星にも神にも願ったけれど、それでも叶わない願いは一体どうすればいいのだろう。
 ハァとため息を吐いて広すぎるベッドの上、まるでいじけるようにシーツに指を滑らせる。

「フッフッフ……どうした?随分浮かない顔をしてるじゃねェか」

 突然響いた声にハッとして顔を起こすと、仕事を終えたらしい彼が部屋に戻ってきていた。
 待ちわびた人の登場にすら気付かないなんてどうかしている。
 ぐるぐると脳内を占めていたそれを慌てて隅へと追いやって、不自然でない程度の笑みを浮かべて彼を見つめる。

「あ……ごめんなさい。何でもないの」

 別に隠したいわけではないけれど、彼に聞いてもらうにはあまりにくだらない話である。
 そんなものでこの貴重な時間を台無しにしたくはなかったし、話したところでこの悩みに解決法なんてものがないことは自分が一番よくわかっていた。
 コートを脱ぎサングラスを外した彼がベッドに入ってくると、たちまち甘い香りが広がった。
 安堵したように再び枕に頭を預けると、乱れた髪を梳かすように彼の手が後頭部へ回る。

「何でもないって顔じゃねェなァ」

 何度見てもうっとりしてしまうような美しい瞳は、確かに優しい色をしているのに、何でも見透かされてしまいそうな鋭さがあった。彼の睫毛がこんなにも綺麗だということは一体どれだけの人が知っているのだろう。
 指の背で頬を撫でられ、まるで甘やかすようなその手付きに観念したように一度瞼を閉じる。

「……もう少し背が伸びないかなと思って」

 闇に吸い込まれそうなほどか細く響いたそれは、静かな夜では彼の鼓膜を震わすには充分だったらしい。
 意外そうにしたあと彼はまたすぐに口角を歪めた。

「フフフッ……知らなかったよ、お前がそんなことを気にしてたなんてなァ」

 くつくつとおかしそうに笑う彼は今度は優しく私の頭を撫でる。
 それが何だか気恥ずかしくてむくれていると、まるで話の続きを促すように優しい目が向けられた。

「あなたと……ドフィと、手を繋ぎたいの」

 街を歩いていたときに、一度だけ繋いでみたことはある。そっと控えめに伸ばした手は振り払われることはなく、受け入れられた。とても心が満たされて、途端に世界が明るくなったようにさえ感じた。
 しかし立ち並ぶお店の窓に映った姿は、残酷なほどに思い描いていたそれとは違っていた。
 "繋ぐ"というよりは"掴む"と言ったほうが正しいようなそれは、何だかとても寂しく、虚しいものに思えた。
 初めて恋をした少女じゃあるまいし、あまりに馬鹿げた話である。
 それでも、願わずにはいられなかった。
 ドキドキと嫌な音を立てる胸に駆り立てられるように彼から視線を逸らすと、彼はいつものように笑った。

「なんだ、そんなことか」

 愉快そうに、それでいて落ち着いた声でそう言った彼に恐る恐る視線を戻すと、顔の前に置いていた私の手を彼の大きな手が包んだ。そして指を絡めると彼はニィと口角を上げた。

「こうすりゃいい話だろう」

 不満か?と優しく笑う彼に答えるように繋がれた手にぎゅっと力を込める。
 ああ、どうしてこの人はこんなにも私を幸せにしてくれるのだろう。
 星にも神にも叶えられなかった願いをいとも容易く叶えてしまう愛しい人に、ありったけの愛を伝えれば繋いだ手に優しいキスが降ってきた。

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