落ち込むと一人になりたくなる、それが私の小さい頃からの癖だった。
カビ臭い物置に小さなろうそくを持って入る。パタンと扉を閉めるなり、糸が切れたように扉を背にしゃがみ込めば足元で湿気たほこりが舞った。けれど、今はそんなことはどうでもいい。ろうそくを床に置いてほうと息を吐く。真っ暗なほうがより独りだと感じられるのかもしれないけれど、暗いのは苦手だった。
揺らめく小さな火を見つめながら膝を抱えて座る。
今日の私はダメダメだった。大きなことから小さなことまで、一日を通しての自らの失敗の数々が頭にこびりついて離れない。気にするな、たいしたことじゃない、と優しい言葉をかけてもらうたびに胸が絞られたように苦しくなって泣きそうになった。しかし、泣くわけにはいかなかった。泣いているところを人に見られるのは嫌だった。気をつかわせて空気を悪くしてしまうことはどうしても避けたかった。
とはいえ、海の上では一人になることは難しい。だから困ったときにはいつもこの風通しの悪い物置に来た。
はぁとため息を吐いて膝に顔を埋める。過ぎてしまったことをうじうじ気にしたって仕方がないということはわかってる。だけどスパッと切り替えられるほどできた人間ではなかった。じわりと目頭が熱くなってくる。のどが締め上げられて今にも涙がこぼれそう。
「はー……ヒマだな」
どすっと背中を預けている扉に大きな衝撃。驚いて顔を上げた拍子にぽろりと堪えていた涙が呆気なくこぼれ落ちた。きゅ、と縮こまった心臓は、声の主を理解するなりじんわりと緊張を解いて一瞬の遅れを取り戻すように血液を送り出す。
「……いつも来ないでって言ってるでしょ」
「あァ、そうだな。で、おれはいつもそれを断ってる」
いないふりをしたって無駄だとわかっているので、努めて平静を装って言ったつもりが、思ったよりも涙声で嫌になった。
彼は私が物置に隠れるといつもこうして構いに来た。一人になりたいことも、構われると余計に辛くなることも、何度も何度も話して十分に知ってくれているはずなのに彼はそれを許してはくれなかった。『おれはいたいところにいるし、誰の指図も受けねェ』だそうだ。
「さっきよォ、飴が降ってきたんだぜ」
「……雨?」
「いーや、食う方の飴だ」
「……うそ」
「そう思うなら出てこいよ」
ぐっと口を噤んで『嫌だ』と意思表示すれば、はーとため息を吐いた彼が「だよなァ」と苦笑する。とん、と背中よりも少し上のほうの扉が叩かれる。
「なァ、元気だせよ」
彼はあんまり慰めるのが得意じゃない。けれど彼の不器用で直接的な言葉は、不器用で可愛げのない私にはよく響いた。ぐす、とバレないように鼻をすする。
「お前がそこにいるとつまんねェ」
頬を伝う涙はさっきまでよりも熱い気がする。必死に声が漏れないように我慢して膝を抱く腕に力をこめる。ゆらゆらと揺らめく火は振動によるものか、拭っても拭っても溢れ出てくる涙がそう見せているのかわからない。
「今日はお前の好きなメシだって言ってたぞ。降ってきた飴も、お前のぶんも取ってある」
早く出てこねェとおれが食っちまうかもしれねェけどな、と彼は笑う。
何も返事ができていないことを申し訳なく思いつつも、奥歯を噛み締め涙を抑えることに必死になっていると、なぁ、なぁってと、またとんとんと扉が叩かれる。
「出てこいよ。出てきたらさっき思いついた新技見せてやる」
「……いま顔ぐちゃぐちゃだからむり」
ぐす、と鼻をすすって可愛さの欠片もない声で返事をすれば、へっと彼が笑う。
「そう言うと思ってハンカチ持ってきてやったぜ」
「……それいつ洗ったやつ?」
彼と話していると不思議な気分になった。必要以上にぼろぼろ泣いてしまって不快なはずなのに、段々嫌なことの輪郭がぼやけていって少しだけ目の前が明るくなるような気がする。決して消えたわけではない。けれど最後にはいつも何故だかおかしくなって、ふっと小さく笑ってしまうのだ。
「……"炎帝"よりすごいやつ期待してる」
「バーカ、調子乗ってんじゃねェ」
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