次の島は春島だと聞いてから日に日に暖かくなる気候は、恐ろしいほどの眠気を連れてきた。

「おい、起きろよ」
「んん〜……やだ」

 あまりにも起きてこないからと起こしに来てくれた彼とさっきからこのやり取りを何度も繰り返しているというのに、強烈な眠気は一向に覚める気配がない。
 目を開けることすら億劫で、彼の顔を見たのは最初に声をかけられたときのみだ。我ながら失礼な態度だなとは思うけれどあまりにも瞼が重いのでどうしようもない。

「メシ食いっぱぐれても知らねェぞ」
「ん〜」

 話しかけられる度にほんの少し浮上する意識の中、返事と呼べるほど立派なものではないが一応反応は返している。
 普段ならば想い人である彼に寝起きの顔やボサボサに乱れた髪を見られることは、人生の終わりにも等しいことに思えるだろう。でも今は、それすらも気にしていられないほどに眠い。
 ベッドのそばにしゃがみ込んだ彼からはそれはもうハッキリと私のだらしない姿が見えていることだろう。それでも、どうしても起きる気にはなれなかった。

「どうせ後でまた腹減ったって騒ぐんだから起きろっての」
「んん〜……」

 布団を抱き込んで起きたくないの意思を示す。
 いつもドキドキと胸が騒がしくなってしまう彼の声すらも今はとても心地よく、眠気を煽っているようにさえ思えた。

「……キスするぞ」
「ん〜」

 好きな人の声を聞きながら、強烈な眠気に身を委ねてしまえることのなんと幸せなことか。
 いよいよ本格的に意識を手放しかけたとき、頬に何かが触れた。ギリギリのところで再びうっすらと意識が浮上して、回らない頭でそういえばさっき彼が何か言ってたな……と考える。

「……えっ!?」

 ガバッと飛び起きて頬に触れると、寝起きから体に悪そうなほど胸が高鳴った。

「やっと起きたかよ。早くメシ行くぞ」
「え、あ……」

 バクバクと騒ぐ私の心臓とはひどく不釣り合いなほど彼は落ち着いていて、もしかすると今のは夢だったのかもしれないと考える。彼の声を聞いて寝ていたわけだし、ありえない話ではない。
 必死に高鳴る胸を落ち着けようと分析してみるも、それはそれで本人を前に願望むき出しの妄想じみた夢を見ていたということになるわけだから、落ち着けるはずがなかった。どちらにしろこの赤くなった顔は間違いではないのかもしれない……なんてどうでもいい終着点に思考が辿り着いたところで「んじゃ、おれ外で待ってっから。早くしろよ」と彼は立ち上がってドアへと向かった。
 呆然とそれを見つめていると、ふと何かを思い出したかのように彼がこちらを振り返る。

「おれが出てっても寝るんじゃねェぞ。もし寝たら次はそんなんじゃ済まさねェ」

 未だ頬を押さえる私を指差してニヤリと笑った彼に、あれは夢じゃなかったのかと爆発しそうになった朝。

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