結局、人とは自分勝手なものでして


「シカマルせんせー!」

「うぉっ!いてーよ、ミライ」

「えへへ*びっくりした?せんせ、びっくりした?」

「おー、したした」

「やった!だーいせーこー!」

娘も大きくなり落ち着いてきた今日この頃、彼女の先生になると誓ってくれた夫の教え子は立派な大人になっていた。じゃれつく娘を抱き上げこちらに手を振る姿はまるで父親のようで、随分と体つきも男らしくなった彼と夫をつい重ね合わせてしまう。

「ミライ、あまりシカマルに迷惑かけちゃダメよ」

「だいじょーぶっ!メイワクかけてないよ*」

大好きな先生に会えて嬉しいのか、シカマルの首に手を回し離れようとしないミライ。シカマルもミライには甘いようで、いつもの仏頂面はなりを潜めている。

「紅先生、気にしないで下さい、俺はむしろ大歓迎なんで」

「言い出したのは私だけどテマリさんにも迷惑かけないか心配だわ…」

「あぁ、テマリもミライのこと大好きなんすよ、だから今日も早く連れて来い!とか言われて…」

視線を外しながら少し言いにくそうにするシカマル。きっと半分本当で半分嘘。出かける前に喧嘩をして慌てて出てきたのだ。大方、娘を使って機嫌をなおしてもらう算段なのだろう。

「シカマル…喧嘩した時は素直に謝りなさい、あなたの頭脳が出るまでもないのよ」

「ぐっ…何でわかるんすか」

「アスマも私と喧嘩したら良くあなたを連れてきたもの…ふふ、懐かしい」

「アスマが……あー、あれはそういうことだったのか…」

「それだけじゃないけどね、さ!シカマル、さっさと行きなさい!悪いけどミライのことよろしくね」

「バイバイ、おかーさん!また夜にねー!」

「楽しんでおいで」

「はーい!!!」

手を振る娘を抱き直し、来た道を戻るシカマル。ミライは母が見えなくなるまで手を振っていた。

今度の休日に木ノ葉を散策しよう!とシカマルと約束していたミライは今日をとても楽しみにしていた。忍にとって地形を把握していることは基礎中の基礎、それが自分の生まれた里なら尚更である。ミライは来年アカデミーに入学予定なので、そろそろ木ノ葉の里がどのような地形をしているか教えておこうとシカマルと紅で話し合ったのだ。それに最近奈良家に嫁いできたテマリも参加することになった。表向きには、三人でピクニックに行く、ということになっている。真の目的を知らないミライはピクニックに行くことが楽しみで仕方ないのかシカマルに抱きつき鼻歌を歌い、上機嫌だ。

「ふ*んふふ*ん」

「ご機嫌だなぁ、ミライ?」

「うん!シカマルせんせーとテマリさんがいるもの!楽しみでしょうがないよ!」

ニコりと微笑むミライ、その顔を可愛さと言ったら…自然と頬が緩んでしまう。

「そっか、そりゃあ良かった」

「せんせ、だから早くテマリさんと仲直りしないとねー!」

イタズラを思いついた子の様にシカマルを見るミライの顔は思わず同期の友人達の顔を思い出させる。一体全体、女というのは何故に恋愛というものが好きなのだろうか…。

「ったく、お前まで…これだから女ってのーは…」

「ほんと、女男とうるさい奴だな!」

いつの間に来たのやら、ご立腹の渦中の人物がシカマルとミライを出迎えた。心の準備ができていなかったシカマルは、後ずさりしミライを盾と言わんばかりにテマリに手渡す。

「テ、テマリ…ほら、ミライ連れてきたぞ」

「こんにちは!テマリさん!」

元気よく挨拶をするミライを抱き上げ、テマリは先ほどの般若のような顔が嘘のようにニコりと微笑んだ。

「あぁ、こんにちはミライ、元気にしていたか?」

「うん!」

「そうか、そうか、それなら何よりだ!さ、行こうか」

「はぁい!」

シカマルとは一切目を合わせずそのまま歩き始めるテマリ、ミライもこちらを気にしたような様子は無く、どんどんと森を進んでいった。

「ちょ……………俺を置いていくなよ…」

一人取り残されたシカマルは心底面倒そうな顔をして2人を追ったのであった。

時間は遡り数時間前、朝の食卓の空気がやけに重たく、シカマルは息苦しく思っていた。自分が何かやらかしたのだろうかと色々心当たりがないか考えていたが、皆目見当もつかない。普段から二人の緩衝材になってくれている母のヨシノは、猪鹿蝶の奥様慰安旅行とやらに出かけてしまっている。

