追想

 アインが意識を取り戻して暫く。
 クリサンセマムの面々は漸く普段通りの生活を送れるようになっていた。
 ハウンドの鬼神として日々難度の高い依頼を請け負っているイノリ・ペニーウォートもまた、いつもの日常に戻りつつあったのだが……。

「アイン?」

 ロビーに一人でいるアインの姿を見かけ、イノリは首を傾げる。
 最近はユウゴやキースと何か仕事の話をしていることが多かったし一時危篤状態だったこともあり、クレアから定期的にメディカルチェックを受けていた。
 この時間は大抵誰かと話していて、一人でいる姿を見ることは珍しい。昨日も確か仕事に関する話をしていたとユウゴから聞いていた。

「……ああ、お前か。今日の仕事はもう終わったのか?」
「ええ、ついさっき。……今でもその呼称に思うところはあるのだけど、鬼神の噂を知って鬼神に仕事を頼みたいという人間は多いから」
「それはそうだろうな」

 少なくともこの辺りの地域で活動しているAGEの中では特に実力を評価され、ハウンドの鬼神として妙な噂が独り歩きしているくらいだ。
 灰域種との戦闘経験も豊富で「どうせ仕事を依頼するのなら他のミナトのAGEより鬼神を」という客も多い。
 結果的にイノリ・ペニーウォートに割り振られる仕事が増えているのは否定できないのだけれど。

「そういえば、ずっと気になっていたのだけど……」
「……なんだ?」
「生きることから逃げるな、って言ったアインの友達? ってどんな人なの? ……あまりアインの友達とか仲間の話、聞いたことがなかったから」

 もちろんこんな時代だから話したくなければ構わないのだけど、と付け加える。
 イノリがアインについて知っていることと言えばダスティミラーのオーナーで、始まりのゴッドイーターであるソーマ・シックザールと同一人物であるということくらいだ。
 特に彼の仲間や友達という存在に関しては一度も聞いたことがないような気がする。
 素性を隠していた以上、身元が特定できるような情報は極力伏せて当然だとは思うけれど。

「そうだな……。あいつも、お前に似てよく無茶をする奴だ。まあ、性格はお前に似ても似つかないんだが」
「私に……」
「あの台詞を言ったのは俺もあいつも今のお前より若い頃だったな。……もう随分と昔の話だ」

 きっと、アインがまだソーマ・シックザールと名乗っていた頃。
 イノリにとって極東はどんな場所なのか想像も出来ない。彼に協力することでいつか必ず辿り着く目標の場所ではあるけれど。

「……私にとってハウンドのみんなやクリサンセマムがそうであるように、アインにとっては極東やその仲間が大切な場所だということは分かるわ」
「そうか」
「その人のことを私は知らないけれど……アインの仲間ならきっと大丈夫」

 そう言えるのも、アインが此処で信頼関係を築いてきたからでしょう? なんて。そんな風に笑ってみせた。