ワケもないのにアイドルにはならない!
「アイドル、やってみませんか」
「はぁ??」
原宿のスクランブル交差点、人の多さに辟易としながらも通学路であるが故に渡らざる負えない。本当にせまっ苦しくて面倒。メンドクセー。
いつも通りの日常。いつも通りの思考回路。なのに、そんな平穏な日々にイレギュラーがやってきた。
緑の瞳を大きく開き、少年、もとい奈良シカダイは少し不機嫌そうな声色で声をかけてきた男を威圧した。鋭い眼光に優男は少したじろいだが一歩も引くことはなく、名刺をスッと差し出してきた。うん、その度胸に免じて名刺ぐらいは受け取ってやろう。シンプルに黒一色の文字が踊る名刺には315プロダクションの文字。
「さんびゃく、じゅうご…?」
「あ、読み方はサイコーです」
「へぇ、サイコープロダクションさんね…俺そんなんに興味ねーから有名な事務所なっかもわかんないっす、というわけでアイドルする気はありません」
スパッ、と言い切ると「じゃ、そゆことで」と言い残しスタスタとその場を去る。男は追いかけてはこなかった。なんだ意気地なし、と心の中で呟き、スマホに315プロダクションと打ち込む。
「うわ、HPだっさ…」
一昔前かよ、と言うぐらいお粗末なHPに思わず苦笑してしまう。時間の無駄だったな、とスマホをポケットにしまい。日常に向けて歩き始めた。
■■■
「シカダイ」
「シカマル」
教室の前で出会ったのは瓜二つ(目以外)の双子の兄、奈良シカマル。シカダイより怠そうな顔をしているが、面倒見の良さと誰にも分け隔てなく接する態度でみんなから頼りにされているのだ。本人には伝えたことはないが自慢の兄である。
「あ〜〜シカダイくんだぁ!」
「おっはよ〜〜今日一緒にお昼食べない〜〜?」
「うるさい、うざい、めんどくさい」
「きゃ〜〜!!!シカダイ君に返事してもらっちゃった〜〜!!!」
群がる女子達はひどいことを言ってもめげた様子はなく、きゃいきゃいと黄色い声をあげながら教室に入っていく。日常ではあるが、どうも参るというか、究極にメンドクサイ。ため息をついて脱力すると兄が笑いをこらえているのが見えた。
「シカマル」
「…ッ、くふ、わ、わりぃ、ほんといつもながらすげぇと思って」
「他人事って感じのその態度が気に食わねぇ」
「俺はイケてねー派だからよ」
「またそれだ、シカマルって自己評価低すぎんだろ」
そんなことないのに、と頬を膨らましているとシカマルは眉を下げて困った顔をしながら優しく肩を叩いてくる。まったくこの兄は、この顔をしたら許されると思っているのだろうか。いや、それをいつも許してしまっているのはこの俺か。
「…はぁ、」
「あ、俺、生徒会に行かなきゃなんねーんだった、また後でな」
思い出したようにシカマルは呟き、手を振って反対へと歩いて行った。予鈴が鳴るまであと5分担任にわざわざ注意される原因をつくるのもメンドクセーと教室に入り、大人しく宿題をすることにした。
(えっと…今日の範囲が……)
カサ、と今朝もらった名刺がノートからはみ出していた。適当に入れたのだが、うまいことここに挟まったのか、と名刺を取り出しもう一回よく見てみる。
(315プロダクション…ね)
アイドルになる理由はないし、なってどうするんだと思うが、もしシカマルと一緒にステージに立ってスッポトライトを浴びれたら、それはきっと、楽しいんじゃないかと思う。
「ま!ありえねーか」
残念無念また来年、と筆箱に名刺を押し込み、また宿題に取り掛かった。
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