1.眩しい


雄英高校ヒーロー科に入学して1週間。わたしはこのクラスで浮いている。というより埋もれている、と言った方が正しいかも。とにもかくにも馴染めていない。
なにをかくそう未だ友達ができてない。泣きたい。だけどそうなるのも仕方ない。

だってこのクラス、眩しすぎるもん!


個性の影響か、昔から眩しいものが苦手だった。太陽や電球などの光っているものはもちろん、それ以外でもキラキラして見えるものは眩しい対象。そして本能的に逃げ腰になってしまう。
 
だけど決して苦手=嫌いではない。例えばそう。友達という関係性も眩しい対象だけど、わたしはずっと望んで生きている。

 
入学初日。
緊張で眠れなかったわたしは誰より早く家を出て、誰よりも早く教室に入った。そして睡魔に負けた。代償が大きすぎる。ハッと目を覚ました時にはほとんどの人が教室にいて、それぞれが近くの席の人と挨拶を終え談笑をまじえていた。

出遅れた…!慌ててキョロキョロ見渡せば、近くの席で暇そうに頬杖をつく男の子。だけど話しかける間もなく「見てんじゃねェ」と睨まれヤワな心は無惨にも砕け散った。
あれ?ここってヒーロー科??机に突っ伏し涙を流した。

そんな苦い思い出と共に開幕したスクールライフはミラクルなどんでん返しなどなく。
 
だけど、チャンスはいくらでもあった。
ヒーローの卵というだけあって、優しい子ばかり。独りでいるのをみかねて はじめはみんなが気にかけてくれた。
なのにわたしは声をかけられた瞬間 走り去ったり、穴を掘って潜ったり、返事もせず固まったりと。とにかく逃げに逃げ隠れた。
そうするうち声をかけられることもめっきり無くなってしまった。当たり前だ。


わたしはきっと、友達ができないまま一生を終えるんだ−−。


―――
01


友達ゼロのまま数週間。せっかく同じ志の仲間に恵まれたのに、また憧れで終えてしまうのかな。そう諦めかけていたころだった。

図書館からの帰り道、ボーッと空を見上げて歩いていたのが良くなかった。
曲がり角で誰かとぶつかって、後ろに傾いた身体はそのまま尻もちをつく。恥ずかし…!

「わり、大丈−」
顔を上げて視線が合うと、目を丸くしたその人。なんだか鏡に映った自分を見ているような気分になったのは きっとわたしも同じような表情をしているから。

「立てるか?」手を差し伸べてくれたのは、クラスメイトで隣の席の切島くん。さすがヒーローの卵、真っ直ぐ向けられる視線が、うっ眩しい!
いつもならここで全力ドリルしこの場から去っていた。だけど個性の都合上、尻もちをついた状態からは難しい。逃げられない…!

現状を受け止めて落胆すれば、次に襲いかかったのは自己嫌悪。手を取るどころか返事もせず、あげく逃げの選択肢を浮かべるなんて。さいていだ、わたし。

「おい土田?」

ハッと我に返る。
いつの間にか切島くんの顔が目の前に。しゃがみこみ、覗き込むようにこちらを見ている。
少しの曇りもない赤い目に ゴクッと唾を飲む。ちちちち近い!無理!

ゴチン!

……………………
ひぃいい!やった、やってしまった。
パニックに陥ったわたしは、あろうことか頭突きをお見舞いしてしまった。
サーっと血の気が引くのを感じながら「ごごごめんなさい」と謝罪の言葉を口にする。だけど返事はおろか反応がない。
 
切島くんは器の大きな人だ。真っ直ぐな言葉と情熱で、いつもクラスを盛り上げて、誰に対しても分け隔てなく接する。
たったの数週間はそんな優しく逞しい人柄を知るには十分過ぎるほどだった。なのに、そんな切島くんを怒らせてしまうなんて。わたしは――

尻もちの姿勢から一瞬で手足を正して正座をし、地面に埋まるつもりで頭を下げる。土下座。
しかし頭がつく寸前のところで「ちょ!なにしてんだ!」と肩を捕まれそのままグイッと顔を上げられた。ち、ちかい。今度はギュッと目をつぶって光に抵抗する。

