらいいが…)

■■

「あれ、モエギ?木ノ葉丸はどうしたんだってばよ?」

「火影様!じ、実は…」

火影塔の入り口で木ノ葉丸とシカダイの帰りを待つ一同にたまたま通りかかったナルトが話しかける。モエギは事の顛末を説明すると、ナルトは渋い顔でそれを聞いている。

「…と、いうことでして」

「…モエギ、」

「すみません!私のせいで…!」

頭を下げようとしたモエギの肩を掴み、ナルトは優しくも厳しい口調で問いただす。

「何でもっと早く言ってくれなかったんだ」

「へっ、?」

「シカダイのことだ、あの子がそこまで言うってことはよっぽどの事情があったんじゃないか?」

「事情、ですか…?」

「あぁ、これは俺の推測に過ぎないが…シカダイは、術を使えないんじゃないか?」

「術が…使えない」

そうか、術が使えないのであれば頑なに連携に参加しなかったことにも説明がつく、二人のやり取りを聞いていた子供達もわらわらと集まり心配そうな顔で大人達を見上げた。

「確かに、シカダイくんが術を使えないって理由なら猪鹿蝶の連携に参加しないのは説明できるよね」

「シカダイのやつ、一人で悩んでたのか…」

「…僕、気づいてあげれなかったや」

「アチシも…」

「いのじん!チョウチョウ!落ち込んでる場合じゃないわよ!早く木ノ葉丸先生と合流してシカダイを迎えに行かなくちゃ!」

サラダが立ち上がりそう宣言すると、タイミング悪くポツポツと雨が降りはじめる。それは数秒も経たないうちにシャワーのような大雨になり慌てて建物の中に入った。サラダは濡れた髪をかきあげながらナルトに詰め寄る。

「火影様!今日受けた私たちの任務モエギ班と合同で行かせてください!」

「サラダの言う通りだってばさ!本当に人さらいがいるならシカダイが危ないかもしんねぇ!」

親父!火影様!と子供達は声をあげてナルトに詰め寄る。ナルトは渋い顔をしていたが、ため息をつくとコクリと
頷いた。

「やった!」

「ただし!ちゃんとモエギの指示に従うこと!危険だと判断したら直ぐに無線で連絡しろ、わかったな!」

「はい!」

子供達の返事が揃うとナルトはボフン、と言う音を立てて消えた。どうやら影分身だったようだ。モエギは子供達を集め、作戦を立てるための会議を始めた。

「くそっ!あのガキ共!どこ行きやがった!」

「探せ探せ!」

路地裏のさらに奥に進んだゴミ捨て場で息をひそめる。バシャバシャと水が跳ねる音と共に男達の低い声が響き、シカダイは舌打ちをして右足の怪我を見た。逃げている途中、路地裏に落ちていたガラスの破片で足を切ったのだ。中々深く切れたようで血がどくどくと流れている。それを隣で泣きながら見つめる小さな子供、よく見れば見覚えのある目をしていた。おそらく日向の子だ。シカダイは優しく子供に笑いかけた。

「おにいちゃん……」

「大丈夫、泣くんじゃねぇよ…お前、日向の子だな?うちはどっちだ?」

「あっち…」

「あっちだな…よし、家までおぶってやるから、着いたらすぐに家に入るんだぞ?家に家族はいるか?」

「おばぁちゃんが、いる…」

「わかった、心配するな、ちゃんと守ってやるから」

にしし、と笑って上着の袖を破り足に結ぶ、なるべくキツく血が止まるように。立ち上がって少し飛んでみるとなんとか走れることはわかった。そのまましゃがんで子供を背負うと目を閉じて辺りの状況を把握する。

(……足音が5…全部走ってる、とりあえず忍じゃねぇな、足音が大きすぎる、ただ武器を持ってないわけはないから体術勝負か…)

丁度いい。シカダイはニヤリと笑って自らを鼓舞する。ここ最近の自分の問題がもし一生付き合っていかなければならないものなら、自分の活路は体術にしかない。自分が体術だけでどこまでできるのか、ここで見極めてやろう。

(大丈夫…怖くなんかねぇ、ちゃんと守って、全員倒したらそれでいい)

怖くない、怖くない、怖くない。

絶対に負けるものか。

絶対に、生きて帰ってやる。

雨音を立てないように水溜まりを避けて走り出す。ふいに思い出すあの人の顔は心をぎゅっと締め付けた。

(戻ったら木ノ葉丸先生に謝んなきゃ…あと、モエギ先生と、いのじん達にも…)

