「ギル、何作ってるんですか?」
ひょっこりとやってきたキトリーにギルバートは視線を投げた。
確かキトリーはシエルに呼ばれて席を外していた。部隊を率いる立場であれば次の任務について確認すべきことや前回の仕事の反省点など話し合うことは山ほどあるだろうと彼女を呼び止めることはしなかったが、いつの間にか戻ってきていたらしい。
——仕事に関する話でもいつもと変わらない雰囲気のキトリーの姿を想像して思わず苦笑する。アラガミとの戦闘中でさえ平時とあまり調子が変わらないタイプだ。シエルとの話の中で疑問に首を傾げることはあれども険しい顔をしたり口論になったりということは……ない、と思う。あったとすればそれこそ天地がひっくり返るような出来事だ。
今ののほほんとした雰囲気をまとうキトリーにそのようなことは流石にないだろう。
「もしかしてブラウニーですか?」
「ああ」
ギルバートは特別、菓子作りを趣味にしているわけではない。恩師からブラウニーのレシピを教わったことはあるし、たまにこうして教わったレシピ通りにブラウニーを焼くことはあるけれど。
自分の作ったブラウニーを大層お気に召したらしい誰かさんがいなければ時々でも作ってやろうなどとは思わなかっただろう。
嬉しそうに顔をほころばせるキトリーはまるで年相応の少女のようだ。彼女のことを知らなければこの少女が神機を振るいアラガミを屠っていると誰が信じるだろうか。
「ギルの作るブラウニー、好きですよ」
「知ってる。……キトリーは好きなものを食べてるときの反応が分かりやすいからな」
作る度にあんなに幸せそうな顔をしていれば誰だって気付く。キトリーとの付き合いだってそれなりに長くなっているのだし。
じっとキトリーの表情を見遣れば少女は首を傾げる。
「なんですか?」
「……いや、大したことじゃない」
ただこうして菓子を作る姿を目を輝かせながら見守るキトリーに、穏やかだな、と思っただけだ。
外に出れば荒廃した世界が広がっているけれどこの瞬間だけは——穏やかで、平和で、悪くはない。この永遠だと錯覚するような一瞬の時間がきっと自分は好きなのだろう、とギルバートは笑う。
ふわりと花のような笑みを浮かべる目の前の少女の影響も大きい、なんて口にはしないけれど。
*こばと様宅キトリーちゃんお借りしました