「ご、めんなさい!本当に」もう一度謝ると「俺なら大丈夫だって!な!?」切羽詰まった様子で切島くんが言った。

「でもさっき反応が、」
「びびってボーッとしてただけだ!咄嗟に硬化したから痛みは全然……って、」

「あァ!」突然の大声にビクッと肩が揺れて目を見開く。「やっぱりどこか痛むんじゃ…大丈夫?なわけないよねごめ」うろたえると「ちげーって!そうじゃねェ!」わたし以上に慌てた様子の切島くん。

「大丈夫じゃねーのは土田だろ、血でてる」
「へ」
「でこ」

言われてみると確かにめちゃくちゃ痛い。ジンジンする…。
切島くんが指さすあたりに軽く触れ、その手を見れば赤く染まっていた。思わず「本当だ」と呟くと「呑気!」とキレの良いツッコミがとんでくる。

「くっ!女子の面つらに傷つけちまうなんて、俺ァ漢失格だ!」グッと拳を握って悔しさを表現する切島くんに「だ、大丈夫!こうしてれば止まるよ」取り出したティッシュをおでこに押さえつけながら慌てて無事を伝える。だけど表情は晴れない。

「そっそもそも、わたしが頭突きなんてしたからで」
「ビビッて硬化した俺の責任だ!情けねぇ」

いやわたしがいや俺がと押し問答を数回繰り返したところで何かに気づいた様子の切島くんが「ンなことしてる場合か!」と声を張上げる。
今度はなんだと構えていたら「とりあえずあれだ。傷口洗わねーと」冷静な判断。そうだ、頭から出血しているんだった…!


「立てるか?」
「うん、足は怪我してな、」

アッ。

おかしなところで止めた言葉を不思議に思ったのかも。先に立ち上がった切島くんから「土田?」と今日何度目かの声がかかる。

どどどどうしよ。言えない。だって、仮にもヒーローを志す人間が、情けないにも程がある。じわっと溢れそうになる涙を必死に押さえ込んでいれば、切島くんの表情がみるみる曇ってく。

「まさか」焦った声。ちがう、切島くんは悪くない。「すまねぇ」続いた謝罪に罪悪感が胸を締め付ける。言わなきゃ。覚悟をきめて顔を上げる。
 
 
「ちがくて、その、足、しびれました……」

パチクリ。大きな目が瞬いた。
うう、穴を掘って入りたい。さすがの切島くんもきっと呆れ「っし、乗れ!」へ?

デーンと効果音がつきそうな勢いでガッシリとした背中を指さす切島くんは、えーっと……今なんと??あんぐりと情けなく口が開く。

「乗れ!」

ここでもう一押し。いやいや。困惑するわたしをさしおいて、あろうことか「洗い場まで運んでやる」と息巻いている切島くんはどういうことなんだろう…。
 
「いや、いい!いいよ!」
「いーや、よくねぇ!」

またしても押し問答。だけどここは譲れない。気持ちは有難い。だけど無理だ、耐えられない。だ、だってそんな。切島くんの背中に乗るなんて、むり!とにかくむり!
それにすれ違う人からの好機の目は必須だし、挙句理由は足の痺れだなんて、そんなの恥ずかしすぎる。恥ずかしいのフルコースだ!ここはなんとしても回避…!
 
そう思ってキッパリハッキリ断るも「女子の面に傷つけたんだ。漢としてここは責任取らせてくれ!」となにやら熱くなっている切島くんは聞く耳をもたない。

これもう器が大きいとか、漢らしいとかのレベルじゃないような?……漢気馬鹿。クラスの誰かがそう弄っていたことを思い出した。

結局。
わたしの意思は硬く折れない切島くんの決意に叶わず。
「果たすぜ、責任!」と完全に自分の世界な切島くんはイヤイヤと左右に振るわたしの手をグイッと引いた。そしてバランス崩した所をそのまま器用に背負いこむ。ち、力業ぁ…!

ていうか。

ぴ ぴったんこ、むり!密着を理解した瞬間、ガバッと仰け反るように手を離す。が、切島くんが「せいや!」と立ち上がった反動でふわっと浮いた感覚に、あわててしがみつく羽目になった。力業ぁ…!

ちなみに引いてダメならと押してみた背中はビクともしなかった。力業ぁ!!!









