「ねぇエース……ぎゅってして?」

 冷えた手をポケットに突っ込んでぶるりと一つ身震いをする。脱いだばかりのコートをこんなに早く着ることになるとはと、甘えた声を出してちらりと彼を見上げれば、不服そうな顔で見下ろされた。

「……さっき離れろっつったのはどこのどいつだよ?」
「さぁ……?」

 何の話かしら、ととぼけてみても彼は納得がいっていない様子。ハァとため息をついて「……いつの話してるのよ」とやれやれと首を振る。

「おれの記憶が正しけりゃ五分ほど前だ」

 つれない態度でそう言う彼の手を取り、くるりと回ってもう片方の手も引き寄せて勝手に彼の胸におさまる。

「……だって仕方ないじゃん」

 空を見上げればはらはらと落ちてくる雪。
 ほんの五分ほど前まではかんかん照りだったというのに、急に冷えたなと思ったらこれだ。本当にどうなってるんだこの海は。
 ああ寒いと掴んだままの彼の腕に頬をひっつけると、ため息をついた彼がようやくぎゅっと抱き締めてくれた。

「ったく、おれのこと何だと思ってんだよ」

 ぐりぐりと頭に額を押し付けられて、身長差のせいで出来た彼との身体の間に冷気が入り込む。一度温もりを知ってしまった身体はそれだけでまたぶるりと震えた。ああ髪がボサボサになってしまったとぼんやり考えながら吐いた息は白かった。

「……恋人」

 ぽそりと呟くように言えば、大方暖を取るための何かだと言われると思ったのだろう彼からは、は、と小さく間の抜けた声が発せられただけで、顔を見なくてもわかる驚きように思わず笑ってしまう。

「お、お前なァ……!」

 しばらくして返ってきた怒ってるのか照れてるのかわからない反応に、へへっと笑って「だって間違ってないでしょ?」と言えば、ぎゅううとさっきよりも強く抱き締められた。

「……どうなってもしらねェぞ」

 頭に顎を置いて何故かふてくされたように言う彼に、「こんなことでどうにもしないでください」とまた笑うと少し腕の力が弱まった。

「エースといればさ、どこへだって行けそうだよね」
「なんだよそれ」

 ぽかぽかと愛しい温もりに包まれて、積もりそうにはない雪を眺める。はらりと睫毛の先に落ちた雪は瞬きとともにとけていった。

/top