それっぽくじぃっと目を見てくるマルコに、すでに緩みそうになる口元を抑えて息を呑む。
 シュッと手元から引き抜かれていったカードを彼が確認するより早く「やった」と手元に残ったカードを見せて小さく両手を上げる。
 結果がわかりきっているカードを一応確認してやれやれと息を吐くマルコに「ごちそうさま」といやらしい笑みを見せつければ、「せいぜい腹空かせとけよい」とおでこを弾かれた。

 今日は、私たち二人の間で恒例となっているサシ飲みデーである。
 いつだったか、二軒目へ行こうと退屈しのぎに飲み代を賭けてカードを持ち出したのが始まりで、それ以来飲み屋のありそうな島で数日滞在することが決まったときには、こうしてカードを引いて勝負することにしている。赤が出ればマルコの奢りで、黒が出れば私の奢り。今のところ私は奢ったことがない。
 そう、我らが白ひげ海賊団一番隊隊長不死鳥マルコは、意外にもこの飲み代の賭けにすこぶる弱かった。
 んじゃまた夜に、と返されたハートのカードを受け取ってほくほくと笑みをこぼす。

◇◇◇

 ゆったりとした音楽の流れる薄暗い店内。乾杯、とグラスを軽く持ち上げてから三杯目のカクテルがカウンターに置かれた。

「いい雰囲気のお店ね」

 すっかり店に身体が馴染んだところで、ちらりと彼へと視線を送る。まばらに入っている他のお客さんの声は聞こえないけれど、店全体に心地よい空気が漂っているのがわかる。

「だろ」
「来たことあるの?」
「前に一度な」

 ふぅん、とアーモンドを口へ放り込む。
 店の選択はいつも彼に任せていた。ひどいときには看板すら見ずに適当な店にみんなと雪崩れ込むだけの私と彼とじゃ見極める力がまるで違うから。それは、私たちの誇りである旗のはためくこの島でだって同じ。
 だけど、今日は少し違っていた。

「だったら、連れてくる女を間違えたんじゃない?」

 くす、と笑ってカクテルを一口。普段彼と行くお店はもっと気安い店ばかりだった。ムーディーな音楽が流れることはなく、声を抑える必要もない。おつまみだってもっと食べ応えのあるものばかりで、今日みたいに先にご飯を済ませてこなくても十分お腹いっぱいになれる。

「それはついてくる男を間違えたって言いてェのか?」
「まさか」

 くすくすと笑ってまたアーモンドへ手を伸ばす。ほのかな甘みが一瞬にして塗り替えられる香ばしい味がたまらないなと噛み締めていると、カウンターに頬杖をついた彼の視線がこちらへ向けられていることに気付いた。

「口説くためだって言ったらどうする?」
「ん?何が?」

 彼の緩やかに上がった口角からは何か楽しそうな気配がしているけれど、唐突な話の流れは読めない。

「お前をここに連れてきた理由だ」

 彼の言葉を脳内で一度繰り返して、ぱち、ぱち、と二回瞬きをする。

「……冗談でしょ?」
「いいや、悪いが冗談じゃねェ」

 ふっ、と笑う彼に驚いたものの、すぐに状況を理解して冷ややかな目を向ける。さては酔ってるな。ここへ来てまだそんなに飲んでいないような気がするけれど、一軒目でもビールを数杯飲んだし、ここでも彼は私よりも強いお酒を飲んでいる。やれやれ珍しいな、と「はいはい」と適当に返事をして顔を前へ向けてカクテルを飲む。

「カード」
「カード?」
「お前はおれに引いてほしい方を少し下にさげる癖がある」

 未だ楽しそうな口角をした彼が言う。いい加減なこと言わないでと言いたいところではあるけれど、酔っ払いに何を言っても無駄だろうと諦めて今度はチーズをつまみながら一応彼の話に耳だけ傾けておく。

「おれが思い通りの方に手を伸ばさなかったら瞬きの回数が減る」

 こちらへ胸を見せるようにカウンターにつかれたひじが滑っていくのが見えて仕方なくまた彼へと視線を向ける。

「逆に思い通りの方に手を伸ばせば、僅かだが指先に力が入る」
「……いい加減なこと言わないで」

 にぃと笑われてついに我慢できずに口を挟んでしまった。つまり彼は何が言いたいんだ。私たちの勝負はあくまで公正で、お気楽なもの。適当に出して、適当に引く。それだけ。そこにあるのは運のみで、そんな単純な動作に癖なんてあるはずがない。そう思うのに──。

「試してみるか?」

 彼の挑発に乗れないのは、きっと彼の瞳に映るカクテルの色がほんの少し揺らめいて見えたから。

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