―――
 




切島くんはじゃがいも 切島くんはじゃがいも 切島くんはじゃがいも じゃがいも じゃがいも じゃがいも……。

目を閉じて失礼な呪文を必死に唱える。これにはちゃんと訳がある。
 
力業コンボを決められ、心の準備する間もなくゼロ距離になったその後。
恥ずかしさで半泣きべそかき状態のわたしがようやく降ろされたのは近くのちいさな公園。唯一の遊具ブランコは錆び付いていて年季が入っていることを思わせる。子どもの姿は見当たらなかった。

そこの洗い場に2人でしゃがみこむ。
傷口を洗い終えるなり、おでこをジッと見つめた切島くんは「いるな、バンソーコー」と呟いた。そのまま今にも立ち上がって走り出しそうだったので「も、もってるよ!」と急いでカバンからバンソーコーを引っ張りだした。
「お、準備いいな!」ニッと笑った顔に安堵したのもつかの間。わたしの手からソレを奪いとるやいなや、ペリっと包装紙を剥がし、当たり前のように傷口おでこに近づける。思わず身体を後ろに逸らせば「お?」と切島くん。

「自分で貼るよ!?」
「いや無理だろ、見えねーんだから」

そうだけど、そうだけど…!

「でっでもまた、頭突きしちゃうかも…だし…」
「なんでだよ!?」

冗談と受けとったのか切島くんは歯を見せて笑った。わ、笑い事じゃないのに。真面目だ。大真面目だ。ほんとのほんとに頭突きしかねない、のに。
 
だけど必死の訴えは伝わらず、ここでもまた「漢としての責任」について説かれたわたしはものの見事に丸め込まれ、結局お願いすることに。
切島くんは案外頑固だ。それともわたしの意思が弱いのかな…。

なんて言ってる場合じゃない…!どうしよう。このままだと本当に頭突きしかねない。
切島くんは器が大きい。見ていただけだったその器に触れた今、余計に思う。
だけど その優しさに何度も甘えるなんて、それこそ自己嫌悪で立ち直れなくなる。
 
だから。近づく顔、そっと触れる手に ギュッと目を瞑り呪文を唱えたのだった。切島くんはじゃがいも。じゃがいも。と。
 


「し、完了!」
「あっありがとう」恐る恐る目を開く。
 
頭突きせずにいられた!よくやったわたし。えらいぞわたし。なんて自画自賛。
反して目の前の切島くんはなにやら難しい顔。……じゃがいもの呪文、バレたかも?
 
「そんな嫌か?」
「え」
「俺と話すの」

出てきた言葉は想像とかけ離れたものだった。…嫌?俺と話すの?何の話?首を傾げると、苦笑いの切島くんは指で頬をかきながら言う。
 
「なんつーか。俺としてはせっかく隣の席なんだし 仲良くなりてェとか思ってたり」

……それはつまりあれか。わたしが切島くんを嫌がっているとか、そういうこと??そんな恐れ多いことあるわけない!あるわけない、のだけれど。
 
自分の言動を思い返せばそう思われたって仕方ないものばかり。きっと無自覚に傷つけていたんだ。いや、わたしごときが切島くんを傷つけられる存在とかそんなことは思っていないけどさ……!かすり傷くらいだろうけどさ、ってそんなのはどうでもいい。
本当にわたしはいつも自分のことでいっぱいいっぱいで、失礼で最悪で嫌になる。けど、今すべきはそんな自己嫌悪なんかじゃない。そんなことより わたしの気持ちより 切島くんだ。

「ちが……!それは、誤解」
「誤解?」
「切島くんのこと嫌とかない、よ!絶対!ない。ちゃんと話したこととかそういうの全然ない、けど…で、でも!隣の席から見た切島くんは、強気をくじき弱気を助ける、なんていうかほら、あ!スーパーマン!スーパーマンみたいだなって、おもってて…!今日もずっとそうで。それでそれで」

必死だった。 なんとか誤解を解かなきゃって、そう思ったら止まらなくて。手をグッと握ったり、力こぶしを見せたりと、思い思いに伝える。「ストップストップ!これ以上はあれだ!勘弁」とあたふた両手で制され、ようやく頭が冷静になる。

わ、わたし、何を言った…?口任せの言葉はなに1つ頭に残っていない。けどきっと大層恥ずかしいことを言ったに違いない。その証拠に切島くんはほんのり耳が赤い。つられるように顔が一気に熱くなる。

「ごごごごめ、」
「へへ、嬉しいぜ!ありがとな」

切島くんは鼻をかいて照れくさそうに笑った。気持ちの悪い暴走さえも受け止めてくれるらしい。良い人が過ぎるなぁ。
感動していると「でもよ」切島くんは突然フッと表情をなくして真剣な顔をした。
 
「ならなんで避けんだ?今だってほら」

……!

