顔に当たる陽が眩しくて、ゆるゆると目を覚ました。
 ぱちりと開いた目が最初に映したのは、力の抜けたいい身体──

「っ!?」

 いやいや聞いてない。聞いてないよ。
 もれそうになった驚きの声をすんでのところで呑み込んで、すやすや眠る男の顔を凝視する。
 いや、聞いてない……。
 どうしてエースが隣で寝てるんだ。
 急いで昨日の記憶を漁ってみても、いつものようにがははとバカ笑いしながらお酒を飲んでいたことしか思い出せない。それこそエースとは酔っぱらいらしく肩を組んで踊ったりはしたけれど、そのあとベッドに入った記憶もなければ、力の抜けた重い腕に拘束されるような関係になった覚えもない。一体何があった。そしてどうしてこの男は裸なんだ。いや、違う、エースはいつも裸だ。落ち着け私。
 甲板で雑魚寝して目を覚ましたときにはない焦りが、ただでさえ回らない頭をさらに使えなくする。
 ごくりと息を呑んで、着古して肩紐の緩んだいつものキャミソールを着る自分の姿を確認して、毛布に遮られた彼の下半身へと手を伸ばす。お願い、穿いててくれ。

「ん……」

 ズボンを穿いてるか穿いてないか確認する直前で開いた彼の目に、ピシリと筋を違えそうなほどに硬直する。

「ん……?」
「お、おはよう……?」

 情報処理に固まるエースに、はは……と力なく笑って朝の挨拶をする。下半身へと伸ばしていた手は、自身がショートパンツを穿いていることを確認して、それとなくもとの位置に戻すことに成功した。よかった……穿いている感覚はあったけど本当にちゃんと穿いてた。
 しかし、彼はわからない。
 こうなればあれだ、彼の第一声にかかっている。
さすがに何かあればいつも通りとはいかないはずだ。
 驚いたような反応なら、昨夜は何もなかった。
 いつも通りの感じでも、きっと大丈夫。
 何か、今まで私たちの間で流れたことのないようなむず痒い反応なら──……どうだろう。エースがそういうときどういう朝の迎え方をするのかわからない。

「おー」

 じぃっと瞬きもせずに、ほとんど開いていない口から最低限の反応。目は合っているはずなのに、寝起きのせいかどこか遠くを見ているよう。笑うわけでも、驚くわけでも、眉を顰めるわけでもない。こ、これはどっちなんだ……。

「あの、さ……昨日って、何かあった……?」

 ええいもう面倒だ、いっそ聞いてしまえ!と思いきって聞いてみれば、そこで初めて彼の眉毛が動いた。

「なんだよ、覚えてねェのか?」

 ったくしょうがねェ奴だな、とでも言いたげな表情。ああ、これはまずいと冷や汗をかく。
 何があったのかはっきりと確認したい気持ちと、できれば知りたくない気持ち。
 本日二度目のピシリと固まる私とは対照的に何だか余裕に見えるエース。
 ふっと笑う彼にびっくりして全身にぴりぴりと小さな痺れが走った。
 反射的に身を引けば、腰から離れていった手がちょいちょいと手招きする。この距離で手招きということは多分耳を貸せということだろうと少し身体を起こして恐る恐る彼の口元へ耳を寄せる。

「……おれも覚えてねェ」

 耳にかかる寝起き特有の掠れた声。全身の産毛を逆立てたそれには、構ってほしい子どものような憎めない甘さがあって、ひくひくと口元を引きつらせながらよーし、お望み通り構ってやろうと拳を握り締めた。

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