「……というわけで、すぐにとはいかないけれどサクリの体も治せるかもしれないの」
無茶な適合試験によってサクリの体が壊れてしまったのはもう何年も前の話だ。
腕輪をはめられて、体を引き裂かれるような痛みに悶絶したことはうっすらと覚えている。適合試験を終え、体の痛みが引いてからはそんな痛みを感じることも二度となくなってしまったが。
AGEの適合試験はきちんとした検査もないままに無理矢理行われて、結果的に後遺症に苦しむことになる子供も多いらしい。
恐らく、痛覚の喪失程度で済んだ自分は運が良かったのだろうとサクリは思っているし体が痛みを知覚しないことはメリットだとさえ思う。
「治せるかも、って言われてもな……僕はそんなこと望んだ覚えもないし、痛みなんて戦うときには足枷にしかならないだろ?」
「そういうこと言って、ちょっと前に大怪我して死にかけたのはサクリでしょ?」
数週間前に灰域種との戦闘中、想定外の出来事が重なり、サクリは大怪我を負った。
幸い彼の治癒力は桁外れだったしすぐに適切な治療を受けたこともあり今では死にかけていたとは思えないほど元気ではあるが当初は顔面蒼白で腕を動かすことも出来ず、血が滴る腕で何とか神機を握りしめていたが意識は殆どない状態だった。
血が流れすぎたことで意識朦朧としていたが痛みを訴えるような素振りは見せず、痛みがなかったからこそこんなに酷くなるまで自分の状態に気付けずにいたのだろう、と推測したのはリカルドだったか。
「……痛覚があるといざという時に痛みを恐れて動きが鈍る可能性がある。それではユウゴを助けられないんだ。それは困る」
「痛みが分からないから怪我の自覚がないまま無茶してるわけだし、このままじゃいつか死んでしまう可能性だってある」
クレアの横にいたキースがそう口を開く。
——死ぬことが怖くてこんな生き方を選べるわけがないだろう。なんて、二人に直接言えないな、とサクリは苦笑する。
サクリ・ペニーウォートにとって「サクリ」は幼少期にペニーウォートで命を落としたも同然だった。今この場所で生きている自分はサクリの形をしたバケモノで、だからこそいつか死ななければならないとさえ思っている。
……ユウゴ達の手助けをして、自分の力が必要なくなったそのときは自ら命を断とう、と水面下で準備しているなんて流石に言えないけれど。
「……まあ、二人がそう言うのなら研究が進んだときに臨床試験に使ってくれればいいさ。僕だってそれくらいなら協力する」
正直、気は乗らないけれど。
望まない適合試験で体を動かすことさえ出来なくなったような子供の為にも治療法は確立させなければならないことは分かる。
その臨床試験くらいなら付き合ってもいい、と思える程度には自分も変わったなとサクリは溜め息をついた。この変化が良いものだとは思えないけれど。