「あ、カラスだ」
「んじゃ、あっちで決まりだな」

 彼の食後の運動に巻き込まれてすっかり現在地がわからなくなっていたら、上からカァと鳴く声。見上げればオレンジ色の空にカラスの大群がいて、ぼんやり行き先を目で追っていると彼がそちらを指差した。

「どうして?」

 どうせあてなんてなかったしとりあえず彼の指差したほうへ歩きながら聞いてみる。さっきの彼の口ぶりでは、勘や気分ではなく何か確信めいたものがあってこちらの道を選択したように思える。

「あの数見ただろ、ありゃタダゴトじゃねェ。向こうで何かが起こってる」
「そう?よく見る光景だったけど……」
「甘ェな」

 首を捻りながらカラスたちが飛んでいった空を見る。さっきの光景を思い返してみても、やっぱり私には『よく見る光景』だとしか思えない。ハッ、とややオーバーに鼻で笑った彼に何だか感心してしまって、ほぇーと気の抜けた顔で見つめる。

「なんだよ」
「いや、エースってそんなこと考えられたんだなって思って」
「お前な、おれのことなんだと思ってんだよ」

 素直に思っていることを伝えれば、ぺちと頭を叩かれた。

「ちょっと、やめてよ。バカになる」
「もうなってんだろ」

 へんっと煽るように笑われて、あんたよりマシよと逞しい腕にお遊び程度のパンチを繰り出す。当たるか当たらないか程度の衝撃だったのに、ぺきっと音を立てた手首には納得がいかない。きっと角度が悪かったからだ、身長差のせいで。

 しばらく歩くと街へ出た。私たちが初めにうろうろしていた街とは違って見える。
 平時をしらないけれど、それでもどこかざわざわして見える街の様子は、きっとどこかで何かが起きたのであろうことを物語っていた。面倒事は御免だと行き交う人々の会話に耳を傾ける。

「東の町で騒ぎがあったらしいぞ。何でも──」

 あくまで通行人として情報収集したところ、みんな口々に話していたのは、『東の町』で起きたらしい騒ぎのことだった。東の町とは、おそらく私たちが歩いてきたほうとは反対側にある町で、カラスが飛んできた方角こそが東だった。互いに何か話すでもなく歩いていたから、拾った情報は共有しなくてもよさそうかと隣へ視線を向けると、「ほらな?」とくいっと器用に片方の眉を上げた彼と目が合った。

「惚れ直したか?」
「ちょっとだけね」
「十分だ」

 二人して適当に笑って、意味なんて一つもない会話をしながら、さてどうするかとオレンジ色の姿を消し始めた空を見上げた。

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