「おじょーサン」
宴の騒がしさから離れてひとり暗い海を眺めていたときだった。耳慣れない言葉は確かに私の背中に刺さって、似合わない言葉を吐いた男はいい酔い方をしたのだろう、ごきけんな足取りで近づいてくる。
「なんだよ、落ち込んでんのか?らしくねェな。ほら、肉でも食って元気出せって!な?」
口を開く隙すら与えられずにガシッと組まれた肩がぐわんぐわんと揺らされる。一応こちらもお酒を飲んでいるのでやめてほしい。
目の前に差し出された骨付き肉からぽたりと油が落ちた。
「どうして私が落ち込んでるか知ってる?」
がぶりと顔を突き出して彼に持たせたままの肉をかじる。
正確には落ち込んでいるわけではなかったが、あえて訂正はしなかった。私も酔っているのかもしれない。
「んァ?さァな、知らねェ」
同じように肉をかじった彼が口をもごもごさせながら言う。
「エースのこと好きになっちゃったから」
「は?」
我ながら色気のない告白だ。
一世一代の告白を口に肉を持ったままするってどうだろう。
間違いなく聞こえたであろうそれを聞き返されて、ごくんとまだ咀嚼のあまい肉を少し強引に飲み込む。
「だから──」
「なんでそれで落ち込むんだ?」
は?と今度は私が聞き返す番だった。思ったよりも話は先へ行っていて、まだ届いていないと思っていた告白はちゃんと彼に届いていた。
そのうえで、どうして私が落ち込むか──
「だって……嫌でしょう?こんなこと言われたら。嫌われたくない」
落ち込んでいたわけではない。ただ私は悩んでいた。
家族として仲間として友達として、この想いは不要だ。
いつの間にか芽生えた気持ちが日に日に大きくなっていくことに戸惑っていた。
抱えきれなくなった想いをいつか吐き出してしまいそうで、こわかった。嫌われたくないし、気まずくなりたくはない。だけど、吐き出してしまいたかった。
告白ついでに面倒な悩み相談までしてしまったから、こうして肩を組まれるのもきっと今日で終わり。
離れていってしまうであろう腕からスムーズに抜けられるように体を外へ向けようとすれば、ぐいっとなぜかさらに引き寄せられた。
「お前は、おれがお前のこと好きだって言ったらおれのことキライになるのか?」
驚いて少し身を引いたから、一瞬近い距離で目が合った。
「ならないよ」
たとえ私にこの想いがなくとも、そんなことにはならない自信がある。
前を見てきっぱりと言い切ると、隣の空気が小さく揺れた。
「だろ?だったらおれだってそうだ」
光が射す。ずっと頭にかかっていたモヤがすっきりと晴れていく感覚。
「くっだらねェことで悩んでんじゃねェよ、バーカ」
そう言って組んでいる肩を叩く彼の手は、私の悩みをきれいさっぱり取り去ってくれた。
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