理由はまだ話せないけど、でも傷つけたくはなかったから、ちゃんと謝ろう。心配そうな顔をしていたみんなを思い出してシカダイはそう心に誓った。

E手のひらに心を

大粒の雨がぼたぼたとシカダイを濡らしていく、雨の匂いと水溜まりの跳ねる音がどうも気分を沈ませるものだから何とか楽しいことを思い出そうと頭をひねってみる。

(ボルト達とこの間かき氷食ったな…父ちゃんとは一緒に映画見たし、我愛羅おじちゃんには本買ってもらった……あとは、先生と遊園地に…)

木ノ葉丸の笑った笑顔を思い出した瞬間、じわりと涙が出そうになった。

(だめだ…完全にミスった、あの人顔なんか思い出したら会いたくて仕方なくなるじゃねーか…)

シカダイは自分を奮い立たせて路地裏を駆け抜ける。足が時々もつれそうになるが、そこはなんとか根性で持ち直した。

「お兄ちゃん!」

「どうした!?」

「そこ!その道、近道だよ!」

「わかった!」

通り過ぎるはずの道を曲がりさらに狭い路地裏を駆けていく、すると確かに大通りに出れそうな道が見えるのだが、逆に自分たちが追われていた男達の声も近くなって来ていた。

(そりゃ待ち伏せしてねぇわけねぇよな…!)

「なぁ!お前忍の修行してっか!?」

「…うん、兄ちゃんとやってる!」

「よし、なら大通りに出たら俺が土台になってやるからそのまま飛べ!」

「で、できるかな…」

突拍子も無い提案に不安そうな声を出す子供を大きな声で叱咤する。

「できるできないじゃねぇ!するんだよ!お前このままだったらもう二度と家に帰れねぇんだぞ!」

「っ、やだ!絶対に嫌だ!」

「ならやるしかねぇ!合図するからな!」

大通りの光が路地に差し込んで来ている。その先にはたくさんの大人の足が見えた。シカダイは走りながら屈み、
大通りに出る寸前で叫ぶ。

「今だ!飛べ!!」

ぐっ、と背中を蹴る感触がした後、ずっと負ぶさっていた体重がふわりと宙に浮いて消えた。大人達はまるで飛行船を見上げるかのようにゆっくりと顔を上げる。子供の小さな体がそのまま塀に乗り中へ消えるとシカダイはホッとため息をついた。

「テメェッ!せっかくの金づるを!!」

「やべっ!」

シカダイはすぐに踵を返しまた走り出す。バタバタと追ってくる大人達の足跡はさっきよりも近く、心臓がドクドクと音を立ててシカダイを攻め立てた。

(逃げろ、逃げなきゃ、動け足!走り続けねぇと殺される!)

「くっそ!ちょこまかとォッ!」

「おい!待てっ!それは!」

そんな会話が聞こえたかと思ったら、耳をつんざくような音が響き脇腹に鋭い痛みが走った。

「ぐ、あ゛ッッッ!!」

胸から地面に倒れ、大きな衝撃がシカダイを襲う。経験したことない痛みと呼吸ができない苦しみが一気にシカダイの体力を奪い取っていった。

「っ、ッッ……、っ、………ッ」

「やっと、捕まえた…」

「すばしっこい奴だ」

「オイ、こいつよく見たら奈良家のガキじゃねーか」

「あれか、この里のNo.2の」

ぐい、と髪を引っ張られ持ち上げられる。壁に押し付けられ、口を塞がれた。男達はじろじろとシカダイの顔や服などを観察し、値踏みを始める。

「忍か、こりゃ使えそうだな」

「オマケに美人だ、あっちでも通用する」

「オイオイ、昼間っから下品だなァ、ま、わからんでもねぇけどよ」

「ッ!ンーッ!ンンッ!」

男達の言っている意味が分かり、少しでも抵抗しようと足を蹴り上げるがそもそも足が届かない。その事実に男達は厭らしく笑い、持っていた綿と紐でシカダイに猿轡を施した。

「奈良の奴ってのは頭がいいらしいからな」

「それにお前は奈良の奴の中でも威勢が良さそうだ、客に出す前に少し躾とかなきゃいけねぇ」

髭面の男の嫌な笑顔を最後にガツンと頭に衝撃が走り、シカダイは意識を手放した。

■■

「シカダイッ!どこだ!」

雨はどんどんと激しさを増していく。気づけばもうシカダイが飛び出して行ってから半日は経っていた。時刻は16時、まだ夏だが、それでも日が沈むのは早い。木ノ葉丸は焦った。なぜ見つからないのか、何かに巻き込まれてるのではないか、そんな不安ばかりが募る。

