影に沈む(下)


「じゃあ、行ってくる」

「あぁ…シカマル気をつけて、な」

「オウ」

執務室のドアが閉まりナルトは大きくため息をついた。それもこれも全ては雲への出張が原因なのだが、誰が悪いと言うわけでもない。やり場のない気持ちがため息となって外へ出る。シカマルはあれ以来何事もなかったように振舞っていて、本当にあの雲での一件が夢に思える時があった。

(まぁ、本当なんだけどな…泣かせちまったし)

あの時ナルトは別れようと言いたかった訳ではなかった。このままあの関係を続けるつもりでいたのだ。もう諦めるなんてできなかった。それに前々から考えていたのだが、シカマルから別れを告げられない限りナルトはずっとシカマルを側に置くつもりだった。しかし、予想の斜め上をいきシカマルが泣き出してしまったのは誤算であったのだ。かつての上司や担当上忍、妻であるテマリからは泣き虫とは言われていたシカマルだが、決してナルトの前では涙を見せることはしなかったし、ナルトにとってあれが初めてのことで身動きができなかったのだ。

「はぁあ…泣かせちまった、俺のバカ…」

もう今は事実上別れてしまったようなものだ。涙に気を取られ、唇を奪われ更に思考が追いつかなくなり、追いかけた時にはもう遅かった。あの忌々しい男の腕の中で泣くシカマルに声なんてかけれるはずもなく、ましてや取り返すこともできずナルトは引き下がってしまったのだ。

「……シカマルのこと言えねえや、俺も卑怯だよな」

結局、あの男からシカマルを取り返そうとしなかった自分は心のどこかでシカマルとの恋に終止符を打ちたかったのだろう。しかし、自ら別れを告げれる勇気はなく今までズルズルと引きずってしまっていた。自分もシカマルも互いに依存しあい、都合よく利用し合っていたということなのだろうか、もう少し若い頃はこんなウジウジ悩まなかったのにな、とため息しか出てこない。

「はぁ……」

「七代目………父ちゃん?」

「ボルト…って、こら!ここでは七代目だろ」

「呼んだってばさ、でも父ちゃんの顔がなんか変だったから思わず…」

執務室に入ってきた息子は恥ずかしがりながらもこちらを心配そうに見ている。あぁ、この可愛くて仕方ない息子でさえも騙してしまっている自分が恨めしい。

「まぁな、いろいろあるんだ父ちゃんも」

「シカマルのおっちゃんのこと?」

「うん、そうそう…………え?ボルト、今なんて……」

恐る恐る息子の顔を見ると悪魔のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。さっきまでの恥ずかしそうな表情はなんだったのだろうか、というか自分は今誘導尋問をされたのではないか。混乱で頭が追いつかずポカンとしているとボルトは笑って執務室の扉を閉め、机の前に椅子を置いた。

「やっぱり、シカマルのおっちゃんと付き合ってたんだな父ちゃん」

「なっ!?おい、ボルト!それは…!」

「事実だろ?っていうか父ちゃん達がキスしてんのシカダイと見たことあるし隠さなくていいってばさ」

「う、嘘だろ……」

「嘘じゃない」

「嘘だと言ってくれぇえぇ…!」

「往生際が悪いってばさ!んで?何したんだよ父ちゃん」

「……………う、実は……」

まさか自分の息子に自分の不倫事情を話すとは、こんな変な話あるはずがない。しかし気になるのは息子の態度だ。なぜ男同士の話だとわかっても嫌がるそぶりすら見せないのだろうか、しかも自分の父親なのに。息子に違和感を感じながらもナルトはかいつまんで事情を話していく。

「……どっちもどっちだけど、まぁ父ちゃんが悪いんじゃね?」

「うぐっ、!」

「なんていうか、オトナの事情に振り回されすぎだってばさ大事なのは自分がどうしたいかじゃねーの?」

「…それはわかってるてばよ………」

「割り切れてないからそんな曖昧なことするんだってばさ」

「…………う、」

落ち込む父を見てボルトはやれやれと肩をすくめた。不倫で割り切れないのならばそれはもう恋だ。別にボルトも不倫を肯定しているわけではない。そんなことがバレたら母や妹もとても傷つく、でも愛だの恋だのというものはもう理屈や理性で抑え込めるものではないことをボルト自身がよくわかっていた。

