「おかさん、みて!」
ぱたぱたと駆けてきたフィムは小さな箱を抱えている。起きたら枕元に置いてあったのだと嬉しそうに笑う。
今日はクリスマス。イノリにとっては何も関係ない日だと思っていた。家族でクリスマスパーティをした記憶もなければサンタクロースからのプレゼントに喜んだ記憶もない。
——フィムと出会うまでは、今年もいつもと変わらない日を過ごすのだと思っていた。自由を得ている時点でイノリにとっての日常も去年までとはガラッと変わっているのだけれど。
「サンタクロース、っていうんだよ。クリスマスにプレゼントをくれるんだって。クレアがおしえてくれた!」
「……そう、サンタクロース。きっとフィムがいい子にしていたからだわ」
イノリがクレアやルルと協力してそのプレゼントを用意したのだが、そのことは黙っておく。サンタクロースは夢を与える存在だから、自分たちがサンタクロースであることは隠しているべきだ。
こんな時代だから立派なプレゼントなんて用意できなかったが、喜んでもらえてとても嬉しい。
自分一人ではきっとクリスマスにプレゼントを用意する、なんて発想には至らなかった。
*
「子供はサンタさんの存在を信じて楽しみにしているものですよ」
「そういうものなの?」
「……確かに。一年に一度、起きたら枕元にプレゼントが置かれているというのはわくわくするかもしれないが」
数日前。フィムの為に彼女のサンタクロースとしてプレゼントを用意するのはどうか、と言い出したのはクレアだった。
高価なものでなくても、お菓子ならフィムは喜ぶだろうしイルダに相談すれば手に入れられるかもしれない、と。
そもそもサンタクロースという存在を知っていても、プレゼントを貰った経験のないイノリにはそれが子供にとってどれほど嬉しいものなのかわからない。
クリサンセマムの子供たちが最近少しそわそわしているような気はしていたが、あれもクリスマスを楽しみにしているが故のものだったのだろうか。
「…………まあ、フィムが喜んでくれるのなら、悪くないと思う」
*
フィムにバレないようにプレゼントを準備した数日間は自分としても楽しかったので満足しているのだけれど。
「ユウゴと、ジークと、それからリカルドにもみせてくるね!」
「……三人ともまだ部屋にいると思うし走ると危ないから、せめて歩いて行きましょう?」
親子ってこんな感じなのかしら。
自分には永遠に理解できないものだと思っていたけれど、案外悪くないものだった。