「木ノ葉丸!」

「シカマル兄ちゃん!」

「森はどうだった!?」

「ダメだ!他にも…シカダイが行きそうなとこは全部見たけど、どこにもいなかったぞ、コレ!」

「そっちもダメか……キバもこの雨じゃ匂いは辿れねぇし、シノの虫もダメだ…ナルトの探知は……正直数が多すぎて絞りきれねぇ、このままだとシカダイは…俺のせいだ、あんな奴らを里に入り込ませたから…!!」

雨に濡れているのは自分だけではないが、雨の寒さではなく自らの子がいない不安でシカマルの肩は震えていた。珍しい、どんな時でも冷静に判断を下すこの人が、こんなにも怯えているなんて。木ノ葉丸は無意識に手をのばしシカマルをしっかり抱きしめた。そして力強く宣言する。

「大丈夫だぞコレ!シカダイは俺が絶対見つけるから!!」

「木ノ葉丸……って、何すんだ!気持ち悪りぃ!」

「辛辣だぞコレェ!」

バシッと頭を叩かれ涙目で抗議するとシカマルはへらりと笑う。

(……この笑顔)

「……わりぃ、心配してくれたんだよな、俺は大丈夫だ、何があってもシカダイを失うわけにはいかない」

何かを思い出しているような悲しげな笑みの中には強い意志が灯っていて、木ノ葉丸はすぐにその先に誰がいるのかわかってしまう。この人がいくら手を伸ばしても届かなかった男が、この人にこんな顔をさせているのだ。本当に心の底からあの男を愛していたことが、その表情だけでわかってしまう。

(アスマ叔父ちゃん…アンタって、本当にズルイぞコレ)

木ノ葉丸は自分の青いマフラーをシカマルに渡した。

「……もう濡れてますから、意味ないですけど持っててください、誓います、あなたに同じことはさせません、だから…これ返してください…絶対に、約束ですよ?」

「……………あぁ、俺も諦めたりしねぇよ、絶対に」

シカマルに背を向け木ノ葉丸は走り出す。正直、情報が何もないのだ。すぐにどうにかできるわけではないが、それでも絶対に迎えにいかなければならないと木ノ葉丸は改めて決意を固めた。

(シカダイ、父ちゃんも母ちゃんも、7代目も、お前の仲間も、みんなお前を探してる…!心配してるんだ…!大事だから!だから、一人で抱え込むな…みんな側にいるんだぞ!)

■■

シカダイがうっすら目を開けるとそこは見覚えのない薄暗い小屋で、匂いがそこは里の中じゃないことを示していた。

(きっと………下水道、だ…あれで里の外まで出たんだな…)

朦朧とした意識が覚醒し始めるとシカダイはようやく己の状態を把握する。猿轡はそのままに衝撃を受けた頭と脇腹はまだ悲鳴をあげそうなぐらいに痛い。額に張り付いた髪はいつの間にか解けて血で固まっている。そして一糸まとわぬ姿で木の床に転がされていた。

「おう、お目覚めか?チビちゃんよ」

「ハハッ、まだ睨んでやがるやっぱ威勢が良いなァ」

「ごちゃごちゃうるせーよ!早くしちまおうぜ!どうせすぐに傷物になんだからよ!」

「確かになぁ」

「あ、でも死んだらダメだ、猿轡は外そう」

大きな大人の手がシカダイの体を隅々まで弄った。いつもと違う感触に気分が悪くなるがグッと堪えてあくまで
強気な姿勢は崩さない。そんな反応が余計に唆られたのか、男達は虐める為にワザとシカダイを痛めつけていく。

「ひっ!?ぐっ、ぅ、うっ!」

「痛そうだな…」

「ばか、痛いに決まってんだろ、何にも慣らしてねぇしよ」

「あ゛ッ!?ぁ、あ゛、ッ、」

縛られた手足は自由を奪い、シカダイを少しずつ殺していく。痛みしか伴わない行為に声が枯れるまで付き合わされ、気づけば小屋の中でシカダイはモノのように転がされて一人きりになっていた。

