やってしまった。
 前髪を切りすぎた。

 ふと気になってしまった前髪。
 不器用を自覚してるからいつもならナースの誰かに頼むのに、さすがに前髪くらいは自分で切れると過信した自分を殴り飛ばしたい。
 鏡に映るいつもより幼い自分。眉毛はすっかり見えている。ここに至るまでにどうして気づかなかった。多少ガタガタでもよかったのだ。それをどうしてあんなにムキになってしまったのか。
 考えてもしょうがないことばかりを考えてため息を吐く。何度見ても鏡に映る前髪はちょこんと可愛らしく心もとない。

 しかし、こういうのは隠したほうが負けだ。タメればタメるほど、バレたときに受ける笑いが大きい。
 腹を括っていざ出陣だと迎えたご飯の時間。
 当然のように食堂に行くまでに散々いじられて、食堂でも飽きるほどからかわれた。
 くそ、みんな覚えてろよと一人一人の顔を脳に刻み込んで、いつかの仕返しに燃える。
 とはいえ、やっぱり恥ずかしい。妙な潔さを出さずにある程度伸びるまでまとめて上げるなりして足掻けばよかったか。
 もぐもぐと今日もおいしいご飯を頬張りながらまた考えてもしょうがないことを考えていると、「はー、たしかにハデにやったな」とまるで感心したかのような口ぶりでさらっと前髪についてのコメントをしながら誰かが向かいに座った。エースである。
 間違いなくからかわれると踏んだ私は、前髪に向けられている彼の瞳をじとっと睨みつける。
 相手がエースならきっと変わった角度からの攻撃はない。「ガキみてェだな」と笑われるか、何かの動物にたとえられて笑われる、おそらくそんなとこだろう。それしきのからかわれ方はもうすでに嫌というほど経験済みだ。

「おれは好きだぜ」
「は」

 さあ来いと構えていた耳も頭も心も、彼の言ったことをうまく処理できなかった。

「お前の顔がよく見える」

 フリーズした私に容赦ないとどめの一撃。
 いつの間にかばっちり合っている目は、これが思わぬ角度からの攻撃ではないと言う。
 なんだそれ。そんなの聞いてない。
 何か言おうにも口は動いてくれなくて、情けないけどゆでだこのように赤く染まった顔を返事とした。

/top