ツイッターログ1

【サクリとクレア1】

 グレイプニル所属の正規ゴッドイーター、なんて。正直一番関わり合いたくないタイプだと思う。AGEを人とも思わない、ロクデナシ集団。
 少なくとも当初の自分の認識はそうだった。相手の人となりも知らないままAGEをバケモノ扱いする看守と似たような思考回路をしていると気付いて自嘲する。
 彼女に対して最初に抱いた感情は恐怖だった。——AGEである自分たちに心を開き、仲間として扱ってくれる。それは彼女に限らずイルダやリカルドも同じだったが、今までそんな風に扱われたこともなかった。だからそれが本心なのか嘘なのか、全く読めないことが恐怖だった。
 本心から仲間だと思ってくれていたとして、彼女にAGEと親しくなっても益はないだろう。それどころかグレイプニルでの立場も悪くなる可能性がある。信用してしまってもいいのだろうか。本当に信用できるのだろうかとぐるぐる考えて、警戒して、愛想を振りまきながら一定の距離を取って接してきた。
 正規の神機使いがAGEを人として扱うわけがないのだと、きっと裏があるのだと決めつけて。自分が人としてどうしようもなく腐り落ちていることは自覚している。

「ずっと気になってたんだが」
「どうしたの?」
「……クレアが僕たちAGEと仲良くすることにメリットなんてない筈だ。それなのにどうして対等に扱ってくれるんだ?」

 以前、ふとそんな疑問を投げかけた。我ながら失礼なことを言った自覚はある。

「仲良くすることに理由が必要?」

 そんなクレアの純粋な疑問。……実際、どうなのだろう。ユウゴやジーク、キースに対して警戒心を抱かないのは同じペニーウォートで育ったAGEだからで、もしも彼らがグレイプニルの神機使いだったなら自分は彼らと仲良くなれなかっただろうか。
 否、あの性格であればきっと立場が違っても仲良くなれたような気がする。

「……変わってるな。そういう変わり者は嫌いじゃないが」

 要するにこれは人間という未知への恐怖なのだ。

【サクリとクレア2】

 人間は嫌いだ。何事にも例外はあるし、ペニーウォートのAGEであれば付き合いもそれなりに長いので心を許しているが今までAGE以外から人として扱われた経験がないのだから正規の神機使いなんて最も警戒する人種である。

「怪我してるじゃないですか」
「……ああ、気付かなかったな」

 腕に出来た傷を見て淡々と言う。痛くはない。否、普通の人であれば泣きたくなるくらい痛いのかもしれない。でも僕が痛みを感じないのは紛れもない事実なのだ。
 決して強がっているわけでもなく、クレアに指摘されて漸く自覚した。怪我に気付いてもやっぱり痛みを感じることはない。

「気付かなかった、って……そんな怪我なのに」
「AGEの適合試験は本人の適性とかきちんと調べることもない……だから適合失敗、なんてことも珍しくはない。仮に無事、適合出来ても後遺症に苦しむ子供は時々いるんだ」

 僕もそのうちの一人。再起不能になってしまう子もいる中でこの程度でよかったと心の底から思う。

「要するに、僕はAGEになって以降痛みを感じない体になってしまった。痛みで怪我を自覚できないのは不便だが」

 医者や科学者であれば失った痛覚を取り戻す治療法や薬を知っているかもしれないが、そこまでして取り戻したいものでもない。
 今更、自分の体が受けた痛みが分かるようになるのが怖い、というのもあるけれど。

「だったらせめて、きちんと治療させて」
「…………アンタはグレイプニルの人間だ。僕たちAGEにそこまでする義理はないだろう?」

 ——本気で理解できない。この女は僕たちが不気味ではないのだろうか。僕には彼女の考えが一切分からないし、それがとても怖い。

【マシロとクレア(※クレア喋ってません)】

 私は幼少期に触れた、その物語に憧れた。
 タイトルも詳しい内容も思い出せない。ただ主役だった正義のヒーローが輝いて見えた。きっと他の人にとってありふれた物語。まだ子供だった私には特別だったお話。

「だから私は人々を守れる神機使いに憧れたんですよ」

 厄災以降、世界の——少なくともフェンリル本部周辺の状況は一変し神機使いの立場も変わってしまったけれど。両腕に嵌められた、本来は連結されている腕輪をちらりと見る。
 子供の頃に憧れたヒーローのような神機使いとはかけ離れた扱い。
 不満がないわけではない。それでも戦うだけの力を得られたのだから、今のAGEという立場に後悔はない。

「って、すみません! クレアこれから任務ですよね?」

 随分と話し込んでしまったような気がする。
 クレアが神機使いを目指した理由、私が神機使いに憧れた理由。私も本当なら正規ゴッドイーターになっていたのだろうか、などと考える。グレイプニル所属だったらきっと、今ほど人の役には立てていないな、なんて。

「戻ってきたら、グレイプニルにいた頃のお話も聞かせてくださいね!」

 自分も、グレイプニルが管理しているミナトに身を置いていたことがある。あの頃はAGEではなかったけれど。
 ……元グレイプニルの神機使いで、クリサンセマムの所属となった今も自分に出来ることを模索して、私たちを仲間として扱ってくれる彼女は立派だ。
 彼女のような神機使いがグレイプニルに多く存在していたなら、なんて今更言っても仕方ないことだ。

「私も、報告書を提出しないと……」

 誰かの心に残るヒーローへの道は遠い。

【サクリとクレア3】

「最初は私のこと、警戒していたでしょ?」

 突拍子のないクレアの言葉に面食らう。ああいや、自分がそこまで器用に立ち回れているとは思っていないし付き合いが長くなればボロが出るだろうという自覚もある。
 が、直接そんなことを問われるとは思っていなかった。

「まあ、否定はしないが」

 今も全く警戒していないのかと言われたら自信はない。
 クレア・ヴィクトリアスは元々グレイプニルの神機使いで、グレイプニルにはどうしても良い印象を抱けない。けれども彼女はグレイプニルではなく、ハウンドと共に在ることを選んだ。
 彼女が自分たちに何を見出したのか、きちんと理解できていないが今はそれで十分ではないかと思う。
 ……利用価値があるから、なんて理由で近付いてくるタイプではないのは何となく察しているし好きだとか一緒にいたいだとか思う気持ちに案外理由はないのかもしれない。

「アンタがそんな人間じゃないことは理解しているが、僕らは生まれたときから人間扱いをされなかった。だから特に外部の人間に警戒心を抱くのはある意味では当然だろう?」

 利用する為に拾われ育てられた。価値がなくなれば殺される。AGEになってからはバケモノのように扱われてきた。少なくとも自分はどうしたって差し伸べられる手を素直に取ることは出来ない。
 こんな自分を含めて「仲間」だと言ってしまえるグレイプニルの神機使いなんて、恐怖の対象でしかないだろう?

「でも今はあまり警戒していないみたいだけど」
「それは、アンタが僕を仲間として扱うなら僕も相応の接し方をするべきだと気付いただけだな」

 いきなり全てを受け入れる、なんてことは出来ないが仲間として少しでも歩み寄ってみようと思っただけ。