「……はあっ!」
神機を振り、アラガミの肉を断つ。アラガミの断末魔のような声が響く。今の攻撃が致命傷になったのか、地面に転がったアラガミはそれきり動かなくなった。
——最早日常の一部と化してしまった光景だ。
昔はアラガミと戦うことが怖かったし、自分が死ぬかもしれない中で神機を振るう度に泣きそうだった。いつからか恐怖は消え失せてしまったし、自分が死んでしまうことも当然だと受け入れてしまったけれど。
「サクリ、また無茶したでしょ?」
パタパタと駆けてきたクレアは開口一番にそう指摘した。
「……何の話?」
「もう、そうやって誤魔化して……さっきアラガミの攻撃、ギリギリ避けきれなくて脇腹を掠ってたじゃない」
ああ、あのことかとサクリは納得する。
通常の人間であるならば痛みを感じるので忘れないのだろうが、痛みのない世界に生きているサクリは本気でそのことを忘れていた。
痛覚を喪失している上に背中の皮膚が異形と化して感覚が人間とはずれてしまったサクリにとっては「その程度」のことでしかない。
殺し尽くさねばならない筈のアラガミに一部とはいえ自分がなってしまっているのは皮肉だと自嘲する。
クレアに指摘された脇腹をそっと撫でてみる。やはり痛みは感じない。少しだけ血が流れているのだけは分かる。
「戻ったらきちんと検査して……確かあの薬は効果が高かった筈だから……」
「……クレアが僕に対してそこまでする義理もないだろう?」
もう何度目になるかわからないやり取り。
サクリ・ペニーウォートは無償の愛を信じていない。仲間だから、という理由で優しくされた経験なんてなかった。何か裏があるのではと勘繰ってしまう。
第一、AGEに対して世話を焼く正規ゴッドイーターの存在が信用出来なかった。
とはいえクレアはグレイプニルの行いに賛同出来ず、グレイプニルを抜けてハウンドの一員として生きることを決断した。その選択をした彼女の覚悟はある程度理解しているつもりだし、昔と比べればクレアのことを多少は認めているのだけれど。
「サクリはいつもそう言うけれど、もしも私が突然態度を変えたら余計に警戒するでしょう? もちろんそんなことするつもりはないんだけど」
「別に警戒しているつもりは」
「まあ、サクリは本当に苦痛を感じたら取り繕うこともないと思うし、強い言葉で突き放されない限りはこれからも続けさせてもらうから」
「……クレアってよく分からないよな。少なくとも僕の人生において今までアンタみたいな人間はいなかった」
ろくでもない人生を歩んできた自覚はあるし、彼らと比べられるのはクレアとしても不本意かもしれないけれど。
クレア・ヴィクトリアスという少女はきっと自分とは違う世界を生きてきた人間だ。
ゴミ箱を漁り、場合によっては腐ったパンを齧ったり衛生的ではない川の水を啜って何とか生き延びてきた自分に手を差し伸べるメリットなどないのだ、とサクリは思う。
——メリットなんて一切考えていないだろうし、きっとそういう人間関係はどこにだってあるのだろう。自分も姉や幼馴染が怪我をしていれば世話を焼いたり手当てをするメリット、なんて考えずに助ける気がする。
「でもサクリは出会った頃より丸くなったよね」
「そうか? ……僕としてはあの頃のほうが愛想よく振る舞っていたと思うし付き合いやすい気がするんだが」
「自覚がないのかもしれないけれど、他人を拒絶したいんだろうなって感じたし」
クレアの発言に思わずフリーズする。
上手く自分の気持ちを押し殺して好青年のように振る舞っていたつもりだった。ペニーウォートにいた看守はあれで騙されてくれたし、愛想だけはいいと言われていた。
尤も、彼らにとってサクリは失敗作のゴミでしかなく愛想が良くても態度が軟化することは一度もなかったが。
本質をよく見ている、ということなのかもしれないけれどクレアに見抜かれているとは思っていなかった。
「…………その上で僕と関わることをやめないなんて、どれだけお人好しなんだか」
だからこそ、うんざりしつつも最近は素直に彼女に従うことが増えたのかもしれないけれど、そんなこと本人には絶対に言ってやらない。