「七代目、ご報告が……ボルト?」

「シカダイ、ちょうど良かったってばさ、鍵閉めて」

「ん?おぉ」

報告書を持って執務室に入ってきたシカダイにボルトは声をかけた。状況は掴めなかったがボルトの言う通りにシカダイは執務室の扉に鍵をかけ、手招きをするボルトの隣に立つ。ナルトは目の前に不倫相手の息子が現れ更に表情を暗くした。

「シカダイ…」

「どうされましたか七代目、顔色悪いですよ?」

「いいから、シカダイ」

「でもよ…」

顔色が良くないナルトを見て心配そうに声をかけるシカダイをボルトが遮る。怪訝そうな顔をするシカダイの手を無理矢理繋ぐと大きな声でナルトを呼んだ。

「父ちゃん!」

「…なんだってばよ……」

「俺さ、シカダイと付き合ってんだ!!」

「は?え?」

「なっ、おい、ボルト!バカ!まだ言わねぇって…!」

息子の突然の告白にナルトは目を白黒させ、シカダイの顔を凝視した。見つめられて反射的に焦ったシカダイは慌ててボルトに文句を言うが、ボルトは真剣な顔でシカダイに詰め寄る。

「緊急事態だってばさ、文句なら後で聞くから…俺たちもキスするしそれ以上のことだってする、好きだからな、そうだろ?シカダイ」

「おい……」

「シカダイ」

渋るシカダイにボルトはもう一度名前を呼ぶ。そうすると観念したのかナルトに向き直って頭を下げた。

「……ったく、そうです、俺もボルトが好きだから、ず、…ず、ずっと一緒にいたいって……思ってマス」

「俺だって、男同士なんてって思ってた、でもシカダイは違うくて…なんて言うかさ、理屈じゃないんだってばさ、そこらへんの女子よりかわいいと思うし四六時中見てたって飽きないし、なにより…側にいたいと思う、父ちゃん達みたいに互いに支え合っていきたいんだ、なぁ父ちゃん……好きってさ頭で考えるもんじゃねーよ」

息子の言葉に心がチクリと痛む。感情は理屈で制御なんてできないことはナルトも痛いほど知っていた。だが、そのことから目を逸らそうとしていたナルトには、今その言葉はありがたくもあり辛くもある。うつむき黙ってしまうナルトの手をシカダイが優しく握った。

「……………七代目、ウチの親父、素直じゃないってーか、自分の気持ちに鈍感な所あるんです…だから口に出して話してやってくれませんか?きっと互いの心の中を見せ合ったら、分かり合えると思いますよ」

「……………シカダイ、お前…」

「ま、父ちゃんがしてることは思いっきり悪いことだってばさ!」

「もちろんウチの親父も」

「う、……すまん」

二人の言葉に顔を上げかけたが、続いた言葉にまたガックリと肩を落とす。そんなナルトを見て、二人はおかしそうに笑い合い、ナルトの手を引いて立ち上がらせた。

「でも!話して話して話し合って出した答えなら俺は何にも言わない!父ちゃん達の気持ちわかるから!」

「どっちに転んだって俺たちは変わりません、ずっと親父とあなたの味方です…だから親父と話してください、後悔しないように」

味方だと口に出してくれたことがナルトは素直に嬉しかった。この間まであんなに小さかった二人の成長が間近で感じられる。二人も大人の知らないところで何度も何度も悩んだのだろう。子供は時に親の知らないところで学び成長していくことをナルトはしみじみと噛み締めた。

「………………あぁ、そうだな、二人とも留守番頼む!」

「はい」

「任せろってばさ!」

2人に笑顔で見送られ、ナルトは早足でシカマルの元へ向かった。行き先はあそこだ、早く迎えに行って、シカマルの笑顔がみたい。ナルトは素直にそう思った。



「ねぇ、いつになったら俺と寝てくれんの?」

カタカタとキーボードの音が止まり、シカマルが顔を上げた。ダルイは相変わらず何を考えているかわからない顔で天井を見つめていた。わざと面倒そうにため息をついてまたキーボードの音を鳴らしていく。

「…………仕事中ですよ、雷影様」

「誰もいないし、良いだろ聞いても」

「…………………アナタと付き合った覚えはありません」

なんとか絞り出した言葉にダルイはようやくシカマルを見た。面白そうなオモチャを見つけた顔でシカマルを品定めするような視線を送る。あまり気分がいいものではないが言ったってやめやしないのがこのダルイという男だ。