「………」

普段と変わらないように見える妻の表情が逆に恐ろしい、シカマルは意を決してテマリに問いかけることにした。

「何すか?」

「…別に」

刺々しい物言いにめげずに優しくもう一度聞いてみる。

「…何か言いたいことがあるんじゃねぇの?」

「何でもない!」

そう言い切ったテマリは白米をほうばり物凄いスピードで朝食を片してゆく。

「そりゃあるって顔だぜ、何なんだよ?」

はっきりそう告げるとカンに触ってしまったのか片方の眉を吊り上げ、こちらをギロリと睨んできた。その顔は、正しく般若である。

「天才軍師様なら私が何を言いたいか位わかるだろ?」

「……イライラしてても話は進まねー、はっきり言ってくれねぇと俺もわからないことだってある」

少しバカにしたような挑発的な口調に流石のシカマルもイラっとしたが、ここはグッと堪えて素直にわからないことを伝えた。そうするとテマリは俯き、ボソッと何かを呟いた。

「…なんだ、」

「は?何て言った?」

シカマルが聞き取れずに耳を近づけると今度は大声でこう怒鳴った。

「私とミライ、どっちが大事なんだ!?」

「え、はぁ?どっ、どっちって…ていうかどうしたよ急に…お前もミライのこと気に入ってたじゃねーか」

いきなりの大声に耳を抑えながら、恋愛小説のようなセリフを言ってきた妻をまじまじと見つめた。まさか、そんなことを言われるなんて小指の爪ほども思っていなかったのだ。

「どうしたもこうしたもない!確かにミライはいい子だ、私だって嫌いじゃないさ…だが、何かある度に連れてくる必要ないだろう!?」

「必要ないって…そんな言い方はねぇだろ、あの子は師から託された子なんだ……嫌なら最初から言えばいい話だったはずだぜ、違うか?」

「必要ない」ことなんてない、シカマルも考えなしにミライを連れてきている訳ではない。なるべく話を聞いてやろうと下手に出ていたが、この言葉だけは許せなかった。

「そうやって、いっつもミライ、ミライって…!!お前はあの子の父親にでもなるつもりか!」

睨みつけたことが更にテマリを怒らせたようだ。もうこうなったら後には引けない。互いに臨戦態勢だ。

「落ち着けよ!なんでそんなに怒ってるんだ?」

「うるさい!もう知らん!勝手にしろ!!」

察してくれない夫に嫌気がさしたのか、テマリは無理やり話を終わらせるとシカマルに背を向け、ガチャガチャと食器を片付け始めた。

「わかった!わかったよ…今日の話は無しに「そう言った問題ではない!!早くミライを連れてこい!」…ったく!…」

苦し紛れに今日の予定をキャンセルしようとしたが、逆に一番大きな声で怒鳴られてしまいシカマルは逃げるように家を飛び出した。ピシャリ、と扉が閉められ、シカマルが出て行った家は一気に暗くなり、テマリの顔にも影が射す。大きな緑の瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうであった。

「ごめんな…」

そう呟くと、ズルズルと膝をつき座り込んでしまう。すすり泣く声だけが誰もいない家に響いた。



「おめでとうございます!テマリさん!」

「…えぇ!?」

ピクニックの前日、体調が優れず、木ノ葉病院に行くと、診察を担当してくれたサクラにそう告げられた。柄にもなく心底驚いてしまったが、まだシカマルには告げていない。今は火影補佐見習いとして忙しくしている夫に余計な心配を掛けたくないし、妊娠したなんて言えば、また女男といつも以上にうるさくなってしまうだろう。

