さむ……と顔まで引き上げた布団と毛布の中、足を擦り合わせて起きる。最近は暖かいと聞いていた。今日だってたぶんそう。だけど、私にはよくわからない。被っている布団も、着ている服も、今の気温に適していない厚手の冬物のはずだけど、ぶるぶると体は震え、弱々しい息が開いていた口から漏れ出る。もうかれこれ十日もこの状態だ。
 吐息ともとれそうなか細いため息を吐いて、またこの時間かとスマホの画面を睨みつける。

 風邪をこじらせていた。
 少し体がだるいなと思ったらその日のうちに高い熱が出て、次の日に近所のクリニックに行ったら風邪だと言われた。風邪なら二、三日で熱はひくだろうと安堵していたのにそれがなぜか今も治まらない。薬が足りなくなってクリニックには結局二回行った。しかしやはり診断は風邪。
 治まらないと言っても薬はよく効いて、薬が効いている間は熱もすっぱり下がるのだけど、切れるとまたすぐに熱が上がる。しかし薬には一日に飲んでもいい回数というものが決まっている。正直普段は厳密に守っているほうではないけれど、こうも長引くとキリがないのでさすがに守らないと怖くなってくる。在宅とはいえ仕事があるので日中には切らすわけにはいかない。
 どう調整しても夜中から朝方には一旦完全に薬が切れて、抗いようのない寒気と震えが襲ってくる。なんともいえないその不快感に起こされるのももううんざりだ。どうして治らないんだ、一体私は何にかかってしまったんだと悔しさと凍えに唇を噛み締めて、引き上げようのない毛布を掴んで丸まる。

「……大丈夫か?」
「ん……ごめ……、さむい……」

 まだ聞こえるはずのない声が聞こえて、ああまた起こしてしまったと軽い自己嫌悪に陥りながら布団から顔を出す。
 おでこや首に彼のあたたかい手が触れて気持ちいい。きっと今は私のほうが体温が高いはずなのに、どうして温かく感じるんだろう。
 ぼんやりしていると、彼が何やら考えるように「んー……」と唸る。

「ちょっとだけだから、怒るなよ?」

 何を?と聞くより早くベッドが軋む。
彼のしようとしていることがわかって、大きな体が入れるようにずりずりと体を動かしてスペースを空ける。

『熱が出た』と報告すると、彼はその日の夜にスポーツドリンクやゼリーにプリンを買い込んで様子を見に来てくれた。うつるといけないからとすぐに自宅へ帰ることを促したけど「そんなんでどうすんだ」とふらふらの私を見かねて毎晩うちに泊まって世話を焼いてくれていた。
 さすがに同じベッドで寝るわけにはいかないからとソファで寝てもらっているけれど、ワンルームに置ける小さなソファだ、そろそろ彼の体が心配だった。


「ごめんね」
「気にすんな」

 健康な彼には暑いであろう布団の中、ぎゅっと抱き締められて目が潤む。彼にうつしてはいけないと思うのに、分け与えられる体温が心地よくてもっともっとと冷たい手足を絡める。


「わたしもうエースがいないと生きていけないかも……」

 ようやくほうっと息を吐き出せた頃、ぽろりとこぼしたそれは何とも弱々しく情けなかった。

「なんだ、そりゃプロポーズか?」

 言われて初めて自分のこぼした言葉の意味を考える。

「そうだって言ったらどうする?」

 何の意味もない会話。しかし、ろくに回らない頭にはちょうどよかった。きっとそんな私の状況を理解してくれている彼が、ハ、と小さく鼻で笑う。

「受け取ってやらねェよ」

 見なくてもわかる意地の悪い顔。ふ、と息を吐き出すと、体に伝わる彼の少し静かな声。

「おれからするからな」

 じわり、滲んだ涙はすっかり上がりきった体温を自覚させる。

「……どうして今そんなこと言うの〜〜」
「あ?お前から言ったんだろ」

 抱えきれない感情を発散させようとへろへろの体に鞭打ってじたばたと小さく暴れると、「いいから早く寝ろ」と呆れた彼に怒られてさらに強く抱き締められてしまった。

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