彼がお休みだからと大量に食材や日用品を買い込んで、買い物特有の疲れを連れて帰宅。ほとんど荷物を持ってくれたのはスモーカーさんだし、私は大して疲れることはしていないのだけど、それでもやっぱり帰ってくると疲れたなぁと思うのだから不思議だ。
買ったものを全てしまって、スモーカーさんに先に座っててと伝えてコーヒーをいれる準備をする。
今日のコーヒーのお供は、帰りに『焼きたて』の文字に惹かれて買ったクロワッサン。まだ夕飯までは時間があるし、たくさん歩いたし、これくらいはおやつに食べても許されるはず。るんるん気分で袋を開けるとたちまち幸せな匂いが広がった。
「スモーカーさん、クロワッサンとってもいい匂いだよ」
「そりゃあよかったな」
フンと笑う彼に、ほらと袋を広げて近づくと「さっきも散々嗅いだだろ」なんて言いながら銜えていた葉巻を手に持ち一応嗅いでくれるので、何だか心がぽかぽかして頬が緩んでしまう。
「確かにいい匂いだが、『ダイエット』とやらはいいのか?」
チクリと意地の悪いことを言ってくる彼に、う、と一瞬言葉に詰まったものの、それは明日からだと胸を張って答える。
昨夜、「ダイエットしなくちゃ」とこぼした私に彼は「必要ないだろ」と言ってくれたにも拘らず、生意気にも口を尖らせて「そういうわけにはいかないんですぅー」なんて言ったのだから、呆れたように鼻を鳴らされても仕方がない。
さて、お湯は沸いたかなとキッチンに戻り、クロワッサンをお皿に移してコーヒーをいれる。
自分用にスプーンに山盛り二杯砂糖を入れてくるくると混ぜながら、たまにはユーモアのある昼下がりを過ごそうかと考えて一人ニヤニヤする。ミルクを入れるのは後にしよう。
「おまたせー」
コト、と彼の前に置いたのは私用のコーヒー。
わざとやったと知れたら何かしらの報復はあるかもしれないけど、たまの休みくらい楽しく過ごしたい。彼の反応を想像して緩む口元をごまかすように「お疲れさまー」とにっこり笑って座る。
ちらとコーヒーに視線を落とした彼が怪訝な表情に見えるのは、きっとこちらにやましいことがあるからだ。
「……ミルクは?」
「あー、今日はいいかなって」
思わぬところを衝かれてドキッとしてしまったけど、へへと笑ってやり過ごす。このままではバレてしまうな、と「いただきます」と手を合わせると、彼がカップに手をかけた。
思わずクロワッサンに伸ばしかけていた手を止めてスローモーションにも見えるそれを見つめていると、一口飲んだ彼は何事もなかったかのようにカップを置いて再び葉巻を銜えた。
……あれ?もしかして間違えたのだろうか、と自分のところへ置いたコーヒーに目を向ける。
不思議に思いつつ、砂糖の入っていないはずのコーヒーを飲んでみる。
「うぇっ、にっが……!」
久しぶりに飲んだ砂糖の入っていないコーヒーは、記憶しているよりもずっと苦くて思わず顔が歪んでしまった。
「だろうな」
フンと鼻で笑った彼に「気付いてたの?」と聞くと「バレバレだ」と煙を吐き出すようにため息をつかれた。
「さすがだね」
「それだけ怪しい動きしてりゃあな」
バレてしまったら仕方がないと立ち上がり、コーヒーを交換して自分用にミルクを入れる。
「よし、じゃあ気を取り直して……いただきます!」
コトンとカップを置いた彼と、外はサクッと中はふわふわ、じゅわりと広がるバターの香りがたまらないクロワッサンに齧りついた。
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