(いてぇ…だめだ、あたまかぼーっとする………むりやり、いかされたし、ちが、とまってねぇ…)

もう、諦めてしまおうか、全て手放して、モノとして売られてしまおうか。そうすれば、もう何も考えなくていい、術が使えなくても忍にならなくていいし、心がなくたっていい。

(あっちでもつかえるって…いってたし、かねには、こまんねーかなぁ)

毎日痛いセックスばかりは嫌だが、位の高い者から寵愛を受けることができれば生活は安定する。それなら全てを捨てても少しは不自由なく生きていけるだろう。

(…せんせえ、あいたいな)

絶望の中でふと浮かんだ顔が頭から離れなくなった。だめだだめだ、そう頭で否定しても次々と木ノ葉丸の顔が浮かんでくる。自分が唯一子供らしく甘えれる大好きな人。あぁ、会いたい、助けてほしい、ホントは怖い、風遁だって、影真似だって、どんなにがんばっても使えなかった。何回も何回もやってみたけどそれでもダメだったんだ。なぁ、先生、助けてよ、迎えに来てよ、もう大丈夫だって、言ってくれよ。

「…っ、せん、せぇ……せんせぇ、たすけ、…、ッ、たすけてよッ!」

お願い、先生。

助けて。

死にたくない。

まだ生きてたいよ。

先生の隣で、ずっと笑ってたい。

先生。

先、生。

せんせい。

「せんせぇ……せんせぇッ…このはまる、せんせぇッ……」

息をするたびに涙が溢れでた。後悔した。自分が今までしてきたことに。強がらずに、自分に言い訳をせずに、素直になればよかった。ボルトに怒ればよかった。なんでズルしたんだ、なんで相談もしてくれなかったんだって泣いて詰め寄ったらよかった。父ちゃんに怒ればよかった。なんで文句の一つも言ってくれないんだって、怒ればよかった。みんなに言えばよかった、誰か一人ぐらい俺のこと心配してくれねぇの?って言えばよかった。木ノ葉丸先生に頼めばよかった。先生だけでも俺の味方になってくれって、頼めばよかった。みんな少しずつ忘れていく。ボルトがズルをしたことも、ボルトが世界を救ったことも、次第に忘れて、忘れないように教科書に載って、文字に記されたら人は安心して忘れてしまう。当たり前のことになった出来事に俺はいない。ズルをしたうずまきボルトはいても、ズルをされた奈良シカダイはそこにはいない。声に出して、大きな声で怒鳴ったらみんな振り向いてくれたかな。なぁ、みんな、俺はここにいるんだ。みんなは進めても、俺はずっと、ずっと、あの場所から動けないんだ。

俺…いらないかな?

もうずっとここにいてもいい?

みんな気にならない?

俺は、いないほうが、いい?