「子供…かぁ…」

子供が出来たのだと聞かされた時、テマリは正直不安しか感じなかった。自分に母親が務まるのだろうか?という不安だけが彼女を支配する。無理もない、幼い頃に母を無くし、父からは実質放置されたような幼少期を送ったテマリには、家族愛というものが良くわからないのだ。

唯一、母から告げられた「我愛羅とカンクロウのことよろしくね」という言葉のもと、弟達の面倒は私が見なくては、という責任感のみで家族に接してきた。その弟達との距離は中忍試験を経て急速に縮まり、今では確かな絆を感じている。しかし、テマリにはそれしかなかった。父母の愛を知る前に家族という関係が歪になってしまった為だ。

(今となっては、父さまと母さまが私を愛してくれていたことは理解できる…でも、)

理解できるのは自分が大人になり、責任ある立場についたからだ。きっと父母もこう思っていたのだろうと思いを馳せることぐらいはできる。しかし、結局それはテマリが感じ得なかったもので、永遠に手に入れられないものなのだ…。

(私に、この子を愛してやることができるだろうか…)

仕事が忙しく深夜になっても帰ってこない夫の布団は冷たいままだ。はやく帰ってきてほしい。夫の布団に潜り込み小さく縮こまったテマリはギュッと目を閉じ、自らを眠りに誘った。

(あれじゃあ完全に八つ当たりだ…シカマル怒っているだろうな…)

ミライを抱きかかえながら、心の中でため息をつく。シカマルは距離を取りながらも自分達の後をついてきているようで、先ほどから会話に入るタイミングを探して「あ*ったく!」などの苛立った呟きが耳に届いていた。対するミライは目の前に広がる景色に気を取られ、シカマルと自分のことは全く気にならないようである。

(いいな、子供は素直でいれて)

少し羨ましく思い、ジッとミライを見つめると視線に気づいたミライがこちらに笑いかける。

「テマリさん!砂にもお花畑はあるの?」

「砂には砂漠が広がっているからな、木ノ葉のような綺麗な花畑は滅多にないよ、だが温室栽培で色々な種類の草花を栽培することはできるぞ」

「砂漠…砂漠にあるお花畑ってキレイかも!ミライも一度見てみたいなぁ…」

キラキラとした目で無邪気にそう言うミライを見て子供の純粋さというものを微笑ましく思った。

「ふふっ、ミライ?砂漠は大変なんだぞ」

「テマリさんがいるから大丈夫だもん!」

自信たっぷりにそう言い切るミライは本気で花畑を探したいようだ。興奮して少し前のめりになるミライをしっかり支え直し、仕方ないなという風にこう告げた。

「…ミライがもう少し大きくなったら連れて行ってやるよ」

「本当!?やったぁ!ありがとうテマリさん!」

「ふふ、どういたしまして」

お互いに笑いあっていると森が開き、少し大きな原っぱに出た。原っぱに続く道で誰かが立っているのが見える。

「ミライ!」

「あ、お母さん!」

そう言うと、ミライはするするとテマリから降り、母親の元へ一目散に駆け出した。母と呼ばれた女性はミライを抱きとめると、こちらへ歩み寄り深くお辞儀をする。

「何時もありがとうございます、ミライの母の猿飛紅です」

「い、いえ!こちらこそ、夫がお世話になっております、テマリと申します」

慌てて自分もお辞儀をして、顔をあげるとニコニコと微笑む紅の顔が目に飛び込んできて、テマリは少し戸惑いながらも、おずおずと笑い返した。



「せんせー!ここまでおいでー!」

「言いやがったな、待てミライ!」

「ははっ!きゃー!捕まらないもんねーだ!」

原っぱを駆けるミライとそれを追いかけるシカマル。ミライの相手をしていると余計なことを忘れてしまえるのか、シカマルの顔には笑顔が戻っていた。

「いつも本当にありがとう」

「気にしないで下さい、ミライはいい子ですから、私も大好きなんです」

「でも、迷惑でしょう?」

「迷惑だなんて!そんなこと…!」

迷惑なんて思っていないことは真実だ。しかし、紅に見つめられ、朝のやり取りを思い出したテマリは俯いて膝を抱えこんだ。紅は手をテマリの肩に回し、自分の方へもたれさせる。