「目、見てくんねーの」

またも覗き込む赤い瞳。瞬く間に数センチにまで縮まった距離にヒッと小さく悲鳴をあげた。
まっすぐな眼差しはそれに構わずジッとわたしを捕らえ続ける。まるで『逃がさない』とでも言うように。

メラメラ燃え上がる真っ赤な炎に、頭の中でカンカンカンと警報が鳴る。くらくらと目眩がして、そして−

「ぶね」

間一髪、またしても頭突きに走ったわたしを切島くんがヒョイっと躱した。…また助けてもらってしまった。

「ご、ごごごめん!本当に、なんども…」学ばない自分があまりに情けなくて謝りながらしりすぼみする。
すれば切島くんは「いや今のは俺が悪かったろ、最早」と気遣うように笑った。

その顔を見て思う。『誤解、ちゃんと解かなきゃ』って。何度も助けてもらった。優しく受け止めてもらった。なのに『いやがってる』なんて誤解、されたままでいたくない…!
それに、ここでなにもしなかったらきっとずっとこのままだ。友だちなんてできっこない。今勇気を出さずしていつ出す。覚悟を決めてスウと息を吸い込む。よし!
 

「あの!切島くん。よかったら、もしお時間があったら、」

緊張の力みでか、力いっぱい、ギュッと目を閉じてしまう。

「あの、その。お、話し、しませんか……!」
「おうよ!俺も土田と話したかったんだ!」

間髪ない返事は全部の不安を吹き飛ばした。嬉しさで勢いのままパッと目を開けば、とがった歯を見せて笑う切島くんがいた。
瞬間、地面に埋まるわたし。ま、眩しすぎる!耐えられない!

「相変わらずスゲーな。穴掘り名人かよって」上から感心したような声が降る。
 
反射的な奇行も笑わない切島くんはやっぱり優しい、優しいけれど。今回ばかりはいっそのこと笑ってほしかったと思う。そ、そっちのが恥ずかしいし…!


―――

羞恥心を誤魔化しながらいそいそと穴から抜け出したあと、切島くんの提案で移動することになったわたしたち。
移動といっても園内。唯一の遊具ブランコに並んで腰掛ける。子供サイズのそれは 昔と違って少しばかり狭く感じた。

「なんかいいな!こういうの!懐い!」
「……う、うん」

ブランコに揺れながら切島くんが言った。

わー!なんだ“うん”て。つまらない返事。なにしてんだばかやろう!そもそも誘ったからにはこっちから話を振らないとでしょ、ばかやろう!
 
とは言っても、一体なにを話せばいいのやらというのも本音だ。わからない。だってこういうの、初めてだ。「土田?大丈夫か?」見かねた切島くんが声をかけてくれる。

「う、あの、ごめん、こういうの慣れてなくて。なに話したらって」
「なんでもいーぜ。土田が話してェこと、なんでも教えてくれ!」

なんでも。余計に難しくなった。無意識に眉を寄せて険しい顔をしていたらしい。「気負うな気負うな」と切島くんが笑う。
 
「さっきも言ったけどよ、俺土田と仲良くなりてぇって思ってたんだ。だから今、スっげぇ嬉しい!」

ま、まぶしい……!真正面から浴びた光に顔全体がギュッとなった。隣から「梅干し食った時の顔…なぜ」と神妙な声が聞こえたけれど、他の奇行に比べれば幾分とマシなはず…なので良しとしよう。


「じゃあ、あの。さっきの話…なんだけど。嫌じゃないのに、なのになんで避けるかってやつ」
「おう!」
「あの、ね。わたしの親、お父さんの個性がモグラなんだけど」
「お父さん?あぁ、土田の個性穴掘りだもんな」

そう言って平泳ぎみたいな動きをする切島くん。うーんと、穴掘りを表してる、 のかな?