「………そう、かも、しんねェ」

あぁ、バカだなあ、そう思った瞬間に薄暗い小屋に大きな音がして砂埃が舞う。

「いなくていいわけねぇだろ!!コレ!!」

「……せ、んせ…?」

シカダイの状況を確認した木ノ葉丸が直ぐに拘束を解き、小屋にあった薄手の毛布で体を包んでシカダイを抱き上げた。そして悔しそうに涙を流しながらシカダイに謝る。

「わかってやれなくてスマン!シカダイ…ごめんな、味方になってやれなくて…本当に、ほんと、う、に…」

「…なんで?……なんで、しって、」

なぜさっきまで自分が考えていたことを知っているのか、状況が掴めない。涙を流しながら木ノ葉丸はぎゅっとシカダイを抱きしめる。

「…いのじんの、母ちゃんの新術でな、チャクラを感知して対象の居場所や感情を読み取るそうだ……みんなでお前のこと探してたからよ、感知伝々でそれを共有してたんだ」

「まって、せんせ…それって…」

「「シカダイ!!!」」

父と母の呼ぶ声がした。そして次々とみんなが自分を呼ぶ。泣きそうな声で、あたりに響く自分の名前が音となって耳に届いた。

「とうちゃん…かあちゃん、ぼるとに、ななだいめ…みんな……」

「シカダイ、みんなお前がいらなくなんてない…みんなお前が大事で大切で、大好きなんだぞコレ」

な、だから、いらないなんて言うな。わかってくれ。そう泣きながら言う木ノ葉丸の顔を見てシカダイの目からもまた涙がこぼれた。

「うっ、ぁ、あ、あアァッ、おれもっ、やだ、ッ、おれだって!おれだってみんなと、まえに、すすみたいっ!!」

「あぁ、そうだな、そうだよな、シカダイ、進もう、お前は一人じゃない、みんながいる、大丈夫だから」

みんな泣いていた。自分も木ノ葉丸先生も、父も母も、仲間も、みんなで揉みくちゃになって泣いて、涙が枯れるまで泣いた後、すぐに病院に行った。しばらく入院をした後に面会謝絶だった病室が解放されると、山のように人がやって来て、みんな泣いて謝って来た。困り果てて、とりあえずごめんねの代わりに一人一人にハグをしてもらって「大好き」と言ってもらった。謝って欲しくなんかなかったし、蒸し返したくもなかったから、それでもみんな謝ってたけど、今度は自分から「大好き」と伝えたらみんな泣きながら笑ってくれた。だから、これで良かったんだと思う。

「心、ねぇ………」

木ノ葉丸はいつもの古びたワンルームマンションのベランダからポツリと呟いた。隣にいるシカダイは恥ずかしそうに顔を俯かせている。体はもうとっくに回復していて今日は久しぶりに木ノ葉丸の家に泊まりに来たのだ。そして忘れかけていた一方的な別れの理由を問いただされて今に至る。

「……バカにしてもいいよ、俺も自分で何言ってるかわかんねぇんだ」

木ノ葉丸はウーン、と考えて何かを探すように部屋に入ってしまう。シカダイは慌ててスリッパを脱いで木ノ葉丸を追いかけた。

「………………先生?」

「心がもし見えるならどんなの何だと思う?」

果物が詰まったバスケットからいろんな果物を取り出して眺める木ノ葉丸がそんなことを聞いてくる。

「もし、見えるなら?んー、やっぱり、ハート、とか?」

「だよなぁ」

まな板の上でバツッ、とリンゴが真っ二つに割れる。木ノ葉丸はそれをシカダイに差し出した。

「ほれ」

「なにこれ」

「半分に切ったりんご」

「いや、それはわかるけど…」

「お前さ、心が潰れたって感じたんだろ?」

「…うん」

「心が潰れることのできるモノだとしたら、別のモノを心として与えることも可能だと思わないか」

シカダイは手のひらに乗った心をみた。確かに赤だし、ハートに見えなくもない。でもまだよくわからない。不思議そうな顔をするシカダイを見て木ノ葉丸はさらに言葉を続けた。

「このりんごは俺の心、お前を好きだっていう心だ、んで、それを半分にした、そのお前が持ってるりんごは俺の心ってことになる」

「そうなったら…?」

「そうなったら、お前が俺にくれようとしてた心はなくなったけど、俺の心をお前にあげたらお前の目的は達成されるだろ?」

「…俺があげたかったんだけど」

シカダイの頭を優しく撫でた木ノ葉丸は優しく微笑む。

「あのなぁ、シカダイ、こう言うのは一方的にしたらいけないんだ、互いに与え合って初めて成立するんだから…お前の分はまた心が生まれたら俺にくれたらいい、大丈夫、心が潰れるなら、また生まれることもできるさ」

そう、この少年の父が正にそうだったように、心は不死鳥のようになんどでも蘇る。そこにいるべきものは、たった一つ、愛だけだ。シカダイはなんとなくわかったのか、スッキリした顔で頷く。

「……そっか、そうかもな」

「納得したか、なら食べよう、俺のハートだ」

「なんかグロいなぁ」

「グロいんだよ、愛って綺麗なもんばかりじゃないだろ?ドロドロしてる所もある、だからいいんだよ……そうだなァ、運命の赤い糸って訳じゃないけど、こう言えばいいんじゃないか、コレ」

シカダイの小さな手のひらに包まれた心をシカダイの手ごと大きく包み込む。そして優しく、シカダイの全てを受け入れる笑顔でこう言った。

「運命の果実を一緒に食べよう」

「運命の、果実を………一緒に」

ゆっくり言葉を繰り返す。じんわりと胸が熱くなって涙が溢れた。あぁ、これが心だ。これが、愛なんだ。それを感じ取った瞬間、シカダイは無意識にこう呟いた。

「…先生、愛してる」

「……あぁ、俺も愛してる、ずっとここに、そばに居てくれ」

きっと先生が無理矢理抱いたあの日から、俺は先生が好きだった。俺だけを見てくれる大人の先生。ちょっと子供みたいだけど、でもそんなとこも大好きな先生の一部である。俺はまだまだ素直じゃないし、子供らしくない大人ぶった生意気なガキだけど、いつかこの人が抱えきれないぐらいの愛をあげたい。その日まで、いや、その日が来てもずっと、側で笑って居たい。そしていつか、笑顔でさよならをする日が来たら、俺はまたあなたに貰った言葉を送う。