「…ズルイねぇ、利用してんだ俺のこと」

「えぇ」

「悪いヤツ」

「なんとでもどうぞ」

ダルイではなくパソコンの画面を見ながら投げやりにそう告げる。本当にそうだ、利用しているだけ、ダルイには悪いが今は他の誰かと体を重ねようという気になんかこれっぽっちもならなかった。そんなシカマルの態度をダルイは咎めることはしなかったが、席を立ちシカマルの音もなく背後に回ると素早く抱え上げ隣接している仮眠室に連れて行く。

「なッ!?」

「ちょっと休憩だけだからさ、大人しくしてなよ」

ダルイの強行に驚き逃げようとするが、逞しい腕に抑えられてしまい逃げれそうにない。ダルイは暴れて抜け出そうとするシカマルをベッドに押さえ込みどんどん追い込んだ。

「やめ、ろ……!」

「やめないさ」

「ひっ!?ン、んッ、ぁ……!」

脱がす手間を省こうと服をクナイで破き、下着の上から噛み付くと身体中に刺激が駆け巡ったのかシカマルは甲高い声で喘いだ。

「アンタも忘れたいんじゃないの?」

「ばかやろ、ッ!きめつけんなぁ!あっ、ぁ、んん*ッ!」

そう言いながらビリビリと刺激が体を駆け巡り、シカマルは弓なりに体を逸らして大きな喘ぎ声をあげてしまう。ダルイはその女のような声に興奮したのかシカマルの下着を素早く脱がせそそり立った性器を無理やりねじ込んだ。

「ッ、あ゛っ…!い゛っつゥッ!」

「…………っ、無理やりはしたくなかったんだけどなァ」

「っ、ぐッ!ばか、やろ…っ、どの、くちがッ、ぁ、やッ、まて、ァ、アッ!!」

脳を圧迫する激しさと駆け巡る快感の中で自然とシカマルの頭の中にはナルトの顔が浮かんでいた。笑った顔、拗ねた顔、泣きそうな顔、余裕のない時の顔、全てを隣で見てきた。七班でなくとも、自分の力であの場所を必死で死に物狂いで勝ち取った。シカマルにとってそれだけする価値がうずまきナルトという男にはあったのだ。それにその場所を誰にも譲る気は無かった。あのうちはサスケにさえ、めんどくさがりのシカマルがナルトに関してだけは密かに対抗心を燃やしていたのだから。

「なに?考え事?」

「ッ、ン…、だるい、さ、んッ、ぁ、く、ぅッ!お、れ、おれはッ、アッ、ん、ぁ、あっ」

「なんか、それ…聞きたくない、かも…っ」

「ひっ!ぁ、アッ!」

激しく打ち付けられ、意識が飛んでしまいそうになる。だけど心はハッキリとナルトの名前を呼んでいた。改めて気づいた、自分はナルトが好きだ。ナルトの一番になりたいくて、自分だけを見て自分だけを求めて欲しくて仕方がなかった。しかし、そんなこと到底叶いもしないとわかっていたから押さえつけてきた。押さえつけれていると思っていたから自分で自分の気持ちに気づくことさえなかったのだ。

「だ、るいッ、さ、おれ、は、ッ、あんたのこと、ひぁっ!?」

「だーかーらー、聞きたくないってば」

「っ、ぁ、や、ッ…!んっ、ふ、ぁ、アッ、アァッ!なる、なるとっ、なるとぉ」

掠れる声でナルトの名前を呼ぶ。いないとわかっていても、そばにいて欲しくて、迎えに来て欲しくて何度も彼の名を呼んだ。それに比例して激しくなるのはダルイとの行為で、中に射精され、何度もイかされて、声が出なくなるまで喘がされてしまう。

「はぁ、っ、あ、ぁ、ハァ……」

「…っ、はは、アンタの中、30代の男とは思えねえぐらい気持ちいいよ」

「…………っ」

ギロリと睨み付けるとダルイは満足そうに舌を舐め、もう一度しようとシカマルの腰を掴む。まだやるのかとシカマルは内心焦ったが、タイミングよく執務室の電話がジリリリリと鳴り響いた。

「……残念だ」

バタン、とドアが閉まり、しばらくするとダルイの気配が部屋から消え失せ、シカマルはホッと胸をなでおろした。

「…っ、あの人、激しすぎだろ…」

痙攣した足を揉みほぐしなんとかシャワー室まで行こうとするが、うまく歩けずに壁伝いにズルズルと座り込んでしまう。

「…はぁ、自業自得ってやつか…」

ナルトを裏切ってしまった。一番したくないことだったが、あの時ダルイに頼ってしまった瞬間からすでにナルトを裏切っていたのだろう。全て自分が招いたことだと再認識し、深くため息をつく。

