恋をすると味覚が変わってしまうことがある、らしい。
尤も味覚障害であるイノリには元から味なんてよくわからないし、味覚が変わるという話が事実なのかもよくわからないのだけれど。
「……それとも私も恋をすれば味が分かるようになるのかしら」
「それはどういう趣旨の発言なんだ」
「私もユウゴと食べ物の話とか出来たら楽しいだろうな、って思っただけだけど……変なこと言った?」
「変というか……まあお前の場合本当に深い意味はないんだろうが」
例えばユウゴと同じ食べ物を口に入れたとして。ユウゴがそれをおいしいと言っても自分にはそれが「おいしい」のか「まずい」のかわからない。
幼馴染の好きなものも、嫌いなものも、それがどんな味なのか分からないというのは少し寂しい。
ペニーウォートにいた頃から抱えている傷ではあるけれど、幼馴染が遠く感じる。
——恋という概念もあまり理解できていないので恋をしたところで自覚できるとは思えないのだけど。
「……自分が恋をする、というのも想像出来ない。今まで必要ではなかったもの」
恋は必要だからするってわけじゃないだろ、と呆れたように呟くユウゴに首を傾げる。やっぱり自分には難しい。
恋は甘いものだと聞いたことがあるけれど、きっと自分には理解できない概念なのだろう。