「今日さ、人生で初めて『顔がよくても許されないことってあるんだなぁ』って思ったの」
合流したサボにひと通り町で得た情報を伝えて、パンを齧りながら昼間目にした衝撃的な場面を話す。ようやく誰かに話せると、話し始めだというのにくすくすと一人笑ってしまえば、スープを飲んでいた彼がこちらを見た。
「へェ?」
「お昼に通りかかった食堂でね、人だかりができてたから何かと思ったら、若い男の人がお皿に顔を突っ伏したまま動かなくなってたの。何か毒性のあるものを食べてしまって突然死したんじゃないかって騒がれてたんだけどね、違ったみたいで。しばらくして跳ね起きたんだけど、その人そのあと何したと思う?」
一息に話して絶対に当てられないであろう答えを頭に思い起こしてうきうきした目で彼を見つめると、彼は考える前から降参だとお肉をもぐもぐしながら眉を下げて小さく笑った。
「何したんだ?」
「隣にいた女の人のスカートでね、顔拭いたの!」
一度くらいは「はずれ!」と言いたかった気もするけれど、うずうずしてしょうがなかったのでためることなく答えを話せば、さすがの彼も驚いていて、にんまりと口角が上がる。欲しかった顔が見られて満足だと頬を緩めたまままたパンを齧る。
「あれはさすがに許されない。しかも他人だよ?たぶん」
被害者である女性の戸惑ったような悲鳴が鮮明に思い出される。慌てて駆け寄ろうとしたけれど、私よりも近くにいた人たちに囲まれてあれやこれやと世話を焼かれていたので出る幕はないかと踏みとどまった。
「かっこよかったのになぁ」
残念な人もいるもんだねと笑えば、ふーんと相槌を打った彼が「でも『初めて』じゃねェな」と食事の手を止めた。
「え?」
「おれが勝手に電伝虫を切ったらいつも怒るだろ。あれは?」
何のことかわからなくて首を傾げていたけれど彼の話を聞いて、この話を始めるときに言った自分の言葉を思い出す。『人生で初めて』──私は確かにそう言った……気がする。
「……許されない」
許されるわけがない、断じて許さない……!!と今まで一方的に切られ続けてきた通信の数々を思い出してわなわなと震えていると、「ほらな」と彼は笑う。
「だったら、初めてじゃねェだろ?」
「なんで嬉しそうなの?」
「別に?」
にやにやしていた口元を隠した彼をじっとりした目で睨み付けた夜。
【はじめてはぜんぶ】
「今日さ、街で食材ばらまいちゃったんだけど」
わいわいと闇をも寄せ付けない心地よい騒がしさを耳に受けながら、骨付き肉にかぶりついて隣にいるエースに話しかける。ちらと一瞬だけ寄越された視線で、自分の声が彼に届いていることを確認して話を続ける。
「通りすがりの男の人が一緒に拾ってくれたんだけどね、その人がすっごいかっこよくてね」
「へェ」
たいして興味のなさそうな彼はこれでもかと口に詰め込んだピラフをむぐむぐしながらジョッキを手に取る。しかし私の頭にはその親切でかっこいい人が浮かんでいて、そんな彼を見てもでれんと顔中の力が抜けていく。
「ふわっふわの金髪でね、くりっとした大きい目でね、スラッとしててね、背も高くて、品があって……鼻も高くて、唇薄くて、笑った顔も素敵でね……目の保養だった」
早々に聞こえなくなった相槌を気にせず話し続ければ、ただでさえ興味のなさそうだった彼にはいつの間にか、うげーととても不愉快そうな顔をされていた。ごめんね、でもあの感動を誰かに話したかったんだ……と心の中で謝って肉をかじる。
「お前、前におれの顔も好きだって言ってただろ」
「うん。言ったよ?今も好き」
眉間にシワを寄せた彼に肉を持ってる方の手首を掴まれて抵抗せずにいると、彼の口元まで連れていかれてがぶりとまだ食べていないところをかじられた。
「だったら、うわきしてんなよ」
手首を解放した彼が吐き捨てるように言う。
「えぇ〜!なにそれ、やきもち?」
きゅうと締め上げられた胸の苦しさを和らげるために茶化しながらわざと体重をかけるように彼にもたれかかってやれば、「なわけねェだろ」と鼻で笑われる。
「やだ、かわいい〜」
たまらなくなってにへにへと笑いながら彼の腕にずりずりと頭を擦り付ければ、「離れろ、うっとうしい」と自分から仕掛けてきたくせにつれない彼に頭を小突かれた夜。
【その瞳に映るのは】
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