——神機使いとなったあの日のことは、きっと生涯忘れることはないだろう。
適合試験の為にフライアに招かれて、そこでアラガミに対抗する術を持たない非力な人間でしかなかったノルン・エーデルワイスは戦う力を得た。
神機使いのことはある程度知っている。両親がフェンリル本部の研究者だったし、神機や偏食因子について何か調べているようだったから。子供だったノルンには彼らの研究内容など一割だって理解はできないものだったがそれでも神機とは何か、神機使いとは何か、アラガミとは何か。その程度の知識は人並みにはある。
戦うことが怖くないのかと言われたら否だ。しかし戦う力がない自分を守ろうとして誰かが傷つくのは耐えられない。だから自分のことも、大切な人のことも守れるような神機使いになりたい、と願ったのだ。
「まあ、あの頃のわたくしはまだ生まれたばかりの雛のようなものでしたけれど」
今も強くなったとは思わないが、それでもあの時よりは遥かに実力を身につけたと思う。
初めての実地訓練ではこちらに駆けてくるオウガテイルに恐怖し一瞬反応が遅れ、間一髪のところをジュリウスに助けられた。戦う力があるとはいえ、敵の攻撃を受けると痛みはあるし怪我もする。最悪、命を落とすことだってあるのだから慣れるまではとにかく恐怖でいっぱいだった。
無論、今は平気というわけではないし変わらず恐怖も緊張もある。ただ、あの頃と違い培った経験がある分必要以上に恐れずに済んでいるだけだ。戦闘中の動きを身体が覚えているというのもある。
「ジュリウスはわたくしと初めて会ったときのことを覚えていまして?」
「それは、庭園でのことか?」
「……それ以前は出会ったうちには入りませんわよ」
ジュリウスが適合試験をラケルと共に見ていたというのは知っているし、もしかしたら適合試験の為にフライアに招かれたときにロビーなどですれ違っていた可能性もあるが流石にそれを「出会った」というカウントに入れないでほしい。
ノルンにとってのジュリウスとの出会いはフライアの庭園で、あの日あの瞬間に自分の運命は大きく変わったのだとさえ思っている。
恐らくジュリウスは知らないだろうし、これから先知ることもないだろうけれど——あの瞬間、美しい人に恋をしたのだ。この人の為ならば何でも出来る、と思えるほど。
「あの時から随分経ったような気がする」
「わたくしはまだ右も左も分からない新人で、あなたはブラッドの隊長でしたもの。手を伸ばしても届かない星のような存在でしたわ」
「今のお前はその星に届いているのか?」
「どうでしょう。少なくともあの時に見た星は今も歩む道を照らす導ではありますけれど」
「……そうか」
その星に手が届いたとは思わないし、追い越してしまったとも思えない。だけどいつか、隣で輝ける星になれたならばと思う。
そんな小さな願いを胸に、今日も命を燃やしている。
title:白鉛筆