「…ありがとう、シカマルも何か考えがあってウチの子をあなたに会わせてるみたいだから…不安に思う時もあるだろうけど信じてあげてね」

「…そう、ですよね…本当はわかっているんです…!シカマルが私達を天秤にかけるようなことしないって…でも、」

わかっていた。しかし、それでも不安になってしまった。シカマルがミライを優先したら、自分と子供は忘れさられてしまうのでは?という考えが頭から離れなかったのだ。

「そうよね、男っていつも勝手に自己完結して勝手にしちゃうんだから、女からすると良い迷惑よ」

「紅…さん、」

「…私もね、アスマがあんまりにもシカマルに入れ込むから何回か喧嘩したことがあるわ、シカマルと私どっちが大事なの!?って…笑っちゃうでしょ?」

朝の自分と全く同じセリフに少し驚き、顔を上げると、紅は呆れたような、それでいて懐かしむような顔でこう続けた。

「結局、アスマは何でシカマルを連れてくるか教えてくれなかったけど…きっと、あの人のことだから何かシカマルに伝えたいことがあったんでしょうね…」

「嫌じゃ、なかったのですか…?」

「確かに最初は複雑だったけど、あの子がいい子なのはあなたが一番良くしってるでしょう?」

「……あの、紅さん「ストップ、…何で悩んでいるのか私にはわからないけど、それを言うのは私じゃなくてあの子じゃない?」…はい」

「大丈夫、少しだけ素直になればいいのよ…そうすればきっとシカマルはあなたの話を聞いてくれるわ」


「がんばってね、テマリさん」


そう言って立ち上がった紅は娘の名を呼び、彼女の元へ歩いていった。


「あれ、もう帰るんすか?」

「馬鹿ね、あんな顔してる奥さん放っておいてミライと遊んでいるようじゃダメよシカマル」

シカマルを睨むその顔は下忍班を担当している時から変わらず鋭いものであった。自覚はしていたのかシカマルもバツが悪そうにしている。

「…そっすね、ちょっと話してきます」

「そうなさい、ピクニックはまた何時でも行けるもの、気にしないでいいわ」

「ありがとうございます、紅先生」

そう言ってきた道を戻っていく紅とミライの背を見つめながらシカマルはそう呟いた。



「なぁ…テマリ」

夕日が原っぱと2人を照らしている。

「シカマル…」

「俺、アンタのことになるとどうも頭の回転が悪くなるみてーだ…だからアンタがどう思っているかはっきり俺に言って欲しい、ちゃんと聞くからよ」

しっかりと目を見つめてそう言うと、意外なことにテマリは少し悲しそうに微笑んだ。

「…シカマル、今日はすまなかったな、少し不安になってしまったんだ」

「俺がお前よりミライを大事にしてるって思ったのか?」

朝言われた言葉を思い出しそう聞いてみた。

「いいや、違うよ…」

テマリは首を横に降る。

「じゃあ、何があった?何がお前を不安にさせた?」

「出来たんだ…子供が…」

「…………え、」

「私の家庭環境は知っているだろう?だから、私が母親になれるのか不安になってしまってな、でも仕事で忙しいお前の負担にはなりたくないと思って一人で抱え込んでしまっていたんだ…勝手なのは私の方だった、すまない」

言ってしまえば後は楽だった。するすると思っていたことが口からでてくる。

「シカマル?」

反応がない、不思議に思い顔を覗き込むと、急に肩を掴まれた。

「っ、何言ってんだアンタは!俺がっ、そんなこと負担に思うわけねぇだろ!?」

「そ、それはわかっていた!でも…「でもじゃねぇよ!…………ありがとう!」……シカマル」

これでもかというほど力一杯抱きしめられた。シカマルの涙がポタポタと頬に落ち、喜んでくれていることが伝わってきて、思わず嬉しくなった。



「で…結局何が不安だったんだ?」

「言ったじゃないか、さっきで全部だ」

少し落ち着いた二人は並んで座り、ぽつぽつと喋り始めた。因みに二人共泣きすぎて目が真っ赤になっている。

「もう隠し事は無しだぜ、さっきの話じゃ朝の話と辻褄があわねーよ」

「お見通しってやつか…まぁ、なんだ…お前があまりにもミライを可愛がるからな、先生じゃなくて本当の父親になってしまうんじゃないかって…もちろん、頭ではお前がそんなことする筈無いってわかっていたさ」

