ぽつぽつと降り出した雨はすぐにその勢いを増し、気が付けば目の前が白くなるほどのどしゃ降りになっていた。

「……まいったな、こりゃ」
「……ですね」

 着いたばかりの島で偵察に出たはいいが、突然の豪雨に慌てて雨を凌げそうなところを探し、見つけた浅い洞穴でようやく一息つく。
 服も髪も何もかもがびしょ濡れでただ呆然と立ち尽くし、激しい雨を眺める。
 さっきまであれに打たれていたのかと思うと、決して今の状況が良いとは言えないが、何だか少しだけ心が落ち着いてくるから不思議だ。

「しばらく止みそうにねェな」
「そうですね……」

 不快そうに髪をかき上げてどさりと腰を下ろしたエース隊長に向き合うようにして私も腰を下ろす。湿気た地面に座ることはこの際どうでもいいが、濡れた服が不快であることは確かだった。
 ザーザーと異常なまでの雨音は、必要以上に今の状況を意識させる。するとさっきまでは平気だった"エース隊長と二人きり"という状況に途端に緊張し、ドクドクと胸が騒がしくなってしまうのだから本当に困ったものである。

「寒いか?」
「あ、はい……少し。でも大丈夫です!」

 心配をかけないように笑顔を作ってみたけれど、どうやらそれはあまり意味をなさなかったらしい。

「……すみません」
「気にすんなって」

 膝を立てて座るエース隊長の足がメラメラと燃え盛る。便利な能力だなぁなんて思いながら近付いてそれに手をかざすとあたたかくてほっとした。

「みんなどうしてますかね?」
「あー……まァあいつらなら大丈夫だろ」
「そうですね」

 濡れた肌も少しずつ乾いてきて、服を濡らす水は生温くなってきた。しかしそうすると今度は背面の冷たさが際立ち、ぶるりと思わず身震いしてしまう。そろそろ背を向けさせてもらったほうがいいだろうか、と考えていると不意に炎をおさめたエース隊長が「ちょっと待ってろ」と立ち上がり奥へと歩いていく。
 さほど奥行きがないだけあってすぐに戻ってきたエース隊長は、大量の木の枝と葉っぱを抱えていた。そしてそれに力業で火をつけると、もう一度座り直し、あろうことか自身の足の間をぽんぽんと叩いた。

「……え?」
「来いよ。寒ィんだろ」
「えっ!?い、いやいやっ、大丈夫です!」

 激しく首と手を振り断ると、「遠慮すんなって」と手を差し伸べられる。焚き火を挟んでいるので掴めるほどの距離ではないが、反応に困って固まっていると「ほら早くしろよ」と伸ばされた手が揺れる。
 もうこれは行くしかないのかと追い詰められた頭で考えるが、すでに心臓は壊れそうなほど鼓動しているし、顔はとんでもなく熱くてとてもじゃないけどそんな勇気は出ない。

「しょうがねェな」

 ため息まじりにそう言って立ち上がったエース隊長は、私のそばまで来ると「そのままだと風邪ひくだろ」と私の後ろに腰を下ろした。そして腕が回ってくるのが見えると緊張がピークに達して不自然なほどに背筋が伸びた。
 痛いほどに鼓動する胸に息を呑むと、抱き締められる寸前でピタリとエース隊長の腕が止まった。

「悪ィ、聞くの忘れてた。嫌だったか?」

 随分と今更な質問だけれど、それがまたきゅうと胸を締め付ける。ただでさえ私のことを気遣ってくれての行動だというのに、そんなことまで気にしてくれるなんて、一体この人はどこまで優しいのだろう。
 パチパチと枝の爆ぜる音がする。

「いっ、嫌というわけでは……!ただ少し緊張して……!あと、申し訳なくて……」
「そうか。なら問題ねェな」

 ふはっ、と笑ったエース隊長に今度こそふわりと優しく抱き締められ、一層強く胸が高鳴った。

「すみません……」
「何で謝るんだ?」
「いや、なんかもう本当にすみません……」
「謝んなって」

 ゴンッと後頭部に頭突きされて、気を抜けば謝罪しか出てこない口を閉じた。
 相変わらず雨脚は強まるばかりでまだもう少し雨宿りが必要だろうけど、さっきまで感じていた寒さは嘘みたいに感じなくなっていた。

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