「私の誕生日、今日なの」
難しい任務を終えたオトハはふと思い出したように口を開いた。
ショートブレードを構えて警戒は解かず、深紅の瞳をちらりとレンに向ける。
難度の高いミッションだと聞いていたが、他に出撃出来る人もいなかったので今日は珍しく二人きりだ。
尤も、レンの姿は第一部隊リーダーであるオトハにしか見えていないからオペレーターのヒバリには一人で出撃したように見えただろうけれど。
オトハには記憶がなかった。生まれてから10年間、どこで過ごしていたのか、家族はどんな人達なのか、全く覚えていないのだ。
親切な老夫婦に保護され、オトハという新しい名前を与えられた。髪や服装は乱れ、顔色もあまり良くなかったらしいので、どこかでアラガミに襲われ逃げている途中で家族とはぐれたのではないか、と思っている。
保護されたときのこともあまり覚えていないが、オトハが家族になった日だから、と老夫婦は毎年この日を祝ってくれていた。
「本当の誕生日はわからないけど、今の私が生まれたのは間違いなく今日だから、誕生日だと思ってる」
「オトハさん」
「……っ!?」
突然、だった。
呼ばれて振り返った瞬間、頬にレンの唇が触れた。ほんの一瞬触れただけで冷たかった頬が熱を持つ。
何が、起こったのだろうか。理解出来なかった。
「生憎、プレゼントは用意出来なかったので」
「なん、で……」
「もしかして、お気に召しませんでしたか?」
「だ、誰もそんなこと言ってないじゃない……」
心音がうるさい。
まるで以前アーカイブで観た、恋愛アニメのような展開にドキドキしている自分が馬鹿らしかった。
「昔のオトハさんは僕にもわかりませんが、僕は今のオトハさん、好きですよ」
「……何言ってんのよ。さっさと帰るわよ」
素直になれない自分に呆れて、溜め息をついた。