改めて言うと、自分の幼稚さに羞恥心が込み上げてくるが、話を聞くシカマルの顔はいたって真剣だ。

「その考えが頭から離れなかったってわけか…」

「本当にすまなかった…朝のことは私の八つ当たりだ、お前を信じきれなかった私に非がある」

「いや…不安にさせて悪かった!俺が気づいてやっていたらこんな思いさせずに済んだ筈だ、謝るのは俺の方だ…!」

いきなり土下座をしてそういったシカマル。テマリは慌てて止めた。

「お、おい!何も土下座までしなくてもいい!」

「ミライは!ミライには親父がいねぇ…俺がその代わりになれるなんて思ってねぇけどよ、でも少しでも俺を通じて父親ってやつを感じて欲しかったんだ……それに、アンタにも知って欲しかった」

シカマルら顔を上げテマリを見つめると黙ってしまった。そして少しすると、自嘲気味にこう続ける。

「俺の大事なもののこと、アンタはその中でも一番だってこと…結局押し付けにしかなってなかったけどよ」

「そんなことはない!」

今度はテマリがシカマルを力一杯抱きしめた。シカマルは驚いているのか、狼狽えているのがわかる。

「お前の伝えたいこと…ちゃんと伝わっている、ミライだって嫌いになんかなれるもんか!あんなにいい子なんだから!…私は、一度も押し付けられているなんて思ったことはないぞ」

首に回されていた両手がシカマルの頬を包み込む。目の前にいる彼女はいつもの笑顔で自分を愛おしそうに見つめていた。

「…やっぱ、アンタを選んで良かった…ありがとうテマリ、木ノ葉に来てくれて」

「私の方こそ…ありがとうシカマル」


「順調ですよ、テマリさん」

「そうか良かった…しかしサクラ、お前も妊娠しているのに大丈夫なのか?」

自分よりバリバリ働いている目の前の女性が心配になる。サクラは笑い、ぽんぽんと大きくなった自分のお腹を優しく叩いた。

「大丈夫ですよ!これくらいでへばっていたら師匠の弟子なんてやってられませんし、自分の体は自分が一番良くわかりますから!」

「なるほどな、じゃあ、また次の検診よろしく頼む」

「はい!お大事に!」

元気な声に見送られ診察室を出ると、特徴的な頭が柱の影でひょこひょこと動いているのが見えた。迎えに来てくれたのだろうか、少し嬉しくなった。

「なんだ、来ていたのか、仕事は?」

「午後から非番なんすよ、サクラは何て?」

さり気なく荷物を取られてしまった。こうなれば意地でも持たせてくれないので諦めて歩き出す。

「順調だそうだ、そろそろ名前も考えておかないとな、シカは外せないと思うんだが…」

「名前って…気が早くないっすか?臨月はまだでしょう?」

「こういうのは早い方が良いんだよ、あ!そうだ、お前その敬語になりきってない敬語やめろよ、子供が変な言葉使いになったら困るからな」

「はいはい」

「ハイは一回!」

荷物を取られたお陰で空いていた手でバチんと背中を叩く、うん、中々いい音がした。

「いって!叩くことないだろ?!」

「それも子供に移ったら困る」

「ったく…わかったよ」

すっかり子供第一になってしまったテマリに今度はシカマルが不満のようだ。最近はずっと拗ねたような表情ばかりしている。

「この子は私たちの大事な子だからな…」

そう言って優しく、大きくなったお腹を撫でると、グッと肩を寄せられた。

「心配すんな、俺たち二人なら大丈夫だ」

「言ったね?頼りしてるよ、旦那様??」

「おー、任せとけ」


早く出ておいで私たちの大事な子
たくさん、たくさん、可愛がってあげるからね

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