「うぅ、さむ……」

 なんて独り言は聞こえちゃいたし、たいして眠いわけでもなかったが、関わるとろくなことがないので声のする方へ背を向けたまま寝たフリをすることにした。
 忍ばせる気のない足音と、ぐずぐずと鼻をすする音が近付いてくる。
 すぐ横の床の軋む音がしたと思ったら、腹に適当に引っかけた毛布がぺろりと捲られる感覚。ああ、嫌な予感が的中した。

「……何してんだよ」
「わ、びっくりした。起きてたの?」
「起きたんだよ」
「そっか」

 寝返りをうって目が合ったってのに、ベッドに乗り込んでいそいそと人の毛布を整えてくる手は清々しいほどに堂々としてる。しまいには体を押されて仰向けになった。
 ワケがわからねェと天井を見つめてると、ふぅと一仕事終えましたみてェな息を吐いて、バカみてェに冷たい体が毛布に入ってきた。

「で?」
「寒いから」

 だろうな、とため息を吐く。
 人の気も知らねェで。
 二人して仰向けに転がって一枚の毛布にくるまる状況ははたしてケンゼンと言えるのか。いや、どう考えたってフケンゼン、異常だ。
 おい、わかってんのかという意味をこめて寝返りをうってやれば、「やめてよ、気まずいでしょ」なんて言ってひょこっと毛布から出てきた小せェ手に顔を覆われる。
『気まずい』って感覚は持ってんのか。
 なら余計意味がわからねェ。

「ここはおれのベッドだ」
「知ってるよ」

 お邪魔してますと面倒くさそうに答えて、毛布の中に帰っていった手がおれの腹に触る。

「寒いからもう少しくっつきたいの。上向いてよ」

 なんでお前の言うことを聞かにゃならんのだと思うのに、たいして力の入ってない手に押されて仰向けになる。

「おれは男だ」
「知ってるよ?」
「……こんな時間に男のベッドに潜り込む意味、わかってんのかよ」
「ん〜、わかってるけど。エースは凍えた女の子を襲うような人じゃないってこともわかってる」

 ずり、と寄せられた体にまたため息が出る。
 なめやがって。
 つまりおれは安全な男。

 ムカついたから、毛布を一瞬大きく捲って冷たい空気を送り込んでやった。

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