不完全で歪な愛情

「駄目だ」

 一人で行かせるわけないだろう、というユウゴの呆れた声が響く。
 ——正直、ユウゴならそう言うと思っていた。付き合いは長いのだ。幼馴染がどんな性格でどんな行動を好むのかなんて、他者の心の機敏に疎いイノリにだって分かる。
 きっとそれはユウゴのほうも同じで、駄目だと言われたところでイノリが簡単には折れないことを理解しているだろうけれど。

「だってユウゴは別のことで手を離せないみたいだし、クレアとジークとルルは別の仕事でしょう?」

 フィムは学校だし、キースはアインに用事があるとダスティミラーへ出かけている。リカルドは頼めば快く引き受けてくれるかもしれないけれど元々クリサンセマムの神機使いである彼を個人的な仕事に巻き込みたくはない。
 となるとニールくらいしか声をかけられる相手がいないのだ。ニールのことだからきっと嫌な顔ひとつせずに一緒に来てくれるだろうし戦力的にも一番安心できると思う。
 だが、一人でこなせないほど危険な仕事ではないしハウンドの中でも特に大きな戦力が全員一時的にでも船を空けることになるのは万が一何かトラブルが発生したときに問題では——。

「……お前、年下を少しでも危険に巻き込みたくないだけだろ」
「それは……確かにその気持ちもあるのだけど……これはハウンドの鬼神宛ての依頼。この任務の成果次第で私たちの夢に近づくことができる」

 グレイプニルの上層部からの依頼で提示された報酬も多い。それに、グレイプニルに自分たちが役に立つ存在であることを示すことに大きな意味がある。
 ……はっきり言ってしまえば本当はグレイプニルに力を示すことも報酬の額もどうだっていいのだ。自分には戦うことしか出来ないから、それ以外で幼馴染の力になる方法を知らないからこうしているだけだ。
 自分たちの夢、とは言ったけれどそれだってユウゴが望んだことだから叶えてあげたいと思ったにすぎない。同じ夢を見ている、と言えば聞こえはいいけれど実際には少し違う方向を向いているのかもしれない、という認識はある。

「私は少しでもユウゴの役に立ちたいだけ」
「だったら尚更、一人で行ってほしくはないんだがな」
「……どうしても?」
「どうしても」

 お前は一人で行かせるとすぐに無茶をするだろう、とユウゴは溜息混じりに漏らす。
 ユウゴの言い分も否定はできない。もし敵の実力が想定以上だった場合、勝つ為なら自分は腕の一本くらい犠牲にしても構わないと考えるだろう。そういうときに備えて戦力は多いほうが良いし、人の目があればすぐに無茶することもないだろうという判断も理解できる。

「…………それがユウゴの望みなら仕方ない、けど」

 幼馴染の望む通りに生きたい。彼の役に立てるのならば何でもいい。そこに自分の意思は必要ない。ずっとそんな在り方を是としてきた。この在り方が歪んだものだとしても、そこにあるのは愛情と呼べるものだと信じている。


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