道筋

「つかれた……」
「お疲れ、イノリ」

 ハウンドの鬼神としてこの地域ではそれなりに有名なイノリ・ペニーウォートは多忙を極めていた。
 灰域種討伐の依頼はもちろん小型アラガミの討伐でさえ「よく分からないAGEを使うくらいなら実力が知れ渡っている鬼神に依頼したい」などという人も現れるくらいだ。
 自分たちの夢の実現に近付く為ならば、と極力引き受けているのだが、流石に少しは休まないと体を壊してしまうかもしれない。
 なんて、言いながら休んでいる時間がもったいないと感じてしまうのだから我ながら重症だとイノリは小さく笑う。

「今日の仕事は比較的簡単だったんだろ?」
「コンゴウの討伐。戦闘自体は大したことなかったのだけど……」
「……ああ、依頼主のほうか」

 ユウゴは納得したように頷く。
 ハウンドに依頼してくる人間も様々で、ハウンドの実力は認めていても個人的に気に食わないという人も時々いる。
 別のメンバーに依頼したがそのメンバーが多忙であったが為に他のメンバーが依頼に出向いてがっかりされる、という経験も多少はある。
 ペニーウォートで奴隷のように扱われていた期間が長い自分たちは依頼主がそれなりに身分の高い相手だとそれだけでも気疲れしてしまうことも否定は出来ない。

「グレイプニルの偉い人からの依頼だったのだけど、その子供が『鬼神ってアラガミと素手で戦えるんでしょ?』なんて言い出すから……」
「……は?」
「期待に応えてあげたいけど……素手だといくら私でも死ぬと思うから……」

 その対応に疲れた、と溜め息をついた。
 最近は鬼神に対して妙な噂が立っているという。
 元々、鬼神は熊のような大男だとか厄災以前から神機使いとして戦ってきたお爺さんだとか、そんな噂が流れることはあったし以前リカルドと会話をしていた時に別のミナトのAGEからリカルドが鬼神だと誤解されたこともあったけれど。
 ——今流れている鬼神に対する噂は少し傾向が変わったなと思う。
 それが良いことなのか否かは分からないけれど。

「まあでも、少し前まではお前が子供から憧れの対象として見られることはなかっただろ。そういう風に見られるようになったのもAGEの扱いが少しずつ改善されている証拠だと思うぞ。鬼神の活躍も大きいだろうな」
「……そう、なのかしら」
「…………自分の評価に対しては自覚がないんだよな、お前は。昔から自己評価は低いほうだったが」
「別にユウゴを疑うわけではないし、ユウゴがそう言ってくれるのならばきっと事実だとは思うのだけど……」

 時折、鬼神などと呼ばれることもなかった時代が恋しくなることはある。
 贅沢な悩みではあるのだろうけれど。