ツイッターログ4

【1】

「……イノリは食べないのか?」

 当番だったらしいルルが作った料理を口にして、ユウゴが問う。
 先程からイノリの料理はあまり減っていないように見える。……元々、食は細いほうだったしペニーウォートで過ごすうちに味覚に異常をきたしてからはもっと食べなくなったのだが、イノリの普段の仕事量を考えると明らかに食べる量が少なすぎる。

「食べる、けど……ユウゴはご飯をおいしそうに食べるのね」
「なんだよそれ」
「ううん、何となくいいなって思っただけ」

 決して羨ましいだとか、そんな感情はない。
 食事を楽しむ、というのを未だにあまり理解できないけれど幼馴染が幸せそうだと自分も嬉しい、とイノリは思う。

「……ペニーウォートでは絶対に見られなかった光景だと思うから、私は好きよ」

 言いながら、食事を口に運ぶ。
 やはり味は殆ど分からない。ユウゴと同じものを食べているのに味覚が反応しない、というのも寂しくはあるけれど。
 嗚呼でもユウゴがおいしそうに食べるから、きっとおいしいのだろうな、なんて。

「あの頃から環境が改善されたんだ。お前の味覚もそのうち治せるだろ」
「……そうね」

 薬があればもしかしたら改善するかもしれないし、イルダに頼めば何とか手に入るかもしれない。
 物資が少ないこんな時代に薬の入手だって簡単ではないだろうし他にも必要としている人がいるだろうから自分のことを優先してほしくない、と治療を拒んだのはイノリ自身なのだが。
 ——私に味は分からないけれど、ユウゴの表情を見てどんな味なのか想像するのは楽しいから、これはこれで悪くない。
 そんな風に思うのはおかしいかもしれないけれど。

【2】

 例えば私がアラガミとの戦いで命を落としてしまったら。ユウゴはきっと誰よりも悲しんでくれるし私の想いを背負って生きてくれるのだろう。
 私の命にそれだけの価値はないだろうけれど、ユウゴがそうやって悲しんでくれるという自覚はある。ユウゴを悲しませたくはないから無謀な真似をしない、と決めたのはまだペニーウォートにいた頃だ。
 私の場合、無謀な戦い方をすればそのまま死んでしまうだろうから。

「……無謀な真似はしない、とか何とか言いながら無茶してりゃ意味ないけどな」
「……む。でもあれは私でなければ対処できないアラガミだった」

 通常より強い灰域種に襲われ、一人で灰域種の足止めを引き受けた。
 私以外がその役割を引き受けていたらもっと被害は大きかったかもしれないし、逃げることすら出来なくなっていたかもしれない。ニールであれば或いは、とも思ったけれど極力ニールに頼りたくはない。
 危ない場面はあったが怪我もなく全員戻って来られたのだから最善の策だったと思う。
 ……鬼神、なんて呼ばれ方は好きではないけれど私がこの中で一番強いのだとすれば私がみんなを守らなければ、と思うのだ。

「大丈夫。……死ぬ気はないわ」
「当たり前だ」

 私にとってユウゴは暗闇の中でキラキラと輝く一筋の光だった。
 その光があったからこそこの場所まで歩いて来られたのだから、光を絶やさないように多少無茶をしてでも守りたいと願うのはおかしなことではないでしょう?

「ねぇ、ユウゴ」
「どうした」
「……私、ユウゴのこと大好きよ」

 きっとこれから先、どんなことがあってもユウゴは私にとって得難い光。

【3】

「ちゃんと休んでるか?」

 うとうとしているとユウゴにそう声をかけられた。
 ああ、確かに。最近はあまり休めていなかったな、なんて。今日はアヌビスを討伐してきたしその前はアインとキースの研究の手伝いでバルムンクの素材を集めていた。
 任務に出ていないときも細々とした仕事をこなしていたから睡眠時間はいつもより短い筈だ。
 とはいえ、ペニーウォートの牢獄にいた頃と比べれば休めているほうだとは思うのだが。

「……それはお互い様だと思うのだけど」

 ユウゴが抱えた紙の束を見て、溜息をつく。
 大方、自分たちのミナトを作るという夢に関連するものなのだろう。自分には協力出来ない分野なのでユウゴに全て任せてしまっていることは申し訳なく思う。
 必要なことなので手を抜くことも許されないのは理解している。が、明らかに一人が一日でこなす仕事量ではない。……イノリも人のことは言えないが、そのことは棚に上げる。

「でも、私は平気。戦うことくらいしか出来ないし、ゆっくり休めない環境にも慣れてるから」

 本当は慣れるべきではないのだろうが、こればかりは仕方ない。

「そうは言ってもな……」
「私の仕事を代われるのはニールくらいだと思うけど……あまり頼りたくないし」

 決して頼りにならないとか信用していないというわけではなく、出来ることなら年下にあまり戦わせたくはないのだ。
 ニールならきっと頼めば嫌な顔一つせずに手伝ってくれるし自分にかかる負担を減らしてくれるだろうという確信はある。
 だからこそ、だ。もちろん一人ではどうしようもないときは誰かに頼る努力はしているが。

「私からすればユウゴのほうが忙しそうに見えるのだけど」

 難しげな資料や本と睨めっこしていたかと思えば体を動かすと気分転換にもなるから、とアラガミの討伐に出向いたりする。
 最近忙しくて休めない、と言えば他の仲間も大半がそうなのだが。

「休んでるよ、俺は」
「本当に?」
「本当だって」

 ユウゴがそう言うのなら信じるけど、なんて思ってしまう自分は単純だ。
 実際、昔と比べれば看守に怒鳴られることもなく殴られたりもしないだけ心身への負担は減っている気がしないでもない。

「ユウゴが倒れるのは見たくないから、休めるときに休んでほしい」
「それはこっちの台詞だ」

 少しだけ、似た者同士なのかもしれない。