——わたしはずっと、鎖につながれていた。
はっきりと認識したのは痛みと恐怖。抵抗も出来ず、痛みで碌に眠ることさえ出来ないまま。そんな日々を何日、何年繰り返していたのかはもう覚えていない。
真っ当な人間として扱われた経験などないわたしはただぼんやりとその変わらない日常を受け入れていた。正確にはその時のわたしにはその日々に対して受け入れたり否定したり出来るだけの感情なんてなかったけれど。
人形のように生きて人形のように死んでいたわたしはゴミとして打ち捨てられて、そのまま誰にも知られずに消えていくのだと思っていた。
そんなゴミを見つけて、捨て置いてもいいようなちっぽけな命を掬い上げてくれた人が、確かに存在したのだ。
◇
「んー、気持ちはありがたいくらいだけど、わたしがダスティミラーにお世話になるのはやっぱりナシかなって」
「そうか。まあ無理強いするつもりはない」
朱の女王は——わたしを唯一受け入れてくれた居場所は消えてなくなってしまった。ヴェルナーはどうやら死んでしまったらしい。
わたしを掬い上げてくれた人に対して結局わたしは何一つ返せなかったのだと思うと心臓にナイフを突き立てられたような気分になる。朱の女王が消えるその時はわたしも死ぬのだと信じて疑わなかったけれど、どうしてだかわたしの心臓は今も動いている。
……色々あってダスティミラーに助けられたわたしは、けれどもダスティミラーのことを信用出来ずにいた。
わたしは元々いたミナトで鎖につながれていたし、朱の女王の仲間たちも前のミナトで酷い人体実験を受けたとか看守から殴られたとか、そんな話をしていたから。わたしのようにミナトから捨てられたり、或いは売り飛ばされる形で朱の女王へと流れ着いた仲間も多かった。
ダスティミラーに関するわるい噂は一度も耳にしたことはないし朱の女王でもわたしが把握している限りではダスティミラーから朱の女王にやってきた人はいなかった筈だけど、それでも今までを思うと警戒してしまう。
「あ、でもでもわたしが望まないだけだから、ダスティミラーでの保護を望む仲間がいるなら助けてあげてほしいなって。ここがどんなミナトかは知らないけど、元朱の女王なんて厄介な存在を引き入れて世話を焼いてるくらいだから他のミナトよりは大丈夫そうだし」
一緒に助けられた仲間たちの中にはわたしより幼い子供もいたし、前のミナトから朱の女王に移ったばかりでまだ万全の状態とは言えない体調の人もいた。
朱の女王がなくなってしまった以上、AGEの扱いが悪かったとしても最低限の衣食住が保証されている場所で過ごすことを望む人もいるだろう。
わたしはそれを望まないけれど、彼らが望むのであればわたしに引き止める権利はない。
生まれたときからゴミだったわたしと彼らでは見えている世界も違うのだから。
わたしの世界は急速に色を失いつつある。
それでも、わたしの命は今もわたしを掬い上げてくれた朱の女王のモノで——わたしは彼ら以外からの命令に従えないロボットのようなものだった。