運命の果実を一緒にたべよう

(愛してる)

END





因みにあの後は御察しの通り盛り上がった。今回はその一部始終をご覧に入れよう。

「あっ、ぁ、あっ、ッ、ん、ふ、ぅ、あぁっ、アアンッ」

「中、グチョグチョだぞコレ」

先生は俺の中に入れた中指と薬指を激しく動かして中をかき混ぜる。あんまり激しく動かすもんだから前立腺に触れる時もいつもみたいに力加減がされてなくて、俺の口からは喘ぎ声しか出ない。

「ひぃっ!?んっ、ぁ、ああぁっ!!」

ぐるりと俺の体制を変えさせてうつ伏せにさせるとお尻だけを高くあげさせた。俺は来るであろう快感を想像してマクラを握りしめる。先生の逞しい腕が腰を逃げないように固定した後、さっきより激しい動きで俺の中はかき混ぜられた。ぐちゅッ、ぐちゅ、ッ、ぐちゅッと卑猥な音が部屋に響いた。

「ぁっ、ああ、ッ、せんせぇっ、ひぃっ、やぁッ、あっ、だめっ、ンァァッ!!」

全身に衝撃が走り、ぐったりと腰を下ろすと先生が後ろから指を抜いて、俺をまた仰向けにさせた。そしてニヤニヤと笑いながら濡れた指を俺の目の前に持って来る。

「あ〜〜ビショビショだ、コレ」

「…ふん」

「素直になれよ、シカダイ…」

ちゅ、と口付けられ言葉通り口を開けるとそのまま覆い被さられ舌が絡み合う。

「あっ、ふ、ぁ、はぁ、は、ァ…」

「シカダイ…」

「んっ、ふぅ、ふ、ッ、ァ」

ちゅう、ちゅ、ちぅ、と音が艶やかに響き、必死に吸い付いていると、先生は俺の後ろの具合を確認しようと親指を入れてくる。俺がそれに応えようと唇を離し、微笑んだら、先生は少し照れたような顔で聞いてきた。

「……………挿れていいか?」

こくこくと頷き、足を広げるとゆっくり、ゆっくりと先生の大きなアレが入ってきた。圧迫感に頭がぼんやりとするが、それが気持ち良かったりする。

「…ッ、あ…」

先生は俺の腰を掴み、しっかりと打ち付けてきた。それが見事に前立腺にあたり俺は情けない声をあげて射精してしまう。

「ひっ!!ァ、あ゛ッ、んっ、んぅ……」

「……はいったな…ていうか、もうイったのか」

「…っ、う…せんせぇ、」

ごめん、そんな言葉を言えずに先生を見ると、ニンマリと笑った先生はそのまま同じ速さでピストンを始めた。今日の先生はいじわるだ。

「ん〜?どうした?もっと激しい方がいいか?」

「ンッ、ァ、あっ!ち、ちが、ッ、ひっ、ん、ンッ、ぅ」

「気持ち良いだろ、久しぶりだもんな」

確かに久しぶりである。そして気持ちいい。しかし、そんなこと言う暇を与えてくれない。

「ンッ、ぅ、アッ!アッ、アァッ!アッ、アッ、アァッ!」

「…はぁ、ッ、かわいいなぁ、シカダイ…かわいいぞ、コレ…」

先生が俺を抱き起こして俺は先生に抱っこされながら下から突き上げられた。それが気持ちよくって俺の中はきゅうきゅう締まる。

「せんせっ、せんせぇッ」

イきたい。気持ちよくなりたい。先生の唇に自分からキスをしてそれを訴えかけると、先生の動きはもっと早くなって気持ちよくて死んでしまいそうになった。あぁ、もう、だめ、なんにも考えらんねえ。

「アッ!イくっ!せんせぇッ!アッ、あっ、ァ、アァア〜ッッッ!」

俺も後ろと前で弾けて、先生も弾けた。生暖かいモノが自分の中にあるのがわかる。これ、出したくないなぁ、と俺は思いながら、もっと、とおねだりのキスをした。

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