「…っ、ばかだな…俺は」

なんでこの場にナルトがいないのか、優しく自分を呼ぶ声も笑った顔も思い浮かぶのに、アイツの温もりはここにはない。

「……なると…」

「…シカマル、」

聞こえないはずの声が聞こえて思わず顔を上げた。目の前には険しい顔をしたナルトがいて、じっ、とシカマルを見据えている。シカマルは自分の肌蹴た格好を思い出し、思わず服で隠した。

「な、なんで…ここに」

「迎えに、来たんだってばよ…でも、必要なかったみてーだな?」

「ち、ちがっ…!」

悲しそうに笑うナルトに否定しようと立ち上がろうとするが、うまく力が入らない。あぁ、どうしよう、ナルトになんて言えば納得してくれるだろう。なんて言えば、許してくれるんだろう。シカマルには全くわからず、ただ口が動くだけだった。

「ハッキリさせようってば、もう終わりにするか、しないか……シカマルはどうしたい?」

「お、れ……俺は、…」

何か言いたそうにしながらもシカマルは言葉が出ないようで不安そうな顔をしながらナルトを見ている。ナルトはしゃがみこみ、自分の羽織をシカマルに着せて抱き上げた。

「っ、ちょ!おい!」

「大人しくしてろ、今から帰るから」

あらかじめ用意していた書置きをベッドの上に置いてナルトは窓から飛び出す。

「ばかっ、顔見られたら…!」

「大丈夫だってばよ、瞬身の術使うから」

一瞬目の前が真っ暗になったかと思えば、すぐに見知った部屋の景色が見える。

「ナルト…この部屋」

「久しぶりだろ、俺の部屋……ヤマト隊長に作り直してもらってから、なんか手放せなくってさ契約だけしてんだ」

ナルトはシカマルをベッドに下ろし懐かしそうに目を細める。

「あそこじゃゆっくり話せなかったから……ごめんな、急に」

「………」

「ま、でも話の前に風呂だな」

「…………っ、」

ナルトの言葉に自分が置かれた現状を思い出し俯く。自分の裏切りが胸をゆるやかに締め付けてくる。

「シカマル、ほら…それとも洗ってやろうか?」

「ばっ、ばかやろ!1人でする!」

ナルトの冗談にシカマルは慌てて立ち上がり荒々しく浴室へ向かっていった。姿が見えなくなるとナルトはため息をつきベッドに座る。

(よかった……シカマルしかいなくて)

ブルブルと震える手が行き場をなくした怒りを全て受け止めている。もしあの場にダルイがいたら、殴るだけでは済まされなかったかもしれない。シカマルしかいないことがわかってナルトは内心ホッとしていた。

(やっぱり俺…シカマルのこと好きなんだなぁ…)

心の中でヒナタに謝る。決して彼女に対する愛情を無くしたわけではない、天に誓ってもその愛情がなくなることはない。ただ…彼に対する愛情は果たして消してしまえるのか、ナルトにはわからなかった。

「ナルト…」

「おう、待ってたってばよ」

濡れた髪をまとめたシカマルがベッドの向かいにあるソファに座る。こんな状況であっても心は正直で濡れた髪から首筋まで伝う水滴がなんだか色っぽい。

「…おい、」

「あっ、ワリィ」

思っていたことがバレたのか少し低めの声で釘を刺される。

「それで…お前はどうしたいんだよ」

「……もちろん、ヒナタも家族もみんな大好きだけど……お前が隣にいない生活なんて耐えれねぇってばよ」

「…………」

「シカマルは…?シカマルはどうしたい?」

ナルトは真っ直ぐシカマルを見つめた。ナルトの青い瞳に映るシカマルは不安気で、自分の答えにまだ迷っているようだった。

「…………おれは、…お前が……」

ぐ、と言葉に詰まる。

「……す、…き………だ。」

「好きなんだ……お前の中におれの居場所が欲しい、サスケでも、ヒナタでも、7班でもない俺に……火影補佐って場所だけじゃ、もう満足できねぇよ…」

シカマルは苦しそうに言葉を吐き出した。迷いながら、口に出すことを後悔しながら、それでもしっかりとナルトの耳に届くように。シカマルのよく通る声が部屋に響いては消えていく。ナルトは最後まで何も言わずに黙って聞いていた。

