心寄す蛍

 ブラッド隊長がジュリウス・ヴィスコンティに恋をしている、というのは少なくともこの極東支部においては周知の事実である。その感情を向けられている張本人を除いて、ではあるが。
 ——隊長である少女はひた隠しにしているつもりだった。だが彼女の明らかに挙動不審な態度、ジュリウスとプライベートな会話をするときだけそわそわと落ち着かない様子を見れば誰だってこの少女がジュリウスに対して特別な情を抱いていると察するだろう。
 その特別な情が一般的に恋と呼ばれるものである、と気付くのも不思議なことではない。



「ジュリウスって、鈍感だと言われることありませんの? …………まあ、わたくしとしてはあなたが他人の心の機微に疎いほうが助かりますけれど」
「……どうした、突然」
「特に理由があるわけでもないですけれど」

 ジュリウスが感情の機微に敏感、ということはないだろう。特に恋心と呼ばれるものに対しては。鋭いタイプであれば自分に向けられている特別な感情に気付いている筈だ。
 気付いているが敢えて知らんぷりをしている……という可能性もなくはないが、ジュリウスがそのような駆け引きを好む人であるのかは疑問が残る。

「あまり言われたことはない気はするが」
「ラケル博士やシエルとはそういう会話はなさそうですものね」

 シエルも心の機微には疎いほうに見える。ブラッドに配属された直後と比べれば随分と人らしい情を覗かせるようになったけれど。ジュリウスの護衛をしていた頃の——友達になれなかった頃の二人が他人の感情について何かを語っている姿は想像できない。
 ジュリウスの育て親とも言えるラケルについても、そもそも彼女が普通の人ではなかったのだからジュリウスに物申せるほど正しく人の情を解していたかは怪しい。

「わたくしも、決して鋭いほうではないですけれど。ジュリウスほどではないと思いますわ」
「……む」

 心外だ、と言わんばかりのジュリウスの表情に思わず苦笑する。だって今もまだ自分に向けられている想いの種類を認識していないのでしょう、なんて直接伝える気はないけれど。
 ジュリウスに恋心を抱いている。それ自体はもう否定できないし隠し通すことさえ難しい事実だ。だが、今のところ彼と両思いになりたいとも、況してや恋人や夫婦のような関係になりたいとも思っていない。
 他愛のない話をして、笑い合っていられるのならばそれでいい。ジュリウスが幸せだと思える日々を送れることが自分の望みである。彼の隣で生きることが出来なくとも、その日々の一部に自分の存在があるなら幸福だ。

「ジュリウスのそういうところ、案外嫌いではありませんわよ」

 はっきりと好意を示すだけの勇気はない。
 頬に朱色が差した、女の想いを見抜いてはくれないとしても。そんなあなたがどうしようもなく好き、だなんて。