「ヴァジュラがA地点、俺たちブラッドがB地点にいたとする。3時の方角からシユウが接近中でこのままでは挟み撃ち、という場合。お前ならどう部隊を動かす?」
「そうですわね……。ヴァジュラもシユウも通常の個体であると仮定するとどちらもブラッドにとって脅威ではありませんからシユウが合流する前にヴァジュラを倒してしまえるよう戦力を注ぎ込むか……無理そうでしたら戦力を分散してシユウをA地点から離れたD地点まで誘導して足止めしてもらうかしら」
実際の戦場ではアラガミが想定通りに動いてくれるとは限らないし、ブラッドのメンバーもどうしたって常に万全の状態とはいかない。だから全てが理想通りに進んだ前提で語るしかないけれど、とブラッド隊長——ノルンは続ける。
もしもヴァジュラが異常に進化した個体だったら。未知の能力を有した新種だったら。シユウが一体ではなく二体だったら。想定より早く作戦エリアに侵入したら。
そんなことは意外とよくある話で、そのような想定外に臨機応変に対応出来なければ少なくとも極東地域では生き残れない。
「まあ、通常のヴァジュラとシユウ程度でしたら合流されても何とかなるでしょうけれどね」
「いや、予想外が起こらないとも限らない。各個撃破を優先するのは正しい判断だ」
先日もクロムガウェインとの交戦中にコンゴウとテスカトリポカが乱入してきて酷い乱戦を強いられてしまった。
咄嗟の判断でナナとロミオがコンゴウとテスカトリポカを他の地点まで誘導させてくれたお陰で大きな被害は出なかったが、判断を間違えていたら死人が出てもおかしくはない。
——ジュリウスから引き継いだブラッド隊長という職は隊員たちの命を預かっているのだと日々実感するばかりだ。自分の判断ミスで怪我人が出ることも、最悪部隊が壊滅することも有り得る。
「……まだまだ、あなたの背中には届きそうにありませんわね」
遠く空の彼方に輝く星にどれだけ手を伸ばそうとも届くことはないけれど、少しでも近づきたいと願うことは罪ではない。