「……………シカマル」

ナルトに呼ばれ俯いた顔を上げたその瞬間にシカマルはグイと腕を引っ張られあまり広くはないベッドに体を沈めた。驚いて目を瞬いているとナルトが覆いかぶさってくる。

「シカマル…」

「ん、っ………」

優しく口付けられ、それに応える。もう言葉はいらなかった。指輪も子供も、愛を表すものは2人の間に何も無いけれど、繋いだ手が、繋がった体が確かに2人の愛を深く深く刻み込んでいた。




「やられたねぇ…」

執務室の机で紙切れを見つめながらダルイはため息をつく。せっかく自分のものにしたピーチ姫はどうやらマリオに連れ戻されてしまったらしい。

「馬鹿なことをするからだ」

「シー…なんだ、気づいてたのか」

「気づかないほうがおかしいだろ…何年の付き合いだと思ってる」

「はは、まぁね」

「というか、お前も家庭があるんだからそういうゆるいことはやめにしろといつも言ってるだろうが、全くお前はいつもいつも…!」

「はいはい」

シーの言葉もほどほどに、ダルイは書置きを破り捨てた。今回のところは手を引いてやろう、なんたってあの唇の感触がまだダルイにはついさっきのように色濃く残っているのだから。

(油断してたら、また奪いにいくよ、七代目)






■■■

「ひまだぁ………」

「だなぁ…」

あれからしばらく、ナルトとシカマルは久々にまとまった時間を取りシカマルの家でのんびりと過ごしていた。とは言っても午後だけなのだが…。互いの妻はそれぞれ用事で夜までは帰ってこない。ヒマワリはアカデミーでボルトとシカダイは任務だ。2人きりというものには仕事の関係上慣れている。だが、そうは言ってもこの間の一件から2人の間には少し気まずい雰囲気が流れていた。シカマルの心臓は思春期の少年のように脈打ち自然と頬に熱が集まっていく、一方のナルトも表情こそ見えないが、同じように緊張していることは感じ取れていた。

視線があい、見つめ合っていると自然に距離も近くなっていく。


「ン、っ…」

「…、シカマル……好きだ」

「……………お、おぅ」

ナルトはあれからよくこういう甘ったるい言葉をシカマルに伝えるようになった。シカマルも恥ずかしい気持ちがありながらも素直にそれを受け入れている。

「なぁ、シカマルは?」

「…いい歳したおっさんにそんなこと言わせるなよ………」

ニヤニヤと笑うナルトは「俺は言ったからな」と、シカマルからの言葉を待っている。シカマルは頬を染めながら、顔を近づけた。

「趣味ワリーよ、お前」

「ん……シカマルもだろ?」

「…………………ばーか」

もう一度、優しく口づけを交わし、手を絡ませ合うとナルトはなんだか乗り気になったのか腰に手を回し体を抱き寄せてきた。

「……な、シよっか?」

「…………ばかやろー、うちでできるわけないだろ…」

「じゃあ、執務室とか」

「もっとダメだってーの馬鹿」

「え**ならどこがいいんだってばよ」

「……………ったく」

ダメ出しをくらってナルトは子供のように駄々をこねる。シカマルは大きくため息をついてナルトに抱きついた。

「…………お、ぉ…え?シカマルさん??」

「うっさい、寒いんだよ」

「え、今…春だってば……」

「……嫌なのかよ」

「滅相もございません!!」

拗ねたような顔に思わずボルテージが上がりそうになる。その顔は反則だと思いながらも抱きしめ返すとシカマルは嬉しそうにすり寄ってきた。

(し、幸せだってばよ……!!)

その時、ふいにガタガタッと障子が外れ、ボルトとシカダイが部屋に転がり込んできた。シカマルは慌ててナルトを突き飛ばし距離を取る。


「シカダイ…!いつの間に!?」

「あ、あははー、た、ただいま」

「とーちゃん達仲直りしたんだな、よかったってばさ」

「は?」

事情を知っている2人にシカマルはついて行けずにハテナを浮かべる。ボルトとシカダイはまるで息ぴったりの双子のようにこう続けた。

「まぁ、世間的には最低だけど」

「最低な父親で最低な夫か…救いようないってばさ」

「ちょ、おい…お前ら」

「あ、シカマルのおっちゃん、安心してってばさ!誰にも言わねーし」

「まぁ、アンタ達の血が俺らにも流れてるんだよね、かなしいことに」

2人の首から下げられたペアリングを見せつけられ、シカマルは瞬時に事態を把握すると、顔を真っ赤に染め上げてこう叫んだのだ。

「嘘だと言ってくれぇえぇ!」



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