「乗れそうだよねぇ……」
「いや、食えそうだ」
遠くの空に浮かぶ絵に描いたように真っ白で大きな入道雲を見てそんな会話をするくらいには、私たちは退屈していた。
メラメラと燃え盛る炎を眺める。すっかり暗くなった辺りに映えるそれは、風に煽られて大きくなったり小さくなったり、時折星のような火の粉を散らしたりと見ていて飽きない。どこか安心する"熱"を感じさせる匂いに、パチパチと枝や落ち葉の爆ぜる音が心地いい。
「……で、どこなんだろうね、ここ」
「さァなー……」
現実逃避をして緩ませていた口元をそのままに現実の話をする。背後に控える深い森がざわざわと笑ったような気がする。
目の前に広がるのはだだっ広い砂浜に、海。真っ黒な空には砂粒を散りばめたような星がたくさん輝いていて、今この状況でなければ感動して涙のひとつでもこぼしていたかもしれない。
私たちは、道に迷っていた。
刺激に飢え、冒険を求めていた私たちは島につくなり一目散に船を飛び出した。そして見つけた、子どものラクガキのような宝の地図を片手に『迷いの森』へと入ったのだ。
今になって思えば、十分に回避できた事態だ。いくら信憑性に欠ける地図だったとしても一旦船に戻ってみんなに見せるべきだったし、『迷いの森』なんて怪しげな立て札の打たれた森へ入るならやっぱりみんなに知らせておくべきだった。
しかしあまりに退屈していた私たちは、たとえ子どもの遊びだったとしても何か刺激が欲しかった。そしてそんな退屈していた私たちには『迷いの森』なんて誰も信じないであろうふにゃふにゃとした文字で書かれた怪しげな立て札は好奇心をくすぐられるものでしかなかった。
踏み入った森は、草木に詳しくない私たちからすればこれといって変わったところもなく、至って普通の、今まで何度も見てきたようなごくありふれた森だった。
なぁんだ、普通じゃん。でも風が気持ちいいね。なんて言いながらしばらく歩くと海へ出て、どうやら地図の指し示すお宝の場所を通りすぎてしまったようだと森へと引き返した。けれど、またしばらく歩くと海へ出た。何かがおかしいと気づいたのは、その次にまた海へとたどり着いてしまったときだった。
ためしに砂浜にでかでかと自分たちの名前を書いてぐるぐると森の中を歩き回ってみたけれど、残念なことに違和感は正しかったのだと証明されてしまった。何度も森の中を彷徨い、見慣れた文字にうんざりしてきた頃には、辺りは暗くなり始めていた。
とりあえず仕切り直そうと森の中で適当に食べれそうな果物をとって、終着点である海と森の境目にある大きな岩の抉れたところに火を焚いて腰を下ろした。
「どうやったら帰れるんだろうね」
「さァなー」
私たちはとても疲れていた。欲していた刺激を得られたのは最初だけで、変わっているのか変わっていないのかわからない景色の中歩くのは思いのほか退屈で、潮の香りを嗅いで波の音を聞くたび疲労がどっと押し寄せた。あと私は歩きすぎでとても足が痛い。エースは平気そうだけど。
「もし帰れなかったらどうする?」
パチパチと音を立てる火に枝を数本放り込んでガリガリと長い枝で位置を整える。キラキラと舞う火の粉がきれいで、ついつい余分に弄ってしまった。
「そんなことにゃならねェよ」
「『もし』じゃん、もし」
「もし、ねェ……」
ノリ悪いなと口を尖らせれば、ハ、と笑って、今夜のフレッシュな夕飯を食べた彼が「そうだなァ──」と口元を伝った果汁を手の甲で拭う。
「一緒に死ぬか?」
向けられた視線はいたずらっ子のようなそれで、くだらない質問を投げ掛けた自分がバカバカしくなる。ほんの少し冷たく感じ始めていた風のことなんてどうでもよくなって、ふ、と笑ってしまうと彼も同じように笑った。
「ぜったい嫌」
「同感だ」
肩を竦めてくつくつと笑った彼が、キレイに余らせた芯をたき火に放り込む。
「んじゃ、行くか」
「え!」
パンッと膝を叩いて跳ねるように立ち上がった彼に驚いて声をあげると、お前も早く立てと言いたげに手が伸ばされる。
「え、えぇ〜……こんな夜に?猛獣とか出たらどうすんの」
「おれがいる」
「いや、いるけどさぁ……!お、おばけとか……」
「オバケだァ?なんだ、ビビってんのか?」
「ビビっては……ない、けど……」
「安心しろ。何が出ようと、かかってくるってんならおれが全部丸焼きにしてやるよ」
「おばけって焼けるの……?」
帰りたい気持ちはあるものの、夜の森はいくら刺激に飢えていたとはいえちょっと気味が悪いし、展開が急だし、やっぱり足は痛いし……と渋っていると、しょうがねェやつだなと息を吐いた彼が強制的に出発しようと焚いてる火を燃やしにかかる。
「夜にしか見えねェ道があるかもしれねェだろ」
「それは……まぁ、たしかに」
考えもしなかった発想に感心してそれ以上何も言えずにいると、ほらとまた手が伸ばされる。
「エースってときどき天才だよね」
「バーカ、おれァいつでもてんさいだ」
くっくっと笑い合いながら、まだ見えもしない帰り道に思いを馳せた。
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