生き急ぐように戦う奴だ、と思うことがあった。本人は無自覚だったのだろうが神機を激しく振るい、仲間へと向けられたアラガミの攻撃に気付けば真っ先に駆け出す。その結果自分が怪我をしてもふにゃりと笑うばかり。自己犠牲的、という言葉がしっくりくる女だった。
彼女のそのような一面はある時を境に悪化した。今すぐに命を投げ捨てたとしてもおかしくない。——尤も、そのような状態に追い詰められた理由は誰の目にも明らかだったのだが。
「はあっ!!」
身の丈ほどもある神機を叩きつけ、ヴァジュラの頭を薙ぎ払う。ヴァジュラは雄叫びを上げ雷撃を放つが変形させた神機でそれを受け止めて再び神機で斬りつけた。その攻撃が致命傷となったのか、アラガミは動かなくなった。
ブラッドに割り振られる仕事としては比較的難度の低い任務。ヴァジュラは極東地域ではさほど珍しいアラガミではないし、今回の敵は特殊な個体でもなかったらしい。
この程度の任務なら自分一人でも、と言っていた彼女に半ば強引に付き添ったが言葉の通りに殆ど一人で片付けてしまった。とはいえ、どちらにせよ彼女を一人で行かせるつもりなどないのだが。
「お疲れ、隊長」
「……ジュリウスに隊長と呼ばれるのはいつになっても慣れませんわね」
その呼び方は不服だと言わんばかりの表情の彼女——ノルンはこうして見ると年相応の少女である。先程まで神機を握り荒ぶる神を屠っていた女と同一人物だ、と知っていても両者が脳内でなかなか結びつかない。
相変わらず荒々しい戦い方をしているがやはり本人は意識していないのだろう。これでも以前の、自分の命さえ惜しくないというような戦い方はしなくなっただけ遥かに落ち着いているのだが。
「それにしても、強くなったな」
「ジュリウスのお陰ですわ」
元々ノルンの才能には目を見張るものがあった。ブラッドのメンバーの中では誰よりも早く血の力に覚醒していたし、入隊してすぐに副隊長に任命されるほどだ。
彼女の精神にはそれが負担になることもあったのかもしれないと思うと反省すべき点ではあるが、ノルンは決して副隊長に任命されたことも周囲の期待の眼差しも負担だったとは言わないだろう。
そんな彼女も初陣の時は流石に大した強さではないオウガテイル相手にも少し不安げな表情を見せていた。神機があるとはいえ一歩間違えば命を落としてしまう状況なのだから、不安や恐れを抱くのも当然ではあるが。
「ねぇ、ジュリウス」
「どうした」
「わたくし、もっと強くなって……いつかあなたのことも、他のブラッドの仲間たちのことも守れるようになりたいと思っていますのよ?」
——随分と頼もしくなったものだ、と思う。
出会って間もない頃の彼女であれば誰かを守りたい、などと口にすることはなかっただろう。心の奥底ではもしかしたらそのように考えていたのかもしれないけれど。
嫋やかに笑む少女はきっともうあの頃のように生き急ぐ不安定な女ではない。
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