窓から見える静かに降る雨が何だか心地よくて、ページを捲る手がいつもよりも早くなる。
 ぼんやりとした暖かみのあるオレンジ色の灯りは広いベッドをより寂しいものにしたけれど、胸元に抱き込んだクッションからする彼の匂いが少しだけそれを紛れさせてくれた。
 夕飯もお風呂も済ませてソファで雑誌を読みながら、図面と格闘する彼の背中を眺めていた。
 静かに時間が過ぎ、もう少しで日付が変わるというところでペンを置いて、すっかり冷めてしまったであろうコーヒーを飲んだ彼が「……もうこんな時間か」と時計を見る。

「悪いな、先に寝ててくれ。おれはもう少し起きてる」

 私としてはもう少し彼の背中を見ていてもよかったんだけど、気をつかわせてはいけないと「わかった、先に寝てるね」と彼にコーヒーのおかわりを注いで大人しく寝る準備をしてベッドに入った。
 しかし何だか寝る気分にはなれず、本に読み耽っていると「なんだ、まだ起きてたのか?」と雨音でも自身の立てる音でもないそれが聞こえてビクリと肩が跳ねる。

「びっ、くりしたぁ……!」
「夜更かしは身体に悪いぞ?ンマー、おれが言えたもんじゃねェけどな」

 私の反応に気を良くしたのか、くくっと笑った彼がぎしりとベッドを軋ませる。

「本当だ、もうこんな時間」

 本を閉じて時計を見れば、てっぺんを指していたはずの短針はすっかり傾いていて、いつの間にか午前三時を過ぎていた。

「いつも遅くまでお疲れさま」

 ぺらっと布団を捲って迎え入れると「あァ。悪いな、お前まで付き合わせちまって」とごろりと横になった彼が小さく息を吐く。

「私は何もしてないよ。今だって、ただ本を読んでただけだし」

 くすくすと笑えば、さらりと大きな手が髪を梳く。耳を掠めたそれは温かくて、冷えていたわけでもないのにじんわりと耳が温かくなる。まるで彼の体温が移ったようで面白い。

「おれにはお前が必要だ。いつもありがとう」
「なぁに、急に」

 頭を引き寄せられてこめかみにキスされたかと思ったら、急に照れくさいことを言われてまたくすくすと笑ってしまう。恥ずかしくてぺち、と彼の胸を叩いた手はすぐに絡め取られてそのまま彼の口元へと連行されてしまった。ちゅ、と口づけたあと、彼の視線がまた私の方へ。まだ掴まれたままの手にひげが当たってくすぐったい。

「どこか行きたいところはあるか?」
「行きたいところ?なんで?」
「最近忙しくてお前と居られる時間が少ないからな」

 休みを取ろうかと思うんだと説明されて、少しだけ目を大きくする。だけど、とすぐに目元の力を抜いて、今度はに、と笑ってみせる。

「こうして一緒に居られるだけで充分幸せだよ。"アイスバーグさん"はこの島の──みんなの、希望だもん。これ以上独り占めするわけにはいかないよ」

 じんとする胸をごまかすようにひひ、と笑って茶化せば「欲のないヤツだ」とつまらなそうに彼がため息を吐く。

「だが生憎、おれの方はお前を独り占めしたい」

 眉尻を下げ、それでも真っ直ぐにこちらを見つめてくる彼に、思わずドキッとする。

「そうすりゃあ結局お前もおれを独り占めすることになるさ」
「ふふ、なにそれ」

 ふっと笑う彼がおかしくてけたけたと笑えば、繋いだままの手を親指ですりと撫でられる。細められた目がオレンジ色の光によく合っていて、胸があたたかいもので占められていく。

「じゃあ遠慮なく独り占めさせてもらおうかな」

 きゅっと彼の手を握り返して少しだけ顔を上へ向けて目を瞑る。きっと自分では見ていられないくらいだらしない顔をしてるだろうけど、どうか大目に見てほしい。くっ、と彼の笑った声がする。

「ああ、もっと欲深くなってくれ」

 しっとりと闇に溶かすように囁かれたそれは、穏やかなのに確かに熱くて、またどうしようもなく私を溺れさせるのだ。

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