芽吹きを待つ種

「ジュリウス、付き合ってくださって助かりましたわ。わたくし一人では負担が大きそうでしたから」
「いや、構わない。それに、お前を一人で行かせると無茶をしそうだからな」
「……それ、ジュリウスが言いますの? ロミオやナナが聞いたらきっと呆れますわよ」

 フェンリル本部から視察に来ている偉い人の護衛をお願いしたい——ペイラー・榊からそのように言われたときは流石のノルンも面食らった。
 今までブラッドに割り振られる任務はアラガミ討伐が大半で、その中でも感応種の対処にあたることが多かったように思う。それがいきなり護衛任務だなんて。
 護衛対象にもしものことがあってはならないからその支部所属の神機使いの中でもある程度の実力を有した者に割り振られる仕事だというのは理解できる。三日前に適合試験を受けたばかりの新人に突然護衛任務など任せたところで待つのは悲劇だけだ。

 護衛の最中に複数のアラガミに襲われた場合、一人では対処出来そうにないからブラッドのメンバーをもう一人こちらに回してほしいと要求してその日偶然任務が入っていなかったジュリウスに同行してもらうことになった。
 万が一感応種が現れたら感応種との戦いに慣れているメンバーがいたほうが戦いやすいという判断だ。
 結局、護衛任務中に戦闘になったのは何体かの小型アラガミだけだったけれど。

「しかしお前が本部の人間から護衛任務に指名されるほどになるとはな」
「自分が一番驚いていますわ。わたくし、今でもブラッドの隊長としてきちんと振る舞えているか不安になるくらいですのに」

 ブラッド隊長に任命されてからそれなりに経つが隊長として覚悟を決めたのは半年以上経過してからだ。
 今思うと無責任だったのではないかという気もするがあの頃はジュリウスが帰ってきたときの為に彼から任された役職を形だけでも空けておかないと彼は二度とブラッドに戻ってこられないような気がしていた。

「お前のそういうところは新人の頃からあまり変わらないな」
「そうかしら? 自分ではよく分かりませんけれど」
「お前がまだ副隊長だった頃も、似たようなことを言っていた」
「それは……血の力に覚醒するのが早かっただけの、まだ戦闘経験も乏しい新人がいきなり副隊長として部隊を率いることになったのですから不安にもなりますわ」

 ——もう少し楽観的な性格であれば別だったのだろうけれど、生憎後ろ向きな考え方をしてしまうことも多い性格だ。
 無論、普段はそれを表に出さないようにはしているし戦闘中も他のメンバーに不安や焦りが伝わらないように努力しているつもりだけど。
 自分の判断ミスで部隊が壊滅、隊員が命を落とす……なんてこともあり得るのだから、不安を感じるのも仕方のないことだとノルンは思っている。

「でも、あのとき副隊長を引き受けてよかったと思っていますのよ。大変なことも多かったですけれど、あの経験がわたくしの成長に繋がっている筈ですもの」

 もしも副隊長に任命されていなければ、或いは副隊長を断っていたとしたら。恐らく今ほどの実力は身についていない。
 自分のことに精一杯で仲間に意識を向ける余裕はなかっただろうし、咄嗟に仲間を庇うことも、アラガミの気を引くことも出来なかった。不利な状況で撤退する判断が取れずに死んでいたかもしれない。

「初陣のときにどこか不安げな顔をしていた新人がこんなに短期間で命を預けられる部隊長に成長するとは流石に思わなかったがな。神機使いとしての素質があるとは思っていたが」
「きっともっと成長してみせますから、期待していてくださいな」

 ——あなたの為に、何より自分の為に。そう在りたいと思っているのです。