「うん。あ、でも個性はお母さん譲り!モグラってスイスイ穴を掘り進むイメージあるけど実はそうじゃないらしいんだ」
「そうなん?」

首を傾げた切島くんにハッとする。なにモグラの説明をしているんだ、わたしは。
「ごめん!こんな話どうでもいいよね」即座に話を切り上げると切島くんは首を横に振る。「興味あるぜ、土田の個性に関係するんだろ?」いい人……!
 
「あ、でね、個性はお母さんなんだけど、お父さんの影響を受ける部分ももちろんあって。それでね、わたし」
 
「眩しいの駄目なの」


切島くんはキョトンと目を丸くした。発されたのは「ん?」と1音だけ。
 
「だから本当に、断じて嫌いとかじゃないんだけれど、苦手っていうかその、どうしても反射的に避けてしまって」
「んんん?待て待て、全然わからん」

困惑の様子に言葉を足すも切島くんは余計に頭をひねる。
 
「 えっと、遺伝?の都合で眩しーのが苦手っつーのはわかった。けどよ、そっから俺らを避けるってのは」

どーいうことだ?腕を組んでむむむっと思案顔。その姿に、理解しようと真剣な表情に グッと気持ちが込み上げる。個人的わたしの問題なのに、自分のことみたいに思ってくれているんだ。
そう思ったら嬉しくて 「その。眩しいの!みんなが!」言葉に力がこもった。だけど

「お、おう?」

必死に伝えるも切島くんの反応は味気ないものだった。目が点…。うう、全然伝わらないな、これ。どうしよう。



それから必死に説明を繰り返した末、

「つまりあれか、土田は友だちっつーもんに憧れてて、だから眩しく感じるし、俺らとうまく話せねぇって そういうことか!」

ようやくなんとか切島くんは理解を示してくれた。眩しいのはクラスの子たちもそうで、正確にはちょっぴり違うけれど問題なし、だ!



「で、ややこいことは一旦抜きにしてさ。土田はクラスのやつらと仲良くなりてェっつーことでいんだよな?」

伝わった安心からホッと一息ついたとき、切島くんから問いかけ。やや迷ってうんと頷く。迷いは自信のなさからだった。
見透かされてしまったかも。暫しの沈黙の後、何かを考えこんでいた切島くんが口を開く。

「俺さ、てっきり土田は俺らと関わりたくねーんだと思ってた」
「……!そんなわけ」
 
慌てて否定すれば「おう、今日1日で伝わったぜ。ちゃんと」と胸を叩く。安心と同時になんだか照れくさい。「だから話せて良かった。ありがとな!」切島くんが続けたそれに小さく首を横に振る。ブランコの鎖を握る手に力がこもった。

「ありがとう、はわたしの方だよ。話せたのは、切島くんが待ってくれたから…聞いてくれたから、で」

失礼を重ねたって怒らず笑って。うまく説明出来ない話だってちゃんと聞いてくれて。ヒーロー志望だからとか、クラスメイトだからとか、そんなレベルゆうに越えていた。途中で匙を投げたっておかしくなかったはずだ。
だけど、切島くんは最後まで、今だって、向き合ってくれる。

だから−−「土田」名前を呼ばれた。いつの間にか下を向いていたらしい。ハッとして顔を上げる。光を宿した赤い目が、真っ直ぐにわたしを捉える。

「そう言ってくれんのはありがたいぜ、素直に。でもさ、勇気だしたんは俺じゃねェ。土田だ。土田の意思だ。手震わせながら、足ふんばらせて、俺に伝えようとしてくれたお前の漢気、俺は見てた。だから届いた。受け取った。」

「だからみんなにも伝わる、絶対。なんも心配いらねぇよ」

「土田、大丈夫だ。お前は強い!」

切島くんはニカッと歯を見せて太陽みたいに笑った。眩しくてチカチカする。だけど、目をそらすことはできない。したくない。このまま燃えて消し炭になってしまうかも。だけど、それでも良いやとさえ思った。

隣の席の切島くんは、器が大きくて、情に熱くて、太陽みたいに眩しくて、そして

誰よりもかっこいいヒーローだ。
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